月の子 エピソード ]T
「A HAPPY NEW YEAR ! ルカ ♪」
「准将、今日はすっげぇーさばけてますね。仕事」
「そうですね!何だか鬼みたいな顔で仕事やってますよ」
司令部でロイの仕事振りを見ている連中は唖然としている。
さぼることが上手なロイ・マスタング准将が異常なスピードでデスクにある書類の山に決済している。
書類を掴み素早く目を通しサインをする。そして、ホークアイ大尉に渡す。まるで流れ作業のようだ。
いつもこうであって欲しいものだ。
「しかし、何で今日はそんなに急いでるんだ」
ヒソヒソとハボック達が話している様子が目に付いたホークアイが容赦なく銃口を彼らに向け怒鳴る。
「貴方達も早く仕事を終わらせてください。これじゃあ、いつまでたっても帰れないわ」
「ちょっとちょっと大尉! 仕事しますって。その銃、下ろしてくださいよお〜」
彼ら全員、否マスタング准将の部屋で軍務につく全員がホールドアップする。
「貴方達の仕事が捗らないと、准将の仕事も一向に終わらないのよ!協力しなさい!」
彼女の目は鋭く声は厳しかった。
「今日は一体、何でそんなに急いでいるんスカ」
「何かあったんですか。もしや姫さんに…」
ホークアイの元に心配そうに駆け寄って理由を聞こうとした。
姫さん、エドワードに何かあったら一大事だ。
そりゃー、准将も心配するだろうけど俺らも大切な弟分みたいな存在だからとっても気になるのだ。
そんな彼らにホークアイは呆れたようなため息をついた。
「貴方達、今日は年末です。どこの家庭でも早く帰りたいものでしょ…」
あ、と気付けば。
今日は年の暮れだ。明日は新年の始まりだった。
軍部で仕事をしていると時間を忘れてしまう。今日は何日だったけ。今日は何の日だったけと。これで付き合っていた彼女と失敗する輩は結構多い。
その良き例がハボック中尉である。
「あぁーーなるほど…」
「年末でアルフォンス君がリゼンブールに帰っているのよ。だから准将は…」
そこまでホークアイが説明したところで、ロイが大声を出した。
「ホークアイ大尉! 終わったぞ! 今日のノルマはもう達成したぞ! 私は帰るぞ、何としても帰るぞ! いいな、誰も私を止めるな。エドワードの元に帰るのだあぁぁーーー!!」
半分発狂しながら吼えているロイだった。
そうだろう最高記録を達成したのだ。そして、それほどこの日を大切にしたいと思ったことはなかったのだ。長く軍人としての生活をしてきた。この生活の中で何かしらの記念日等どうでも良かった。だが、エドワードと暮らすようになり二人の愛の結晶である子供が彼の胎で息づいているとわかった瞬間から、一分一秒たりとも時間を無駄にしたくなかった。
全てがロイにとって記念日なのだ。彼と過ごす一日を少しでも大切にしたかった。決して悔いの残らない日々を送りたかったのだ。
だが、ホークアイの冷たい一声がロイを高みから突き落とした。
「准将、この連中がまだ仕事を残しています。その分の決済が終わってません!」
ホークアイの言葉にしばらくロイは凍結した。それからロイのけたたましい声が部屋中に響いた。
実に珍しいことだ。
沈着冷静なロイが大声で軍部の部下達に向かい大声で激怒するのだから。
「はやくしろ! あと30分以内に書類を持ってこなければ減給にする!」
彼の怒髪天を衝く容貌に恐れをなして彼らは、素早く自分のデスクに戻り30分以内に書類を提出するのだった。
彼らもやればできるのだ。
何故やらない、と突っ込みたくなるが、取り敢えずロイは勤務を終了することができた。
* * *
「ただいま。エドワード、待たせたね」
ひょこっとエドワードがリビングから顔を出してきた。その愛らしい動作に、にっこりとロイの顔を歪む。
今日から数日間この家はエドワードと2人きりだ。
邪魔なアルフォンス、これは失礼。
何かとエドワードとこの家、そして家の主人であるロイのことを取り仕切るアルフォンスは実家、リゼンブールに帰っている。
この年末を一緒に過ごしたい彼女がいるからだ。
「おかえり、ロイ…。すんごい早かったな!びっくりした…」
「君と年末年始を一緒に過ごしたくてね。それにアルフォンスもいないから心配でね」
「へへっ…そんなに心配しなくてもオレは赤ちゃんと<こうして待っているよ!」
エドワードか照れ笑いする顔が可愛らしい。
「あ、メシできてるよ。ロイ、一緒に食べよ」
「ああ…。その前にちょっと」
ロイはそういうとエドワードの足元に跪き彼の腰に両手を回し抱きしめた。そして、ふっくらと膨らんだお腹に頬を寄せて。
「ただいま。今帰って来たよ。エドを守ってくれてありがとう…」
と、お腹の「赤ちゃん」と会話するのだった。
エドワードは、唐突なロイの行動をちょっと戸惑いながらも穏やかな瞳で受け入れる。
抱きつくロイの艶やかな黒髪をそっと撫で両腕で抱きしめ返した。
温かい。
ぽわぽわした感じになる。
心も身体も緩和され眠りたくなる。穏やかな場所。ふわふわする場所。
音が聴こえるポコンポコンと。
ゆっくり、ゆっくり「赤ちゃん」が鼓動を刻んでいる。
その音色はロイもエドワードもとっても好きだ。その音色だけで二人は会話が出来る。
このまま、もうしばらくいさせて。
* * *
明るく楽しい食事の時間が終わる。
ロイはエドワードの身体を気遣って二人で食事の後片付けをした。
エドワードはこんな時間がとっても好きだ。
幸せをもっとも感じる。
