月の子
〜 Moon Child 〜 act.1
夜も更け月明かりが眩しく、ロイ・マスタング准将の執務室を照らす。
その月明かりは、黄金の色がよく似合う君を思い出す。
君は月日が経つと共に、この月光のように可憐に美しく成長していった。
長く伸びた手足、陶磁器のような滑らかな肌、黄金色の長い髪。
意思の強さを示す金の瞳。
あれから、どのぐらい時は刻んだのだろう。
約束など交わしはしなかった。
交わせなかった。
何故なら、肉体の関係は結びはしても、一度も彼に告げる事はなかった言葉がある。
「愛している」
そして、彼の稀有な身体故に決して彼も言葉にしなかった言葉。
「オレも、愛している」
稀有な身体とは、右腕・左脚が機械鎧という事を指し示すだけではない。
彼の身体には2つの性が棲んでいた。
男性でもあり、そして女性でもある、両性体(半陰陽)
彼が望んだ訳でも故意に人体練成など錬金術もしくは、その他の医療行為によって
身体を変化させられた等ではない。神の所業。
この世に生を受けたときから、エドワード・エルリックに背負わされたもの。
彼には、背負うものが重過ぎる。
人体練成の失敗によるリバウンドで、消失した肉体の一部と弟の身体の全て。
そして、この両性体の身体。
彼の宿命は…、重責である。
それ故に頑なに、自分の身体を卑下してしまっていた。
極一部の限られた人間しか知らないエドワードの身体の秘密。
ロイ・マスタングは、その限られた人間の1人であり、その身体を抱いた唯一の人間。
それは、2人の秘密 決して知られてはならない秘密。
彼らの目的が果たされる日までの、いや、その後も知られてはならないかも知れない秘密。
お互いを思うが故の悲しい秘密。
ロイ・マスタングは、エドワード・エルリックの全てを知った上で彼を愛していた。
何もかも全てを受け入れていた。
彼が背負うもの全てを…。
だが、「愛している」の一言が言葉にできない。
伝えたいのにできない、そう思い続けて時は過ぎていった。
ロイ・マスタング大佐 32歳
エドワード・エルリック 17歳
始めて出遭った時から既に6年の歳月が過ぎていた。
極秘にエドワード達は自らの手によって、奪われた肉体を取り戻す方法を見つけ出した。
一部の信用できる人間にだけ、実行する事を伝えて彼らは、故郷のリゼンブールへと
帰郷していく。
セントラルの駅でエドワードとアルフォンスは、親しい人々に別れを告げていた。
「エドワード君、アルフォンス君、落ち着いたら こちらにいらっしゃいね!」
「大将もアルも絶対、成功しろよな!おい、アル!顔を絶対に見せに来いよな!」
「じゃね ――!お兄ちゃん達、また、遊んでね!」
亡きヒューズ准将の愛娘のエリシア、愛妻グレイシア、軍部の皆が彼らの健闘を
願って涙していた。
長かった荊の道のりを知っているが故の涙、決して悲しみの涙ではない。
一通り、別れを告げ汽車へと乗り込んだエドワード達だったが、
もう1人の姿が、エドワードの目に飛び込んできた。
忙しいから見送りには来れないだろうと思っていた人物が、そして会いたかった人の姿。
「!?兄さん…?行っておいでよ。まだ出発には間に合うよ」
「――― ちょっと、世話になったしな挨拶してくるよ。アル」
ロイは、息を切らしてこの場に来たらしくぜぇぜぇ言っている。
来れないと思っていただけに、焦っている彼の姿を見てちょっと笑えてしまう。
「大佐、忙しいんじゃ?なかったのかよ…」
「鋼の、君に忘れ物が ―――」
「えっ!何」
長く伸びた三つ編に結った黄金の髪、その毛先をつかまれ引き寄せられた。
そして、ロイは耳元で囁く。
「愛している…。エドワード」
「大佐 ―――!?」
ロイは、その言葉を真剣にエドワードに伝えた。
今まで伝えられなかった言葉を今此処で…。
その時のエドワードの表情は、今でも忘れる事が出来ない。
悲しそうで、嬉しそうで、恥ずかしそうで、泣きそうで、色々な表情が一変に
溢れ出していた。
だが、ロイが望んだ言葉をエドワードの唇から紡ぎだされる事はなかった。
エドワードは、何も言えずに黙って最後は俯いている。
「兄さん〜〜〜、出発するよ!早く!」
エドワードは俯いたままありきたりな言葉を口に出して汽車へ乗り込んだ。
「じゃね、大佐…」
それだけ、だった…。
汽車は汽笛を響かせて、このセントラルの駅を出発していった。
汽笛の音は、どこか悲しい慟哭のようにセントラル中に響き渡る。
汽車が出発し、暫くしてアルフォンスはエドワードの様子が気になり声を掛けてみる。
あれから、一言も喋らず汽車の窓を見続ける兄の姿に離愁を感じたからだ。
「兄さん?大丈夫。大佐にちゃんと告げられた?」
「ううん、ごめんちょっと、1人にしといてくれないか…。アル」
エドワードは走る汽車から流れる景色を呆然と見ながら、涙が頬を伝っていくのが
わかった。
涙は、機械鎧の右手を濡らしていく銀の雫のように。
何もかも、遅かったのか。それとも、まだ伝えられないのか…。
オレは、臆病だ。
「愛しいてる」を伝えられない。
だから、約束も交わしていない。
交わす勇気が、まだなかったから。
臆病だから。
