めぐまれない想いを重ねてみよう。












「あっ、ふぅん あっん、」
エドワードの肢体に大きな身体が圧し掛かっていた。頑健に鍛えられた身体が鞭を打つように彼の秘所を太い男根で犯していた。濡れそぼった蜜壷は淫猥な音色を奏でながら腰は突出すように脈打つ男根を受け入れている。そして、あられもない声音が枕の端をかみ締めながら漏れていた。
貪るようにその細腰を両手で掴み、時折ぺたりと膨らみのない胸の尖った飾りを捏ね繰り回して別の性感をも導き寄せている大きな手。胸から辿ってきて腹そして、下腹部へと猥らな手つきで下りていく。
そして、エドワードの男性の象徴を煙草の匂いが染み付いた手がやんわりと包み込んで自分の腰の動きに合わせて揉み扱いていた。
二つの性を身体に備える稀な身体はどんな男も忽ち虜にしてしまう。
この男もその一人だ。
男の性がこの未曾有な身体で弄んでいるだけだ。唯、吐き出す穴さえ見つかれば良いと…。
そう想っているのは淫猥な身体を提供しているエドワードだ。
それでもエドワードの身体を第三者的に見れば、愛しそうに組み敷いている男はどう想っているのだろう。
「ャッ、もう ん、ダメッてぇ……」
エドワードが金糸の髪を振り乱して、背面の男を見上げた。その瞳には快楽に堕ちて、涙が溢れている。
「イイよ。エド、いつものように名前を呼びたいんだろう…」
エドワードの身体全身がこの激しく燃える快楽に酔いしれていた。そして、額から汗を滲み出ている男が耳元で小悪魔的な表情で囁いた。
その顔は憂いに沈んでいたが、それは一瞬のことだった。直ぐに彼を弄って顔は笑う。
唯、最後の言葉はひどく切なげに言うのだ。
『大佐って、呼んでいいぞ…』と。
エドワードは何度か左右に首を振り乱して、それから頭を真っ白な薄いシーツに顔を埋めた。そこからはこの背後で執拗に自分の身体を犯し続ける男の匂いがしていた。
自分はこの男のものではないだろうか、と錯覚してしまう。それはほんの刹那のことで、彼には秘めた想いを身のうちに隠していた。
その想いは決して報われることがない。
不毛な想い――。
わかっていても求めてしまう。
だからこうして淋しい身体を夜な夜なこの男に捧げるのだ。
「――少尉。い、嫌 ぁ だぁ…」
くぐもった声色は背後の男を余計欲情させた。それがわからず、更に艶声を上げ続けてエドワードは自ら性奴隷のように身体を男に捧げることになるとはわかっていない。
「ん? エド、遠慮はいらないぜ。誘ったのは俺だからな」
「あっ…んっ――」
ギシギシと安物のパイプベッドが軋み音を鳴らした。それが更に互いを高揚させ只の快楽を求めるだけの二匹の獣にさせてしまう。
誘ったのは俺だ、という男の表情は喘ぐエドワードの妖艶な表情と酷似していて、想い人に心を馳せていることが容易にわかる。
それが――届かないから……こうして肌を重ねあう。
お互いの想い人を知り過ぎているから、彼らはこうして肌を重ねあう。