忙しい合間を拭って2人が同じ事を、同じ空間を感じあうことができるからだ。本当に在り来りな生活で充分幸せを感じることが出来るのだ。かつて、過酷な時を共に過ごしてきた二人だから尚のことだ。
「エド、これで終わりかい」
「あ、うん…。この一枚で終わり。やっぱり2人ですると早いな…」
「ああ、そうだね。エド、ソファーに座ってなさい。私が飲み物を淹れてくるから」
強がりな彼も今は従順に従う。それだけ、ロイに身も心も許しているのだ。そして、今は一番にロイから授けて貰った命を大切にしているのだ。
「うん」
「何がいいかね」
ロイはお腹をゆっくり摩りながらソファーに掛けるエドワードを見守りながら訊いた。エドワードは、その視線に気付かないままお腹の「赤ちゃん」に何やら話しかけている。
ロイもこんな時間がとっても好きだ。
エドワードと同様に幸せをもっとも感じるのだ。穏やかな時間。そして、一度しか味合えないかもしれない時間だ。
それを考えると辛くなる。だけど、二人はお互いで出した決断に悔いはなかった。この世に生きた証を、ロイを愛した証を残したいと思うエドワードの気持ちにロイは祈るしかなかった。
2人はそれでも、他愛もない日常生活に愛を感じていた。
温かいココアとコーヒーを淹れてロイはソファーに座った。もちろんエドワードを背後から抱きしめて。
エドワードは温かい湯気にふうふうと息を吹きかけた。二人とも同じ動作をするので、お互い思わず見つめあって笑ってしまう。
こんな穏やかな時間が好きだ。
ゆっくりと時間は進んでいく。
すると、こくりこくりとロイの腕の中で船を漕ぐエドワード。
眠たいのだろう。
「エドワード、もうベッドで休もうか…」
耳元で彼の眠りを妨げないようにロイは小さく囁いた。その声にはっと瞳を開けてエドワードはロイの腕をぎゅっと握った。
「ん…。どうしたのかね」
まだ、眠気眼で目をこすりながらエドワード応えた。
「ロイと一緒に年越す…。だから、もうちょっと…」
「あぁ…。あと数十分で新年だね。ホント、大丈夫かい」
「うん。あのなー、ロイの腕の中にいるとすっごーく眠くなるんだよな」
エドワードがにっこりと微笑みながらロイの顔を見上げた。ロイは返事の変わりにエドワードの金色の軟らかい髪を梳いてぐっと胸に抱きしめる。
エドワードは、ロイのそんな行動にさらに睡魔に襲われそうになるのをぐっと我慢した。新しい年を一緒に迎えたかったのだ。
ちょっとした記念日でも大切にしたかった。忘れられないものにしたかった。
二人の想いは口に出さずとも通じ合っているのだ。
「ロイ「赤ちゃん」の名前そろそろ決めなくちゃ…。それともまだ早いかな」
「エドワード、私が決めてはダメかね…」
「え、ロイが名前つけてくれるの…」
「ううん、候補として2つ考えているのだが。ファルマンから貰った辞典を色々見ながらな。それとちょっと想いがあってな」
「えっーーー!? 何、何、候補教えろよ」
今迄、眠気眼を擦っていた彼が急に元気よく迫ってきた。それほど、ロイから出される言葉に興味があっのだ。
「あ、まあ〜。男の子だったらな。「ルカ」で女の子だったら「ルナ」というのはどうだい」
エドワードの顔がみるみるうちに破顔になってきた。
「ルカとルナ…。双子みたいだな。どういう意味」
「んんーー。満月が綺麗な日にこの子を授かったような気がしてね」
ロイの言葉に、エドワードが急に驚いた顔をした。そして、暫くロイが言った言葉を黙って巡らし、それからロイの背に両腕を回してぎゅっと掴み自分の想いをロイに伝える。
「満月、月の綺麗な日だったとオレも思う。この子がオレのお腹に宿ったの。満月にお願いしたもん。オレ…ロイの「赤ちゃん」が欲しいって」
「そうかい。良かった。だから「月」という意味だよ」
「ルカ…。よかったな! パパが名前つけてくれたよ」
さっそくお腹の子供に名前を教えるエドワードにロイはびっくりした。
「オイオイ、エドワード。まだ、男の子かどうかはわからないよ」
「ううん。とね。男の子みたいな気がするから」
「それは君の感かい?」
「うん、そうだよ!」
自信に満ちた笑顔が返ってきた。エドワードの表情を見て何だかロイもお腹の子供は「男の子」のような気が俄然してきた。
ロイの今までの言動にも何となく「男の子」だという雰囲気がしていた。気づかずとも勝手に想いを巡らせいたのだろう。
2人は瞳を合わせて「それじゃあ」と、彼らは掛け時計を一緒に見た。話が弾んでいる合間にカウントダウンする時刻になっていた。カチカチと時計の秒針は時を刻んでいる。
もう何秒かで新年が来るのだ。待ち遠しい。
「ルカ」が産まれてくる年だ。
カウントが始まった。2人で声を出して数える。3、2、1 …、と。
そして、一緒に声を掛けたお腹の子供に――。
「a happy new year! ルカ ♪」
ロイとエドワードはそっと優しく甘いキスを交わした。
加筆修正致しまして再アップ♪
時期はずれだけど、カウントダウンの話をアップ!
この頃、エドのお腹は七ヶ月位の時期です。とっても穏やかに一日を過ごしている二人。そして、漸く赤ちゃんの名前決定! こんな経緯があったんだよ。「act.5」で出来た赤ちゃんなんだよ!だから「月」ね。
桜 美由紀 2006/7/18
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