楽園から追放された身体
ぱたりと音を鳴らしながら寝室の扉が開いた。
何気に視線を前に向ければ、先程までベッドにくたりと力を失っていた少年が、窓辺から照らし出される月明かりとベッドサイドのランプの明かりを頼りに何やら本をめくっていた。
扉の開かれる音に気付くことなく彼は、一心不乱にページをめくっている。
ベッドにうつ伏せになり、頬杖をついて白い肌と鋼色の両脚をバタつかせながら。辛うじて真っ白なシーツが彼の裸の下半身を隠していたが。
それでも素肌を露出させた背中から腰がしなやかにラインを作り出しているのが惜しげもなく露に出されている。この滑らかなラインは男性では出すことができないだろう。
彼の身体だからこそ可能にする。「雌雄両体」を兼ねそろえた身体だからこそ。
ロイはそんな彼の淫らな姿に誘われるように濡れた黒髪をタオルで拭きながら、傍に寄る。熱い官能の世界から一先ず醒めるためにロイは熱いシャワーを浴びてきたのだった。
無理をさせてしまった金色の少年の眠りを妨げないように静かに部屋を出て、戻ってきたらこの有様だ。自分が思っている以上に彼は元気なようだ。
「何をしているのだね」
少年は楽しそうにリズムを刻みながら両脚をバタつかせている。だが、ロイの声が聴こえているのか、それとも気付かないのか。ベッドの少年から返事は返ってこない。だから、呆れたようにもう一度ロイは名前を呼んでみる。
ちょっと強めに。
「エドワード」
「……あ、うん…」
するとやっとロイの声が届いたようだ。返事らしきものが、返ってきた。それでも視線は本に注がれたままだ。仕方なくロイはシャワーを浴びたばかりの熱い裸の身体を彼に密着させるように腰の辺りに手を突いてベッドの端に腰を下ろす。そして彼の視線の先に目をやると、やっと反応が返ってきた。
「う、う〜ん。アンタの書棚から面白い本見つけて…」
「ほぉ、この本かね。これは良く見つけたな」
ロイでさえもこんな本が自分の書棚に埋まっていたことなど忘れていた。どんな内容の本だったのかと思い身体に擦り寄りながらエドワードの肩越しにその本を見つめる。その間も熱心にエドワードの視線は文字を追っていく。
「まぁーね…」
ロイはエドワードの乱れた金糸の横髪を掻き上げながら項辺りにキスをしていく。文献に集中している彼の事などお構いなしだ。
初めは軽くふざけるようにだが、それを許されてからはだんだんロイの悪戯はエスカレートしていく。そんなロイの仕草に甘く嫌がる声色を出しながら。
「もう、やめろよ。さっき散々やらしてやっただろう…」
くすっとロイから笑いが漏れる。だが、エドワードの抗議の声を無視しながらじわりじわりと悪戯な手があらぬ場所へと潜り込んでいく。
「あっ、ん…くすぐったいよ。それより見ろよ。この文献の件…」
くすくすと甘い声を漏らし笑いながらもエドワードは今読んでいる文章辺りを左指で指し示す。ロイにも見て欲しくて。ロイの右手は彼の薄い胸辺りを肌の感触を楽しむようにさわさわと撫で回している。だが、左手はそっとエドワードの指し示す指に重なり合わせる。それから低くエドワードの耳元で囁くようにその部分を読んでみる。
「完全なる存在とは錬金術を比喩する表現である。では”完全なる存在”其のものを創造するには何が必要となるだろうか…」
「な、これってさ…もしかして「賢者の石」で創造するのかと思って」
「完全なる存在か…」
ロイは何やら考えるように独り言のように呟く。それから、エドワードの耳尻を甘く噛みながら文献のページをロイの指がめくっていく。長い指が綺麗だとエドワードはその動作に見とれてしまう。
「あ、あん…。ちょっと、やめろってば…」
パラパラと左手はページをめくり、右手は器用にエドワードの身体を侵略していく。先程まで胸の飾りで遊んでいた手は、エドワードの少年の証を柔らかく包み込み、ゆっくりと揉み込んでいく。エドワードの口からは堪らず熱い吐息が漏れ出している。
ロイの手管に翻弄されながら背中を震わせて耐える。身悶える姿を肌で感じながらロイは、あるページで左手を止める。
そのページに書かれている、ある文章をエドワードの戦慄く身体に浸透させるように読んでやる。
「交わる雄と雌の竜。この図の意味は”雌雄同体”すなわち”完全なる存在”を示すと、あるが…」
「う、う〜ん…。あっ…ん、”雌雄同体”が完全なる存在!?」
ロイは右手を休めることなくエドワードを高みへと昇らせていく。エドワードの屹立したものがしとどに濡れ始める。
「そうだよ。だから…」
そう言うとロイはエドワードの肩を掴み仰向けにした。その拍子に文献がバサバサと音を立てベッドから落ちていく。
「あ、…」
落ちていく文献に気をとられて短い悲鳴が漏れる。
急に体勢を変えられたことに戸惑いを隠せないエドワードの表情がロイには初々しく見える。そして、2人の胸が重なり合う。ロイの胸は熱かった。エドワードはロイの胸にぴたりと納まってしまう。あれほど、もう駄目だと言わんばかりに性欲を吐き出した身体なのにまた、快楽に溺れていく。エドワードの表情が恍惚として乾いていた口唇を自ら湿らしていく。
「こっちに集中して」
「あ、あっ〜」
