人 間 兵 器 act.21
その晩、ロイの部屋でのひと時。
アルフォンスは、眠れない夜をロイから借りた本を読みながら、長い夜をリビングで
過ごしている。
本日の深夜は、久しぶりに安心して過ごせるだろう。
エドは、ロイの寝室で窓際から見える街並みをぼんやりと眺めていた。
そこへ、入浴をすませたロイが現れる。
彼は、そっと窓辺のエドに近づき優しく肩を抱き寄せて胸に抱きとめる。
エドは、そんなロイの唐突な行為に慌ててしまう。
「え、何、どうしたんだよー」
ロイは抱き寄せる腕に力を込めて、視線をエドの金色の瞳に合わせる。
「すまなかった…。君に、辛いことをさせてしまった…」
「えっ……!?」
ロイらしくない言葉に耳を疑ってしまった。この男のいつもの自信満々な不敵な笑みは。
どこへやら…。
だが、ロイの胸の内には…、深く思う事が。
実際こうしてエドから笑顔が返ってくるとは、限らなかったのだから。
ハボックが言うようにこわれてしまうかもしれない…、と。
本当に賭けに等しかった。
それを思うとロイの胸は締め付けられてしまう。
そんなロイの心中を察してエドは、ロイの広い背中に腕を回す。
確かに、あの時は信頼していた人に、こんな仕打ちをされるとは、と思ったが。
今の澄み切った金色の瞳で思い返せばロイの表情は、決して冷酷な顔ではなかった。
どちらかと言えば、彼も苦痛に歪んだ辛い表情をしていたから。
だから…、痛いほど彼の気持ちがわかる。
そして、ゆっくりと時間をかけて自分の事を見守ってくれていた事もわかるから。
「ロイ、ありがとう。心配しなくていいよ!オレは、ちゃんと、ここにいる」
「だが…」
「結果OKだよ。オレは、鍵を開けられたんだから。これで、前に進める」
「エドワード」
彼からの明るい言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。これで、ロイ自身にもやっと安息が訪れる。
そう思うと…。
エドの頤をそっと上に向かせて彼の濡れた口唇にロイは自分の唇を寄せてみる。
だが、彼の身体はびくりと跳ね上がり、驚きを隠せない。
それは、仕方がない。
あの事件以来、エドの身体を性的意味合いを込めて抱きしめた事も、口付けたことも
なかった。
ロイの背中に回されていた両腕が機械鎧を含めてガタガタと震えているのがわかるが、
ロイは、止めることなくエドの唇を優しく吸い上げる。
心臓が高鳴り、エドの表情に苦悩の色が浮かぶ。
ロイは彼の唇を更に吸い上げ、甘噛みする。ガタガタと凍りつくように震えていた
エドの身体だったが。
どこかで何かが、目醒めそうなのだが。
「あ、あっ……」
儚い小さな呻き声を漏らしたエドは、自分でも驚いて強く身を引いてしまった。
離れる瞬間、重なった唇が濡れた音をたて、静寂に満ちている部屋に響く。
ロイの顔を見上げることができずに小さく震えながら俯いてしまっているエドに、そっと…。
「すまない…。エド、まだ、早すぎたな…」
彼の優しい気遣いがわかる。
この1ヵ月、ずっーと一緒にいたのに彼が自分に性的行為で触れることを
極力避けているのは、わかっていた。
たぶん…、触れられたら本当にこわれる、と自分でも思っていたから。
あの時は…。
だけど…今は…。
エドは、俯いたままフルフルと首を振る。
その様子にクスリと含み笑いが頭上から聞こえる。
「エド、無理しなくて良いんだよ」
更に、首を振り続けるエドにロイは、彼の瞳を上に向かせる。
その瞳は涙目のように潤み、頬はうっすらと薄桃色に上気していた。だが、それでも視線を
ロイと合わせようとしなかった。
いや、できずにぼそりと震えるように小さな声で。
「…そんなん、じゃない。けど…」
それでも、瞳を合わせようとしないエドに、ロイは悪戯な表情でエドの耳元に告げる。
「抱いてやろうか。エド」
「あ、あー、ロイっそんな…」
ロイの胸の中に納まっている身体が緊張に震えるのがわかる。
本当に、いいのだ。
エドの身体が欲しいのではないから。
それに、急がなくてよいのだから。
「ほら。エド、いいんだよ。こうやって、君が私に身体を任せてくれるだけで十分だよ」
その言葉に、ほっとするのが手に取るようにわかる。