くたりと身体をベッドに埋めてエドワードは恨みがましく声を出した。
「もう……やりすぎだ。ガツガツ腰押し付けやがって痛てぇーだよ」
うつ伏せで枕に顔を埋めている彼の乱れた金糸の髪をハボックはぐしゃぐしゃと掻き回した。滑らかでさらさらと手の平から落ちていく金髪に何度も指を絡めてハボックは梳いていた。
自分の所有物を愛でるような行為だ。
けれども――これは自分の所有物ではないとわかっている。
ハボックは自嘲気味に眼を細めていた。
でも、この一時が好きで――堪らない。空っぽの相手の心を今だけ自分が独占できるのだ。
刹那の短い時間だけで、絶頂の幸せを味わうことが出来る。
それが自分に与えられた特権だ。だけど――彼はどうなのだろう。
エドワードは態度こそは邪険に振舞っていたが、煙草の匂いが染み付いた手を甘んじて受け入れていた。
ハボックの柔らかい表情にふと影が過ぎる。
愛する彼にもそんな一時の幸福を味合わせてやりたい。
彼にはあるのだろうか。そんな至福の喜びを感じるときが…。
「悪かったな。あんま、おまえのアッチの具合が良かったからさ」
「………」
ギシッと洗いざらしの固いシーツを握り締める音が聴こえる。
勿論、握っているのはエドワードの機械鎧の右手。それは無言の反抗のように見えた。それを眼で追うだけで、今度は茶化そうとはしなかった。
ハボックはベッドヘッドに寄り掛かって煙草を咥えていた。左手が咥えた煙草を挟み、片膝をついた左膝にその手を乗せた。忽ち天井に向けて一筋の煙が立ち上がる。
ハボックはエドワードが埋もれている枕元に右手を突いて耳元で話し始めた。
「おまえ、なぁーに恥らってんだよ。今さらだろう。それとも後悔しているのか?」
エドワードはその声に勢いよく顔を上げて、ハボックを睨みつけた。苦慮な顔を隠そうともせずに赤裸々な表情をしていた。隠したところで相手の男にはこの硝子の心は見透かされているのだ。
すぐに項垂れるように顔を隠し、枕で声を押し殺した。
「そんなんじゃねーよ。オレはただ――」
彼の想いを知っているからこそ、ハボックは彼を抱いているのだ。
ベッドサイドに置かれている灰皿にもやもやした気持ちを押し付けるように荒々しく煙草の火を消した。
頑なに顔を見せようとしない彼の身体を煙草の匂いが染み付いている左指がするりと背を這っていく。
「ちょっ……何、触ってんだよ。あ、ぅ〜」
クスッとハボックが笑いながら情事が済んで間もない感度の良い身体を左指で滑っていく。背骨を辿り下半身にお座なり程度に掛けていたシーツを剥ぐと、白い双尻が現れた。その谷間に指を挿し込む。
「ぅ、うん…もうやめろよ!」
「身体は正直だぜ…。ほら、さっき俺が出したのでもう濡れてるぞ…」
ぐちゅぐちゅと濡れた音色で再び、疲弊した身体に火が付こうとしている。そんな身体にしたのは誰の所為だと、恨めしそうにエドワードは屈託のない笑みを漏らしている男に眼で訴えた。
ハボックは申し訳ない程度に片眉を上げて笑う。
そして、硬いシーツに顔を埋めるエドワードの瞳に触れないように眉根を寂しそうに下げた。徐々に彼の蜜壷は収縮を繰り返して、彼の指を飲み込んでいく。
きゅっと締まって、ゆっくりと力を緩めて内部に指を引き込んだ。
そんな動き誰が教えた訳でもない。中指と人差し指で貪っているハボックが教えたものではない。
彼の身体が勝手に誘うのだ。
それを知ってか、エドワードは自分の性癖に嫌悪感を抱いていた。
「もう! マジでやめろっていってんだろう!」
怒ったようにエドワードは身体を反転させ、腰から落ちたシーツを掻き抱き身体を覆ってハボックの指淫から逃れた。
その拍子に彼と眼が合ったが、ふっと彼は琥珀色の瞳を洗いざらしの真っ白なシーツに向けた。
真っ白なシーツはこんな浅はかな関係を続けている自分には眩しくて堪らない。
それでもエドワードの想いはこのシーツのように真っ白だった。
濡れた指をあっけなく外されたハボックは唖然と彼を見て、彼も視線を逸らした。
「悪かったよ……。一回、だけっていう約束だったな」
「――」
エドワードは返事の代わりに固いシーツをきつく握り締めた。安物のシーツは音を鳴らす。それでエドワードの意志は彼の意思とは関係なくハボックに全てを伝えてしまう。
この行き場のない想いを……。
だから敢えて、ハボックはそれをエドワードの代わりに声を出して代弁するのだ。
「何を……そんなに恥じるんだよ。お前の身体か? それとも半陰陽の身体をか?」
俯いていた瞳を見開いて、ハボックを睨みつけた。
自分が口に出して言えない言葉を易々とこの男は言い退けるのだ。
それは憧れてやまない才能。
だけど――今の自分は絶対に出来ない。
エドワードは声を荒げて伝えられない想いをこの男に吐き出した。
「そうだよ! 言える訳ないじゃん。こんな男でも女でもない身体を持つオレ。あの人に言えるわけないじゃん! 好きだって……オレを愛して下さいって……そんなこと言えるか、このバカ!」
何度もエドワードとこうしてめぐまれない想いを募らせ、お互い身体だけの関係を続けてきたが、こうもはっきりとエドワードが想いを口にしたことはなかった。
正直、ハボックはびっくりしていた。
と、同時に寂寥が込み上げてきた。
これで――彼への想いを断ち切らねばならない。彼を飛び立たせても良いだろう。
不毛な関係は終わりだと……。
だけどそれは一時の想いかもしれないが、今はそう思える。
彼に――次へと進む道標を指すことぐらい出来る。
それによってどんな結果がでようと。泣いて――笑う彼が好きだ。
「その想い……大佐に告げろよ。俺は大佐のことを想っているお前に興味が湧くんだ」
やっぱり語尾は強気なことを言って、本当は彼にどっぷり惚れ込んでいる自分を隠したものだった。
それぐらい許してくれて良いだろうと、思いながらエドワードに片目を瞑って見せた。
すると彼は切迫していた表情をふわりとそよ風に吹かれるように変えた。
瞳を俯かせ、憂い気な顔を見せてエドワードはほんのりと頬を染めて自嘲気味に微笑んだ。
その愛らしい表情を眼前して、ハボックはやはり後悔した。
先程の言葉を直ぐに撤回したいと声を大にして言いたかった。
だけど、彼は数日経てばそんなこと気にもしないだろう。
「……うん、オレ――大佐のこと好きだッ。あいつがさ……オレ達が帰ってきた時に呼び掛ける声色がすっごく好きだ。やぁー鋼の、って掛けてくれる時の顔が好きで堪らない」
頬を桃色に染め上げてシーツを身体に巻きつけ、膝を抱く彼の姿は女だ。
男と女の狭間で苦悶する彼ではなかった。
女そのものだった。
「エド、お前の悩みなんて大したことじゃないかもな。全ては己の行動で決まるんだ」
「エッ!? 意味、わかんねぇーよ」
「ん? わかんねーか。それじゃーよ」
ハボックは身体を起こして、エドワードの丸まった身体を両腕で抱きしめた。
「俺はお前が好きだ。例え手に入んなくても……大佐のことを想っているお前が好きでたまんねーよ」
「――少尉!?」
「そういう訳だよ。お前も自分の想いを告げてみろ!っての…案外すっきりするぜ! それに俺っていう奴もいるんだしな…」
エドワードは抱きしめられる腕の力強さを感じた。
そう自分はまだ何も始めてなかった。
手厳しく拒否されると――鼻から決めかかっていた。自分の身体を良い様に抱くこの男はこうして自分に想いを告げているというのに。
確かにそれが実るとはわからない。
それでも――想いを重ねてみようと努力しているのだ。
エドワードは彼の肩口に額を擦り合わせた。
「うん……ありがとなッ――」
ハボックはこれで最後かもしれない彼の身体を優しく横たわらせた。
そして――この熱い想いを身体でも知ってもらえるようにと幼いながらも妖艶な身体を執拗に愛撫した。
身体はハボックの手練手管に踊らされているが、エドワードの想いは、かの人の所に走ってうわごとのように彼の名前を呼んで喘いだ。
それを許してくれるハボックだからこそだ。
でも、そんな関係も今日で最後だ。
ハボックの短髪が似合う頭を掻き抱いた。
愛しさとは別の感情で彼に抱かれていた。


