愛すること、愛されること。(43)












煌びやかなパーティー会場。
美麗なドレス、高価な着物をこれ見よがしに着飾った淑女達。その美しい華を値踏みする男達。我が栄華を知らしめようと贅の限りを尽くし、自慢話に花を咲かせる者達。パーティー会場とは名ばかりで商談を始める者達。
色んな人種の人間達が集っていた。
勿論、ロイの周囲も賑やかだ。男達は大手貿易商の恩恵を預かりたく、手の平を擦り合わせてロイの機嫌取りに懸命だ。結婚したという噂があるにも関わらず、ロイの周囲は艶やかにドレスアップした貴婦人達が媚態し、擦り寄ってきていた。
そして、羨望の眼差し中には嫉妬という感情も含まれていた。
「これはマスタング君、久しぶりだね。おや、今日こそは君の細君を見せて貰えると思っていたのだよ。噂は聞いているよ。何でも床上手だとか。私も是非手解きしてもらいたいものだよ」
にやりと不敵な笑みを見せて、ロイに耳打ちしてきた。
貿易商を営んでいる男の一人でロイに敵対心を燃やしているようだ。けれどもどう足掻いてもロイに太刀打ちできないと知ってか、男はこうした姑息な手段を頻繁に使ってくる。大会社として名を馳せているロイには敵はつき物だ。一々相手にしていても埒が明かない。
「こちらこそ久しぶりですね。最近、顔を見かけないからてっきり会社が危ういのかと思っていましたよ。あ、まだ無事だったんですね」
売られた喧嘩は倍で返すという心情の持ち主だ。殊にロイはエドワードの過去を脅しの材料として近寄ってくる奴らや、エドワードを興味本位に詰る輩に対して徹底抗戦していた。
「クッ、ソッ……」
峻厳な顔つきを露にし、口の中でぶつぶつと文句を並べていた。こんな社交場で会社の存亡を左右する発言をされたら堪らない。ロイの言葉にはそれだけの効力があるのだ。
そうとわかっている癖に歯を剥いてしまう。愚か者が此処に居た。
今日のマスタングはいつも以上に冷淡な男だと彼の目には映ったのだろう。実際、そうなのだ。本当は行きたくもないパーティーなのだ。しかし、どうしても出席しなければならなかった。
結果的には社交場に久方ぶりに現れたロイは好奇な視線に包まれていた。
勿論、その視線の理由の一つにエドワードとの結婚。それから結婚相手であるエドワードの素性について様々な噂と憶測が流れていたからだ。
その噂を一つ一つ撤回し、律儀に説明していくつもりは毛頭なかった。こうなることは予測していたし、エドワードを妻に娶ったことを一度も恥じたことはなかった。
本来ならば、彼と共に公の場に出席したかったとさえ思っているのだ。エドワードの内に秘めた才能。それに彼の人柄に触れたら誰もが絶賛するだろう。しかし、それは叶わぬ夢……。
居心地の悪さを満喫していたロイの所に幸運にも助け人はやって来た。
ざわりと声が上がり、好奇な視線が動き出した。
「やあ、マスタング君!」
本日のロイは近寄りがたい雰囲気を出している。しかし、それに動じない人物がいた。不機嫌極まりない彼に颯爽と声を掛けてきたのだ。
一文字に口を結び吊り上げていたロイもこの御仁にはそんな態度を取ることは出来ない。
「これはキング・ブラッドレイ。こちらこそご挨拶が遅れて申し訳ない」
「いやいや、それより随分注目を集めているようだね」
にこりと微笑んだ顔は背面で手を組んで周囲を一巡した。
「えぇ、それはお察しの通りですよ」
ロイの眉は困ったように下がった。千里眼を持つ紳士には嘘はつけない。
