約束は秘密のうちに結ばれた。
                        The promise was concluded in secret.


■□■第一章□■□



エドワードはセントラルの図書館で一人、黙々と文献を読み漁っていた。いつも一緒の実弟、アルフォンスの姿は此処にはない。恐らく集中すると身近な者が呼び掛けても気づかないことに腹を立て、弟は宿へ先に帰ったのだろう。
無用心というものだが、彼らは命を取られる危険が今のところないのだ。人柱決定の彼らは本当に飼い戌なのだ。
けれどもエドワードは文献を読み出すと周囲が見えなくなる性質だが、あのホムンクルスとの戦い以後は敏感になっていた。どこにいても敵ばかりなのだ。ましてや中央司令部は魔窟と化している。エドワード達は逃げ場のない袋小路に入っていた。今更逃げ隠れしても同じこと。
唯――人柱だから殺害されることはない。今は奴らの手の平で転がされ、適度な自由を与えられているだけの存在。
それでも緊迫した空気の中でエドワード達は生きているのだ。極度の緊張状態は精神と身体に負担を与える。
アルフォンスはそんな精神、肉体を持ち得ない。疲れを知らない鋼鉄の鎧。
そんな身体にしてしまったのは自分だと、思うとエドワードはアルフォンスの前で弱音を吐くことは出来なかった。
虚勢を張って生きる。
しかしながら、それが彼の最大の欠点となるのだ。
その挙句、事件は発生した。もっとも彼が忌み嫌う形で残酷にエドワードの身体と精神を傷つけたのだ――。
エドワードは生身の身体だ。疲労が溜まった挙句、すっかり警戒心を解いてしまっていた。全てが悪循環して彼の判断力を鈍らせた。それと同時に彼の中で消化しきれない想いがあった。


「――鋼の錬金術師、エドワード・エルリックとは君だね!」
ビクッとエドワードの肩が上がり、持っていた分厚い文献が腕から落ちそうになった。彼は背後から声を掛けられるまで人の気配にまったく気づかなかった。
チッと舌打ちした後、エドワードは露骨に無愛想な顔で振り向いた。すると数人の壮齢な親父達がにやにやと雁首を揃えていた。余裕たっぷりに腕を後ろで組んでいる奴。何やら値踏みをするようにエドワードの身体を下から上まで嬲るように見ている奴。そんな嫌悪的態度を彼らはこれ見よがしにとっていた。見られているエドワードは憤慨寸前だ。
これが緊迫した戦闘時ならば、彼らは少なからず血を見ただろう。油断大敵というものだ。が、しかしエドワードは迂闊にも背後を取られたのだ。この時点で勝敗は決まっている。
「何だよ。オレには用はないぜ! 研究の邪魔なんだよ!」
エドワードは自分の失態を誤魔化すために、威勢よく啖呵を切った。金色の三つ編が激昂する猫の尻尾のように警戒心を散漫させていた。
けれども、その姿をくつくつと嫌な笑みを浮かべて彼らは笑う。その態度に立腹したエドワードはこれ以上彼らを相手にしても仕方がないと、眉根を吊り上げこの禍々しい空気が漂う一角をブツブツと独り言を漏らして離れようとした。
エドワードにとってこの図書館は神聖な場所なのだ。
国中で数多くある図書館の中でも国立中央図書館は外観からして芸術的建物として貴重に扱われていた。それ故に、その建造物内で保管されている文献、書物は厳選されたものばかりだ。国家機密に認定されている貴重な文献も保管、管理されている。エドワード達には喉から手が出るほど欲しいものばかりだ。
勿論、それらを閲覧する為には膨大な書類の山にサインしなければならない。それで許可が下りれば、漸く閲覧できるという訳だ。だが、エドワード達が持つ銀時計を見せればある程度は融通が利くのである。
