人 間 兵 器 act.7
怒り・憤怒・憤慨・逆鱗・怒気。
アメストリス国軍 ロイ・マスタング大佐 焔の錬金術師。
彼の背後からオーラとなって燃え上がる蒼い焔、何もかもを燃やし尽くす業火。
1人の人間を【人間兵器】へと導いてしまった自分。
【人間兵器】に伴うリスクを承知で、この世界に飛び込んだエドワード・エルリック。
自分の標した道の先には、絶対不可欠に現れる屈辱・侮辱・羨望・嫌悪・憎悪…。
民衆から…、そして軍内からの中傷、それらは…必ずエドの身に振りかかる。
それは、お互い覚悟の上だったはずだ。
だが、事態はロイの思っている以上に、露骨な干渉を強いられてしまった。
エドに応急処置を施したあと、しばらく彼の具合を看ていたロイだったが、彼の思考は蒼い焔を
伴って。
その覚悟の足りなさを悔いていた。
絶対に守ってやると…、否、守ってやれると…思っていた。
が、無残に踏みにじられた最悪な方法で…。
だが、ここで踏み止る事はできない。
自分達には、前に進むしか道はないのだから…。歩みを止める事はできない。
その事は、ここで眠っているエドにも判っているはずだ。
今の状態では、すぐにとはいかないが…立ち上がらなければいけなかった。
しかし、今はこの疲れ、傷ついた身体、精神をゆっくり休める事が必要だ。
少しでも彼にゆっくり休めるように自分に課せられた事をしなればならない。
それが、この世界へと誘った自分のできる唯一の理だから。
「ハボック、今回の首謀者の名をあげろ」
静かにロイはハボックに言い寄ったが、その瞳の奥には焔が見えた地獄の業火が。
ハボックは、この時、ロイの表情に彼の真の姿を見た。
イシュバール殲滅戦の英雄。
その名の本来の姿を…、ハボックの背筋には冷たい冷水が流れていく。
言われるままに、ハボックはエドに暴行行為を行い輪姦した数名の名前をロイに伝える。
ロイは無言でメモを取り出し、その数名の名を書いていった。
「……ホントすみません、大佐どんな処罰もオレ受けます!」
「…おまえが、処罰を受ける必要はない!暫く、私は出かける。そうだなぁ…どうしても、
おまえが処罰を受けたいと言うのなら、鋼の、の看病をしてやっていてくれ」
ロイの気遣いにハボックはただ、頭を下げるしかなかった。
「…大佐……有難うございます」
「……ホントはずっとついてやりたいのだがな…。」
ハボックに聴き取れるか判らないぐらい小さな声でロイは独り言のようにいった。
「…えっ…何か、言いましたか…」
「いや、なんでもない…」
ロイが、口にした言葉が聞き取れずに、ハボックは聞き返すのだが、うまく交わされてしまう。
ロイは、熱と傷の痛みに苦しんでいるエドの汗を優しくタオルで拭ってやりながら、ハボックに
見えないように、そっとエドの生身の左手を優しく絡めるように握った。
後ろ髪を引かれる思いを、ぐっと堪えてロイはハボックに彼の看病を頼んで、今、自分が
やらねばならない事に、専念する事にした。
「では、私はでかける。すまんが、鋼の、を頼む…」
「判りました。任せてください!でっ…どこに行かれるですか?」
「まずは、アルフォンスの所だな…。ここが一番手ごわいのだが…」
ハボックの自信に満ちた顔とは反比例して、ロイは自嘲気味に笑った。
その表情で、何となく気持ちを察してしまう。アルフォンスにとって、エド…兄の存在は、
絶大だから。
その兄が…、今…こんな状態だから。
「そうっ…すね…アルの奴か…」
余りにショックな出来事ばかりで肝心な事を忘れていたことに気付く。
ハボックは、顔を手で覆う。
そう、彼らはこのエドに起きた惨劇をまだ、彼の大切にしている弟に、何の連絡も
していないから…。
ロイは部屋を出る寸前まで彼の容態を見守り続けている。
エド…暫く待っていてくれ……。
ロイの背中は、夜の暗闇へと消えていった。
その背には、蒼白い焔が消えずに燃えていた。この夜の暗闇を燃やし尽くすかのような
焔をまとって。