自然と彼らの周囲はざわつき人集りが出来ていた。それはそうだろう。由緒正しき、マスタング家の当主であり、貿易業界でも一、二を争う企業の社長であるロイ・マスタング。それと政財界を取り仕切るキング・ブラッドレイ。彼の一言が政財界に及ぼす影響力は計り知れない。彼の後ろ盾があれば、全ての世界でトップになれると影で噂されている。
そんな二人に取り入ろうと、業界人は機会を伺っているのだ。
「おや、今日は独りかね? あの子はどうした?」
何のことか、わからず聞き耳を立てている連中を無視して二人は会話を続けた。
「あれ以来、体調が芳しくないのです。折角、貴方のお力をお借りしたのに――」
思いつめたようにロイの表情は暗くなる。ブラッドレイは残念そうにため息を吐いた。
「そうか。そればかりは仕方があるまい。この前、君の屋敷に行った時だ。エドワードのいう株を買ったら高騰したよ。あそこまで予想できるとは驚いた。君の細君は素晴らしい教養の持ち主だね」
ロイの表情がはにかんだように微笑んだ。
「ありがとうございます。エドワードも貴方には気を許したようで楽しい一日だったようです」
「それは良かった。確かに君の妻にしておくのはもったいないよ。経済、政界多方面に渡りよく学んでいる。こちらこそ興味深い話を聞かせてもらったよ。実に意義のある時間を過ごしたよ」
壮齢の顔に皺を寄せて笑っていた。
「そこまで誉められますと、些か笑いが出てしまいますよ」
「体調が良いときに私の屋敷に遊びに来るようにと伝えてくれたまえ。あぁ……それにマスタング君の屋敷より蔵書の数はあるぞ、と伝えてくれたまえ」
キング・ブラッドレイは機嫌よく笑っていた。余程、ロイの妻であるエドワードを気に入っているということがわかる。
そんな二人の会話を聞きつけた下世話な連中がエドワードの話題に興味を持ち出した。
圧倒的なカリスマ性を持ち、彼の眼鏡に適った者は出世街道間違いなしと保障させている。しかし、その気難しい性格には手を焼くと有名な彼がエドワードを賞賛しているのだ。
エドワードの穢れた経歴が一新されようとしていた。好感度が上がることは良いことだ。ロイの頬もほのかに微笑んだ。
少しずつエドワードと共に社交場に出席出来る環境を整えている。エドワードをエスコートして堂々と彼を自分の妻だと紹介したいのだ。
けれども世間はそう簡単によそ者を迎えてくれない。
ロイは舌打ちし、ざわつく周囲を牽制していた。この場にいないエドワードを餌に色んな話が飛び交い始めたのだ。
始めは彼を賞賛する声が大半を占めていた。けれども話のネタに詰まりだすと、嫉妬という感情が織り成しありもしない嘘が並べられていた。
人間の煩悩から妬むという感情は切っても切れない存在なのだ。
ロイを持ち上げ、是非ともエドワードに合わせてくれと話しかけてくる連中。そうかと思えば妻帯者であるにも関わらず、ロイに惚れ込んでいる淑女達が凄まじいモーションを掛けてくる。成功する者を妬み、失墜させようとあら捜しをする者。それらのかっこうの餌にされているのが、エドワードなのだ。
そんな彼らの剥き出しの欲望を知っているからこそ、ロイの上がりかけていたテンションは下がっていく。
会場の喧騒にうんざりしながら、ロイはワイングラスを片手にソファーに腰を下ろしていた。勿論、彼の取り巻き立ち達もセットで傍から離れない。まるで小判鮫のようだ。ロイの心中は穏やかではない。
そんなところに一人の青年がやって来た。
物腰が柔らかな金色の青年。短く刈られた金髪は小麦色。けれども一際目を引いたのは、円らな瞳の色。琥珀色……。エドワードが明るく微笑む瞳と同色。