錬金術において探究することは山とある。エドワードはよく此処を訪れて、叡智を養っているのだ。そうでもしなければ、何もかもが根底から崩れそうだった。
全てが、――自分がこの世に生きていることも、泡となって消えそうで怖かった。
何かに駆り立てられるようにエドワードは国立中央図書館に入りびたりとなっていた。それに黴臭く埃っぽい遮光した薄暗い場所だったが、根無し草の彼にとってこの場所は自分の私室のようになっていた。それを奴らに土足でズカズカと入られたのだ。彼のご機嫌は非常に斜めになった。
急にエドワードの鋼の右腕が安易に掴まれ引き寄せられた。眼鏡のレンズが気味悪いほど反射した男の顔がグイッとエドワードに近づいてきた。
「研究? もう、する必要はないだろうに…」
彼の背後の男達もにやにやと笑ってエドワードにこう述べた。
「案ずることはない。我々に任せておけば全て丸く治まるというものだ」
エドワードは軍服の階級章をちらりと横目で見た。上目遣いで睨んでいたエドワードの蜂蜜色の瞳孔が一瞬大きく瞬いた。それから小さく抗っていた身体の動きがピタリと止った。その流れるような短い時間でエドワードは察しがついたようだ。
――大総統付きの将軍か。反吐が出る。
「オイ、離せよ! オレには用はないって何度も言ってるだろう」
無理やり右腕を捥ぐように奪い返して、エドワードは外に通じる扉へとゆっくりと歩いた。そんな彼の背後でやはりくつくつと不敵な笑みで彼らは笑っていた。
此処で感情に任せて憤怒するとマズイのだ。彼らの思う壺と云うものだ。どうせ暇つぶしに嘲弄しているのだろう。つくづく暇な連中だとエドワードはため息混じりに脚を前へ進めたが、彼の足が急に止った。
エドワードの第六感が何かを感じた。それが何なのか、はっきりしない。
――殺気、嫉妬!? ……そんな視線がねっとりと感じられた。
「そんなに怖がらずとも良いではないかね」
鋼の右手でドアノブを握ると冷たい金属音が響いたが、それをいつものように回そうとしたが、音は虚しくある部分で止るのだ。
カチャカチャと冷たい音が何度も室内に響いた。
そこでエドワードは図られたことに漸く気づいた。彼のこめかみから嫌な汗が流れ、金糸の後れ毛がピタリと肌に張り付いた。
例の如く扉を蹴破って外に出れば良いのだが、彼には違和感があって行動に移れなかったのだ。彼のいつもの素早い判断力がすっかり出遅れてしまった。そして、それが敗因となってしまう。
自分の腕っ節の強さはこのセントラルでも噂になっているはずだ。その上、国家錬金術師である。そんな彼に太刀打ちできる輩は戦闘能力に長けたベテランの軍人だ。だが、彼の目の前にいる親父達はまったく無関係な者ばかり。
それはエドワードがちらりと見た階級章が物語っていた。錬金術研究機関の将軍や研究者達だ。言わばこの国を崩壊へ導こうとする研究をしている輩だ。頭脳ばかりを鍛えた連中に戦闘云々はまったく関係がない。それなのに、彼らには妙に余裕があるのだ。その薄笑いにゾクリと背筋が凍えた。
エドワードは忌々しく思いながらゆっくり後ろを振り返った。
「――オレに話って何だよ。どうせ、くだらねー話なんだろう」
「くっくっく……。そう警戒しなくても良いのだよ。ちょっと君の身体に興味があってね」
エドワードは視線を斜め下から睨み上げるように、にやりと笑っている男に向けた。彼の頭は噴火寸前なのだ。それをどうにか理性を総動員して抑えていた。
「身体!? オレの身体が何だよ。機械鎧かよ。そんな珍しいもんじゃねーよ」
口調は強がっていたが、早くこの場から逃れなくてはならないと警笛が鳴っていた。しかし、わかっていても身体が動かない。ねっとりと纏わりつく視線を感じるのだ。それが自分の身体を金縛りにあったように動かなくしていた。
一体、どこから――誰の視線だとエドワードは琥珀色の瞳だけを左右に動かし探していた。