その頃、宿に戻っていたアルフォンスもこの事態に薄々と気付き始めていた。
「遅いなぁ…。兄さん…。何か、別の事件にでも巻き込まれたんじゃないかな?」
でも、嫌な予感がする…。あの時から…。
そう、テロ事件後、現場でのエドは軍人達の冷たい視線や中傷気味な言葉を浴びせられて
いたからだ。
兄が国家錬金術師「鋼の錬金術師」であると言うことが、どういう意味なのか…銀時計を
所持する意味。
そして、その恩恵と共に【人間兵器】として、戦場に駆りだされるかも知れない事実を
知ってはいたが。
アルフォンスの胸中は、様々な思いで乱れていた。
だが、無事に兄が帰宅してくれば、この乱れた胸も落ち着くのだが…。
その思いは、露と消えてしまった。
宿のドアを叩いた人は、兄 エドワード・エルリックではなくロイ・マスタング大佐であったから。
「どうしたんですか?なぜ、大佐が…兄さんは…」
「すまない…ここでは…」
アルフォンスは、ロイの神妙な面持ちに、一抹の不安を覚える。
「………中に、入ってください。」
「…失礼するよ」
ロイの控えめな態度に違和感を感じたアルフォンスだったが、まさか兄の身に起きた惨劇を
聞かされるとは思ってもいなかった。
だが、決して良い話ではないだろう事も薄々気付いてはいた。
覚悟しなければ…と、アルフォンスは自分の鎧の手にぐっと力を込める。
「…大佐、よくない話しなんですね!」
アルフォンスの言葉にロイは頭を深々と下げる。
色々、言い訳しても仕方が無いことだった。現実に、もう事は起きてしまっているのだから。
だから、頭を下げるしかない。
「…まずは、謝るしかない。申し訳けない…」
いつも、毅然とした態度で部下達を惹きつけてやまない、ロイ・マスタング大佐が僕に
頭を下げているなんて…、よほどの事が…兄さんに…。
アルフォンスの胸騒ぎは、的中してしまった。
「君の兄さん、鋼の、は今回のテロ事件の現場にいた者達によって暴行をうけた…」
その言葉を聞いたアルフォンスの鋼鎧の腕は、ガチャガチャと震えだした。
事実をまだ、受け入れられないでいる。
どうして…、どうして…、どうして…兄さんばかりが…、こんな目に…落ち着け、落ち着け。
何度も何度も、心が拒否反応をおこすが、ロイのまっすぐに自分を見つめる瞳に、
嘘偽りがない、と瞳で語られてしまった。
ロイは、アルフォンスの驚愕する姿をじっと見つめるしかなかった。
エドには、内密にと…苦しく吐く息の中、切望されたがロイは事実をアルフォンスに伝えた。
恐らく、事実を婉曲しても彼ならば、真の真実を突き止めてしまうだろう。
その事で、彼らにとって余計な精神的苦痛を与えるより、事実をありのまま受け入れて
もらう事によって今後の事を話し合いたかったからだ。
「……発見したのは、ハボックだ。今は彼の部屋で応急処置をして眠っているが、
余り良い状態ではない…。明日、医者を手配する予定だが…」
鋼鎧のガチャガチャと動揺する震えが、止まったと同時に部屋には、音のない世界が
作り出された。
暫くして、不気味に静まりかえった部屋に、はっきりとした意思のある言葉が零れ始める。
「………兄さん、僕に話すなって言ったんでしょう…」
エドにおきた惨劇の事実を受け入れ始めたアルフォンスの言葉が、力なく響く。
しかし、吐き出された言葉は、しっかりと現実を受け止めている。
謙虚な言葉と、態度。
「ああ…言われたよ。だが、君に嘘を言っても…君は、賢いから真実に辿りつくだろうと思った」
「…そうですね」
「この件に関して、責は私にある。恨もうが憎もうが君の感情の侭に私を責めてもらっていい。
私は、受け入れる事しかできないが…」
ロイの真剣にアルフォンスと対峙する姿に、ロイの兄に対する気持ちを知りたかった。
この目の前にいる男が、兄をこの世界へと導いた張本人なのだから。
「暴行された、理由は何です!」
「国家錬金術師としての中傷だろう…」
「そうでしょうね。僕も今日は、薄々感じてはいました!だから、僕は今でも兄さんが