はっと我を忘れて目の前の青年を凝視していた。すると見かけない顔にロイの取り巻き達が不敵な笑みを携えて話し掛けた。
「見かけない顔だね。君はどこのご子息なのかね? マスタング氏、お知り合いですか?」
「いや……見かけん顔だね」
勿論、素っ気ない声が返ってくる。
「……ぁ、あの――僕は…」
青年の視線は悠然とソファーで寛ぐロイに視線を泳がせていた。財界の大物であるロイには圧倒的な威圧感があった。
一瞬、青年は怯んだ。そのまごついて動作はロイの癇に障るらしい。
ソファーの肘掛に置かれた手がリズムを刻むように忙しく動き出していた。こめかみに手を当て、睥睨する表情は冷たく冷酷だ。
それでも青年は何とか平常心を取り戻した。
「た、大変失礼なことかも知れませんが。――あ、貴方のご夫人は金髪、金目では? 僕と一緒の瞳の色ではありませんか」
ついには迫るような勢いでロイに詰め寄ってきた。
こんな年端のいかない若者がエドワードに興味を持つことに酷く不満を感じる。大方、以前エドワードを見かけて一目惚れしたとか言うのだろう。それならば良いほうだ。それともエドワードがあの薄汚れた場所で身体を売らされていた時の客とか言い出すのだろうか。
世間知らずの御曹司が後学の為にと女を買って抱く。良くあることだ。
そうかと思うと苦々しさが湧き上がってくる。
「ふん! それが何だ? 君には関係のないことだ」
忌々しさを露にし、ロイは彼を睨みつけていた。それでも青年は必死に答えを求めてきた。
「名も名乗らないとは、マスタング氏に失礼だよ。それにご夫人のことを聞くとは不貞だよ。やはり世間知らずのお坊ちゃまのようだ」
くつくつと不敵な面構えで笑っている連中。そんな彼らもロイに対して充分失敬な態度を取っているのだ。自分のことを棚に上げるのが、大得意に連中ばかりでロイはこの場に嫌気が差してきた。
「申し訳ございません。僕の名は……アルフォンス・カーティスです。どうしても知りたいのです。お願いします――」
真摯な金目はロイをしっかりと見つめていた。
その瞳には既視感を感じる。暫くじっと見つめていたが、今のロイには感情を制御する術はない。尖った感情は顔色に表れていた。
「ほぉーあのカーティス家のご子息ですか。マスタング氏、今度は精肉業界に手を広げようと思われているのですか? 流石、目の付け所が違うですな」
ロイが何も言わずとも勝手に話は進んでいるのだ。それに取り巻きの連中がこれまた恩恵を頂くためにてぐすねを引いて待ち侘びていた。そのにこやかに微笑んでくる顔にいらつきを感じる。
剥き出しの欲望はロイの喚起に触れるのだ。
「ふん、下らん! 私は失礼する」
立腹した面を露骨に見せてロイは立ち上がり、歩き出した。その際、アルフォンスと名乗る青年とすれ違った。
しかし、ロイは彼を冷酷な視線で見下ろし去った。

エドワードが微笑まない世界にいても面白くない。
煌びやかなパーティー会場はモノクロの世界でしかない。
それでもエドワードと並んで歩ける場所を広げるためにロイは尽くしているのだ。

「旦那様、お帰りですか? 少し早い時間なのでは…」
マスタング家の運転手兼、ボディーガードのハボックは後部座席の扉を開けていた。
「ハボック、無駄口は良いからいつものバーに車を走らせろ!」
「……はい。かしこまりました」
非人情的な主人はエドワードと出会う前の姿にすっかり戻っていた。
ハボックは如何にも不機嫌そうな顔つきの主人をバックミラー越しに見ていた。今日の主人は話し掛けることも出来ないぐらい苛立ちがヒシヒシと伝わっていた。
