月の子 エピソード U 



「3ヵ月目。私達、病院で逢っちゃいました!」











本日公休日のマリア・ロス中尉は友人の出産祝いの為、とあるセントラル市内の病院に見舞いに来ていた。


「あああ…、かわいかったわ。私も早く結婚して…」
「そうですねぇ〜♪」
「でぇ―!何で、あなたがここまでついて来ているのよ!」


と、後方を振り返ればニコニコと笑顔を絶やさないブロッシュ曹長がチョコチョコと後を歩いている。


「普通、出産祝いに男性であるあなたがついて来るのは、どうかしら…!」
「ええ―っ、そんなぁ〜」
「信じられないわ!」
「いや、僕はロス中尉の出向くところには、どこでもついて参ります!」
「はあー勘弁してよ!」
「何か、言いましたー?」


ブロッシュ、この男。実を言うと、彼女、マリア・ロスに夢中である。が、当の彼女はまったくその気がなく…。いや、湧いてこないのかもしれない。
まだ……。
それでも結婚願望は、大いにある!
ブツブツ言いながらも、友人の可愛らしい赤ちゃんに心を癒されて帰る2人である。



*          *          *



その頃、エドワードは定期健診の為、病院に1人診察を受けに来ていた。


「エド君。今日は凄く体調悪そうね。迎えに来てもらったほうが、いいわ」
「ううん、大丈夫。ちょっと、待合室で休んでから帰るよ。ほら、アイツ忙しいし…」


いつもより体調が悪いエドワードを気遣う看護士が、心配そうに身体を摩ってやっていた。そんな優しさを苦笑いしながら受け入れていた。


「そう…なんなら、病院のベッドで横になっていたほうが。準備するわよ」
「ええー、いいよ。ホント大丈夫。悪阻だから、ね」
「でもね。あなたの悪阻はちょっと酷いから…」
「まだ、まだ大丈夫だってば、ね…!」


エドワードは無理に作った微笑で彼女を心配させまいとしている。本当は辛いけれども、このぐらいで根を上げていてはいけない、と思っているのだ。


「なら、いいのだけど。じゃあ、ちょっと休んで体調が少しでも良くなってから帰りなさいね」
「うん。そうするよ…」


今のエドワードは、ちょうど妊娠3ヶ月。悪阻の酷い時期である。
それ以前に、彼の妊娠は母体に負担がかかっている。
エドワードは待合室のソファーにゆっくり身体を預け、しばらく体調の回復を待っている。

つらい。
眩暈がする。
吐き気がする。
だるく身体をソファーに預けている。


「ふう
―――


重い吐息が自然と口から漏れる。
でも我慢、我慢。この子を産む為だから。オレとロイの大切な命だからな。
エドワードはそっとお腹に手をあてる。
大切な「赤ちゃん」元気に大きく成長して、と語りかける。



ブツブツ話しながらマリアとブロッシュが、待合室を通り抜けようとした時。
あれ
――
彼女の腰巾着のようについて回っているブロッシュが、目ざとく視線をソファーに、座っている人物に移す。
立ち止まり暫く、かの人をジーっと、見つめている。
そんな彼の行動に何故かマリアはムッとして。


「何、見てるの…よ!」
「えっ…、えっ…あのー」


へへっ…と、頭を掻きながら、おどおどする彼の姿。
それに、さらにムッとする彼女は、意地悪そうにいう。


「あの子を見ているの!そーねぇー!ずいぶん、綺麗な子ですものねぇ…」


彼女の冷たい嫌味に、更にオドオドしてしまう彼。


「えっ…いや、そのー」
「はあ、どうして。あなたはそんなに、はっきりしないの!」
「いや、だから…。そのー…」


結構強めに言っているのに、未だにモジモジしているブロッシュ。そんな彼にイライラが募ってくる。終いには、腹立ちの余り声を荒げてしまった。


「何なのよー!!!」


その言葉にビビリながら、やっと彼はわかるように訳を言う。


「あのーだから…、あの人誰かに似てませんか?ん〜そうだ!エドワードさん
ですよ!」
「は、いィ
――!」
「やっぱり、そうですよ。エドワードさんだ。こっちに来てたんだ…」


そう言われれば、そのようだ。
だが、随分印象が変わったような、それはいい意味で綺麗になった、と。
それはまあ、男性に対しては、不適切な表現であるかもしれないが。
声をかけてみようと2人はエドワードに近づく。
エドワードは、そんな事が目の前で繰り広げられているとは、まったく気付いていない。ぼんやりとお腹を触っていたのであったから。