数日後。
エドワードが開いた重厚な扉。その後はどういった密事があったかは誰も知らない。
当人達だけが知っている秘め事だ。
だけど――エドワードの身体と心は鮮やかに咲き誇っていた。
それだけは聞かずともわかることだった。
彼の身体は麗しく変化したからだ。
誰もがうっとりと見蕩れるほどに――。
エドワードと関係を持っていたハボックは飄々とした態度でエドワードに向けてにっと歯を見せて笑っていたが、内心穏やかではないようだ。
だけど、ロイがエドワードを愛しそうに見つめている顔をデスクワークの片暇に見ると、時折ハボックは優越感に口角を吊り上げる。
二人の関係がどこまで進んだかは知らないが――エドワードの身体を隅々まで知っているのは俺だと、自負してやまないからだ。
それぐらい許してくれても良いだろう。
そう想って今日もハボックは司令部で仲睦まじい二人の姿を見ていた。





ハボック→エド→ロイ な話です。
何だか、ハボックが主役ですね! たまにはこんな話も良いかと…。最近、お疲れだからね。
ちょっと休憩みたいな感じで…。
な〜んも知らないロイはこれを知ったらどうなるかな…? 
たまにはロイを苛めてくれと、コメントを頂いた/笑。

桜 美由紀 2007/1/11