そして、エドワードと車内で微笑み合っていた主人の顔を懐かしく思い、重いため息を吐いていた。
一体、どこからすれ違い始めたのだろうか……。


*          *          *


ふらふらと酔った身体。全てをこの浮遊した世界に身を投げ出したかった。
しかし、ロイは現実の世界に戻された。
自室の扉を激しく開くと琥珀色の髪が長い人物がいた。
「エドワード!?」
薄桃色の長襦袢に身を包み、薄い肩からは上質の羽織を掛けた彼が驚いたように跳ね上がった。
「ぁ……お帰りなさい」
パーティー後に行った馴染みのバーで、不平不満の溜まった想いを閉じ込めるために時間を潰し、酒に身を浸して屋敷に帰宅した。
その時刻はとうに午前を過ぎていた。
「こんな時間まで何をしているのだ」
酒に酔った目を丸くしてエドワードを見つめていた。
「あの……アンタが明日使う資料を揃えていた。こんなことしかオレ出来ないから…」
卑屈に瞳を逸らすエドワードの姿にロイの脳内で何かが切れた音がした。
ツカツカと歩き、黒革の椅子に横柄な態度でどっかりとロイは座った。その姿を見届けたエドワードはタイミングを見計らって口を開いた。
彼にもロイの機嫌がよろしくないのは、わかっていたからだ。社交場にロイが出席した晩は大抵こうなのだ。その原因が自分にあることも充分わかっていた。
「――オレ、寝るね。お休み……いつもごめんな」
最後の言葉は消え入るように小さかったが、それに対してロイは何も答えないし、瞳も合わせようとしないのだ。
それを咎めることなくエドワードは与えられた自室に足音を立てず歩いた。今にも消え入りそうな泡雪のような存在が身に染みている。
二人の間はこんな寂しい関係になっていた。それにいつもはこれで済むのだった。
しかし、今日は違ったのだ。これが転機といっても良いのだろう。一体、何がそうさせたのかはわからない。けれどもロイの一声で隔たった日常に変革が始まった。
くるりとエドワードに背を向けるように座っていた彼が低い声色を発した。
「エド、こちらにおいで」
エドワードの肩が僅かに震えた。ロイの反応が尋常でないことにエドワードは不安を感じ、歩みを遅くさせたのだ。それが気に食わないのか、再びロイが声を荒げた。
「来なさい! エドワード」
彼の声は久方ぶりに怒気を孕んでいて、エドワードを驚かせた。
「……どうしたの?」
ロイの不機嫌な面にエドワードはビクつきながら視線を合わせた。すると豪腕な腕が伸びてきた。突然なことで茫然としたエドワードはロイの胸に抱かれていた。
「ぁ、ロイ……酔ってるの?」
エドワードの言葉にはまったく聞く耳を持たず、ロイの手は強引な手つきでエドワードの口唇を奪うために彼の顎を強く掴んでいた。
「や、やめ……てぇ」
首を左右に振って合わされるロイの口唇から逃れようとした。けれども屈強な男の腕に軽くあしらわれてしまう。無理に塞がれた口唇。強引に押さえつけられた細い身体。
エドワードには拷問に近かった。
生理的に流れる雫を止めることは出来なかった。本当はずっとこうしていたかったのに、身体がそれを拒絶する。エドワードの心の中には得体の知れない気持ちが渦巻いていて、どう処理して良いかわからない。息苦しさと痛いほどに掴まれている腕を突っ放そうともがくいていると、唐突に口唇は離された。
「ぉ、ぉねがいだから……離してくれ」
離された腕に支えられていた身体はずるずるとロイの足元に崩れていく。その姿をロイはスクッと黒革の椅子から立ち上がり蔑むように見ていた。エドワードは冷酷な眼差しを送るロイを唯、唯見上げるしかなかった。