国家錬金術師をやってる事を認めたくないし…、その道を標した貴方を良くは
思ってはない…。いつかは、いつかは…こんな事が否、もっと酷いことだって
起こるんじゃないだろうか、と思ってました…」
「その通りだ…。私が、鋼の、をこの世界へと誘った。それは、事実だ…。
だが、彼も軍の戌と言う事が、何を意味するのか、判っていたはずだ。この道は、どういう道か
理解していたはずだ」
「………」
ロイの熱く語る言葉は、アルフォンスに語るのではなく、まるで自分自身に言い聞かせるように
聞こえる。
切迫するアルフォンスは、彼から繰り出される一言、一言を漏らさずに聞いた。
ロイ・マスタング大佐という1人の男の思いの強さを知りたかった。
「私が、【人間兵器】としていつ戦場へ駆りだされるかもしれない所へ誘った…。
リスクはお互い覚悟の上で…。私は、彼をそんな世界から守ってやれると思っていた…。
しかし、悲劇はおきてしまった…。自分の思い上がりを悔いたよ。私も、そして彼も覚悟が
足りなかった…申し訳けない。だからと言って立ち止まる訳にはいかないのだ。
彼も私も先を歩まなければ、成しえないことがある。
もう、エドにも君にもこんな非傷を負わせたくない。我々の力を【人間兵器】として戦場に
赴かなくて良いように、私は変えたいのだ…。その為にも立ち止まる訳にはいかない」
ロイの瞳には赤い焔が点いた、その瞳にアルフォンスは自分の兄の瞳を思い出す。
あの人体練成に失敗した後にロイ達が、現れ国家錬金術師の道を標した時の、
あの焔の点いた瞳を。
兄さん…。似てるね…。大佐と…だからついていくんだね…。
「…わかりました。兄の事を今後とも宜しくお願い致します!」
この一言で判ってくれるだろうと、アルフォンスはロイに敬意の意を含め深々と頭を下げた。
「有難う。感謝するアルフォンス…。今度こそ、エドの事は、絶対に守るよ…」
ロイの言葉に、反するようにアルフォンスは顔を上げる。
「いえ、絶対にという事が不可能な事ぐらい、僕も兄さんも判っています。覚悟が
足りなかったんです!
だけど、大佐のその思いの深さが、真実な事が理解できて僕は感謝しています。
大佐、兄さんの状態はそんなに…悪いんですか…。僕が看病しますけど…」
「…君にはもっと落ち着いてから顔を合わせた方が、良いかもしれないと思っている。
今は…その…色々混乱していて気持ちの整理もついていないようだしな…意識も…
朦朧としているから…」
「そうですか……。大佐では、お願いしてもいいです…。一応容態だけでも、詳しく連絡して
もらっても?
それで、落ち着き始めたら僕、兄さんと会いますから」
「判った。すまないが、その方が良いだろう。鋼の、事は責任もって私が看るから安心して
くれたまえ。彼には、今、ゆっくり休むことが必要だ。また、歩きだすためにも」
「そうですね。あっ…意識戻ったら兄さんにこう伝えてください。一人で背負い込まないように…
僕は待ってるから、とお願いします」
「…ああ、伝えとくよ。本当にすまなかった。アルフォンス、彼の容態は連絡するよ」
エド、君の弟は…強いな!そして、君達の絆の強さがわかるよ…。後は、エド君次第だ。
「これから、大佐は…帰るんですか?あの、兄さんの着替えとか…持っていってもらえませんか?」
「ああ、すまない。すっかり忘れていた。私はこれから、軍司令部に戻って遣り残した仕事を
片付けるよ…。着替えは預かっていこう」
ロイは、アルフォンスからエドの所持品を預かり宿を後にした。
彼には、今回の首謀者の処置についての仕事が、残っていたからだ。
この仕事は、誰にも任すことはできなかった。
自分の手で片付けるそれが、エドの為にできる事だから。
to be continued
大佐VSアルフォンスをいつかこの2人はじっくり話し合わないと
いけないかな…と思ったので…。
ロイの思いをぶつけてみました。
鑑定医のノックス先生〜〜まだまだ先だ…。
あ…ん凄く話の進みが遅いです!
申し訳けございません♪