「いやいや、違うよ。君の生身の身体に用があるのだよ。まだ、わからないかね」
「!?」
親父達は上から下まで舐めまわすように視線をエドワードに送った。その視線は彼の衣服を透かして、その先にある白く滑らかな肌を映しているように思えた。男の一人がジリジリとエドワードに、にじり寄って来た。“生身の身体”に用があると言われて、エドワードの胸はドクリと熱いものが流れた。流れ出したものが身体中に信号を伝達していく。身体中の毛根が開き、エドワードの身体の熱を冷まさせようと冷たい汗を噴出させた。
「その身体の内部構造に興味を持ったのだよ。その君の性別に対してね」
彼らの視線が一斉に卑猥なものに変化し、両口角が吊り上った。エドワードは戦慄きながら一歩、また一歩と後退りした。
漸く、彼らの真意を理解したのだ。
彼がもっとも嫌悪するモノ。彼が隠していたかったモノ。此の侭、誰にも追及されずにいたかった秘所。
彼の精神を脅かす事態にエドワードの身体は強張り、息を吸い続けた。飽和状態になった肺はヒューヒューと乾いた空気を吐き出させた。
彼にとってこの事は精神的外傷なのだ。身体は彼の意志に反して、動きを止めた。いつもならば、その腕っ節の強さで逃げ通せるはずだ。されど今は何の役にも立たない。エドワードは戦慄きながら、胸を引っ掴みその場に立ち伏していた。
くつくつと笑い、にじり寄ってくる親父達を前にしてエドワードは開かない扉を何度も捻った。乾いた金属音が響くだけだ。それでも、カチャカチャと何度も回す右手を一人の男の手が掴んだ。ハッと顔を上げたエドワードの表情が絶望に陥った。
「――少尉? ハボック少尉!?」
ジャン・ハボック少尉がエドワードの目の前にいたのだ。
短髪の金髪、咥え煙草姿がトレードマークの彼がエドワードの右手を掴んでいた。いつもの飄々とした表情はそこにはなかった。煙草を咥えたまま、歪み曲がった顔でエドワードを見下していた。
エドワードとアルフォンスにとって兄のような存在であった彼。だが、彼はホムンクルスである色欲(ラスト)と戦い瀕死の重傷を負ったのだ。ロイ・マスタングのおかげで命を取り留めたが、ハボックは下半身不随となったはずだ。その彼がエドワードの目の前に立っているのだ。誰の手助けもなく一人で立っていた。
そして――その微笑みはにやりと口端を上げていた。
エドワードの心に大波が寄せて来た。わかっていても、心は揺らめくのだ。声が喉元で詰まったが、どうにかして声を発した。
「――少尉、じゃない! ハボック少尉じゃない。おまえは誰だ!」
一瞬上げた顔を下ろして、か細い声でエドワードは悲鳴を上げた。それを嘲笑うように煙草を口元から外して男はエドワードの耳元に口唇を近づけた。その漂う煙草の匂いまで、克明に似せているのだ。
「大将、何言ってんだよ。ジャン・ハボック少尉ッスヨ!」
にやけながら、エドワードの耳元で囁いた男に対して嫌悪感が湧いてきた。エドワードの瞳が悲しそうに彼を見つめた。
彼は此処にはいない存在なのだ。こうしてエドワードやロイの傍らで、立つことは儘ならないのだ。人の弱みに付け込んできた奴にエドワードは憎悪を燃やしたが、その一方で心が乱れる自分がいた。
口唇を噛み締め、金色の頭を振って目の前にいる彼を打ち消そうとした。その瞬間、男はエドワードの右腕を激しく掴み捻るようにして、身体を背後から羽交い締めし彼の耳元に熱い息を注いだ。
「ん、んっ。どうした? さっきまでの勢いはどうした」
機械鎧の右腕が器用に後ろ手に捻られ、その腕はキシキシと軋み始めた。運動能力を超えた動きに腕の神経を伝える被覆線が千切れそうになる。それはエドワードにとって激しい苦痛を与える。