彼にこんな表情をさせるのは、自分の所為だとよくわかっているからだ。
「一体、何が不満なのだ! エドワード、そんなに私に抱かれることが嫌なのか!!」
両拳を握りしめて、ロイは涙を零したどたどしく見上げるエドワードに向かって怒鳴った。
最近では互いの気持ちをぶつけることもなかった。それなのにロイが耐え切れない想いをぶつけたのだ。けれどもそれに答えることが出来ないのはエドワードなのだ。
涙の雫を零し、エドワードはか細い声色で謝りながら左右に首を振っている。その卑屈な素振りがロイの感情を更に高ぶらせるのだ。
眼前で惰弱に涙を零すエドワードは自分が愛しているエドワードとはまったくの別物。
ロイは苦しい表情でタキシードの上着を荒々しく脱ぎ捨て、襟元を粗略な手つきで緩めた。
「えっ!?」
そう小さな悲鳴を上げると、エドワードの身体を力強い腕で抱き上げられた。ロイは躊躇いもなく寝室に向かって歩いていた。
それに気づいたエドワードは不安定な体勢にも関わらず、必死に阻止しようと抗っていた。が、ロイは力を緩めようとはしなかった。
いつもは拒絶するエドワードの身体を労わってくれていたのに――。今日はそんな生半可な感情はロイには存在していない。
サイドランプの橙色の明かりが煌々と照らされている豪華な寝室。美しく磨かれた広い窓からは下弦の月が澄んだ輝きを寝室に射し込んでいた。
無言でロイは暴れるエドワードの身体をベッドに投げ出した。投げ出された拍子に少し自分の居場所が把握できなくて戸惑っていたが、直ぐにエドワードは逃げるように寝台の上部にずり上がった。
「ぉ、お願いだから……やめてくれよ。――こんな身体に触れないで…」
逃げ惑うエドワードにロイは慈悲の言葉は与えなかった。
「駄目だ! 私の妻は君だ。ちゃんと夜の相手もしてもらおう」
「……ロイ!?」
今迄にない非道な言葉にエドワードは耳を疑った。けれどもそれは至極当然の言い分だ。エドワードに拒否権はないというのに――。今までの自分の甘さを悔いた。
ロイは不快な面のまま、エドワードの白く細い左脚を強く掴み引っ張った。その左脚は見世物小屋にいた頃に大怪我を負い、未だに雨の日は古傷となって痛みを感じる場所。
これで容赦しないということがわかる。
「アッゥ…痛っ――」
それでもエドワードは必死に抵抗し、真っ白なシーツを掴んで擦り下ろされる身体を防いだ。ロイは忌々しそうにベッドに這い上がった。
「どうして嫌がるのだ!」
エドワードが恐怖に慄く身体に覆いかぶさり、荒々しく前帯を解き始めた。固より抗うエドワードの両腕は片手でシーツに縫い止めた。
固く結ばれていた帯を叱咤し、ロイは先を急ぐように内股を摺り合せ固く閉じている場所に手を掛けた。エドワードの身体は被虐的に悲鳴を上げて助けを呼ぶ。
「いやだぁ――!! 嫌ぁーヒィッ……クッ――」
激しく胸を上下され、半狂乱に暴れるうちに呼吸が侭ならなくなった。
精神的ストレスから過呼吸の発作を起こすエドワード。しかし、ロイの極悪な手管は止まらない。合わされた両膝を強引に左右に広げ、その狭間にロイの身体を埋めた。
きっちりと合わされていた襟元をぐっと開いて、少女のような乳房を露にした。苦しくのたうち回る身体をロイの全身で押さえつけ、満足に呼吸が出来ない口唇を己のもので塞いだ。
「ぅ、うぅぅ…」
それからエドワードの両膝をシーツに貼りつくほど広げ、彼の陰部を露にした。そこは潤うことなく貝のように閉じ、男根は可哀想なぐらい縮んでいた。
半年、否それ以上――。
