ピョッたまご!?
(4)
司令部は繁盛期。
それは司令部に勤務する誰もがわかっていること。
それなのに――主戦力である人間が一人欠け、二人欠けと頻繁にいなくなるのだ。
まったくもってけしからんことである。他の部下達の手前もあり司令官が憤怒する場面もある。が、何故いなくなるのか、ロイにはその理由がわかっていた。
あまり表沙汰に出来ることではない。
自分も卒倒したエドワードの容態が心配で何度か仮眠室を見舞った。
だが、司令部から消えた彼らは自分の見舞い回数を遥かに上回るのだ。
度を越えているのだ!
始めはちらりと横目で見ていただけだった。だが、次第にコソコソと司令部を抜ける彼らの鼻の下が伸びているのが気に入らなくなってきた。
仮にも――認めてはいないが。断じてその気もない。
けれども告白された相手に対して彼らは良からぬ感情を湧かしているように見えるのだ。
その気は決してなくても腹立たしくなってくる。
いい加減に仕事をして貰わねばならない。こんな時に限って頼みの綱であるホークアイ中尉もいないのだ。
ロイはチッと舌打ちをして、彼らがこうして入り浸っている場所へと赴いたのだ。
彼の手が仮眠室の扉を開こうとした。
しっかり内容までは把握できないが、どうやらエドワードの意識が回復していることに気づいた。
ほっと安堵する自分がいた。
それからピクピクと過敏な両耳が仮眠室内の会話を拾ってしまった。
そこからだ。
三日前の出来事がフラッシュバックし始めた。
此処で自分がはっきりと拒絶、拒否しなければ間違った方向に進む。そう思ったロイは扉を激しく開けて仮眠室に乱入したのだ。
けれども彼は口火を切っただけの存在であり、問題視されている張本人。
ありがたいとばかりにホークアイ中尉の命によってロイの身柄はノッポ軍団ハボックとファルマンの手によって捕獲された。
「オイ、何をするのだ!! 私は何も悪いことはしておらん。鋼の、が可笑しいのだ!」
ギャーギャーとうるさく吼えるロイに対して彼らは厳しい態度をとっていた。
エドワードが妙なことを口走っているのは、この男の存在の所為だと言わん張りだ。
流石の騒がしさにホーエンハイム家の世界に浸っていた二人はびっくりしたように振り向いた。
ある人物の姿が視界に入った途端、アルフォンスの顔つきは豹変した。
「兄さん! 見なくて良いよ」
自分の身体を壁にしてエドワードの視界をアルフォンスは必死に阻んだ。
困ったことに兄は金色の瞳を輝かせてロイの姿を探しているのだ。
「アル、邪魔だぞ! オレ、大佐にちゃんと話さないといけないしさ。どけよ」
「いいや! 僕は絶対に認めない。大佐は見なくて良いの!」
「も〜う!!」
膨れっ面になりながらアルフォンスの隙を突いてエドワードはひょっこりと顔を現した。
「「!?」」
エドワードは倒れて以来始めてロイの顔を見た。ロイとて同じことなのだが…。
この光景はまるで卵から孵った雛が初めて親鳥と対面したようだ。ロイは驚愕のあまり絶句していたが、エドワードは相変わらず病魔に侵されていた。
「大佐! ちゃんと大佐の赤ちゃんが産める身体になったから安心してくれよな」
「「??」」
ロイは後方の壁に向かって後進してしまう。
そんなに朗らか且つ軽快に言われると、反論のしようがなかったからだ。
扉を開けた勢いはどこへやらだ。
「大佐、そんなことじゃいけませんぜ! ちゃんと断ってやって下さい。それが大人という者ですよ」
ノッポ軍団がロイを諭し始め、彼の周囲を囲い黙って頷いている。ジリジリとロイは追い詰められている。
全ての責任はロイにあると言わんばかりの皆の視線が痛い。
奇病を罹っているエドワードを、ロイを除いて皆が嘆いているのだ。
ところがロイは彼らに迫られながらも意識は違うところに飛んでいた。
「ぉ ぉ ぉ……おい。あれは鋼の、なのか?」
人差し指はわなわなと震えていた。その指差す先には――。
借り物の真っ白なカッターシャツが左肩からずり落ちて、胸元を大きく肌蹴た淫らな姿のエドワードがいた。
ロイの喉仏がごくりと上下した。
長い金髪は肩からサラサラと肌蹴た白い肌を滑って、ほんのり湿っぽい首筋はロイを手招きでもするように色香を発散。
以前から端整な顔立ちだと思っていたが、それに増して濡れた瞳で妖艶に見つめられている。
「……ッ、大佐? 気を確かに。我々ももっか煩悶中なのですよ」
ブレダが両腕を組んでロイを此方の世界に呼び戻した。
「しかし――あれでは…まるで、じょ……せ、フンがッ――」
そこまで声にしてハボックに口を塞がれた。