「あっ、うぅ――っ、放せよ!! 腕、痛いだろうが――」
彼の切願は聴き遂げられない。その代わりにもっと残酷な言葉が彼に浴びせられた。二人の姿を見ても微動だにしない親父の一人が顎に手を当て言うのだ。
「その身体は本当に両性具有というのですか?」
右腕を捥がれる痛みに耐えながら、エドワードの大きく開いた琥珀色の瞳がハボックに化けた男に向けられた。エドワードの瞳は驚愕に満ちていた。
「あぁーそうだよ」
男はそう将軍達に応えるとにんまりと口唇を吊り上げて、淫らな手付きでエドワードの金糸の横髪を撫で、耳尻を撫で回しそれから首筋へと手を這わせた。
「ャ、やめろ…! オレに触るな」
エドワードがか細い呻き声を出すが、その手はその声さえ楽しむように下へと降りていった。冷や汗が滲んだ首筋から胸元へ。黒いカッターシャツのボタンを一つ、二つと外してその中に手を滑り込ませた。
その間も彼が暴れ出さないように右腕をギシギシと捻り上げ、何時その腕が外れるかわからないぐらい限界の位置まで捻じ曲げていた。
「痛ッ――やあぁー!!」
その悲鳴を楽しむように手は衣服の上から下って、下腹部に到達した。その頃には、親父達の視線はエドワードの乱れた表情と男の手の動きを食い入るように見ていた。ゴクリと生唾を飲む音さえ生々しく聴こえてきた。
「そんなに嫌がらなくても良いじゃないか」
心外だと云わんばかりの声を出して、ハボック似の男はエドワードの首筋をぺろりと舐めた。それにもっと嫌悪感を覚えて、エドワードは身体をくねられた。手は辿るように下に行き、男性性器がある部分をねっとりと触った。その動きに羞恥心と快楽が入り混じって、ざわりと脊髄を感覚が駆け上った。エドワードは己の生理現象を恥じて涙目になった。
エドワードの円らな口唇からは嫌がる声しか上がらなかった。それから淫らな手は内股の付け根にまで辿り着いた。彼の両脚は床に踏ん張るように開いていたが、その片脚を男の脚で払われ大きく開かされた。その窪んだ部分に遠慮なく手を刺し込んで突付くように、その場所に触れてきた。その瞬間エドワードは口唇を血が滲むぐらい固く噛み締めて、瞑目した。
「諸君、わかるかね。この場所に女性性器が存在するのだよ!」
「おぉぉ――!?」
どよめきが走ったが、エドワードは耳も塞いだ。掴まれた右腕の痛みと羞恥心に現実逃避してしまいたくなる。
耳を塞いでも聴こえる声。キシキシと軋む機械鎧の接続部。末梢神経に至るまで、伝達される疼痛。それが我が身に起きていることは現実だと知らしめる。
「是非、この眼で確かめたいものだ!」
親父達の声色はまるで少年のように上擦り、興奮していた。今から未知の世界を探究できるのだ。これほど、喜ばしいことはない。
ハボック似の男は猥らな手つきでその部分を撫で回し、目の前にいる親父達の視線を釘付けにさせた。研究者としての興味を引く実験体がいるのだ。親父達の瞳は爛々と輝いてエドワードの肢体を舐め回すように見ていた。その視線に耐えられずエドワードは、食い縛った口唇を緩ませて悲鳴を上げてしまう。
「イヤァだ! 放せ…」
男の身体から逃れようと強引にもがいた。全神経が研ぎ澄まされ、産毛が逆立つように嫌悪感を丸出しにした。
「オイオイ、そんなに暴れるなよ。腕が外れるぞ」
暴れるエドワードを半ば楽しむように男は笑っていた。そんな彼らを囲んで、にやりと口角を上げた親父達の手が彼の身体に伸ばされた。その手に竦み上がり、不覚にも背後の男の身体に背中を預けてしまう。それほどエドワードの精神は極限まで追い込まれていた。エドワードの戦慄く身体は、ついには恐慌を起こした。
「イッ…痛いじゃねぇか!」
手足をバタつかせてハボック似の男の身体から逃れようとした瞬間、エドワードの手が背後の男の顔に当たり、傷を負わせた。