「エドワードさん?」


ふっと、頭上から名前を呼ばれる。何だか、聞き覚えのある声だけど誰だろうと。
顔をゆらりと上げると、そこには。


「Σげっー!」
「その…、げっ!て、やめてもらえるかしら。やっぱりエドワード君ね!」
「ロス中尉に、ブロッシュ曹長…」
「お久しぶりね。こっちに来てたのね。びっくりしたわ」
「お久しぶりです!エドワードさん…」
「あ、はい。久しぶりーです…」


彼らしくない、しおらしい返事をするエドワードに2人は顔を見合わせる。


「どうしたの!?顔色悪そうだけど体調でも悪いの?」
「まあ……。そんな、とこ…」


エドワードは、この状況をどう説明しろって言うんだよ、と内心考えていた。
どうも交わせない。
ううん〜、頭も回転してないしなあ…。
と、色々な質問をしてくる2人に悩みつつ、のらりくらりと話していると。


「あ…、エド君。お知り合いのかた?」


先程の看護士がやって来てペラペラと話す。
やられたあ
――
しっかりと内情がばれてしまったのである。


「お知り合いの方?エド君、悪阻がとっても酷いのよ。よかったら自宅まで一緒に帰って頂けないかしら…。私達も不安なのよ」
「????…」
「はあ…?つわり…?誰が、ですってぇ
―――!!!」
「えー!?」


看護士のお姉さんは、しっかり2人にエドワードの事を頼んで次の仕事へと消えてしまった。
残された者は。
パクパクと口を開いたり閉じたり、眼を大きく見開く2人。その表情を半分呆れ顔で見ているエドワード。
そういう訳で仕方なく掻い摘んで自分の身体の事を説明することに。


――まあ、そんな訳で。オレ、///…今、お腹に赤ちゃんがいるんだ。3ヶ月目なんだ…」


頬を染めながら恥かしそうに話すエドワードは、抱きしめたいぐらい可憐で可愛らしかった。
エドワードは他人に伝える気恥ずかしさはあるけれども、それ以上に嬉しさが身体中から迸っていた。
「赤ちゃん」がこのお腹で育っている事は、エドワードにとって望んだことだから。


「はぁ、まぁ…×■○△◆…」
「……!?×××○◆△○……」


ああ…やっぱり。
だから嫌なんだよなぁ…と、エドワードはうなだれる。
しばらくの間が空いたが、取りあえず2人は納得してくれたようだ。


「…お、おめでとう、エドワード君。ちょっと、び、びっくりしちゃたけど…元気な赤ちゃん、産んでね」
「あっ…、そ、そうですよ。本当…お、おめでとうございます〜。エドワードさん」
「はぁ……。どうも…」


しかし、何やらマリア・ロスは別の事で顔が、引き攣っているようにみえるのだが。それは思い違いなのか?いや、そのままのようだ。
只今の彼女の心中は。
まさか、こんな「ガキ」いやいや、弱冠18歳に先を越されるとは、不覚だわ。
シクシク、と泣き笑いを浮かべる表情で、もろにわかる。



結局、具合の悪いエドワードの身体をブロッシュが、支えながら彼の自宅へと向かうことになった。
車中の会話で2人は、エドワードに相手の男性の名前を聞き出そうとするが。
ごまかし、続けられてしまう。
が、そんなに隠されると余計に知りたい。2人はこの際だと、彼のお宅訪問をすることにしたのであった。
半分は、嫌がらせ。半分は、彼の身体を気遣ってなのだが。
エドワードにとっては、勘弁してほしい事、この上ないのである。しかし、こんな健康状態の為、仕方なく許してしまった。


「そろそろ、家は見えてくるのかしら。エドワード君」
「はあ、うん…。この辺ホントここまで、でいいからさぁ…」
「駄目ですよ。僕達、ほらあの看護士さんに頼まれたからですねぇ…」
「そうよ、大事な身体だし。つらいのでしょう。エドワード君」
「まあ、そうだけど。あのさ、何か楽しんでない?2人とも、気のせい…」
「ははは…、気のせい、気のせい」