セントラルの駅を出発したあの日から約一年がたとうとしている。
その間、2人はこのセントラルを訪れる事はなかったが、一通の手紙が送られた。
ロイ・マスタング大佐の元へ。
内容は、アルフォンスの肉体が無事に戻った事、エドワードの失われた肉体も戻った事
世話になった皆に会いたいが、まだほとぼりが冷めるまでリゼンブールにいる事などが
簡潔に書かれていた。
ロイにとっては寂しい手紙だった。
月日は流れ、冒頭に戻る。
ロイ・マスタング大佐は、准将へと昇格を果たし
着実に軍内での功績を積み上げていた。
今では、上層部でも彼の実力を認める動きがあり、理解者も増えつつある。
また、彼の部下達もワンランク階級がアップしていた。
これもまた、上司の采配によるものだろう。
夜も更け月明かりが眩しく、ロイ・マスタング准将の執務室を照らす。
月影は、光を集め夜の闇を照らす。
月から舞い降りたような、あの姿を見ることができなくなって久しい。
この月光のように可憐に美しく私の元で成長していった彼を思い出す。
「コンコン」
執務室の扉を叩く音がする。
「入れ」
こんな時間に、ここを訪れる者は余りいないはずだが、ロイは不振に思いながらも
扉が開かれるのを待った。
しかし、思ってもいない事が起こった。
扉から現れた人物に、ロイ・マスタングの心は囚われた。
今、心で愛でていた人物。
エドワード・エルリックの姿だった。
セントラルの駅で最後に会った日から彼を忘れる事などできなかった。
一年前に比べて、少し手足がすっきりと伸び長かった黄金の金髪は背中まで届く長さに
流れる時の長さを感じる。そして、黄金の瞳はしっかりとロイを見つめていた。
あの時とかわらない瞳で、ロイの心を繋ぎとめる。
「エドワード ――― 」
「やっ、久しぶり大佐。じゃなかった准将に昇格したんだって…」
「 ―― 」
目の前で、エドワードが話している夢ではない。
「まだ、嫁さんもらってないの?上から言われちゃうよ。早くしろって…」
「鋼の、どうして君が…。いや、元に戻ったそうだね。良かった願いが叶った
のだろう。アルフォンスは、一緒かい?」
「――― ううん、アルに言われて来た。忘れ物を伝えろって一年前の忘れ物」
「忘れ物?」
ロイは、執務室の机を離れ背が少し伸びたエドワードに近づいた。
触れたい…。
抱きしめたい…。
その身体を私の掌に…。
その口唇を私に。
願うことは沢山あったが。もう、許されない事かもしれない。
だが、エドワードの黄金の瞳が彼を捉える。
少し潤んだ琥珀色の瞳で、まっすぐにロイを見つめている。
「忘れ物…。オレも大佐、ロイ・マスタングの事を愛している
もう、間に合わないかもしれないけど…、愛してる」
目の前のエドワードは、その言葉を告げて後ろへと振り返りこの部屋の扉へと歩いて
行こうとする。
ロイは、告げられた言葉に只、呆然としていた。
神様 ―― 、願いは聞き遂げられた。
何もかも遅くはなかった。
ロイは、エドの身体を背後から抱きしめた。
もう、誰にも渡さない…、離さない…、願いは叶った。
「エドワード、まだ間に合う私も君の事を愛している」
抱きしめている掌に冷たいものが堕ちる。涙が、悲しみの涙ではない歓喜の涙。
「遅くなってごめん。――― ロイ」
2人は、この月明かりが照らしだす部屋の一室で抱き合い深く口唇を交わした。
ロイは、甘い口唇を絡めとりエドの口腔を舌で荒々しく激しく吸い上げる。
この一年間の空間を否、思いを伝えられなかった空間を埋めるように。
激しく、激しく、愛撫していく。
エドワードの黄金の髪をほどき後頭部を優しく鷲掴み、更に深く口唇を味わうように。
熱い愛撫と苦しさに、エドワードの黄金の瞳からは涙が頬をポロポロとつたっていく。
その涙さえ、愛撫するようにロイは流れる涙を口唇で吸い取っていく。
首筋に顔を埋めエドの感じる部分をきつく吸い刻印を残していく自分のものである
証を刻みつけていく。
激しい愛撫に身を委ねて、荒い息をつくエドに問いかける。
「エドワード、今日は帰るのか?」
「ハァ、ぁっ 。 一応、宿とってる…」
「私のうちへおいで君を離したくない!もう、絶対にだから…」
「あっん、でも…」
「でも、じゃない!来てくれ!そこで君を、君の全てを抱きたい」
一時の間…。
この熱い空間に冷たい風が入ってくるが、思いは一緒であった。
「///うんっ…」
やっと思いが叶った。
だから、エドワードの全てを愛せる。今迄、我慢してきた全てをこの掌に…。
ロイ・マスタングの願いは叶った。
う…ん、ついに連載開始してしまった(泣)
これをアップしている頃に私は、まだ…五ヶ月目ぐらいをのそのそ書いています。
本当は、全部書き終わってしまってアップしようと思ったのですが…
これを全部書くにはとんでもない長さになってしまうと、途中から思ってこの辺で
取り敢えず、例の如く「見切り発車」しちゃいました!
長くなっちゃいますが…宜しくお付き合い頂ければ幸いです☆
桜 美由紀 2005/8/5 西日本最大数の花火大会の日!を記念して。
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