人 間 兵 器
イシュバール殲滅戦において
投入された国家錬金術師は、各々の錬金技術を駆使し
殺人兵器として威力を発揮した。
それが故に「人間兵器」と…言われた。
今日、【人間兵器】と言われた。
判っていることだけど、面と向かって言われるのは…、やはりショックだった。
それも人間の持つ負の感情を剥き出しにしてだ。
連中はジロジロと、粘りつく視線でオレを上から下まで眺めている。
視線に含まれる感情には、これから訪れるであろう悪夢の始まりを意味していた。
そして、その扱いは、言葉を…、意思を…、持たない人形のように。
その意味するところは、彼らにとってオレは…。
そう、【人間兵器】だから。
オレは、この日、己の立場をよく理解していない事に気が付いた。
判っていたはずなのに…たりなかった。
何もかもが、遅かった…のである。理解した時には、すでに手遅れで…。
錬金術においての最大の理。「理解」「分解」「再構築」…。
そんな事ばかり追いかけていて、肝心な事を忘れていた。
己の立場を理解することを…。
その日、セントラルでは少々騒がしかった。
どっかの馬鹿が、テロ声明文を発表した為、軍司令部が騒然としていたから。
そして、声明の内容のとおり事件は起きてしまった。
テロ事件により、現在セントラルに滞在していた「鋼の錬金術師 エドワード・エルリック」と
「ロイ・マスタング大佐」直属の部下達、全ても、借り出される。
現場にて治安の維持と待機、または、実行犯の拘束を、という命を上層部から下された。
テロ事件により、軍司令部の混乱が考えられたが…。
今回のテロ事件は、事前にチェックされていた不穏分子であった為、幸い犠牲者は、
余りでずに、建物爆破などの器物破損が多く目だった。
首謀者の思案していた犯行内容、目的、実績は良い成果は上げられず、
追い詰められた犯人達も、最後の抵抗とばかりに爆薬での破壊を手段と、するしかなかった。
そんな事件だった。
案外犯人達もすぐに取り押さえられ拘束され、後は建物の撤去作業や
人命の救助など、といった仕事が残されていた。
エドも軍属として、その後処理を手伝う事と今回は、なったのである。
このような建物修復などや、崩壊阻止などの作業に関してはエドの錬金術の力は
大変重宝がられ、引く手あまたである。
しかし、いつものなじみの司令部の皆、以外の憲兵の人間や、その他の軍部の人間達と
必然的に、顔を合わせる事にもなるのだが。
その際に、エドの名を知らない者達が、興味の眼でみていた。
「こんな場所になぜ…子供が…」
「ほんとだ!」
「追い返せよ…!ここは、子供の来る場所じゃない!」
「危ないから、帰れ…」
「おい、ここは、邪魔だ。どっか安全なところへ行ってろ」
こんな、言葉がエドの周りで飛び回っていた。
しかし、彼が「鋼の錬金術師」である事を、知る者も少なくない…。
知っている者は口々に…。
「おい、やめろ!あれは、国家錬金術師だ!」
「まじかよ…。オレ敬語、使わなかったぜ!やば…」
「あ…、鋼の錬金術師だよ。あれは…」
「はあ…?最年少国家錬金術師か…、あれが…」
「人間兵器だ!」
彼を、好奇な眼で見ている。
人間ではない…、【あれ】。この表現の仕方…。まるで、物を見るような視線だ。
そんな、大人達が遠くで自分の事を言っていることなど構わずに、自分に与えられた仕事を
エドは、淡々と処理していく。
今更、こんなの…慣れている、軍の戌だからな…と、独りごち淡々と…作業を続ける。
それに、今回はアルフォンスも、借り出されたと、言うより兄について来ている。
いつものように。
「わりぃな…アル。お前までこんな手伝いさせちまって」
「僕の方が、こういう現場での撤去作業とかうってつけみたいだからね!
