月の子 エピソード Y
「アルフォンス。トイレに篭城する…の巻」
(声明文:僕だって、兄さんのお腹触りたい)
僕、アルフォンス・エルリック 17歳。
只今「マスタング家」で家事手伝い中。
世間では僕のような存在を「小舅さん」と呼ぶらしい。まぁー、それはいいけど。
僕は、今。
「マスタング家」に一個しかない「トイレ」に立て篭もっている。
何故かって、それは…。
時間を戻せば数時間前。
僕は、一大決心をして兄さんに言ったんだ。
「兄さん、お願いがある!」
「何だよ、アル。あらたまって」
「聞いてくれるの?」
「まぁー何だ。取りあえず言ってみな」
「じゃぁー! 兄さんのお腹触らせて。お願い!」
その時の、兄さんの顔は忘れられない。
もう、顔も耳も真っ赤にしてシュポッポーと湯気が出そうな感じだった。そして、即答された。
「ヤダ」
「何でぇぇぇえ!!!!」
「ヤダ、ったら、ヤダ!」
「どうしてさぁ! 准将には平気で触らせている癖にぃぃぃ―! ずるいよ!」
「う、ううう…。ロイは別だ! 赤ちゃんのパパだから…」
「ウィンリィも触ったて、言ってた! 何で僕は駄目なの。そんなの横暴だぁー!」
「どうしてもヤダ!」
「僕は赤ちゃんの叔父さんになるのにぃ! どうしてぇー」
「何かわかんねぇーけど、ヤダ!」
「うううう――そんなに言うんだったら。もう、いいよ!」
と、僕は喚いて今、便座に座っている。
別にウンコしたくて座っている訳じゃない。これは、嫌がらせだ。
人間絶対、生理現象を催す。
その為に「トイレ」は必要不可欠な場所だ。困らせてやる。
そりゃー、数十分ぐらいでは兄さんは気にかけてこない。だが、数時間となれば…。僕はにんまりと口唇の端を引き上げた。
その間に准将も帰ってきて「トイレ」の前では激しく戸を叩く音と。
兄さんの罵声と准将の説得が始まっている。
「アルッ! いいかげんにしろ! 早く出て来い」
「アルフォンスどうしたのだね。とにかくそこから出てきて話し合おう」
「・・・・・・」
しばらく、僕は無言を押し通した。その間、あの2人は扉の外であの手この手と考えている。
「エド扉を作ることはできないのか」
「それが駄目なんだよ。アルの奴、錬金術でトイレ周辺の材質を練成できなくしてやがる」
「君でも、駄目なのかい」
「う、うん。ごめん…アイツっ!」
「一体どうしたのだい理由は…」
「う、ううう〜〜〜」
兄さんが准将に何故、僕が「トイレ」に篭城するはめになったのか問われているけど。
肝心の兄さんは、答えようとはしない。
そこで、僕の中で欲求が弾けた。「トイレ」から大声で声明だす。
「僕だって、兄さんのお腹触りたい! どうして駄目なんだよ!」
「何だ、そんなことかね。エドいいじゃないか。アルフォンスだって…」
「うううう〜〜、ヤダ! それはヤダ!」
「はぁ――?」
兄さんがバタバタと走り出す足音が聴こえる。駄目だよ、そんな興奮しちゃ、と思わず「トイレ」の扉を開けそうになる。
だけど僕より素早く兄さんの後を追っていく足音に気付く。
准将だ。
まぁーさすがというか。あたりまえの行動だね。
結局、僕は1人「トイレ」の中で篭城を続ける。
何で兄さんは、触らせたくないのだろうと悶々と考えていると外から、准将の声が聴こえる。その声はすっごく小声だ。どうも兄さんに内緒でここに来ているらしい。
「アルフォンス頼むから出てきてくれ」
「嫌です!」
「そこをなんとか…」
「准将は赤ちゃんのパパだから触ってもいいって言うけど。僕だって叔父さんだ!」
「わかったから。エドには内緒で君と交渉をしに来たのだ」
「えっ…」
「私が許可を出すから。チャンスがあったら必ず君に知らせる。それでどうだい?」
「ホントですか? 僕が触ってもいいんですか…」
「あ、あぁぁぁいいとも。私は子供の父親だ! エドに文句は言わせんよ。それに君は、子供の叔父さんだし―― …」