身体の傷もまだ、治りきっていないのに自分がしようとする行為は、彼に負担がかかる事は
必至だから。
確かに、彼を抱きたいと思うのだが。
今の状態のエドを抱いても苦痛ばかりを与えてしまうだろう、と色々考えていると。
エドの顔が、急に近づき恥ずかしそうにロイを見つめている。
「あ、アンタいつも、ベッド使ってないだろう…」
「ああ、そうだね。私は、ほら軍人だしどこでも寝れるからね。それに、うちのソファーは上等だから」
「い、いっしょに…寝てやる。それだったら…、大丈夫だから」
彼らしい言葉に、ロイの顔がほころぶ。
「ありがとう、エド…。じゃぁー、ついでにキスまでは許してくれるかね」
にっこりと彼にお伺いをたてるロイの表情に唖然としてまう。
仕方がないという表情で彼は、返すしかないのだが。
久しぶり一緒のベッドで眠る2人。
ロイの胸で少し緊張はしているが、小さく丸くなって横たわるエド。
そんな彼の様子を優しく見つめながら。
「エド、本当に大丈夫なのかい。無理しなくていいのだよ」
「い、いいって!オレが一緒に寝たいていってんだから、いいんだよ!」
「キスしてもいいかい…エド」
一時の躊躇いを見せるが。
「 ――― うん…」
彼の返事を嬉しそうに微笑み返して、ロイは彼の薄桃色の頬を両手で優しく挟み込み唇を寄せる。
始めは、啄ばむように、そして、徐々に深く。
濡れた音を部屋に響かせながら、優しくエドの口腔を吸い上げていく。
エドの強張っていた身体も次第に、ロイの身体に身を任せる始める。
絡み合う舌のように、2人の両手が指と、指を絡ませて愛撫しあう。
長い間。
2人は、口付けだけの愛撫で溺れる。
今は、それで満足だったが…。ロイは、理性を抑えることはできるのだろうか。
いや…、それは…。
ロイの唇は、エドの首筋を辿り始める。それに驚き、掠れた声を漏れる。
「あっ…ロイ、あ」
首筋から、鎖骨へと徐々に降りてくる愛撫にエドの身体は、不安と、緊張が入り混じってきて
心臓が早鐘を打ち始め、肺が荒く呼吸をする。
胸が、痛い。
そして、身体が熱い。
「う、っん…」
エドから熱い吐息とも、苦痛を我慢しているとも聞き取れる声が上擦っている。
恐怖を与えないようにと最良の手管でエドの身体を愛撫していく。
片時も、絡み合った指を外す事はなかったが。
ふと、ロイが顔を上げて見れば必死に唇を噛み締めて、苦痛に顔を歪ませて耐えている
エドの顔が眼に入ってしまった。
あ、さっきは、自分は我慢するといった癖に、つい欲望のままに突き進んでいた自分がいた。
思わず、自分の顔を覆ってしまうロイ。
「はぁ、っはぁ…。ロイ…?」
鈍痛が走る胸を押さえながら、ロイが狼狽している表情を下から見つめる。
エド自身もできれば、身体で確かめたかったけれど。
心では、許していても身体は、さぁ、すぐにとは、着いてこなくて。
だけど…時間をかければ、ロイと身体でも確かめ合えるとわかったから。
「あっ、あ…、ロイ。オレ、もうちょっと…したら…大丈夫と思うから」
たどたどしく伝えるエドの様子に。
苦笑いを浮かべる。
「すまない、つい…。辛くはないかエド…。胸が痛むのだろう」
「あ、う〜ん。ちょっと……」
「すまない…。本当に…」
「あ、ロイの気持ち…凄くわかるからいいよー。だから、ちょっと待ってくれ…」
ロイは、自分の額をこつんとエドのうっすら湿っている額に合わせる。
あぁーこの子の魂が、この穢れなき魂を私は無理やりに、と思うと情けなくなってしまう。
決して欲望の捌け口にするのではない…、彼を、彼の底知れない魂を愛しているから。
だから…身体も繋ぎたかった。
「ロイ…?」
「もっと、君の身体が回復したら。続きをしてもいいかい。エド」
真剣な眼差しで、エドの瞳を見つめる。
その瞳から逸らすことなどできようか、それに…。
エド自身も、ロイと身体を繋ぎたいという思いはあるのだから。
「…うん…」
「ありがとう。エド…。さぁ、休もう。身体に障るよ」
確かに痛む、我慢できないほどではないのだが。
目まぐるしく一日が駆け巡っていったから。その上、先程までの激しい口付けでエドの頭は
ふわふわと浮かんでいる状態だった。
うとうとして来ているエドの頭を自分の胸に引き寄せて、背中を摩ってやる。