ほんの些細な傷だった。だが、それがある種の引き金となって男に嫉妬という感情を芽生えさせ、灼熱の憎悪を最大限に発揮させることになる。


ハボック似の男の頬からたらりと鮮血が流れた。微量な血だが、男は空いている左手でその傷を無言で拭った。そして、ゆっくりとした動作で手の甲に付いた鮮血を凝視し、不機嫌そうに口を開いた。
「あ~あ、血が出ちゃった。どうしてくれるんだよ! 俺様の顔に傷つけやがってぇ!!」
静かに、そして激しく狂気が満ちてくる。あまりの怒気にエドワードは引き攣った表情で背後を振り返った。機械鎧の右腕の痛みなど忘れてしまっていた。唯、背後の男が徐々に本来の気質を表してくる様子が殺気でわかる。
声色の高い声が耳元に注がれエドワードの顔色が一瞬にして蒼白となった。
「ねぇ~、おチビさん! どうしてくれるんだよ」
刹那、エドワードの意気は降下した。薄々わかっていても、それを打ち消そうとしていた自分がいたのだ。己の甘さに唇を血が滲み出るほど噛み締めて、鉄の味が口に広がった。
「――エンヴィー!」
エドワードにだけわかるように、素の姿を現したエンヴィーはにやりと悪態をついた顔でエドワードを睨んでいた。
この気まぐれな微笑を見るたびにエドワードは思うのだ。
彼らの――お父様とホムンクルス達の手の平で弄ばれている自分を……。
滑稽すぎて、今迄怯えていたはずのエドワードは顔を歪めて卑屈に笑った。それと同時に焦燥感が増してきた。
「おっと…そんな大声だされちゃ困るんだよな。折角、内緒で将軍さんや研究者さん達を呼んで集まったんだからな。なっ、大将!」
エンヴィーがハボックの姿に戻っていた。エドワードの戦慄く肢体を淫猥な手付きで弄り続け、彼の首元に口唇を近づけてぺろりと舐めた。
擬態したハボックの姿がエドワードを更に追い詰めていく。
「――やっ…やめ!?」
二人が縺れ合う姿を見て、にやにやと口角を吊り上げ彼らは物欲しそうに、エドワードの身体に手を伸ばして、一歩ずつ近づいてきた。
「君、我々に是非その身体を触れさせてくれるという約束だっただろう」
また一人、口を挟むものがいた。それだけ今のエドワードは研究対象としての魅力以外に男達の性欲を掻き立たせるほど魅惑的な身体をしているのだ。
「君のお楽しみはその辺にして、我々に分けてもらえまいか。実に魅了される身体だ」
くつくつとエンヴィーは小悪魔的に笑って、下肢を衣服の上ら嬲っていた左手で器用にエドワードのズボンのベルトに手を掛けた。
「!?……」
半ば翻弄されていたエドワードが薄目を開けて、エンヴィーの左手を視界に入れた。右腕の機械鎧は今にも外れそうな位置に屈折され、身動きすら出来ない。それでも疼痛に耐えながらエンヴィーがしようとする動作を阻止しようと身体全体を使って暴れ出した。
「オイオイ、急に暴れ出すなよ。俺が手始めに大将の局部を探ってやるよ」
その声を聞いてエドワードは竦みあがった。もう恐怖に精神が麻痺を起こし、身体を震わせるだけの唯の人形状態となった。
ベルトのバックルをカチャカチャと左手一本で器用に外し、面白がるようにエドワードの表情を観察しながら首筋に舌を這わせて、ジッパーを下した。
親父達も固唾を呑んで、その次の行動を見ていた。そんな彼らの動向さえもエンヴィーは愉しみニヤついた。
ジィーッとジッパーが下りる音が響いた。それからハボックに変身したエンヴィーの手がエドワードの下着の中に強引に滑り込んだ。
「ん? どうしたのかな。こんなことされるのは心外なのかな? それとも相手が俺だったのがいけないのかな? そうだ!! あの焔の大佐だったら良かったのかな?」
身を竦めて、震えているエドワードの耳元に悪魔の囁き。