ロイは屹立し濡れそぼった少年の証からぬめりを借りるように下へ降りていく。そして少女の証である場所に触れる。そこは先程十分にロイが可愛がっていた為、赤く腫れぼったくなっていたが、抵抗もなくロイの指を優しく包み込んでいく。とろけそうに熱いその場所。神聖な場所である。そして何の因果かわからないが、神から与えられた秘処。
恥らうようにエドワードの両膝は閉じようとするけれども、ロイはそれを許さない。
「駄目、だよ」
「やっ…、そこ嫌なの知っている、だろ…。あっ…」
ロイはエドワードの火照った目尻に口唇を這わせて、耳元で囁く。彼に理解して貰えるかどうかは、わからないが。
「”雌雄同体”君の身体と一緒だよ。この身体こそが”完全なる存在”なのでは、ないか。エドワード…」
「えっ、あ…っ、こんな不完全な身体オレは…」
「違うな、完全な身体なのだよ。古代神話でもそうあるように…」
「完全な身体…、男でも女でもない。どちらでもないこの身体が、どうして…」
* * *
大昔、神話の時代。
男女の区別はなかった。だが、エデンの園に住む2人の人類。アダムとイブがあるとき神の教えに背き禁断の木の実を食べてしまった。アダムの食べた実が喉元に止って喉仏に、イブの食べた実が胸で止って乳房になったとされている。
その後、2人はお互いを異性と感じ合い恥辱を知る。
そして、楽園”エデンの園”を追放されたと。
人類最初の人間。アダムは神が土から作り上げ、そのアダムの肋骨からイブは創造されたという。ならば2人は同一の身体、血肉を別けあったというべきことだろう。アダムとイブは2人で1人。男と女は一緒であったと…。これは古い神話。伝説の話だ。だが、私の目の前には2つの性を持つ者がいる。
エドワード・エルリック。
これは事実だ。
「は、っん…オレはこんな身体嫌いだ…」
エドワードは、顔を背けて消え入りそうなか細い声で言う。そんな彼にロイは、くすりと含み笑いをうかべる。エドワードが嫌悪する身体だが、精神、魂、そして肉体全てを私は愛してしまっている。彼はそのことに気付いているのだろうか。
小さな金色の頭を両手で挟み込み、角度を何度も変えて口唇を交わす。
ロイの口唇は首筋から胸へと味わうように滑っていく。そして臍の下まで降りて来た時にはエドワードの吐息は荒々しく、その表情は高揚して艶美な色をしていた。黄金色の長い髪を乱しながら、いやいやと頭を振る。この身体を認めない癖に快楽には素直に応えてしまう。そんな風にロイが教育したのかもしれないが。
「はぁ、はぁ…、あっ、さっきやったのに…。また、するのかよ…」
口だけは憎たらしく悪態をつく。そうでもしないと彼の自尊心が崩れてしまうのだろう。
「ああ、そうだよ。君の身体はとても魅力的だからね」
ロイの手は屹立したエドワードを揉み扱きながら、己の欲望の証を神聖な場所へと肉を掻き分けてゆっくりと入っていく。
「あ、あん…っ、ちょっと待てよ…。はいって…」
「んっ…」
その場所は蕩けるように熱く気持ちが良かった。
ロイは快楽を貪るように逞しい腰をゆるやかに波打たせていく。エドワードからは甘い声色が奏でられる。ベッドが激しく軋む音と甘い旋律が交互に部屋に響き渡る。
「ダメ…もう、だめだって。あ、あ……」
男性の証と両方を攻められエドワードの自制心はとうの昔になくなっていた。ただ快楽に身を戦慄かせるのみ。身体の奥深い部分から悦びが溢れて出して止め処なく流れていく。自分の嫌悪する証はとろけるようにロイの身体と一体になっていく。どこからが自分の身体なのか、ロイの身体なのかわからない。限りない極みの果てへと意識は流れていく。だが、そんな官能の渦の中から誰かの声が聴こえる。
エドワードにだけその声は伝えられる。
『”雌雄同体”は”完全なる存在” そして、錬金術の意味。では、おまえの身体は錬金術によって練成された身体なのか…』
快楽の中で誰かがエドワードに囁くのであった。
ぞくりと背筋が凍てつく。快楽に身を投げ出していたはずの身体が急に醒めていく。
不安がよぎる。
その声を打ち消すように、エドワードは必死にロイの背に身体に腕を回す。離さないでくれと頼むように。
この世界の理から外さないでくれ。
今居るロイの胸の中から放さないでくれ。
オレを楽園から追放しないでくれと。
いつの間にか涙が溢れていた。どうしようもない不安に心が、精神がついていかない。
ロイはエドワードの濡れた目元に優しく口付け心配そうな顔を向ける。
「…どうしたのだね。エド、ひどくしすぎたかい…」
そう問われても、どう応えて良いのやらわからず。ただ、涙を流しながら、ふるふると首を振る。
そして、ロイの背に回された両腕がぎゅっと強く力を込められている。そんなエドワードの様子にこれ以上の言葉は無駄だと知りロイも抱きしめ返す。
何かに怯え震えるエドワードを感じる。何をと思うのだが、たぶん聞いても答えは返ってこないだろうとわかっているから。
「大丈夫だから。エドワード、心配するな、私はここにいるから」
と、ロイはエドワードと彼の不安も一緒に抱きしめる。
「ガンガン12月号」より。
"雌雄同体"は"完全なる存在"を示す。この言葉にぐらっときました!
やっぱり「両性体」だよ!万歳〜〜!エド両性体!拍手♪
桜 美由紀 2005/11/20
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