愛すること、愛されること。(45)












聖女を抱く腕は心なしか震えていた。
昨晩はあんなに彼の身体を思いのままに激しく犯していた。自分の愚かな行為が口惜しくて堪らない。純白の天使はそんな野獣のような男の行為を許してくれるのだ。
自身の穢れきっている身体を毛嫌う純白の天使の方が尊い存在なのに――。
それなのに――。
謙遜する彼の苦悩が今頃になってロイに重く圧し掛かってきた。
これほどの重圧を彼は背負っていたのだ。ならば、彼にこんな負い目をもう二度と負わせてはならない。
この震える愚かな両腕でもう一度大切に守らなくてはいけない。
神が与えてくれたチャンスなのだ。
この機を逃したら天使は二度と微笑まないだろう。
ロイは優しい手つきでエドワードの疲弊した身体を寝台に寝かせた。それから躊躇いがちにエドワードの身体に覆い被さった。
面映い表情を隠すようにエドワードは瞳を下げている。それと同時にこれから行われる儀式に身体は心とは裏腹に怯えていた。
そんな彼に同調してロイの胸はドクッと弾んだ。
透き通る身体を安易に触れようとした。けれどもロイの指がその肌に触れる瞬間戦慄く。
聖女をこの胸に抱く。
聖女? いや、性別不明の天使を抱く。
だが――己はそれに相応しい人物なのか。疑問符がロイの頭を駆け巡る。
昨晩、残虐な手で彼の清楚な身体を犯した。穢れた両手は彼に相応しくはない。
その手で天使に触れても良いのだろうか。
それを知っているにも関わらず、エドワードは全てを受け入れようとしていた。
ロイの胸はギュッと縮まった。
天使は華奢な身体を男の眼前で恐々と固まらせていた。そして――固く蕾んだ花弁を一枚、一枚めくられるのをびくびくと戦慄かせて待っている。
拒絶する身体を必死に押さえつけて手折られるのを待っているのだ。
そんな夢みたいな錯角を思い起こしながらロイは震える手で彼の柔かな乳房に触れた。
びくりとエドワードの全身が拒絶する。が、それを何とか受け入れようとしてエドワードは黒髪の頭を無我夢中で掻き抱いた。
自然に零れる泪と戦慄く顔を見せたくなかった。
きっと――先に進めなくなるから。
「エドワード?」
きつく掻き抱く黒髪から少し力を緩めた。固く閉じていた目蓋をゆっくりと開くと、眉をハの字に下げた男の瞳と重なり合った。
いつもは自信に満ちたこの瞳から逃げていた。けれどもエドワードはまっすぐに向き合った。
「ぁ ぁ、アンタの傍にずっといたい――だからッ……」
溢れんばかりの想いはエドワードの涙腺を弱くする。しゃくり上げながら伝えたい言葉を声にしようとするエドワードは幼子のようだ。
尚更、毒々しい欲望を持って接する自分が野獣のように思えてくる。
それでも――この機を逃したら後がないような気がした。
身体で確かめ合えれば言葉はいらない。
謝罪の言葉の代わりに愛の言葉を紡ごう。
「――エドワード、愛している」
金色の睫が泪にしとどに濡れて煌いていた。その睫はゆっくりと下がって、愛の言葉を何度となく囁いた。
偽りの言葉ではない。真実の愛の言葉。
素直に言葉の意味が胸に届く。
自然とエドワードの両腕がロイの首に絡みつき引き寄せる。
対照的な色の瞳が重なり合えば、クスッと小さな笑みが零れ出した。それから軽く互いの口唇が触れ合い、深く重なり合う。
ゆっくりとロイが歯列を抉じ開けて舌を進ませると、エドワードの舌がビクビクと待っていた。その舌を優しく突付いてみた。
何時しかロイの両腕は穢れを知らない天使の背に回され、羽の辺り肩甲骨を撫でていた。
舌の動きは少しずつ激しさを追求していた。そして、ロイの両手もするりと幼い膨らみが艶かしい身体に映える胸へと伸ばされていく。
優しく包み込めば最初はビクッと身体は跳ね上がったが、意味ある行為にゆっくりと身体の緊張を解そうとしていた。
ロイの右手はゆっくりと感度を与えるように触れ、ピンッと尖った桜色の乳首を転がした。
嬌声が漏れ出した。
互いの甘い蜜を味わっていた口唇から逃れて、エドワードは小さな小さな歓喜の声音を上げた。
「ぁ、ぁぁッ――んッ」
ロイの頬が少年のように色づく。嬉しさが溢れ出しているのだ。
