ピョッたまご!?
(6)
ホーエンハイム家。稀代の錬金術師一家。
アメストリス国、建国以前からその名は秘密裏に語り告げられていた。時には存亡の危機にある国を一夜にして救ったという伝説もある。
その類まれな錬金術の才能を残すために先祖は己の身体に人体練成を施したという。
未来永劫、この血と才能を受け継ぐようにと祈りを込めて…。
「一族の跡継ぎである長男が18歳になったときに両性化し優秀な子孫を残すこと。――金のたまごを育てるのだ……」
「「たまご? ぴよっ?――……」」
古びた古文書らしき物を取り出し、アルフォンスは胸を張って読み上げていた。
一同唖然。
あんぐりと口は開いたまま声にならない。
そんな彼らを気にも留めず、狂言まがいな話は続けられた。
「まぁ……それでこの古文書通り僕らの一族は僕と兄さんの二人。と、言うことで兄さんは一族繁栄の為に両性化して子供を産まなくちゃいけないんですよ。稀代の錬金術師のたまごを育てるという重責を兄さんは背負っているんですよ」
「「――……」」
えっへんと、自信満々にアルフォンスは大義名分を言い放った。
ホークアイの尻の下には世間一般から掛け離れた体質を持つエドワードが未だベッドでうつ伏せ状態。
顔をシーツに押し付けられて足掻いていた。
しかし、反論もなければ羞恥心もないのか――彼は素っ裸の尻を高く上げたままだ。とても大義を成し遂げる偉い大人には見えない。
ホークアイは尻の下に敷いていたエドワードを眺め下ろし、大きなため息を吐いた。
とても直ぐに納得出来る話ではない。
カーテンで仕切られた内側の人間も外側の人間も空いた口が塞がらない状態。
けれどもごくりと男達は生唾を飲み込んでいた。
やはり男と言う生き物は性的欲求に脳の9割を占められているというのは嘘ではないようだ。
衝撃の事実に耳を疑ったが、薄い影から必死に両膝を合わせて女性の証である秘部を隠そうとするエドワードの艶かしい裸体を想像していた。
現実は恥も外聞もなく尻を高々と上げて喚き散らしているのだが――。
そんなこと露とも知らず…。
男達は幻想を抱いていた。彼は処女という稀少な存在だとか。でき立てほやほやの膣壁を堪能したいという、卑猥な妄想が後を絶たない。
が、しかし――肝心なことが露見した。
そうエドワードは大佐の子供が産みたいと言ってきたのだ。
自然とロイは羨望の的となっていた。
壁際の男達の中でエドワードの局部を目視出来る可能性が一番高いのは……。
先程までアメストリス国一、不毛な男として笑われていたはずの男。ロイ・マスタング。
けれども今では一番優位な立場に立っていること間違いなし。
目覚めてからのエドワードはその辺の麗しい女性達より魅力的で妖艶。
男ではないとわかった今、喉から手が出るほど欲しい存在。彼らには興味と本気が入り交ざっていた。そんな卑猥な想像を個々に湧かせていた。
もしかして――先程冗談だと苦笑したアルフォンスも仲間に入っているのかも知れない。そうでなければ、あの場でチャックを下ろそうとするものか。ズボンの下はしっかり準備万端状態だったのかも知れない。
近親相姦――そんな危うい妄想までも湧いてくる。
何故ならアルフォンスの説明によれば、そうして血脈を繋げてきた時代もあったと……。
そら恐ろしくなってきたが、一際爛々と瞳を輝かせていた男がいた。
エドワードから告白を受けた張本人だ。
やはりこの男、女性という言葉に目がないのだ。
男達の羨望の的にありながら、彼は一人一直線に進んでいた。周囲に敵なしと思っているのだろう。
「クックック……」
込み上げてくる笑いをロイは抑えることが出来なかった。
「鋼の、この私が手解きしてやろう! 私はうまいぞ!」
想像豊かになっているロイの口角はにんまりと上がって、同僚達を凌駕し見下していた。
エドワードに告白された時の面構えとは雲泥の差だ。
それに何がうまいのだ。こう自信満々能書きを垂れる男ほど早漏が多い。
冷ややかな視線がロイに集まっていたが、ロイは鼻を大きく膨らませていた。
「大佐の野郎……俺だって権利はあるはずだぁー」
ハボックがエドワードの争奪戦に名乗りを上げた。それを機にブレダ、ファルマン、フューリーまでもが参戦してきた。
男という生き物は浅ましいものだ。
チューン――ッ。
その先頭に立つロイの耳尻数ミリの箇所に弾丸は走った。
煙を上げた弾は壁に命中していた。
傍にいた連中はえびぞりになっていた。狙われたロイはと言えば、自信有りげに組んでいた両腕が逃げの体勢に様変わりしている。
イシュヴァールの英雄も形無し状態。その場から退散することも出来ない。
「ちゅ、中尉…ッ、危ないではないか! わ、私は何も悪いことはしてないぞ。鋼の、が私にそう言っているだけではないか!」
銃口がカーテン越しに此方に向けられているのが、確認できた。
そして、その標的はロイだけではない。
「そこから一歩も動くな! 動いたら撃つ!」
鋼鉄の銃口が彼らを射止めていた。
「はい! すみません」
先程までの強気な勢いはどこへやら――ロイ共々、彼らは素直に頭を下げた。
一先ず銃口を下げたホークアイはくたびれた顔つきである箇所を見ていた。そこは依然として素っ裸の臀部を恥じらいもなく上がっていた。
「子供じゃないんだから……」
と、呆れた口調の独り言。
目の前には優秀な後継者を輩出するために実兄の貞操を守るべき存在のアルフォンスがにこやかに笑っていた。
