人 間 兵 器 act.9
朝明けが、部屋に光をさし照らし始めた。澄んだ空気が部屋に入り始める。
新聞を配達する足音が静かに聞こえ、人々が行動を起こし始める。
朝日がエドの眠りを妨げるかもしれないと思い、ロイは静かに部屋のカーテンを閉めた。
それは、日常とは逆の行動であった。
あの忌まわしい惨劇から一夜明けたが、エドの様子は回復には向かってはいなかった。
ロイは、一睡もせずに苦痛に耐えるエドを看病していた。
エドの眠りは浅く、眠りたくても身体中が、悲鳴を上げ続け覚醒と眠りを繰り返す。
そして、悪夢も…。
エドは眠りの中でも悪夢に魘され続けている。
それ程、彼の身におきた事は精神にも支障をきたしていた。
魘される度に、ロイがエドを悪夢から現実へと引き戻し優しく抱きしめ介抱し続けてやる。
ロイにとっても、エドの悲痛な叫びを聞き続ける事は苦しく、そして耐え難いことだから。
しかし、それでも夜は明ける。
もう、起こってしまった事を今更、悩んでも仕方がなかった。
朝はくるのだ。
そして、日は沈み。また、昇る。これが繰り返される日常。
「おい、ハボック、ハボック…起きろ朝だ!」
隣室のソファで、眠っている彼を起こしにロイはやってきた。
ハボックは、昨日の精神的な疲れの所為か、いっこうに目覚めようとはしない。
「……オイ…!起きろ!ジャン・ハボック少尉!」
ロイの一際、高い声が部屋中に木霊する。
階級で呼ばれたことによって、ハボックの緊張感が高まったのか、ビックと勢いよく起き上がり
思わず敬礼をしてしまった彼。
いったい…、この男はどこに向かって敬礼しているのやら…。
ハボックの寝起きの行動に、頭を抱えるロイ。
「ハボック、私は今から軍司令部へ出勤するから、鋼の、を看ていてくれ!」
「…へっ…大佐、おはようございます…。もう、朝…」
「……!?…お前は、寝起きが悪いのか?」
「いや…ぁ…、昨日は色々ありすぎちゃって…、て…大将の容態は…どうすっか…」
「以前、良い状態ではないのでな…。痛みの所為か、余り眠れないようだ…」
エドの容態をつらそうに告げる彼の様子に、ハボックは自分の顔も、その痛みに歪む。
そして、疲れが見え隠れするロイの表情を見ながら。
「あの〜〜、もしかして大佐、寝てないんじゃ…」
「たいしたことはない!鋼の、の受けた傷に比べれば。それより後を頼むぞ。できるだけ早く
医者の手配をして、ここへつれてくるのでな!」
今だ、ぼおっ…としているハボックを尻目に、ロイは、着々と準備をしていく。
その姿を呆然と見ていた、ハボックであった。
今は、眠っているエドの、この眠りを妨げないように、ひっそりとベッドへ近づき、
エドの熱を発する額にそっと口付けロイは、ハボックの部屋を後にした。
軍司令部では、昨日のテロ事件がようやく解決し、多少の残務処理を残す程度となっている。
日常の治安維持を守るべく軍人達が、通常勤務へと赴き始めた。
しかし、約一名猛烈に仕事をこなす男がいた。
ロイ・マスタング大佐。その男だった。
他の軍人達の行動など目もくれずに、一心に仕事をしている姿はまさに鬼神のようだ。
今迄、ロイ・マスタング大佐の元で仕事をしている者で、こんな彼にお目にかかる機会は、
なかなか、ないことである。
非常に稀なことであった。
「ホークアイ中尉、私の約一週間分の仕事を持ってきたまえ!大至急だ!」
「大佐、こんな勤務時間前から仕事をされて、いったいどうされたのですか?聞くところによると
昨夜も、深夜まで仕事をされていたようですが…」
「急用があるのだよ!中尉。言い忘れていたが、ハボック少尉は本日、有給休暇だそうだ!」
「はぁ…、昨日の今日で、ですか?」
「理由はどうであれ、私の仕事を持ってきたまえ。それと、ノックス鑑定医の本日の勤務予定を至急
調べてくれ!」
「はっ…。しかし、大佐そんな一週間分の仕事など到底無理です!只でさえ、いつもあんなに
お時間を、おかけになるのですから……」
「本日、私は不可能を可能にするのだよ!どうしても、休暇が欲しくてな…。まぁ、一週間ばかり…」
「休暇ですか…。無理です!」
「君に意見している暇はないんだよ!早く、もって来たまえ ホークアイ中尉」
「はっ…判りました!」
ホークアイは、首をかしげながら言われた仕事を運んでくることにした。
薄々…は、彼女も何かが、起きたのだろうと感じはしていたから。
ハボック少尉の急な休暇願い。
マスタング大佐の長期休暇願い。
ノックス鑑定医の手配…?
