ピョッたまご!?






(3)
それから――。
三日。
エドワードは司令部の仮眠室を借り切っていた。彼の高熱は下がるどころか上がる一方だ。苦しそうに熱い吐息を吐き出して、茹だるような汗を滴らせていた。
心配する軍部の仲間達は仕事もそっちのけで仮眠室に入り浸っていた。しかし、そんな彼らの真の目的は別のところにあった。
彼は――エドワードはとにかく可愛いのだ。
病人を目の前にして不届きだと思われるが、熱に魘されたエドワードは艶かしく妖艶なのだ。
ごくりと、生唾を飲んでしまう。
ホークアイがそんな彼らを叱咤したのは言うまでもない。それに何度となくのんびり構えている弟にホークアイが医者に診せるように言い聞かせたが。
「ぁ〜あ、大丈夫ですから。多分、三、四日したら熱も引くと思います。安心して下さい」
と、笑っているのだ。
笑える状態ではないだろう。
けれども頑として受け付けないアルフォンスに半ば諦めモードになっていた。
慌しかったおかげでエドワードの一代告白も影を薄くしていた。その理由を追究しようとしていたこともすっかり忘れられていたのだ。
まんじりとした日々が続いていたが、その彼が漸く長い眠りから目覚めた。


「兄さん、具合どう?」
ぼんやりと虚ろな瞳が開いた。琥珀色の瞳は何やら探し物をしているようだ。
「ぅう、ん〜」
と、何とも表現しがたい声音と共に眠たげな眼を両手で擦っている。それからぐぐっと手足を伸ばしてエドワードは爽快に目覚めた。
「ふわぁ〜よく寝た! んぅ? どうしたんだ。みんな雁首そろえてさ」
「――!!」
ゴソゴソと起き上がるエドワードに周囲の視線は釘付けになっていた。
けれどもそんな視線に無頓着な金色の兄弟。只今の彼らには独自の世界観があるようだ。
「アル〜! オレ、これで大佐の赤ちゃん産めるんだよな」
鈴の音を転がした弾んだ声音がギャラリーの脳内を強く刺激した。
「??」
再発した――。
やっぱり重い病に掛かっているのだ。やっと熱も引いて意識も回復したのに、治癒していなかったのだ。
ちらちらと寝起きのエドワードを見つめながらも仮眠室に集まった彼らは一斉に頭を抱え込んだ。
エドワードと云えば、にこにこと満面の笑顔でベッドから身を乗り出してアルフォンスに喜びを伝えているようだ。
彼の微笑ましい表情につられて喜びを分かち合いたいと思う――が、そんなことは絶対ありえない。
その点に関しては流石のアルフォンスも同意見で苦笑を浮かべているようだ。
彼にも解せないことが一つあるのだ。
「まぁね。ちょうど倒れた日が満月だったからね。あの日から始まって……ちょうど三日目。父さんが残した伝承通りだよ。でもね…兄さん、何で大佐を選ぶんだよぉ〜僕はどうしても許せないよぉ〜」
半泣きのアルフォンスがいた。
周囲もうんうんと小刻みに頷いている。
今は熱病に侵されて周りが見えていない状態なのだろうか……。
それとも――。
エドワードの返答に耳を塞ぎたくなった。
「うん! オレ、大佐の赤ちゃんが産みたいんだ。ごめんな……アル、それだけは譲れないよ」
エドワードはにこにこと笑って、項垂れるアルフォンスの頭をヨシヨシと撫でていた。
愕然とした。
アルフォンスは涙目になって病魔に侵されている兄の肩を掴み揺さぶっていた。
がくがくと病み上がり身体をむやみに揺すられても、エドワードは笑っているのだ。
それも極上の微笑で……。余程、大佐の子供が産めることが嬉しいのだろうか?
まったくもって奇怪だ。
「本当に大佐が良いの? 他の人は駄目なの? だってね。ホーエンハイム家の跡取りなんだよ!」
二人の世界観にまったく入り込めない。と、それ以上にエドワードの言動が信じられない。肝心のアルフォンスも病に侵されているようだ。
誰も二人の世界に踏み入ることが出来ない。
仮眠室には凍りついた大人が数名、佇んでいた。言葉すら失っていた。
けれどもその空気を打破する者がいた。
「ちょっと待て!」
あのホークアイ中尉でさえ、この現状に口を挟むことが出来ない。
それなのに――この男は大声疾呼したのだ。
少年から告白をされたアメストリス国一、不毛な男。アメストリス国軍大佐 ロイ・マスタング。






つづく