ピンク色の花弁の奥は何も満たしていないはずだ。久しぶりにエドワードの膣口を目の当たりにしたロイの男根は猛々しく反り返っていた。
息をうまく吸うことも吐くことも出来なくなったエドワードの口唇に喰らいつき、ロイは性急にズボンのファスナーを下げて、そこからエドワードにとっては凶器を取り出した。
ロイは少しも躊躇せず、触れることも濡らすこともしていな膣に凶器を挿し込んだ。
ずぶりと切れた音がした。
それと同時に内臓を抉られる痛感に身体が跳びはねた。疼痛のあまりに塞がれていた口唇から逃れてエドワードは叫んだ。
「あ、うぅぅ――ヒィッ、痛ッ…嫌だぁー退いてくれ!」
悲痛な叫びを無視したロイの腰つきは激しかった。埋められなかった想いを埋めるように男根は膣内を激しく抽出し、翻弄した。
大粒の涙は穢れることを嫌う真っ白なシーツに吸い込まれていた。
「どうして……逃げる! 君だけが辛いんじゃない。私だって辛いんだ」
顔を酷く悲しく歪めてロイはエドワードの顎を掴んだ。それでもエドワードは涙を流しながら顔を逸らそうとする。それを寸での所で阻止し、繋がった部分を見せ付けるように腰を高く上げた。
恥辱を感じるどころか、この痛みと胸の苦しさから逃げ出したかった。色んな男達に身体を犯され、嬲られても始めは泣き叫び逃げ惑っていた。けれども慣らされた身体は勝手に快楽を求めるようになっていた。
濡れて――むず痒くて、妖艶に腰を振り男根を身体は欲しがった。
しかし、そんな淫欲は微塵も感じられない。
激しい腰使いに良質のベッドが跳ね上がる。しっかり掴まれた両脚はぶらぶらと揺れ、ぐちゅぐちゅと挿入を繰り返す秘所は赤く腫れ上がって疼痛を訴えるだけ。
それ以上何も感じない。
唯、身体を串刺しにされているのだ。それも愛する男に――応えて遣りたくてもその術がわからない。
こんな穢れた身体で抱かれるのは意に沿わない。串刺しの儀式は終わらない。
けれどもロイを責めることは出来ない。全ては自らが蒔いた種なのだ。
エドワードの口の中は鉄の味がしていた。


*          *          *


意識がぼんやりと浮上した。身体は泥のように重く、鈍痛が身体を支配していた。
素っ裸の身体はうつ伏せに寝かされていた。
寝室に人の気配はなかった。
長時間に渡りエドワードの身体は強姦され続けていたのだ。
それから漸く解放され、何とか身体を起こそうと両肘を突いて身体を起こした。
清明な月明かりは広い寝台を美麗に映し出していた。けれどもエドワードの下肢は赤く染まっていた。
痛みの所為で反射的に下腹を庇って両腕を回していた。
「うっ……イタッ」
処女喪失を思い出させる光景だが、強引な挿入にエドワードの花弁は耐えられず裂けたのだ。それと一緒にロイの性的興奮を表す証として射精した白濁した液体が、血の色と混ざり合って零れ落ちていた。
自分の内股をぼんやりと見ていたエドワードの瞳が深い愁嘆色になる。
また――穢してしまった。
男達の肉欲に溺れ、穢れきった身体が呪わしい。
茫然とした身体で無造作に脱ぎ捨てられていた長襦袢を手繰り寄せ、エドワードは肩に掛けてベッドの柱に掴まりどうにか立ち上がった。
膝が笑っていた。
身体中がガタガタと震えてどうしようもない。それに立ち上がった拍子に忌むべき場所からとろとろと汚濁が溢れ出し、不快で堪らない。
そこへ寝室の扉が開き、人工的な明かりが射し込んできた。
「どこへ行く」
怒気を孕んだ声色に身震いした。ゆっくりと振り返れば、真っ白なバスローブ姿のロイが立っていた。
彼が眩しかった――。