ぜったーい、こいつら楽しんでやがる。何か、さらに調子悪くなってきた。
エドワードの顔色は色々な意味で、蒼白になっていく。


「あ、ここだよ」
「……………!?」
「で、でかい…。広い……何、これ!」


驚きを隠せない2人。
いったい、どちら様のお宅でしょうか、と2人唖然となった。
もしかしてコイツ玉の輿にのったのか、と思ってしまう。
いや、元が、そう国家錬金術師だから、そうよ、だからよ、とマリア・ロスは自分自身に言い聞かせている。
取りあえず、リビングへ通してもらい。
体調が悪いから、余りかまってやれない、と言いつつエドワードが客人の為にフラフラとコーヒーを淹れる。


「ああ〜そんな気を遣わなくてもいいのよ」
「そうですよ。エドワードさん」
「えっ、そう。じゃぁオレちょっと横になってもいい…」
「いいわよ。そりゃーねぇ。自分の家だしね。辛いのでしょう。遠慮はいらないわ。
横になりなさいよ」
「わりぃ…な、ホント…。で、いつ、帰んの…」
「へっ…!?」
「大丈夫よ。ちゃんとお家の方にご挨拶してから帰るわ!」


その笑みが、こわいよな。大丈夫かな。もめたりしませんように。
マリアの言葉に心配しながら。


――気をつけた方が、いいかも…」
「何ですか…?」
「えっ……?」


まあ、そんな訳で、ソファーで横になっているエドワードと色々会話をしながら2人は、この家の当主を待つ。
その間に。
身体が、やはり相当まいっているらしいエドワードは、ソファーで眠ってしまった。
その彼にブロッシュがそっと近寄る。


「うぁ〜。寝ちゃいましたね。ロス中尉!何か、可愛いですね。起きている時は、口悪いガキ、おっと…。だけど凄い、綺麗になりましたよね!」


エドワードを起こさないように、小声で話すブロッシュ。
頬杖をついて、マリア・ロスは羨ましそうにその様子を見つめている。
まさかね、本当に妊娠しているだなんて。


「こうして眠っている姿を見ていると、本当に可愛らしいわ。う、う〜ん、やっぱり相手の男を、どうしても見てやりたいわ!」
「そうですねぇ!僕も、エドワードさんをお嫁さんにしたいなぁ♪なんて…」
「貴方!今、何て言ったのよぉー!」
「いえ、いえ冗談です、てば…。ほら大声だすと起きちゃいますよ」


彼はそう言いながら、そっとエドワードの身体に、ソファーにあったブラケットを掛けてやろうとすると。


その時まで、まったく2人は気づかなかったのだ。
「焔」の視線を感じる。
凄いー、痛いんですけど。
恐々と視線を下から上へゆっくりあげていくと、そこには。
ひぃ
―――――――――――― !!!
蒼い軍服。黒いコート。その黒髪、その容姿。あ、あ、あの階級章は……。
准将クラス〜!?
ま、まさか「ロイ・マスタング准将さま〜」。


2人はその場で固まった。口は開いたまま、そして眼も見開いたまま飛び出ている。
マリア・ロス、彼女の夢がピューと、消えました。
負けた…「18のガキ」に完敗した。
あの〜夢って、何の〜と、エドワードに触れようとしているブロッシュが突っ込みたくなる。
だが、間髪を容れずに。


「おい!そこ何をしているのだ!エドに、さわるな!」


ドスの効いた低い声が、部屋に轟く。
その上、右手にサラマンダー入りの発火布が装着されている。准将の形相は鬼のようだ。ピリピリとした空気が部屋に充満している。


「は、!。申し訳けございません」


何故、僕らは、いや私達、ここで怒られなくちゃいけないのかな。
一応介抱してやってんのに、と言いたいのだが、只今の准将にはとても言えません。
『こ、わ、い………』



その後、エドワードが眠りから醒め、ロイ・マスタング准将の誤解を解いてもらった事は、言うまでもない。
誤解を解かれるまでの時間、2人は冷や汗をタラタラと垂らしながら床に正座させられていた。



2人の感想。
マリア・ロス中尉。
後悔をするの巻―!来るんじゃーなかった!もう、いや!
でも、私もあんな風に男性に抱き上げてもらいたいわ♪(夢)


ブロッシュ曹長。
いいもの見せて頂きました。ラブラブな2人を。
准将に抱っこされるエドワードさん。照れていたけど、可愛かったなぁ。
へぇ〜エドワードさん、マスタング准将にすごく大事にしてもらっているんだなぁ。
僕も、いずれロス中尉をこの両腕で♪(笑)












加筆修正致しまして再アップ♪
この2人を書きたいが為にこの話を書いたような物でした。
独身2人のカナシイ姿!?
ブロッシュはアニメ版に相当やられました。

桜 美由紀 2005/12/14





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