ピョッたまご!?






(2)
あの時の心境を思い返せば――本当に私の頭には何も湧いていなかった。
どうして鋼の、が私に性交渉を強請ってくるのか不思議でならない。彼は――男のはずだ。
が、しかし……此処で少し突っ込むならば子供が欲しいイコール性交渉と考えてしまうあたり、彼の腐った頭は若い女性とSEXすることばかりを考えているエロおやじと一緒だ。
そんな助平な思惑が軍部の連中にはお見通しなのか、周囲の視線は冷め切っていた。
咳払いし、その場の雰囲気から逃れようとすれば尚更疑いの眼を向けられた。
「ホントですか? 大佐、エドの奴に良からぬことを吹き込んだんでしょう」
「そうですよ。そうじゃないと、あのエドワード君が大佐の子供を産みたいだなんて言ってくる訳ないじゃないですか!」
「「そうだ! そうだ!」」
本当に身に覚えのない事実にロイは渋い顔で耳を塞いでいた。
それに周囲は何か勘違いしている。彼が男だということをすっかり忘れているようだ。
いかに女性に手が早いと同僚から陰口を叩かれようとも少年にまで手を出すことはない。その少年が美少年で魅惑的なフェロモンを出していても絶対にありえない。
断じてない! 
彼に対しての感情は唯の上官と下官。男と男。そんな不毛な関係なのに一体、どうしたら子供が産まれるのだ。いやいや、それ以前の問題だ。男女の関係になる訳がない。
彼は男なのだから!
こちらの方が迷惑しているのだと、いつもは素知らぬ顔をして惚けている彼の顔つきが刻々と変化し出し、ついには激しい音を立てて立ち上がり吼えた。
「お前たち、うるさいぞ! 私にそっちの趣味はない。いい加減にしたまえ。それに――鋼の、? ん…!?」
憤激した声を高々に上げ、一世一代の大告白を成し遂げたエドワードに向かってビシッと指を刺したが、ぴゅーぅとその指は一気に下降した。
思い切りロイは拍子抜けしてしまう。
此処で一発、彼を厳しく叱ってやろうと思っていたのに……。
ほんのりと頬を染め上げていたはずのエドワードはロイに指を指された途端、瞬間湯沸かし器のように真っ赤になったかと思うと、急激に沈静化し真っ青になった。
「ぅうう、気持ち悪ぃぃぃ〜」
と、今までの元気はどこへやら。金色の髪をなびかせて卒倒した。
「どうしたの? エドワード君…」
ロイはこの指した指が悪かったのかと、マジマジと人差し指を凝視している。そんなアホを相手にはしていられないとばかりにホークアイの愛銃がロイの額に照準を合わせられれば、流石のロイも震え上がりホールドアップ。
しかし、周囲はそんな痴話喧嘩を相手にしている余裕はなかった。先程まで雄雄しく告白をやり遂げたエドワードがぶっ倒れているのだ。
健康優良児と名高い彼が……一体何の病に掛かっているのだろうか。そもそも上官の子供を産みたい等と言って来るあたり既に病気だ。
それも末期の病状だ。
バタバタと卒倒する彼の傍に近づき、彼らは心配げな表情を見合わせていた。けれども直ぐ傍らにいるアルフォンスの態度は冷静なものだった。
何やら観察でもするようにエドワードの真っ青な顔を見ていた。淡々とした動作でブランと垂れ落ちた右腕を掴み、脈を測り始めた。それからふぅ〜んと、納得したように頷いていた。
「あー始まったみたいですね」
アルフォンスは淡々と独り言でも呟くように声を出した。けれども彼の口からぼやかれる言動はどれも聞き捨てならない物ばかりだ。
「!?」
「オイ! 一体どういうことなんだ。エドは倒れちまったじゃないか? こんなまったりしている場合じゃないだろう」
ハボックはアルフォンスに向かって声を荒げ、倒れたエドワードを抱え上げようとするが、これまたのんびりとした声音が返ってきた。
「う〜ん、そうなんですよね。どうしようかな…」
急かされても焦る気配がないアルフォンスに些か傍らに集結した連中も不快感を感じる。
「そうよ。アルフォンス君、尋常じゃないわ。大体、大佐の子供を産みたいだなんて正気ではないわ!」
ホークアイが声にした固有名詞にアルフォンスのこめかみがぴくりと反応した。
「まぁ〜〜確かに、それについては僕も不本意ですけどね」
と、悠長に口は回っているけれどもアルフォンスの殺意ある視線はロイに向けられていた。にっこりと笑っている顔の裏側には般若の面が用意されているのだ。
しかし、敵視されているロイにはまったく見覚えのないことばかりなのだ。
反論したくてもあまりのことで言葉にならず、ロイは口をパクパク動かしていた。