「それを言っちゃ最後です。大佐は大将に子供を産ませるつもりですか」
わっはっはっ……と乾いた笑い声が仮眠室に響いた。
エドワードと言えば、そんな色気を周囲に大判振る舞いしているとは露知らず。
ベッドから降りて駆け出そうとしている。それを寸でのところで制しているアルフォンスの顔は不機嫌だ。
「兄さん! もう大人しくしてよ。まだ色々確認しなくちゃいけないこともあるんだからね。もうお婿さん候補は後回しだって!」
大声で叱りつけるアルフォンスの意味深な会話に一同、唖然。
この兄弟――変。
これではいつまで経っても埒が明かない。身動き一つできない。
そこに絶妙なタイミングで銃声が鳴り響いた。
思わず緊張が走る。
約一名、宙に浮いていた人物が漸く本来の姿を現した。流石の彼女もこの現状がうまく飲み込めず、固まっていたのだ。
「男性陣! 両手を頭の上で組み、回れ右!」
銃で威嚇され、凝視していたエドワードの猥らな肢体から眼を離された。
銃を持った彼女には誰も意義を唱えることは出来ない。
「アルフォンス君! ちゃんと説明して頂戴。約束を忘れたはずではないでしょう」
彼女の威圧的な顔つきにアルフォンスも身を縮み上がらせた。
けれどもエドワードは未だにぽかんとしている。
それにはホークアイも咎める気さえなかった。何しろ彼はまったくの無意識の内に男達をその魅力的な色香で悩殺しているのだから。
半ば呆れながら、ホークアイはベッドのカーテンを引き三人だけの密室を作った。
「さあー、アルフォンス君!」
鬼神に勝る勢いで彼女に迫られ、アルフォンスは誤魔化すように頭を掻いている。
「ッ、と…あのですねぇ〜」
何とも曖昧な返事にホークアイの軍足が小刻みに鳴る。
つい兄と身を寄せ合ってしまうが、鷹の目からは逃れられない。
「ぇ、だからオレは大佐の赤ちゃんが産みたいんだって――」
恐々とエドワードは自分の意志をもう一度話せば鷹の目はギラッと光った。
「貴方には聞いてません!」
「はい。すみません…」
ほら見ろと言わんばかりに、アルフォンスに助けを求める。
そんなまどろっこしい態度に彼女は容赦なかった。銃身は彼らに向けられていた。
「ぉ オイ、アル――おまえの方が詳しいんだろう。説明してくれよ」
「わ、わかったよ。ぇ…っとそうだ。ホークアイ中尉、ちょっと手伝って下さい」
「はあ?」
大概にしろ、と語尾に気持ちが込められている。それに慄きながらアルフォンスはたどたどしく話し始めた。
「ぁあの〜男の僕より女性であるホークアイ中尉の方がよくわかるはずだから…ですね。まずは兄さんの身体を……」
アルフォンスの瞳がにやりと小気味悪くエドワードに向けられた。
それから素早い身のこなしと体技を有して兄の身体をうつ伏せにすると。
「ちょっと早く中尉、兄さんの上半身を動かないように押さえつけて下さい!」
「エッ? わかったわ!」
二人掛かりで押さえ込まれて、大人しくしているエドワードではない。
「ちょっと何だよ! 止めろよ。アルー離せ! 何でオレがこんなことされなくちゃいけないんだ。関係ないだろう」
手足をバタつかせて必死にエドワードは阻止していた。必死なのはこちらも同様だと二人は言いたい。
何しろエドワードも体術においてはプロ級なのだから。
とうとうホークアイは馬乗りになってエドワードの身体を組み伏していた。
「さあーアルフォンス君!」
綺麗に整えられた金髪が乱れている。
始めは戸惑いもしたが、今や彼女の瞳は血気していた。
たった一枚。
その薄いカーテンで隔離されている男達はこれから何が起きるのかドキドキものである。
「中尉、ちゃんと見てくださいね!」
カーテン越しに会話は筒抜けだ。
薄っすらと映し出される影が妄想を掻き立てる。
男性陣の喉が上下した。
アルフォンスの腕は兄の尻を持ち上げて、軍配布の真っ白なトランクスに手が伸びていた。
「わぁー止めろよ!」
一際大きな悲鳴が上がり、それと同時に桃尻を叩く音が冴え渡った。
勿論アルフォンスが叩いてるのだろう。
「兄さん、うるさいよ。大人しくてこれじゃ確認できないよ!」
脱がされた桃尻。
ホークアイはしっかりとエドワードの艶かしい臀部を見た。
そのぐらいで成人女性である彼女が狼狽するはずもなかった。アルフォンスの指示通り視察した。
確かにその尻には男性らしさはなかった。女性のように丸みを帯びた臀部である。
しかし――アルフォンスはそれから奇怪な行動に出たのである。
抱え上げた尻。ぷるんと上を向いていた。その二つに割れた桃尻を何と左右に開いたのである。
「!?」
ホークアイは魂消た。