だが――あの男の名前を聞いてからエドワードは無我夢中に暴れ出した。
それも今迄の比ではない。
彼の中で大切に保管されていたものがガラガラと音を出して崩れていく。
「嫌だ。やめろ!! その名を言うな。触るな!! 放せよぉ…」
涙混じりに訴えるが、その声は虚しく相手にされていない。そして、在らぬことに彼のその悲鳴さえも彼らにとって猥褻な感情を増幅させるだけのものだった。
エンヴィーは構わず、左手でエドワードの秘められた場所を探究した。
「ヒィ!?」
触れられたくない場所に彼の指が到達したのだ。漏らしたくなかったが、勝手にエドワードの口唇から悲鳴が漏れる。誰も触れたことがなく、それに頑なに守ってきた場所なのだ。そこは秘密の花園。
「ほーら、やっぱりね。その内、気持ち良くなるからさ…」
濡れた粘液がエンヴィーの指に絡み付いてきた。何度もその場所を指の腹で嬲って、その最奥の場所へと二本の指を挿入させた。
「 ぁ あ…っ、いやぁ…」
ガクガクと腰に力が入らず、膝が折れて床にしゃがみ込みそうになる身体を背後の男に支えられる形になっていた。
どうすることもできず、エドワードは嗚咽を漏らし始めた。内部を掻き回される屈辱とこれまで味わったことがない感覚に彼の優秀な頭脳は正気を失っていた。
「将軍達、俺の言った通りだ! この身体、膣が存在しますよ」
咥え煙草のまま、上官に対して横柄な態度で言葉を吐き出している。
「ウッ…」
そう言って、前ぶれもなくエドワードの下肢から手を引き抜き、その左指に絡みついた白銀に輝く粘液を見せ付けた。エドワードは顔を背けてぐっと口唇を噛み、瞑目した。
彼にとってこれ以上の屈辱はなかった。意識を飛ばしたかった。これが夢で在ればと何度も思った。
そして、彼の朦朧とした視界にあの姿が掠めた。黒髪…その憎たらしい笑み。その蒼く広い背中。焔のように燃え上がる黒い瞳。どん底状態でも己の野望と希望を貫こうとするその意志。
この場にいるはずのない男の姿を追ってしまった。その男に助けを呼びたいと思ったのではない。そんな間柄ではなかった。唯、信頼を寄せ、今の飼い戌状態の自分らと同じ境遇にいる彼を慕ったのだ。否、同類同士哀れんでいるとエドワードは勘違いしていた。
エドワードは「大佐…」と、口唇を動かした。勿論、声は発せられなかったが。
「そうかね! それは実に面白い。場所を移そう。司令部内の第二研究室に連れて行きたまえ」
「そうだな。此処はまずい。あそこならば、じっくりと…くっくっ…」
親父達が鼻の下を伸ばして、勝手に次の段取りを決めていた。そんな声が遠くで聴こえていた。精神的なダメージを受けたエドワードにエンヴィーは更なる追い討ちを掛けた。
「おチビさん、良かったね。親父達から存分に可愛がってもらいな! 綺麗な身体だからね。本当に憎たらしいほど綺麗な身体だからね! 俺の目の前で犯してもらいなよ。あ~っと、まぁ……良いや」
「………」
エンヴィーは背後の殺気に気づき、途中で話を止めた。何者かの気配を感じたのだろう。だが、彼の表情は含みのある笑みを作っていた。
エドワードの憔悴しきった瞳がゆっくりと閉じられた。それから身体が急に緩和し、激しく拒絶していた男に身体を任せるという失態を犯した。
エンヴィーが気を抜いたエドワードの鳩尾に一発鉄拳を食らわしたのだ。鈍く重い音がエドワードの耳に届き、身体を二つに折り曲げて崩れていった。
崩れゆく身体をハボックの身体に化けたエンヴィーが軽々と肩に担ぎ上げて、この中央図書館を後にした。






むぅーーー無反応。うちのサイトは甘いロイエドを目当てに来訪される方が多いようだ。
でもね。暗い~話があったからこそ糖度は倍増するとは思えない?
仲間探しをしている桜でした。

桜 美由紀 2007/7/19