昨晩、あの手この手と性技の限りを尽くしてもエドワードの口から声は上がらなかった。精々、悲鳴と拒絶の声音だけが淫猥な寝室を満たしていた。
それなのに――今は些細なことで官能的な声音を上げてくれるのだ。
ロイはゆっくりと陶磁器のように真っ白な肌に口付け、滑るように指の腹で転がしている乳首に辿り着いた。
エドワードの腕は踠くように黒髪に指を絡ませていた。
男の欲情はその艶やかな仕草に弱い。絡みつく細い指先にでさえ神経が集中していく。
天使の白い顔は苦しそうに歪んでいた。
けれども男のご都合主義で言い換えれば官能に苦悶していると見えてしまう。
本当はこうした性行為を受け入れるにはエドワードの精神的外傷が疼いているはずなのに。その痛みがわかっているのに。
男は抑制できない性的欲求に現を抜かしてしまう。
「――エドワード、すまない。どうしても君が欲しくて堪らない」
昨晩、散々犯した身体。
その痕跡は痛々しくロイは瞳を細めた。すれ違った感情を知らしめるためにエドワードの白魚の身体には血に滲んだ歯形まであるのだ。
昨晩から今朝にかけて天使の羽を毟り取るという愚かな行為で傷つけた箇所をロイは丹念に愛撫した。
真綿に包むように優しく傷ついた身体を抱いた。
ほんの些細な愛撫にもロイの気持ちは込められていた。それが痛いほどわかりすぎてエドワードは面食らってしまう。この卑猥な身体にはそんな愛撫は似合わないと。
けれども――嬉しさが込み上げてくるのだ。
「ぁ あ、そんなに――優しく抱くなよ」
感涙の泪を零しながらエドワードは後悔の念に苛まれるロイを穏やかに見つめた。
これは自分から望んだことだからと。
「だけど……君をこんな抱き方をした自分が許せないんだよ。本当にすまない――」
ゆっくりと彼の痛めている左脚に負担が掛からないように、ロイは彼の脚を肩に担いだ。
エドワードは恥じらいを隠せない。
「ぅ、ぁん……ヤダッ――」
拒絶を示す声音には流石のロイも敏感に反応してしまう。
ロイは心配そうに背けられた顔に手を伸ばした。
「やはりやめようか? 君の辛そうな顔は見たくないから」
そう彼に優しく言ったものの、ロイの男根は雄々しく脈打っていた。それを察してか、エドワードは健気に首を横に振った。
「……続けて、良いから。オレのこと大切に抱いてくれてることすっごくわかるから」
強張っていたロイの表情にふっと笑みがさした。
「わかった。本当に身体が辛かったら言いなさい」
エドワードが固く結んでいる口唇や頬に何度もキスを繰り返して強張った身体をゆっくり溶かし、頃合をみてゆっくりと秘部に口唇を近づけた。
その部分は赤く腫れて裂傷を負っていた。赤く蹂躙した襞を指の腹でゆっくり広げて舐め拭っていく。ピクピクと身体が反応してエドワードの口から甘いさえずりが漏れ出した。
「ぁ ぁっ んぅ…」
遠慮がちに発する声音にロイは顔を上げた。目の前には久方ぶりに官能に身を落とすエドワードの煩悶した顔があった。
身体と気持ちが混在しているのだ。
「エド? 感じているのかい」
「ぅ、ん、エッ…でも、ぁ」
「私も君が気持ちよくなってくれると嬉しいんだよ。恥ずかしがらなくて良い。君の声をもっと聞かせてくれ」
ロイの舌は巧みにピクピクと震え、愛液を滲ませ始めた膣口に感度を与えていく。躊躇いがちに甘い声音が漏れ出した。
朝陽がキラキラと射し込む寝室に嬌声は新鮮に響いていた。
喘ぐ声音が耳に届くとエドワードは頬を紅潮させて右手の甲で漏れる声を抑える。
が、それさえ妖艶に見える。
裂傷で痛みを感じるが、それ以上に凄まじい快がエドワードの身体を貪っていた。
その証拠に一度も勃起することがなかったエドワードの男性的な象徴はゆるゆると立ち上がり、興奮の絶頂を表す涙を流していた。
ロイは甘い汁を舐めるようにその部分も丹念に愛撫した。
「ぁぁぁあ、ん…もうダメェ――」
弾けそうな男根に自然と手が伸びてしまう。それをロイがやんわりと阻止して、ピクピクと痙攣を繰り返す男根を口に含んでごくりと欲を飲み干した。