眩しすぎて自分が醜く愚かな生き物に成り下がっていく。
「何をしているのだ!」
ロイの表情は険しく変わった。荒々しい動作で手にしていた洗面器をサイドテーブルに置き、首を左右に振り涙を流すエドワードを引き寄せた。
「……部屋に帰るッ。ご、ごめんなさい。全部、オレが悪いってわかってるから…」
散々悲鳴を上げた声帯は掠れてしまっていた。
「許さん!」
又もや強引にロイはエドワードに手を伸ばしてきた。
やはり――身体は萎縮し怯えてしまっていた。それが更にロイの激昂に火を灯した。ロイはエドワードの右手を掴み上げ、よれよれの身体をベッドに引き上げた。
「痛ッ! ゃッ、やぁーもう良いだろう。離して本当に嫌なんだ」
ベッドに粗略に投げ出され、大柄な身体がエドワードに圧し掛かってきた。恐怖に息を呑み、それでも嗄れた声で何度も懇願した。
が、聞き入れられるはずもなく。
無謀に身体は弄られ始める。壊れかけた身体で必死に抗うが、子供がじゃれている程度らしい。
「君は悪くない。それなのに何をそんなに悲観するのだ」
「――こんな穢れた身体じゃ、アンタに抱かれる資格なんてない。オレが赤ちゃん――殺した……」
慟哭を繰り返すエドワードの口唇を塞いだ。塞いだのは口唇。しかし、己の両耳も塞いだ。
全てを白紙に戻したかった。それでも彼を愛していることに変わりはなかった。
狂おしいまでの渇欲。
ロイの手は円らな乳房を揉み扱き始めた。ピンク色に上を向いた乳首を指で転がした。
二人抱き合っていた頃はエドワードが感じる場所の一つだった。けれども何の反応も示さず、痛みだけを感じるようだ。
今度は喚く口唇を大きな手で塞いで、ロイは荒々しくエドワードの感じる場所に舌を這わせた。首筋、乳房、脇腹、そして――下肢へと。
赤く腫れあがり出血する場所に優しく舌と口唇を使い丹念に舐めあげて奥を突いてみても、エドワードの身体は快楽を拒絶した。ますます身体を固くし、ロイの滾った想いを象徴する男根を受け入れることは出来ない。それに比例するようにエドワードの縮み上がった男根は立ち上がる兆しさえない。
ロイは舌を打ち鳴らした。
「どうしてだ! クッ……君は穢れてなどいないのに」
「…ヒィ、もう離して…」
顔を逸らし続けるエドワードの乱れた金糸を鷲掴みにしてロイは視線を無理やり合わせた。
「ダメだ! 離してなどやるものか。私は随分辛抱したのだよ。どうしてわかってくれない。有りの侭の君で良いと言うのに…」
エドワードの涙はロイの両手を濡らしていく。
「ご、ごめん…なさい」
想いが通じ合えない。ロイは歯がゆさを痛感した。
「――くそっ。……まだ夜は長い。付き合ってもらうぞ!」
ロイの表情は悲壮感に溢れていた。それとは裏腹に声色はとてつもなく闇色をしていた。その後にはエドワードの悲鳴が寝室に響いていた。
望まない性交ほど辛いものはない。それをエドワードは良く知っている。それなのにロイはもっとも卑劣な手を使ってエドワードの身体を支配したのだ。
輝く微笑みを取り戻すことが出来なくて――二人は迷宮にいた。
そして、饗宴は月が隠れても終わらなかった。
寝室には朝靄の陽射しが射し込みはじめ、小鳥のさえずりが聞こえ出していた。




続く

漸く、ストーリーが動き出しました。
アルフォンス様、ご登場です。何も知らない。おぼっちゃまを連想してやって下さい。
話は急展開。んでもって…エドは可哀想な目にあってます。
でも――これが突破口になる予定。と、話は進んでいるけどね。
いかん、続きを書かねば…/汗。

桜 美由紀 2007/5/3