人 間 兵 器 act.11
ノックスが出て行った後の部屋は、また静まり返る。
ただ、エドの苦しそうに呼吸する吐息のみが、聞こえる。
「…大佐、誰なんですか。さっきの医者は…、すげぇ態度でか…!」
「……私の共犯者だよ…。気にすることはない、腕は確かだ」
「はぁ!?……」
よくわかんないなぁ…。イシュバール戦の英雄か。
ハボックは、色々と詮索してみるのだが。
眠りについてもエドの容態が、介抱へ向かったわけではない。
不安要素を多くもっていたが。
次の行動へ移すべくロイは、行動する。
「ハボック少尉。鋼の、を私の部屋へ連れて行く。車を手配してくれ!」
「…えっ、マジに大佐が看るつもりなんすか?俺が責任もって看ますよ…」
「おまえは、明日から軍司令部にて仕事だ!私は、一週間ばかり休暇をもぎとってきた」
本当に、あのホークアイ中尉から休暇をとってきたのだろうか大佐は…。
凄すぎる…。俺には、到底真似できない。
だけど、それだけ大将のことを思っていることに、内心びっくりする。
大佐と大将は…、それほど仲が良くは見えないのだが。
実際のところ…。どうなんだろう、と思ったのだが。
まずは、やるべき事を…。
「…すげえ…。判りました。でも、大将の奴を今、動かしても平気ですかね?」
「うむ…。余り良くはないだろうが…、仕方あるまい!お前じゃ、頼りにならん!」
「…自信なくしちぃまいますよ…。俺〜〜、じゃ、車。手配します…から」
2人は、日も沈み人通りが少なくなってきた頃を見計らって、人知れずこっそりとエドを
車へと運び、ロイの部屋へと向かった。
途中、ノックスから渡された処方箋に書かれていた品を買出しに薬屋による。
そして、その他必要な品を店で購入する。
その間も、ロイは車内で大切にエドを抱きしめていた。
車のバックミラー越しにハボックは、ロイのエドに対する態度をしげしげと、見つめてしまう。
その視線に構うことなく。
ロイは、エドの傷に障らぬように、優しく胸に抱きとめていた。
ロイの瞳に映るものは、エドの姿しかなかった。
その表情は、とても切なく、見ていられないほどであった。
部屋にたどり着いた2人は、まず、エドをゆっくりとベッドへ寝かせる準備を始める。
ハボックは、初めて入る上司の部屋をキョロキョロと、物珍しそうに伺っていた。
「やっぱり…大佐クラスになると部屋もいいですね。賃貸ですか?部屋何部屋あるんすか?」
「…一応、4LDKはあるようだな…」
「へっ…!?」
「ほとんど、寝るだけの部屋だ…。まぁ、たまに…いやなんでもない…」
「!?」
何か、言いかけようとしてロイは、思わず口をつぐんでしまった。
寝るだけの部屋だが、この子が私の元に帰って来た時。
その時だけ、この部屋も満ち足りたものになるのだが…。しかし、今日は…。
「おい、寝室を片付けてくるから鋼の、を…」
「あっ…はい」
ゆっくりと、慎重にエドの傷ついた身体をハボックへ渡す。
ロイは、今迄抱き上げていた重みが、急に軽くなり少し悲しくもあったが。余りにも軽すぎる
彼の身体を…、ふと思う。
今の彼の身体には、機械鎧の左脚が装着されていない。
この左脚の重みが、ないにしても彼の身体は軽かった。こんなに、軽かっただろうかと…。
それとも、それほどに、この機械鎧は重かったのだろうか。
エドは、その重みにずっと耐えてきたのだろう。
やはり彼にとってこの機械鎧は、罪の重みなのだろう。自分に科せられた重み。
ロイは、寝室のベッドを片付けながら思いを巡らせていた。
「ハボック、いいぞ…入ってきて」
「ウッス…失礼します」
他人の寝室に入るなど、何か、ドキドキする。
それも、上司の寝室である。
この上司は、とくに女性にもてる。もしかして、この寝室に女性を引き入れた事も何度も、
あるのではないか。
そんな空間に自分が、入ることに非常に抵抗を感じる。そして、興味も湧いてしまう。
広っ――ベッド!!!独り、ドキマギしているハボック。
「おい、何をぼさっとしてる早く、鋼の、を寝かせろ…」
「アッ…ああ…はい!」
ロイ自身も、この寝室に他人を入れることに抵抗を感じていた。
ほぼ、寝るだけのベッドだが、思い入れがあったから。
このベッドで、唯一自分と過ごすことができるエドとの情事の事を思い出す。
しかし、まさかこんな事情で、エドをこのベッドに寝かせるはめになるとは、思いもしなかったから。
このベッドで乱れる君の姿は、とても魅力的に私を誘う。決して自分には自覚は、
なかったとしても。
君は…、私を誘惑していた。そして、私が愛する言葉を呟くたびに君は素直になれずに頬を染め
俯いていた…。
そんな姿ばかりが、このベッドでは思い出されるのに…。だが、今は…。
今のエドの様子は、やっと不安定な腕の中からゆっくり眠れるベッドへ移したものの。
苦しく、苦痛に喘いでいる。
顔色は蒼白で身体のいたる所に、あの陵辱の痕を刻み。薬の所為で眠ってはいるものの
安らかな眠りではなく、浅く息、吐息を吐いている。
そんな、彼の身体にゆっくり、掛け布団をかけてやる。
できる事ならば、悪夢を見ることなく、ゆっくり傷を癒すために眠って欲しかった。
「…すまない。少尉、手間をかけさせたね…」
ハボックに、話しながらも。
エドを見つめる瞳は、ひどく優しい。