「うん。もう、眠るのも怖くないやっ……」
ロイの胸から、穏やかな呼吸が聞こえ始める。
きっと、明日の朝の目覚めは気分がよいだろう。
久しぶりに穏やかに眠るエドの寝顔を、飽きることなくロイは見続けていた。
それから、一週間後。
エドの身体も順調に回復した、ある日。
「ロイ、オレ…。明日、セントラルを出るよ!次の目的地が見つかった」
いつかは、そう行ってくるだろうと思っていた。
それを待っていたのかも知れない。
その言葉を…。
彼が、彼らが目指す目的の為に、旅は必要不可欠のものだから。
「もう、身体の調子はいいのかい?ノックスは、何と…」
へへっと、はにかんだ笑みを浮かべながら。
「うん、大体ね。まだ、肋骨はくっついてないけど…。無理しなければじきに接ぐだろうって」
「そうかい。それは、よかった。私にとって、君が元気に旅している姿が、心が落ち着くよ」
「あ、でな、今度はこの街に行ってみようと、アルと話しているだ」
「ほぉー。この街かね、この街に駐留している軍で私の知り合いがいる。何か、情報を集めて
くれるように私が、話してみよう」
「ホント!いつも、わりぃーな…」
ロイとエドのたわいもない話がリビングに広がる。
そして、所狭しとエドとアルフォンスが地図やら文献をもってきてロイの意見を
聞きいている。
本当に、穏やかで充実した日であった。
彼らの目指す未来の為の話が続けられる。
ロイもエドも、目指す道は違っていても思いは一緒であるから。
お互い【人間兵器】として、どう生きるか…。これは、長く結論のでない旅かもしれないが
2人の思いは一緒。
朝日が眩しい輝く朝。
エドにとって、何もかもが新しく始まるような朝、ここから、また始まる。
スタートラインにつく。
ロイの家の玄関先に向かうエド。
その背中を見送るロイ。
エドの背中には、ここ暫く見ていなかった金色の三つ編がきっちりと結われている。
いつものエドワード・エルリックの姿だ。
「じゃ…。ロイ、行って来るな!」
にっこりと笑いかけるエドに、ロイは彼の腕を強引に引き寄せ、胸に身体をおさめる。
しっかりと…。
そして…。
「エドワード、行っておいで。もし、辛くなったり苦しくなったら…、いつでも、ここへ
帰っておいで。決して独りではない!忘れてはいけないよ!」
大人しくロイの広い胸におさまり、背に腕を回す。
彼のエドを思う気持ちを自分の胸に刻みつけるようにしっかりと、しがみつく。
「うん…、ありがとう」
「そして、たまには羽を休めに来なさい!私のところへここは、いつでも空けておくから」
「うん…」
「そして、エド…。次は、最後まで抱くから…」
「///わかってる、もう、アンタってな…」
「いいじゃないか」
朝日に照らされる2人の笑顔を眩しい。
家の外からアルフォンスが兄を呼ぶ声が聞こえる。
「ほら、エド呼んでるよ。さぁ、行きなさい!」
「あ、うん…。色々、ありがとう。ロイ」
背中から腕を外す、少し寂しい気はしたが、また近いうちに逢えることができるから。
心配はいらない。
そろそろ、時間だ。
エドは、玄関の鍵をガチャっと開けて扉をひらく。
開かれた先には、眩しい光が燦々と輝いている。眩しさに、瞳を思わず細めてしまうが。
その先には、アルフォンスが手を振りながら待っている。
そして扉の先には、道はあるが、鍵を開けるのは自分自身。
道はあるけれども、自分で道は作っていくもの。
脚があるから、思いがあるから。
last end
完結しました!嬉しい…本当に書き終わるとは…途中挫折したりしたけど。
長い間、読んで頂いた皆さん本当に、有難うございます。
桜、初めての連載というわけで…、まさかこんなに長くなるとは思っていませんで…。
更新履歴みたら…5月の下旬からだった…すげぇ!(4ヵ月だよ)
やきもきされた、みなさん。すまんです。
ラスト(エロ)どうしょうか…と悩んだ結果このような(汗)…結果となってしまいました。
許して下さいませ☆
背景は、記念に最初に戻して見ました。この最終章のみですが。
とんでもなく、長くなって思い入れもある作品になってしまって…。
何か、感想など頂けると幸いです☆
それでは…また。
桜 美由紀 2005/9/28