彼には性的欲求というものはないのだろうか。目の前には美味しそうな極上の桃があると言うのに。それとも兄弟という血脈に抑制されているのだろうか…。
けれども話を聞けばアルフォンスは最終手段として近親婚を温存しているようにも思える。
これ以上考えても仕方がないと、ホークアイは徐に尻を上げた。
「エドワード君、さあ……ちょっと起き上がってみて」
苦しい態勢を長時間強いられていた為、エドワードの身体は思うように動かない。それにイラつきを感じながらホークアイはその身体を粗略に起こし、正面から彼を眺め回した。
一体何が起こっているのかエドワードはさっぱりわからないようだ。
蜂蜜色の瞳をまん丸と開けて開放された視界をきょろきょろと見回している。
ホークアイはほとほと呆れ果て項垂れてしまう。
半尻状態の形良く上を向いた尻と寝乱れた病院着。綺麗に結っていた金髪は解かれ、ボサボサだ。けれども長い絹糸は肩からゆるい滝の流れのように流れていた。
息苦しく暴れていた身体はほんのり薄桃色。頬は桜色に火照っていた。
雌雄両体。そう云われれば、そう見える――。
そこらの女性よりも男を虜にする魅惑的な要素が漏れ出していた。
「ちょっとごめんなさい…」
これ以上彼を吟味しても仕方がない。後は事実を確認するまでと、ホークアイの手はエドワードの股間を遠慮なく握った。
「――……」
顔をきつく顰めたかと思うとガックリと項垂れた。
「――あるわ。○ン○ンが――ついてる!」
肩を思い切り下げて、この世の理が一から崩れる事実にこめかみを押さえていた。
「勿論ですよ。もともと男ですからね」
この兄弟事態どうやら世間の一般常識から掛け離れているとしか思えない言動だ。
ホークアイはこめかみの坪をさらに押した。
「それより兄さん、本当に後継者を残せる身体になったよ。良かったね! 優れた跡継ぎを残して貰うために良いお婿さんを探そうね!」
理想を描くアルフォンスはにこやかに微笑んでいた。
「おう! アル、任せろ」
軽快な二人の声色にホークアイは更に頭が重くなる。
しかし――アルフォンスの未来設計図と相反してエドワードは暴走し始めていた。
円満な微笑を浮かべるアルフォンにエドワードは申し訳なさそうに上目遣いして。
「アル〜」
発情期の猫が甘えるような声色。
カーテン越しに佇んでいる男供は一斉に性欲の象徴である股間を押さえた。
「あのな〜オレ…お婿さんは大佐が良い。大佐の子供が産みたいんだぁ…」
エドワードの色っぽい声が彼らに聴こえた。
すぐさま攻撃対象である男に視線を向けると、さも当然とばかりに胸を張るロイの姿に腹が立ってくる。
それは彼らだけではない。
一族繁栄の為により良い種を選別しているアルフォンスにとっては青天の霹靂。
いつも飄々としているアルフォンスが顔を真っ赤にして激昂した。
「どうして! 大佐なんだよ!」
アルフォンスはどうしても大佐の血を後継者に継がせたくないらしい。
気でも狂ったように自問自答が始まっていた。
「どうして…どうして…どうして…大佐なの?」
ショックを隠しきれない。
そんなアルフォンスに少しばかり罪悪感が湧くのだろう。
「――アル、ごめんな。だって優秀な錬金術師を残そうと思ったらさ。オレ達以上の才能を持ってる奴って早々いないぞ。まぁ、容姿はちょっと難点ありだけどそれはオレも我慢してるんだぞ」
聞き分けてくれるように呆然とするアルフォンスの顔を覗くエドワードはまだ艶かしく半尻状態。
「……それはないと思うのだが。鋼の、私はモテルぞ!」
容姿端麗というロイのお株を彼らはいとも簡単に切った。
それは誰も咎めようとしない。
「兄さん! 大佐は金髪金目じゃないでしょう。だからダメ。それに僕はあの顔は好きじゃないもん」
「「はあ?」」
聞き耳を立てている男達が呆れた声を上げた。
けれどもその中の一人がにやりと口角を上げた。金目ではないが、金髪頭の男がいたのだ。
優越感に浸るハボックがロイを見下げた。
「ハボック、貴様! それで勝ち得たと思うなよ。鋼の、は私を指名しているのだぞ。黒髪のどこが悪いのだ。顔だって貴様よりずっーーーと良いぞ!」
「僕は嫌です!!」
カーテンの向こう側からアルフォンスが金きり声を上げて吼えた。
そんな容姿の所為で選別から外されるのか。そんな理不尽なことがあって堪るかと、ロイも負けずに訴えた。
すると――エドワードがロイの声に敏感に反応した。
「アッ、大佐だ」
血気に逸ってアルフォンスは出遅れた。
ホークアイはこの事態に顔を引き攣らせて笑っていた。
エドワードを隔離していたはずの二人は彼の予想外の行動を阻止することは出来なかった。
失態である。
シャーッと仮眠室を仕切っていたカーテンを開いてエドワードは割れんばかりの笑顔と共に飛び出した。
それも念願の男の下に。
「ぁあ〜兄さん!?」
「エドワード君、お尻…ッ」
あぁ……気づいた時には凄艶な姿でロイに抱き付こうと駆け出している後姿。
勿論、その瞬間のロイの顔は見られた物ではなかった。
鼻の下をだらしなく伸ばしきったその辺のエロ男。とても軍女性、市政の女性に大人気かつモテル男bPのロイ・マスタング大佐には見えない。
そして――その部下達も同様。
同罪――。
ロイも両腕を広げてエドワードを待っていたが――。
受け取ったのはアルフォンスの必殺飛び蹴りとホークアイの瞬殺銃乱射だった。
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つづく