人 間 兵 器 act.4
いつ終わるとも判らない拷問。
狂気の晩餐からやっと解放された時は、既に空は夕暮れから夜へと移り変わる頃だった。
密室空間の、この部屋に夕暮れの色は血のように赤く部屋を染め上げている。
血に染まった部屋に、そこだけ異空間のようにエドの身体は臥していた。
色白く青褪めた身体が、不気味に映えていた。
連中の欲望の種が、つき果てエドは解放された。
狂気の晩餐からようやく目覚めた連中は、事の事態に驚愕した。
人間の心理状態と言うものは、恐ろしいものだ。
こんな事をする筈では、なかった。ちょっと、からかうだけで良かったはずなのに、暴力を暴行を
呼び強姦が輪姦呼ぶ…。
狂気は残酷に、連中の身を躍らせてしまった。
そして、惨劇は連鎖していった。
その場にいた全ての人間が、決してこの狂気の晩餐を望んだ訳ではなかったのに。
狂気は連鎖していった。
現実に戻った時には、時、既に遅く。
1人が現実の世界に戻り、そして、又1人と、現実へと呼び戻される。
「おい、やばいぜぇ!犯りすぎじゃないか…」
「血が、血が、流れってぞ…!」
「――おい、生きってかよ!」
「たしかこいつ、あの何とかって大佐の庇護下にあるじゃ…」
そんな事、最初から判っていたはずなのに。今更なぜ、オレの存在は。
意識を失うことを許されなかったエドは混濁する意識の中他人事のように、連中のやりとりを
聞いていた。
いや、聞こえるだけで、理解する迄にはいかなかったかもしれない。
それほど、エドの身体の状態は危機迫っていた。
連中は、みるみる青褪めてくる。
こんな、此処までやるはずじゃなかった、と口々に言い出し責任転嫁を始めたのである。
見苦しいものである。
「おい、こいつそのままにして兎に角、ここでようぜ…」
「逃げたが勝ちだぜ!」
「そうだー。誰も知らねぇんだからさ」
この狂気の空気に染まった部屋から、早く一歩でも逃れなくてはと言う思いから連中は、
自分の身支度を、早々にして、バタバタと部屋を出て行った。
連中のいなくなった部屋は、シーンと静まり返る。
やっと解放された部屋に只1人、取り残されたエドは、混濁し朦朧とする意識の中
己の血と連中の欲望によって汚れてしまった床を、意味もなく眺めている。
暴行され輪姦された身体は、脚をとじることもできず、力なく投げ出されていた。
少し身体を動かしただけでも、疼痛が身体中を駆け巡り、指一本動かす事ができない。
みじめだ、こんな姿。誰にも知られたくない。
意識が、白身かかってくい。暗い海の底へ。だが、振り絞るようにエドは、歯を食いしばり
自分のボロボロの身体に示唆する。
駄目だっ、早く立ち、上がってと、意地らしいが、悲しい姿がここにある。
が、エドの願いは虚しく消えていく。
彼の意識は血のように赤い部屋が、暗闇へと変わるように堕ちていった。
連中はこの部屋を出て暫くすると、やっと落ち着き始める。
そして、あの場で行った出来事を興奮気味に口々に話し始めた。救いようの無い奴らである。
彼らには、慈悲という言葉はあるのだろうか。いや、腐っている。
そんな大人達が、巣食う国軍司令部。そこに所属しているエドワード・エルリック 15歳。
これが、意味する事は、何。
「おい、やばかったなぁ…」
「おいっ、誰だよ、あそこまで、犯らなくても…」
「なんだよぉー今更、お前だって楽しんだじゃねぇか」
「まぁ、こんなバレやしなぁいぜぇ、人に言えっかよ。は、ははは…」
「そうだなっ、はははは…!」
部屋を出ることによって彼らは、安心感を得て軍内の廊下で卑猥な話をしていた。
まさか、通りすがりの軍人の1人が、その会話を耳にするなど考えもつかなかった。
それも、彼らが暴行し輪姦した少年。
「鋼の錬金術師」をよく知る人物に聞かれるとは思いもしなかった。
「でも、やっぱいい身体してたなぁー。最高だぜ…」