いいよ、さぁ、早く片付けちゃおうよ!兄さんネ。」
「お…う!そうだな、早く終わらせて…文献の続きでも研究しないとな」
アルフォンスは、本当はこんな大人ばかりの、それも軍人ばかりの場所に
兄1人身をおかせるのは、以前から反対だった。
だから、自分も参加できそうな事件や用事などは、進んでついて行く事にしている。
「オ ―― イ!…大将…!」
遠くから、エドを呼ぶ声が聞こえる。
ハボック少尉だ。
こんな場所だからか、知っている人間に合うと安心する。
今回、向かわされた現場の担当者は、ジャン・ハボック少尉である。
彼は部下達からの信頼も厚く、こういったテロ事件後の処理や現場での活動の際は
更なる力を発揮する人材でもある。
また、マスタング大佐の信頼も厚く、今回の現場での配属に、まだ経験の浅いエドの補佐を
頼むと、大佐からの命を受けていた。
「少尉、どうしたんだよ!」
「あっ、アルもいるのか…ちょうど良かった。もう、そろそろ切り上げて司令部に戻れとさあ!」
「やったぁ…!終了かぁ…。良かったな アル!」
「おう…大将も、こんな現場での仕事は疲れただろ?」
「はは…、まぁ…ね」
エドは、はにかんだような笑顔をハボックに向けた。
その笑顔の奥に、燻る感情を見せることなく。
「まっ…兎に角、今日は上がりだよ!司令部に戻るぞ!」
「えー!マジかよ…このまま、帰っちゃだめなのかよ!」
「まぁ…な。多分、書類提出したら、OKだと思うけどな…」
「もう、…何でもかんでも、書類、書類ってさ…現場みりゃ…いいだろって!」
「まぁ、まぁ、兄さん…小言、言いたくなる気持ちも判るけど。それで、解放されるんでしょ」
「でも、アルは軍属じゃないから、この場で現地解散だ!」
「…そうなんですか…。兄さん 1人、軍司令部へ直行か……」
アルフォンスは、少々不安気な様子で兄を見た、1人で今から、軍司令部へと行かせる事に、
対しての不安からだ。
なぜか、胸騒ぎがする。
その胸騒ぎは…。
この後、的中する事になるのだが…、誰が予想できようか。
只、アルフォンスが感じていたのは、この現場内での兄の扱われようだ。
周囲の面識のない軍人達からの扱いは、余り気持ちの良いものではなかったから。
それは、本人、エド自身も感じている事だったが…。
「じゃ…アルは、宿に戻ってろよ!オレはその書類とやらを済ませたら、帰ってくるからさ!」
「う〜ん。仕方ないね…。大丈夫…兄さん」
「!? …。何、言ってんだよ!アルこれは、オレの仕事だからさあ…。その為の、銀時計だから
心配すんな…!早く、お前は帰ってろ。少尉、早く司令部に戻ろうぜ…」
「すまないなぁ…大将…じゃ、行くか。」
「ああ…。」
アルフォンスが、何を心配している事ぐらい判っている。
だが、それは「国家錬金術師」であるが故の為、そんな事判っていたから。
エドは、アルフォンスの心配を他所に、早くこの仕事を終わらせるために足を進めた。
軍司令部に戻ったエドは、自分の配属のトップであり、今回の現場での作業命令を下した
上司、『ロイ・マスタング大佐』の元に戻り、事後処理を仰ぐことになった。
戻ってきた軍司令部も、次々と現場に送られていた軍人達が戻ってきて、その後の処理へと
慌しく動いていた。
「すまなかったな。鋼の、現場は大変だったろう…」
「まぁ…なっ。でも、あんま犠牲者とかは出なかったみたいだけど…。建物の爆破が目立ったね!」
「うむー。そうだな…君には、余りこんな、現場に行かせたくないのだが…すまない。上層部がね…
何かと、君をかっていてね」
「まぁ、得意分野ではあるけど……。なぁんとなく…ね、見せ者…ぽかった…」
「そうか…。しかし、判っているだろ」
ロイは現場に行って、少しばかり薄汚れた彼の頬を労わる様に、そっと触れてきた。
その触れられた手を、エドの生身の左手が、温かさを味わうように触れて返す。
あの現場にいた人間達と違って温かさが、感じられた。自分を1人の人間として扱い、その上、エドの目的を
知るロイに、自嘲気味に微笑んだ。
「…うん。判ってる…」
「では、書類の方を書いて提出したら、本日の仕事は終了だ。2階会議室を使うといい。」
「あ…サンキュー。じゃぁな…、さっさと提出して帰るぜ。オレは…、大佐は今日は残業だな!」
エドは、からかうように言う。
その時の笑顔は、その後の訪れることなど計り知れず…。
エドらしい光に、希望に満ちた笑顔だった。
「まぁ…な。しかし、そんなに今日は遅くならないだろう…」
「せいぜい、頑張ってな!」
「終わったら…食事でも、どうかね。」
ロイは、エドの黄金色に輝く長い金髪を結った三つ編に触れ、口付ける。
現場の埃に、少々傷んだ感じがする長い金髪を愛しむように、そっと…。
だが、そんな色っぽい誘いに、見向きもせずエドは。
「えっ…今日は、オレ帰る。アルが待ってるからさ…。なんか、アイツ心配そうだったからな!」
「残念だねー!釣れないね、君も…」
ロイは、するっと手から離れていく黄金の髪と、彼の後姿を残念そうに見つめていた。
なぜか、胸騒ぎがする。
アルフォンス同様にエドのその後姿に。
だから、今日は一緒に、と思ったのだが、気の廻しすぎだったのか。それとも…!?
全ては後の祭りである。
これは予兆だったのだ。
シックスセンス、第六感。エドを愛する二人の。
to be continued
連載始めました…のんびりですが、お付き合い下さい。
次回から、内容は非常に痛い&ダークになります。
注意事項:次回から暴力・非人道的な場面が多々含まれます。
それでも、OKという方どうぞついてきて下さい。
しかし、まだまだ初心者の駄文なので…どうでしょうか?