准将は僕の気持ちをすごく理解してくれていたらしい。だって、兄さんの体調が悪かった時とか、僕頑張ったもん。それに僕だって兄さんの事はもちろん大切だ。だけど赤ちゃんのことも大切に思っている。
今この前にいる准将に比べられると、ちょっと負けちゃうかもしれないけど。
「わかりました。ホント約束ですよ! 准将」
「あ、ああ。必ず!」
ザァーと水を流す音が屋敷内に聴こえる。
僕はタンクのレバーを回して「この数時間篭城していたトイレ」から出てきた。別に用を足した訳ではないが、取りあえず水は流した。
僕が出た後、すぐに准将が「トイレ」に入った事は言うまでもないけど。
こんな事件? の数日後。
リビングのとある場所で准将が、僕を手招きしている。静かに、と付け足して。
准将の傍に静かに足音を立てずに行ってみると。
そこには。
日当たりの良いカウチで微睡む兄さんの姿。
もちろん傍には准将がいた。微睡む兄さんの長い金髪を優しく梳きながら穏やかに見つめていた。
准将にそうされることがとっても心地よいのだろう。くうくうと寝息をたてながら安らかな眠りに兄さんは身を沈ませている。
准将は僕に静かにと合図をして、今迄いた場所を僕の為に空け渡してくれた。
そして、小声で。
「眠っているから今ならいいよ。触ってやってくれ。この子も喜ぶから…」
と、大きな手でいとおしむように撫でていた場所へ僕を導いてくれた。
だけど、突然訪れたチャンスに僕は思わず尻込みしてしまった。
「大丈夫だから…」
すると准将から、優しく促される。何だか、その時准将の顔をみてすっごく尊敬してしまった。まだ、まだ子供は産まれてないけど、父親の顔をしていて。
「兄さん」の事も「赤ちゃん」の事もすごく愛しているのだなぁー、て思った。
僕は、カウチの傍にぺたりと座り込み念願のお腹をゆっくり優しく触ってみる。お腹はまだ、そんなに大きくはないけれど、確かに生命がそこで育まれているのがわかる。
そして、その場所はとても温かかった。
「あったかい…」
そう言葉が自然と漏れてしまう。准将は、そんな僕ににっこりと微笑を返してくれる。
僕は何度も、何度もぬくもりを確かめるように優しくふれる。
そして、兄さんも赤ちゃんも無事に産まれますようにと願いを込めてふれる。
僕の思いが伝わりますように。
「僕は、君の叔父さんだよ」と、語りかける。
兄さんは、僕にふれらている事など気付きもしないように、すやすやと眠っていた。
「気持ちがいいのかな」と、准将に尋ねると。
「そうだよ」と、言ってくれた。
余りに嬉しかったので、僕はそのまま兄さんのお腹にそっと耳を寄せる。
音色が聴こえるようだ。ふわり、ふわりと。
その音色に僕もだんだん、眠くなっていく。気持ちがいい。准将がいつも兄さんのお腹を撫でながら穏やかな表情をしているのが、よくわかる。
ここは楽園だ。
僕は心地よい眠りにはいっていく。
その後。
眠ってしまった僕と、兄さんにそっと毛布をかけてくれた准将に僕は、兄さんをこの人に任せて良かったと心底思った。
兄さん准将と出会ってよかったね。それと赤ちゃんも授けてもらって。
僕の「トイレ篭城作戦」は、凄い効果をもたらしてくれたのだった。
後で、准将に訊いたのだけど。
僕に触れられるのを拒んだ理由は、兄弟だから異様に恥かしかったらしい。
ただ、それだけ。
それと男性に触れられるのを躊躇ったらしい。
まぁー兄弟だけど僕は男だからね。ふふふ…やっと僕を一人前の男として認めたか! えっへん、と胸を張った。
兄さんには、少ながらずも母性本能が芽生えているらしい。
加筆修正致しまして再アップ♪
ここから「トイレネタ」が始まった(汗)
桜 美由紀 2006/2/15
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