「あぁぁぁー、その辺の女より良かったぜ。また、お願いしようかな、はははは…」
「そうそう、絞まりは良かったしさ」
連中の前から歩いていたのは、ジャン・ハボック少尉。
ハボックは、この連中の顔と会話を耳に入れながら、目を細めた。
またかよー。こいつらか、どっかの女相手に何か、良からぬ事やりやがったな。
オレの管轄でやんなよなっ!ちっ。
ハボックは、彼らの悪態に、舌を打ち鳴らし嫌悪の表情を表している。
すれ違いざまに連中は、ハボック少尉に敬礼をして横を通り過ぎていった。
今回のテロ事件の処理の際は、ハボックの下について仕事をしていた。
いわば、今回は自分の部下の人間であった。
面倒は、勘弁してくれよな!と、そう思いながらハボックは、横を抜けていくのだが。
しかし、その願いは悲しいものとなった。
すれ違った、ハボックの背から驚愕するべき言葉が耳に入ってきた。
「おい、でも片足とっちまったからさぁ、大丈夫かな…」
「いいんじゃ、ないか。なんせ国家錬金術師様だからさ。どうとでもするさ」
「ははは…、そうだな。しかし、綺麗な顔してやがったなぁー。金髪でさぁ…」
「おいおい、その綺麗な顔を何度も殴ったのはお前じゃなかったかよ!」
「ハハハハー。なかなか、小生意気なガキだったからなぁー!」
ハボックの背から冷たい汗がじわりと、にじみだしていくのがわかる。
片足をとった!?金髪…、国家錬金術師!? まさか、大将…を…!?こいつら…。
そう思った後の行動は、すばやく後ろを歩いていく連中の1人の肩を思いっきり掴んで
振り向かせ、男の胸倉を掴みあげ、怒気の声で言った。
「おいっ、今の話…、お前ら何した!」
思いもよらない行動に男はしどろもどろで声にならず、他の連中はその場で立ち尽くし顔は
青褪めていく。
「いやっ、何も知らないス…」
ハボックの怒りは頂点に達していた。
何が、何も知らないだと!? さっきまで、お前らが笑いながら話していた事を。
疑念は確信へとかわった。
早く、早く、彼を見つけ出さねば…。
と、いう思いから、こんな奴らを相手している場合ではなかった。
「場所はー!」
今にも殺されそうな覇気に男は、恐怖に慄き答えた。
「ァワッ、第三、会議室。すみません…」
「あの、あっ、そんな、つもり…」
その言葉を聞いたと同時に、ハボックの怒りの鉄拳が、男の鳩尾にはいった。
他の連中も蛇に睨まれたように動くことができずに、その場で立ち尽くしている。
ハボックは奴らを残し走った。
やっと、テロ事件の事故処理も終わり帰宅できると思った矢先の出来事だ。
そして、はやる心が思う事は。
どうして、頼む間違えであって欲しい。
大将に、そんな事。あの子に、純粋な彼に。まだ、親庇護の下育つべき少年に残酷な。
どこをどうやって此処に辿り着いたか判らない。只、息は上がっていた。
「第三会議室」
ドアノブに震える手を掛け部屋の扉をあける。
最悪の事態だった。
あああああ、何故この子がこんな目に…。
部屋の中に入っていく。
部屋は、異様な空気に淀んでいた。嗅ぎなれた血の匂い。
そして、男ならわかる、欲望の匂い。
その先に力なく、横たわる青白い弱々しい身体。エドの姿だった。
意識を失いぐったりしている彼のそばに、駆け寄りハボックは、いきなり苦痛に襲われたかのように
激しく片手で顔を覆った。
引き裂かれた服の残骸がかろうじてまとわりつき、服にも身体にも鮮血があちこちに
こびりついている。
身体中、どす黒い痣や切り傷、顔も鼻からも口からも血を流していた。
さらに酷いことに、彼の機械鎧の左脚は虚しく取り外されている。
その先、両脚の内腿の先からは、大量の鮮血と男達の欲望の精液がしたたり落ち床を汚していた。
この場所で、何が行われていたか言わずとも知れた。
ハボックの眉根が激しく吊り上げられ、激情を抑えることができない。ぎりぎりと、唇を噛み締め
その口から、激怒の言葉が漏れる。
くっそぉー!!あいつら、ゆるさねぇー。