いずれ、点と線は結びつくことだろう。
上司がまだ、語らないのならば、語られる迄待つことも必要だ。
その、何かの為に必要なアシスタントをするのも部下の役目である、と彼女は思っているから。
執務室で黙々と書類に目を通し、仕事をこなすロイのもとにホークアイが、頼まれたことを
連絡しにやってきた。
「大佐、失礼致します」
「…なんだ!」
「ノックス鑑定医の本日の勤務予定の件ですが。午後3時上がりとの事です」
「うむ、わかった。すまないが、彼に連絡をつけてくれたまえ。ロイ・マスタングが頼み事があると…」
「はっ…わかりました。あと、手伝うことはありませんか…大佐」
書類にばかり目を向けていて、思わず彼女の存在を忘れかけていたロイだったが、
その言葉を聞いて、ふと筆を置きホークアイに顔を向けた。
「…大佐、おやつれになってます…。何か…、あったのでは…」
「……いや…、私的な事でね!大切な人を傷つけられてしまったよ…。情けないことに…」
ロイの表情は明らかに、沈痛な趣で憔悴しきっていた。
彼をここまで追い込むとは、よっぽどな事が起きたのだろう。信頼のおける部下にも、話せない
何かが…。
だが、彼から語られる迄まとう、と彼女は思うのであった。
午後3時。
軍通用門前。
タバコを吸いながら階段を降りてくる眼鏡の男が、現れる。
如何にも、不機嫌そうにロイ・マスタングを見ながら。その男は、彼に近寄ってきた。
「…何しに来た」
ロイは、私服姿に着替え帰宅する彼をここで待っていたのだ。
「連絡を入れていたはずだが…」
「ふっうん…。おまえさんから…珍しい事だ…。冗談かと思ったがな」
「貴方に、頼みたいことがあって、人をひとり看てほしい」
「わざわざ、俺に頼まずとも、その辺の医者に頼め」
「…公にしたくないのでな…」
「……軍関係者か?」
「………私の咎であり、希望でもある子なんだ…」
何を言っているのだ、という表情をノックスは、ロイに向けるが。その彼は、真剣な顔を
彼に返すばかりで…。
昔も、そして、今も…何を考えているのやら。
「……!?ふっん、よく判らんな。イシュバールの英雄さんよ…」
「…只の【人間兵器】だ……!」
その彼の表情に、かつてイシュバール殲滅戦で組んでいた時のことを思い出した。
焼ける大地。焦げる人の匂い。阿鼻叫喚…。
いずれもこの【人間兵器】によって行われた所業。
しかし、命令の侭行動するも彼の表情は必ず…。
その男が、「希望」とか抜かしている。
一体どういう事だ。余り首を突っ込みたくはなかったが、この男の、今の瞳に映るものを
ノックスは見てみたくなった。
ただの好奇心かも知れないが。
イシュバール殲滅戦後の彼の噂は色々聞きはしていたが、実際に合って話すのは
本当に数年ぶりのことだった。
あの時の「クソガキ」が、今では大佐の地位にまで昇り詰めている。
ロイ・マスタング大佐の頼み事とやらを聞いてやるのも悪くないだろう。
「……!?……ちょっと待ってろ道具もってくる」
「……すまない…」
背を見せ、手を振るノックスだった。
to be continued
お待たせしました!
やっと翌日へと日付が変更しました(笑)
そして、私が出したかったキャラ。ノックス鑑定医がやっと登場したよ!
ガンガン7月号と少々かぶっているので
コミック派の方ごめんない!
読んでも…スルーしちゃって下さい。
最初に注意事項を載せてなくてすみませんです。
あしからず。