ピョッたまご!?






(1)
「おぉぉーい! 大佐、なぁーてば」
勢いのある声色で呼び掛けているのは、昨日このセントラルに戻ってきたエドワードだ。しきりに男の背中を追って彼の周囲を纏わりついている。
彼、エドワードは18歳。
すっかり豆と言われていた体系を変化させ、美麗に成長した。しかし、まだ彼の希望する身長には程遠く、それをコンプレックスに想っている。一つ違いの弟に身長を越されていたから尚更らしい。
だが、容姿は麗しかった。類稀な容貌はあのいたいけな容姿を凌駕させ、もっと鮮麗にそして、白い肌は透けるように滑らかで美しくなった。加えて、その肢体から色っぽく甘い香りが漂うようだ。長い絹糸のような金髪の髪が顔に掛かり、琥珀色の瞳が上目遣いで見つめてきたら妖艶な淑女に見える。彼が女性ならば、世の男達が欲情と羨望の眼差しで見つめること間違いないだろう。だが、れっきとした青年。
変わっていないのはその口の悪さ。そればかりは成長していなかった。
実弟のアルフォンスは17歳。
鋼鉄の鎧姿で有名な彼は兄と一緒に念願の肉体を取り戻した彼。誰もが彼の生身の身体と成長した姿に驚いたものだ。その姿は麦色に輝く短髪、聡明な金色の瞳。兄に比べ背格好は大きく凛々しい。若き青年とは彼のことを示すだろう。
年頃の女性ならば、誰もが振り返る容姿だ。
二人の眩しい金髪と端正な顔が妙に目立つ。むさ苦しい男所帯の軍司令部に可愛らしい金色のヒヨコが二羽迷い込んでいるようだ。


彼らは過酷な旅から解放されて、漸く己の肉体を取り戻していた。彼らが送った波乱万丈の数年間で、このアメストリス国は季節を彩るように変化していた。
嵐の時節もあれば、穏やかな春のような麗らかな時期もあった。
今は国も悪の権現達によって画策されていたアメストリス国消滅という悪魔の所業から解放されて、漸く少しずつではあるが復興の兆しを見せていた。
国家を根底から全て総入れ替えしているのだ。
今迄、軍事国家と名高いこの国は変貌の時を迎えて大忙しなのだ。よって、ロイ・マスタングが所属している司令部も大忙し。
そんな中に一際、笑顔を称えて扉を開けたのがエドワードなのだ。
その後方には「よしなよ! 兄さん…」と、口には出さないがアルフォンスの手首が悲しく兄の背に向かって振られていた。
そんな弟に振り返りもせず、にっこりと微笑んでエドワードは一世一代の大告白をしていた。
「ロイ・マスタング! オレ、アンタの子供が産みたい!」
胸を張って彼は堂々と宣言したのだ。それも名指しで、相手の男をビシッと指差していた。
男らしく決闘を申し込むような鼻息だが、ほんのり頬が桜色に色付いていた。
しかし、司令部は――。
「―――」
反論もなければ、大声疾呼も勿論聴こえない。
唯、この司令部に配属され只今仕事の真っ只中の彼らはあんぐりと口を大きく開けていた。
勿論、指名された男の直下の部下達も右を見習えとばかりに茫然としていた。
肝心なご指名を受けた男も髪を振り乱して決済していた書類の一枚を掴んだまま、硬直していた。
声高々に両腕を腰に当て威風堂々と宣言している人物を彼らは目を丸くして見ていたのだ。
忙しさの為、この司令室は熱気が篭もりがちだ。それを緩和させるために開けられた窓から一陣の風が吹いてきた。
パタパタと真っ白なカーテンが風に靡いている。その音がスイッチの役目になり、硬直していた者達が一斉に活動し始めた。
何もなかったように彼らは振舞い出した。
「あ、ぁあ――今日は天気が良いなぁ!」
「そうだ! わ、はっはっは…」
突然何の変哲もない話題に花を咲かせ、こうして声を上げて大笑いしだす者もいた。完璧にエドワードは無視されたのだ。もしかしたら、存在自体を消されたような感じだ。そんな彼らの態度に腹を立て、もう一度エドワードは声を大にして宣下した。
「だ・か・ら…聴いてくれよ! オレは大佐の赤ちゃんが産みたいんだってば」
地団太を踏む子供のように、顔を真っ赤にしてエドワードは一人叫んだ。名指しで告白を受けている男はだらしなく口を大きく開いたままだ。
「―――」
「カシャン!?」
返事の変わりに激鉄の音が聴こえた。その音を聴いた途端、何やら険悪な雰囲気に司令部は包まれ始めた。
誰もが、冷たい汗を掻き始めた。
コツン、コツンと軍足が床を蹴る音に彼らは身体を強張らせた。決して、その拳銃の矛先が自分ではないとわかっているが、緊張が走っていた。その場から身動き出来ない状態にあるが、彼らは視線だけを動かして、ある人物を一点に見つめていた。
それは――。
勿論、エドワードから告白を受けた男。ロイ・マスタング大佐である。
「シャキン!!」
その音に条件反射して、ロイは思わず両手をホールドアップした。
「大佐、何かエドワード君にしましたか?」
まったく身に覚えのないことだけど、ホークアイの怒気を孕んだ声色に流石のロイも怯えてしまう。まして、その彼女の顔を見ることなど出来ようはずもない。
ロイはひたすら自分のデスクに広がる書類を見つめていた。しかし、それが気に食わないのだろう。愛銃の先が彼の顎を上げさせた。
その冷たい感触に更に身を縮み上げたロイはやっと涼しい無表情の彼女に視線を合わせた。
「わ、私は何もしていないよ! 神に誓おう……」






つづく