身体を反り返してエドワードは達した。あれほど性的欲求に身を落とすことを嫌がっていた身体だが、穢れた身体でも綺麗だと言ってくれるロイの為に身体は素直に感じたのだ。
本当は簡単なことだった。
それが出来なくて踠いていた。
激しい官能にエドワードは身体を拗らせていた。凄艶な姿にぞくりとロイの背筋が痺れたと、同時に感極まってしまった。
エドワードが達したということが――。
この気持ちをどう表したら良いのか言葉に出来なかった。その代わりにロイは未だ余韻に浸り身体を震わせる身体を抱きしめ、深く口付けた。
「ぁ、はぁ……うっ、オレッ端ない――」
潤沢に瞳を潤ませ、頬を高揚させていた。
「そんなことはない。私は凄く嬉しいよ……。エド、続きをしても良いかな?」
躊躇いがちに聞いてみる。
男として怒張した性欲を抑えることは出来ない。けれどもエドワードにこれ以上、身体を酷使させて良いのか計りかねていた。昨晩から犯し続けた身体は酷く疲弊しているはずだ。
何よりこの純真な天使を己の穢れた男根で刺し貫いて良いのだろうか。
今更ながらエドワードが煩悶していたことがロイに伝わってきている。
それでも――エドワードは荒い息を弾ませて頭を下げ、額をその厚い胸板に摺り寄せてきた。
「エド、本当に良いのかね? 多分、私は自制することは出来ないよ」
「うん……良いよ」
高揚させた顔を隠すようにシーツに片頬を隠し、エドワードは余韻を引きずって内股を擦り合わせていた両脚を恥らいながら開いた。
破格な行動に驚きはしたが、性的欲求は限界に近かった。
駄目だと、天使の羽を剥いてはならないと思いつつもロイの手はエドワードの開かれた大腿部に伸びていた。
ゆっくりと内側から手を滑らせ、そして窪んだ膣部に指を辿り着いた。
何度も激しく抽出を繰り返した場所を挿入しやすいように広げていく。
「ぁッ、んっぅ……」
なるべく痛みを緩和させようと必死だが、ロイの張り詰めた男根はそれどころではない。何とか理性を総動員させて挿入するタイミングを計っていた。
何度も痛みを誤魔化すようにエドワードにディープな口付けを繰り返す。
それから――。
「エド、挿れるよ。しっかり掴まって…」
エドワードの意識が恐怖と甘美な感覚に朦朧としているところにゆっくりと男根は穿孔し出した。
「ぁ、クッ……痛ッ苦しいぃ」
「もうちょっとだ。我慢してくれ」
最初の痛撃さえ凌いでしまえば少しは楽になるはずだ。
それからエドワードの状態を見て、ゆっくりと抽出を繰り返そう。そうすれば彼も少しずつ慣れて感じてくれるはずだ。
そう思っていた。けれどもロイ自身まったく余裕がなくなっていた。
昨晩から何度となく勃起し、性欲のままに突き進んできた。もうこれ以上出るものも勃起することもないと普通は思うだろうが、ロイは尋常ではなかった。
小刻みに荒い息を吐くエドワードをぎゅっと抱きしめて、最奥まで何とか挿入した。
もうそれだけで熱く柔らかい蹂躙した襞がロイを締め付けて今にも激しく腰を打ち付けたくなる衝動に耐えていた。
「ぇ、エド……すまん。もう限界だ。許してくれ」
エドワードは息苦しさと圧迫感に耐えていた。今は頷くことしか出来ない。
ロイの両脇に腕を挿し込み必死に身体を密着させ、くたくたの下肢がゆるゆると揺れ出した。
ロイは激しく突いた。
抽出する男根は蹂躙した膣に摩擦され、歓喜に震えていた。
「エド、エドッ――」
何度もロイは名前をうわ言のように吐き続けた。穿孔を続ける腰は激しく波打ち、エドワードの両脚は極限まで広げられていた。
「痛いッ、痛いッ……苦しい。ロイッ――」
喘ぎながら痛みを口にするが、エドワードとロイの腹の間で揉みくちゃにされている小さな性器は少しずつ硬度を増していた。
「す、すまん。エド、少しだけ……もう少し辛抱してくれ。直ぐに達くから」
切なげにロイがそういうとエドワードは潤沢な瞳をゆっくりと開いた。
「だ、大丈夫ッ。もっとして――オレの身体愛してくれるなら良いから」
強請られてしまった。
愛しかった。
彼の全てが愛しかった。
熱い息を吐きながら喘ぐ口唇を激しく求めた。小さな顔を両手で優しく力強く抱き、何度も口唇の角度を変えて求める。