あの焔の大佐と言われる男が、これほどまでに、エドワード=「鋼の錬金術師」を
大切にしている事を。
今回の件で、嫌と言うほど知ってしまったハボック。
何となく、俺の出る幕なしかと思ってしまう。
「……いえっ…。あの〜じゃ、大将の事、あとお願いします!」
「ああ…判っているよ!私は、しばらく休暇をとる。その際の緊急の要件もしくは、その他、自宅で
できる仕事は、ホークアイ中尉に頼んで少尉、君に持って来させるよう頼んでいる。
すまんが、宜しく頼む!」
「はっ、判りました…!じゃ、大佐。オレ帰ります…。何か、大将のことで出来る事とかあったら
遠慮なく言ってください…。俺〜〜」
ハボック自身も、このやるせなさで一杯の気持ちをどうす事もできなかったが。
願うことは、エドの回復、ただ1つだった。その思いは、2人とも一緒である。
「判った!」
ハボックは再度、ベッドで眠るエドの頬を傷に障らないように、そっと触れ。
ホント…、ごめんな…。こんな目にあわせて!大人のエゴを……許してくれといっても…それじゃ、
おまえが…可哀想だな!でも、ごめんな…。絶対、次は、ないから!こんなこと…。
そう、ハボックは心でエドに謝罪をする。
そして、ロイとエドを、この部屋に残し帰って行った。
その後、2人きりとなったロイは、眠るエドを甲斐々しく、看病していた。
薬のおかげで、いつ目覚めるとも判らないエドの病状を看ていた。
他の事など、何も手につかずに彼の事だけを思い。一心不乱に、時間を忘れ看ていた。
結局、薬や点滴のおかげもあってか3日間、ベッドの中で何も食わず飲まず、うつらうつらと
エドは、半分眠っていた。
だから、この3日間の記憶は、とっても曖昧なものだった。
最初に目覚め一日は、ここは何処の状態だったが。
傍にはロイの姿が、彼の様子はとても心配そうに自分を見つめていて、エド自身もどうしたら
良いのか判らずに…ただ、ただ、意識が覚醒するたびに…。
エドは、頬を涙で濡らすばかりで…あった。
その上、一番熱も高かった所為もあり精神的にも、非常に疲れきっていてロイの姿を確認するだけで
眠っては、ふっと目をさまして。
また、まどろんでは眠りに堕ちた。
意識が戻っている間も、何一つ考えられもしなかった。
ただ、悪夢だけは切っても切り離すことができずに纏わりついたが。
いつでも悪夢は、妙に生々しくてリアルだった。
夜中だったか、半覚醒だった状態だったのかもしれない。
ふっと、何かの気配を感じて重い瞳を開くと、辺りは暗くてコチコチという時計の音がして。
この部屋は、今の自分でも判る。ロイの寝室だ。
部屋の灯りは消え、小さいスタンドの豆電球だけが灯っていた。
時計のコチコチと刻む音だけがやけに耳につく。シーンと静けさが、増す部屋だけに時計の音が
耳障りに聞こえる今は、深夜?なのだろうか…。
その夜の底で、自分独りがとろとろと、まどろむともつかず、目覚めるともつかぬ状態で…。
その時、ふうっと、ひどく生身の左側の身体だけが重いように感じた。
右側は機械鎧で感じることが出来なかった所為かもしれないが、左側の感覚が研ぎ澄まされた。
だが、感覚を感じる左腕を上げようとするけれども、どういうわけか、ぜんぜん動かなかった。
痺れて動かないというより、何かに掴まれているという感覚が強かった。
だが、不思議と恐怖はなかった。
掴まれている感覚が、温かくてこのまま掴まれていたいと思っていた、ぐらいだった。
どちらが夢で、何処からが現実なのか。まるでわからないままだった。
妙に安堵した気分で、もがくのをやめ動かぬまま身をゆだねてじっとしていた。
ふっと、ベッドの左側から何か小さく低く呟く…動物の喘ぎか。
すすり泣きのような音がそっとした。
それでも、不思議と恐ろしくはなかった。
誰かが泣いているかな…。
否、呟いている。
何を…。
……懺悔の言葉を。
と、熱と痛みに軋む身体と頭でうっとりと考えていた。
その時、ぽたり ――――――― と、左頬に何か冷たいものを…雫がおちた。
ぼんやりと、目をひらく。それともひらいた、と思っただけだったかもしれない。
あ ―――― っ!?
黒い大きなものが、ベッドに身を乗り上げて様子を伺っていた。
額にあてられる濡れた感触が心地よくて思わず、其の侭にお願いと言ってしまいそうで。
だが、その黒い大きなものの正体を知りたくて口に出してみる、それが声になったかどうかは
判らなかったが。
「……ロイ……?」
はっとしたとき、もう、その感覚は消え失せていて。
そのまま、そんな出来事がなかったように気力もないままに、エドの意識はまた泥のように
衰弱しきった眠りに堕ちていった。
次に目覚めた時は、とっくに朝でやっと自分の身体の状態と、今の現状を把握できるまでに意識は
回復したが、いっこうに身体の不調は続いていた。
それと、同時に自分を苛める感情が、ずっーと自分の心を支配し始めた。
愚かな自分を、覚悟の足りなかった自分を。理解してなかった自分を。
そして、【人間兵器】である自分を。
穢された自分を。
エドは現実を受け入れなければならなかった。
to be continued
そろそろ、起きてもらいましょうエド。
しかし、その後の精神的苦痛が…。
大佐に慰めてもらいましょうか?と思いつつ…。
うまく、筆が進まなくなってきた(汗)