「アルフォンス君、どういうことなの? 取り合えず、大佐はこの通り捕獲しているわ。今のところは、危険性はないと思って説明して頂戴!」
気づけば羽交い絞めされているロイがいた。こめかみに青筋が浮き上がった彼女に逆らえるはずもなくロイは大人しく捕獲されていたが、ロイとてこの現状には不満がありすぎる。
「私は何も知らんぞ! 男である鋼の、に子供など産めるものか。それに私のぴぃ―が勃つものか! 私のナニは女性限定で使用されるのだ。それも淑女に限る!」
壊れかかったロイは口を滑らした。
要は、男と寝る趣味は毛頭ないと言いたいのだろう。
「…………」
露骨な表現に一同、唖然。
胸を張って堂々と言い切るロイに部下達の冷めた視線が集中した。ホークアイ、ハボック、ブレダ…他、数名の頭の中でロイに対して色んな罵声が飛び交っていたが、此処で彼にそれを浴びせても意味がないとわかっている。ホークアイが全員を代表して羽交い絞めしていた腕が突如、関節技を極めるために動き出した。
無論、司令部内にロイの雄叫びが上がった。
だが、誰一人としてロイを気遣うものはいない。
「さあ、こんな無能のことは良いからアルフォンス君、まずはエドワード君を医務室に連れて行きましょう。それからちゃんと説明して頂戴!」
アルフォンスはケケケッと痛めつけられるロイを見て姑息笑っていたが、ホークアイの厳しい顔つきには恐れを感じたようで、彼女の意見をすんなり受け入れた。
「――では……すみません。仮眠室――お借りできますか?」
「ええ、勿論よ。あ、そうだわ。ハボック少尉、エドワード君を仮眠室まで運んで下さい」
「了解です!」
ハボックが卒倒するエドワードの身体に触れた途端、険しい表情をアルフォンスに向けた。
「アル、すっごい熱だぞ! 医者、呼ばないと…」
「まぁ……ホントだわ。軍医を直ぐに呼びましょう」
抱え上げたエドワードの身体は高熱を出し、苦しそうに金色の髪を乱れさせていた。
「ぅ…ん、ぁ、熱い」
はふはふと苦しそうに息をするエドワードは無意識に胸元を緩めようとシャツのボタンを外していた。汗に濡れた肌がハボックの眼前で露になると、年甲斐もなく彼は顔を赤らめた。
「ち、ちょっと……大将って何か色っぽくないですか?」
まるで女の子でも抱えるような手つきに自然と変わっていた。
「ハボ!? おまえまで妙なこと考えてないか? どれ…」
ブレダが横抱きに抱え上げられたエドワードの様子を見てみると、やはり――。
「……ぅぅぅぅ、確かに! おまえの気持ちがよくわかる。ちょっと変わりたいな」
これまたブレダが頬を高揚させ、羨ましそうな目つきでハボックを見ていた。男達の鼻の下を伸ばしたアホ面にホークアイの愛銃は唸りだした。
「そんなことは良いから早くエドワード君を連れて行きなさい!」
怒号する声音にビクッと身体を怖がらせて彼らはエドワードを仮眠室に連れ出そうとした。その際に彼の病状が気になったホークアイも心配げに覗き込んだが。
「……!? アルフォンス君、――とっても言い辛いことだけど、エドワード君は男の子よね。何だか、女性のようだわ…」
エドワードの容態を気遣いながらも、彼女もまた怪訝そうな表情をしていた。それに対して実弟であるアルフォンスは何やら著書を取り出し読み耽っていた。
「? アルフォンス君、どうしたの?」
パラパラとページを捲っている彼はハッと顔を上げて、いつものようににこりと微笑んだ。
「いえいえ、大丈夫ですよ。ちゃんとお話しますから。ぇぇっと、ふむふむ……本当に父さんの書いた伝承通りだ」
兄の容態はさほど気にならないようだ。こともあろうか感心するように瞳を輝かせ、パタリと文献を閉じてにやりと顔を上げた。
「ホークアイ中尉、心配はいりませんよ。こうなること想定内です。ですが――解せない事があります。どうして兄さんは大佐を選んだんだろう……」
アルフォンスの表情は複雑という文字を露にしていた。
「ち、ちょっと此方はさっぱり意味がわからないわ」
「ちゃんと説明しますから。一つ注文をつけるならば――」
ギラッと殺意的視線がロイに向けられた。アルフォンスは捕獲されているロイを蔑んだように見て一言付け加えた。
「兄さんが何故、大佐を選んだかはわかりませんが。僕は絶対に認めません。兄さんの相手は――いえ、ホーエンハイム家の跡継ぎは僕がちゃんと決めますからご心配なく!!」
まるで宣戦布告された気分だ。
けれども指名されたロイにはさっぱり意味のわからないことばかり。ロイだけではない。周囲も首を傾けていたのだ。

一体何が起きるのだ。そんな嵐の気配






つづく