そして、甘美な官能に身体が素直に反応するようにと、ロイの手練は巧みに接合部に触れ感部をより高めようと必死だ。
それに応えようとエドワードも腰を揺らす。
互いの想いが通じ合えば、性的行為は神聖な儀式に変わっていくのだ。
「ぁ、はぁ…ッ、ぁん」
エドワードの濡れた口唇から嬌声が漏れ出した。
汗に濡れた額を撫でてやると面映い表情で見つめ返された。その瞳は甘美な色をしていたが、澄み切った輝きを放っていた。
天使は決して穢れない。
清楚な身体を男に捧げている。
無償の愛。
「エドワード、愛している。言葉では言い表せないほど君は私の心を支配し続けている」
律動を激しくし、あられもない体位でエドワードを責め続ける。
息も絶え絶えにエドワードは艶かしく身体を拗らせた。
これほどの快感を味わったことはない。
二人は互いを求め合う獣のように快楽に身を落としていた。
「ぅ、エド、そろそろいきそうか?」
下肢が別物だった。
もう結合部の感覚がない。あるとすれば度を越した感度のみだ。
「ぁ あ ぁッ……もぅ、ヤダッいきたいッ」
解放してくれと――。
尖った乳首はロイの胸に擦られ痛み感じるが、その度に脊髄に痺れる感覚を与えてエドワードの性的象徴である幼い男根は涙を流していた。
ロイの声音も虚ろで鼻に掛かる声が最後の瞬間を秒読みしていた。
「君の中でいきたい――」
ロイが汗を散らしながらエドワードに覆い被さる。欲に濡れた瞳を隠し、真摯な黒い瞳が朧な琥珀色の瞳を捉えていた。
君の中でいきたい。
もうエドワードには子を成すことは叶わないだろうと、残酷にもヒューズが言っていた。
ならばこの行為は意味を成さない。
けれどもロイはエドワードの中でいきたかった。
愛しい人にこの熱い想いを吐き出す瞬間を知って欲しかった。
快楽にその身を乱れさせていたエドワードの潤んだ瞳は大きく開いた。
揺れていた腰は拒絶するように止まった。が、エドワードはロイの汗ばんだ身体をもう一度しっかりと抱き返した。
そして――。
「ッ、ぁん、中に出して…」
緊張した面持ちになっていたロイの顔が破顔した。
細い身体をきつく抱きしめて腰をぶつける速度を増し、荒い息をエドワードの耳元に吐き出した。
「ぅんッ――ぁ いくっ」
男が到達する時の低音はとても色っぽく感じる。
エドワードはその嘘のない声音にぽろりと泪を零して、身の内でドクドクと熱い物が吐き出されるのを感じた。
そして、エドワード自身も気づかぬうちに下腹を濡らしていた。
膣口はロイの熱い男根を痙攣しながら締め付けていた。
「ぁ   ぁんッ――ぁ」
鈴の音にも似た甲高い嬌声にロイは感極まった。
熱に浮かされた身体のまま、エドワードの汗ばんだ額に己の額を擦り合わせた。
ぼんやりと虚ろな瞳がロイの嬉しそうな顔を映し出した。
互いの余韻を味わう吐息はまだ整っていない。
それでもロイは彼を気遣うように切れ切れに声を出した。
「はぁ…んっ、エド……よかったか?」
エドワードは精魂つきた面持ちでロイの顔をうっとりと見つめていた。
「――うん…」
濡れた口唇から素直に声が出た。
快感に酔うことに恥辱を感じていたエドワードだったが、初めて身を震わせる快楽に身を任せた。
それからはゆっくりと瞼が落ちた。

*         *          *

とっても気持ちが良かったんだ。
SEXに酔って寝付いたなんて初めてだった。
あれほど男達に犯され、欲を吐き出されてもオレの身体はこうまで感度に堕ちたことはなかった。
本当に愛しい人と抱き合うと心地良いことに気づいた。
だから、今は眠らせて――お願い。
明日は……次に目が覚めたときはアンタに極上の微笑を上げるから。
声にならない想いを抱えたままエドワードは深い眠りにはいった。
それを見守るようにロイは優しく金色の髪を梳いていた。





続く

本当にH編でした。
今までの痛々しい関係をこれでとっぱらって下さいませ。
そんな意味を込めて書いたシーンでした。
二人の仲はこれで万全かな……っ。と、これからもう一段昇る為には…。
あの方の存在がですね。そうアルフォンス様ですね。
只今奮闘中!

桜 美由紀 2007/6/28