ハボックは自分の軍服の上着を脱ぎエドの身体にそっとかけてやった。
血に汚れ傷ついた頬を黄金色の髪が、隠していた。
その髪をそっと、梳いてやりながら、触れるのも躊躇ってしまったが、優しく頬に触れ静かに
呼びかける。脅かさないようにと、注意を払って。
「大将、大丈夫かー?」
恐らく、声は届かないかも知れないが、と思ったが、尚もハボックは優しく呼びかけた。
触れられた頬の痛みに意識が戻ったのか、それとも呼びかけにか。
エドの瞼が揺れ静かに瞳が開かれたが、開かれた瞳は焦点が合わず暫くぼっとしている
が、ハボックの気配に気がつくと瞳は、点と線を結び始めた。
そして、黄金色の大きな瞳を更に大きく見開き恐怖に慄いた。
「…もう、ヤダッ、嗚呼…」
エドの瞳に飛び込んだのは、連中の黒い姿だった。
錯乱している。
意識が混乱しているのだ。あの狂気の晩餐から、まだ、彼は解放されてなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
苦しく息を吐くエドは、今迄指一本動かすことができなかった身体を無理やりに動かし、その場を
あとずさっていく。
身体を引きずり、重い鉛のような身体を必死になって壁際へと移動した。
「大将、大丈夫だ。何もしねぇよ。オレだ、ハボックだ」
優しく宥めるように言うハボックの言葉など聴きいれようとはしなかった。
エドは、ゆっくりと頭を左右に振る、否定の意味を込めて。
「ぜぇ…、ぜぇ…、はっ…、うっ…」
激痛に軋む身体で、虚勢を張る姿は痛々しかった。
もう、これ以上、誰も、オレに触れるな!
エドの身体を張っての抵抗に、ハボックはエドの傍に、これ以上近寄ることができずにいる。
どうしたら、いいんだよ!ハボックは、あまり現状の酷さに、どうする事もできず。
只、言葉をかけ続けるしかなく。
「大将頼むから、何もしねぇから。落ち着け…」
「ぜぇ、はっーぜぇ、いゃーだっ!近寄るな、触るな、もう…」
途切れ、途切れに苦しい息の狭間に紡ぎだす言葉は、拒絶の言葉ばかりで如何に彼に
与えられた。暴行の残酷さが伺えた。
「わかった…。これ以上、近寄んないからオレが誰かは、わかるな!」
その言葉に、エドの頭がゆっくりだるそうに下げられた。その動きに、少し安心する。
良かった、取り敢えず。だが…。
どうするべきか悩んだ挙句、ハボックはエドの後見人でもあり自分の上司でもある、一番信用できる
人物に頼ることにした。
「ロイ・マスタング大佐」に。
それしか彼を落ち着かせて治療する方法はないと思ったから。
「大将、大佐を呼んでくるから。大佐なら、いいだろ?」
その言葉に、激痛に耐え必死に意識を繋ぎとめ、床を見つめていたエドの表情がこわばる。
「はぁ、はぁ、やめっ、大佐っは呼ぶな…」
その余りの恐慌ぶりにハボックは躊躇ったが、やはり大佐しか、もうどうする事もできないと
ハボックは判断した。
自分では、これ以上近寄ることが出来ない。か、といって無理に触れてしまえば、エドの身体を更に
傷つけてしまう。それは避けなければならない。
これ以上、エドを傷つけたくはなかったから。
「いいか、じっとしてろよ。もう、誰も何もしねぇからな、ちっと待ってろ!」
いまだに、ガタガタと震え怯える身体を介抱してやる事もできずにいたが、その言葉を残し
ハボックは、大佐を呼びに走った。
この密室にエドを、1人残す事が気がかりだったが、今のエドを誰かに任せるなど
到底できなかった。
だから、急いで。
大佐を…。
唯一彼を助けだせる男を。
to be continued
やぁっと、助け出しにかかりました。
1人では難なので、2人でという事にしましたが…
しかし、ホント長いです…皆さん飽きずについてこれるのでしょうか?
色々書きたい場面があるのです…(悩)
次の「人間兵器 5」は早めに更新します♪…救出第二弾大佐編!