TAKE OUT!から始まる恋。
act.1
「鋼の、食事でもどうだね? 私が奢ってやろう」
この一言から思い掛けなく全ては始まった。
だが、これは単なるきっかけに過ぎなかったかも知れない。いつかはこんな関係になるかも知れないとお互いそんな気がしていた。
それは気づく事なく、気づかれることなく…。お互いそんな気持ちだけが勝手に浮遊していた。
唯今、中央司令部配属。階級は大佐 ロイ・マスタング 年齢三十歳。女性にもてると評判の青年軍人。青年の域は既に超えているが童顔な顔が功を奏していた。
それなのに何故――彼を誘ったのだろう。
かたや、誘われた最年少国家錬金術師 二つ名は鋼の錬金術師 エドワード・エルリック 年齢十五歳。間違いなく少年。
その彼はロイからの言葉に我が耳を疑っていた。
女に不自由したことがないと噂の彼。それに信用ある部下達を配下に置く彼が何故自分のような子供を食事に誘うのだろうか。気でも触れたのだろうかと――。
僅かな空白の時間でエドワードの明瞭な頭脳は様々事柄を「理解」と「分解」繰り返して、「再構築」された結果。
エドワードはそれまでぽっかりと開いていた口唇をにんまりと吊り上げ、ロイに向かって覇気のある声色で返事を返した。
「いいよ。絶対、奢れよ!」
「……!?」
ほんの短い間だが、間が空いた。そして、返ってきた返事がまさかのOKとは、ロイ自身驚いているようだ。
その証拠に誘った本人が間の抜けた顔をしている。執務用の大きなデスクにロイはいつものように両肘を突き、顎を支えていた。だが、その肘がデスクからガクリと落ちた。格好良いと言われる評判の男にあるまじき情けない姿だ。
執務室には妙な静けさが部屋に漂っていた。
ロイは情けない表情を慌てて、元の颯爽とした顔に戻し、それから取り繕うように日時の指定を始めた。本当はそんな予定まったく考えてもいなかった。
「ぁ、あ……、では、19時にセントラル広場に来たまえ」
「アッ、あ、うん――」
言葉を交わすたびに、二人の間には静かな空白の時間が出来てしまう。そして、口から吐き出される会話は定例文のような堅苦しい言葉ばかりで面白みがない。それをどうにか打開したのはエドワードだった。
「――わかった。美味い飯屋を選んどけよな! じゃねーと、これだ!!」
と、エドワードは右腕の機械鎧で殴る動作をロイに見せながら執務室を出て行った。そんな彼が背中を見せて執務室の扉を開けて出て行く姿を見ながらロイは思った。
ど、どうして――彼を誘ってしまったのだろうかと。
自分自身でも納得、否、理解出来ない行動をしているのだ。ロイは両手で頭を抱え込んでいた。
その頃、執務室の入り口の扉に背中を預けたエドワードもロイと同じように自分の理解不能な行動に頬を染め生身の左手で口元を覆っていた。
唯、二人の共通点は「何故、彼を……」と煩悶していた。二人ともその言葉だけが、一致していたのだ。
斜陽する太陽が黄昏の色を空一面に鮮やかに映し出す時間。
エドワードとアルフォンスはいつもの宿で本日収穫してきた重要文献に目を通していた。いつも読書し始めると時間の感覚がわからなくなるエドワードなのだが、この日はどうしたことか違っていた。
彼は読み掛けの文献をパタリと閉じ、独り言のように声を漏らした。
「あ、約束の時間……」
普段と違う行動をとるエドワードに習って、アルフォンスも文献を閉じて兄の不可解な行動を怪しんで訊いた。
「兄さん、どうしたの? 集中してなかったの?」
文献を読んでいる間は驚異的な集中力を発揮する兄なのだが、少し前からそわそわしていたのだ。鋼鎧姿の実弟はそれをしっかりチェックしていた。
「アル、わりぃー。オレ、大佐とメシ食ってくるから。今から出掛ける! 留守番よろしくな!」
ガチャガチャと鎧が崩れるような音を出し、アルフォンスは鋼鎧姿で感情を表した。
「エッ!? 大佐と? ちょっとホントなの?」
「あぁ、何か奢ってくれるんだってさ。じゃー、行くな」
愛想のない声でエドワードは話していたが、バタバタと着替えて出掛けるエドワードの後ろ姿は僅かながらも嬉しそうに見えた。
兄とマスタング大佐は犬猿の仲とまでは言わないが、傍から見れば会えば必ず憎まれ口をお互い吐き出す間柄なのだ。
アルフォンスの頭にも「何故?」という文字が浮かんでいた。
待ち合わせの場所にキッカリ時間通りにやって来た二人は出会うなり、お互いを牽制し合う様な引き攣った表情を露に出していた。
やはり此処で二人、想うことは決まっていた。「ま、まさかホントに来るとは…思ってもいなかった」と、声に出さずに言葉を飲み込んでいた。
お互い胡散臭そうな目付きと間合いを取りながら、誘ったロイが指定する店へと練り歩いた。道中、彼らの脳内は「何故? 彼を…」という単語が頭から離れない。エドワードはロイの後方から不貞腐れたようにポケットに両手を突っ込みながら歩いていた。
だが、彼の琥珀色の瞳は前方の男に気づかれないように、彼の全身やその表情をちらりと横目でチェックしていた。まさか、エドワードもロイから同じように見られている事など知るはずもなかった。
お互いが、その存在を気になっているのだ。
「本当ぉーに、美味しい店なんだろうな!」
「あぁ、君も煩いな。料理の味がその歳でわかるのかね?」
「馬鹿にすんなよ! 色々各地を旅しているから口は肥えているんだよ。それに一応、肉屋で見習いをやっていた時期もあるんだぞ!」
自信満々、声高々に話すエドワードに自然と笑いが出てしまう。そんなロイの顔を見て、プクッと頬を膨らませて彼を睨み上げた。
「クッ、ククク…そうかね。味は保障するよ。私の行き付けの店だからね」
固かった表情を崩して、ロイはふわりと笑顔を見せた。その微笑みは執務室でいつも偉そうな口をしているロイ・マスタング大佐の顔ではなかった。
三十代、独身の男が楽しく余暇を過ごす顔だった。そこに彼の隠されたプライベートが見え隠れしていた。
エドワードは彼のそんな表情をちらりと見て、胸をドキッと弾ませ考え込んでしまった。
何故、彼は自分のプライベート地帯に自分を誘うのだろうか。何のメリットもないはずだ。かえって、デメリットの方が多いはず。
自分の価値観を良く知っている彼だからこそ――そう想うのだ。「何故?」という単語ばかりが彼の頭を巡っていた。
煩悶している自分が嫌で堪らず、同じ立場の男を見上げてみると、その男はいつものいけすかない表情をしていた。
それが余計ムカつくエドワードだったが、葛藤している間に目的地に着いていた。男は何の躊躇いもない声で突然エドワードに振り返ってきた。
「あぁー、此処だよ! さあ、入りたまえ」
ロイの手がある店の扉を開いた。
エドワードは此処から何かが変わる予感がした。そして、扉は開かれてしまった。
それも眼前で愛想笑いしている男。ロイ・マスタングの手によって――。
また、見切り発車をしてしまった。
その後どうなる?この2人…。
まだ、途中(汗)どう転ぶのやら謎です。
桜 美由紀 2005/10/18
2006/9/8 改訂
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