人  間  兵  器    act.12













目覚めれば、えらく困った顔をしたロイの姿。


38度7分。体温計の示す数字をみてロイの首は、うなだれる。


「……ふうっ…、困ったな。気分は、どうだ…?エド…」


眩しい朝日の狭間から、この現状を見られたくなかった人物が、顔を覗きだす。
――― 、最悪な目覚めだ…。何も、かも無かった事にして欲しかった…。この醜態を
晒したくなかった…。
たとえ、夢の中、錯乱した状態でも…、この男だけには知られたくなかった…。

エドの表情は、苦痛以外の様々な感情が、沸きたつ。苦悩の…文字が、彼を苛む。
だが、もう起きてしまった事は、過去には帰られなかった。
彼が言う言葉は、決まっていた。


――― ごめん…」


エドの悲愴な一言。


今まで意識が、朦朧としていた時の言葉ではなく。
しっかりと理解した言葉。「ごめん…」。
全ての事を、この一言に集約した重い言葉が、ロイの胸に染み、痛みを伴う。
その言葉は、君の言う言葉ではないのに…。
エドの言葉に詰まってしまったロイは、エドの肩に腕を差込み、そっと抱き上げ自分の額とエドの額を
こつりと合わせた。
触れ合う額は、片方は熱く熱をもっている。
もう片方が、その熱を吸い取るように長く続けられた。


「……エド…」


正面からロイの顔を見れないエドは、顔を横に背けた。
ただ、ロイの視界から遠ざりたかった。それだけ…、だった。
…あっ……あぁ…もう、やだぁ…!
そう、投げやりな事を思いながら壁面を見つめるエドの瞳からは、いつの間にやら涙が
じわりと流れる。
いつみたか判らないリアルな悪夢の続きのようで、だが今は、わかるこれは、悪夢じゃない。
現実の世界で何が起こっている。
そして、今どんな状態か…、しっかりと理解できた。
涙をロイに見せたくなかったから。
自分で拭って判らなくしたかったエドは、左腕で自分の顔を覆うように、上に持ち上げる。
が、傷の痛みと、何やら管が邪魔してうまく運べなかった。
それでも、自分の涙を見せたくなくて悪戦苦闘しながらも、腕を目元まで引き寄せた。
その様子をみてロイは、苦笑いするしかなかった。


「…そんなに、すると点滴の針がはずれるよ。エド…」


生身の左腕にはあちこち蒼痣の痕。手首には、痛々しく白い包帯が巻かれてある。
内肘には、点滴の針が動かないように固定していて生身の腕は、どこもかしこも触れるのを
躊躇するような、箇所ばかりだった。
怒るわけでもなく、そっと宥めるようにいうロイの声が、更にエドの涙腺を弱くする。
ロイは、仕方がないという手つきで、そっとエドの左腕を掴みあげる。
その代わりに、濡れたタオルを目元に置いてやる。

隠すことができない涙を、彼の希望通りに見なかったことにしてやりたかった。
それで、彼の傷ついた硝子の心が、少しでも元に修復できるのならばと。

それと、同時にエドは、今迄耐えに、耐えてきた感情が噴出してきた。
どこにも、やりようのない哀れな悲しい叫びにも似た嗚咽が、とどまる事を知らぬようにながれる。
そして、流れる涙は、濡れたタオルに吸い込まれていく。


「…っ、ひっく……ひっ…く…うっ……はっぁ…」


ロイは、しばらく、そっと彼の哀愁の声を聞いていた。
今は、感情を押し込めることより、そのまま自分の心のまま、投げ出すほうが良いだろう。
ゆっくり黄金の小さな頭を撫でながら彼が、落ち着くのを待つ。
一体、どのぐらい時間がたったのだろうか…。
だが、泣くという行為は体力を浪費する。
只でさえない体力は、消耗が酷く彼の身体は、悲鳴を上げ始める。


「…っ、ハァハァ…くっ…痛い〜胸…っ…いてぇ…」


エドは、嗚咽と一緒に胸をぎゅつと握り締める。
漸く、落ち着きを見せ始めたエドの目元からタオルをとりロイは、自分と彼の視線を合わせる。
目元を赤く腫らせて、いまだ潤んでいる黄金の瞳。
その瞳は、しどけなくロイの黒曜石のように黒い瞳をみる。
ロイの黒曜石のように輝く瞳は、少し柔らかく微笑んでいた。


「痛むかい…。あまり、泣くと肋骨が痛むよ。エド…肋骨が3本折れてるそうだ…。それと、内臓が
だいぶ傷ついている。あと、打撲に擦り傷だな…。ちょっと酷いらしく、しばらく絶対安静だそうだ…」
「……っ…何で…。アンタここにいるんだ。仕事は…オレっ…オレ…あれから…どのぐらいたった」


エドは今迄聞けなかった事を、否、出来れば聞きたくなかったことも…だが、一気に問い出した。
意外と、しっかりした問いかけにロイは驚きはしたが。


「一週間ほど、休暇をとったんだよ私は……。君は、あれからそう3日ぐらいかな…ずっうと、眠ったり
目覚めたりを繰り返していたかな?…」
「…そう、迷惑かけた…。ごめん…」

エドは、辛そうに事実を聞く。そして、瞳を曇らせた。
彼の胸中では、様々な葛藤が嵐のように吹き荒れている。
それから、必死に…。今、ある力でなんとか、身体を起こそうと、力を込め始めた。


「…!?」
「エド!?何をやってるだね!さっきも言っただろう。君は絶対安静だ!」
「…っはぁ…あっ…行かなくちゃ……。ここには、いられないから…オレの機械鎧の脚は?」
「何を言っているだね!いいかげんにしたまえ!」
「……ハァハァ…。だって…アンタ、見たんだろ!あんな姿…オレの…惨めな…犯られたんだよ…。
ハァ…うっ…いっ…輪姦されたんだよ!なのに、アンタの…ロイの傍にいられないじゃんかよ…。
うっ…。」


ロイは、一生懸命に痛む身体を起こそうとしているエドの両肩を思いっきりベッドへ押さえつけた。
うつろに揺れる瞳を燃えるような焔で、エドの視線をしっかりと、捕らえる。
エドは、その焔の瞳から逃げることが出来なかった。
焔の瞳は、熱さと一緒に、哀しい瞳の色もしていたから。


「いいかげんにしなさい!君だけが傷ついるんじゃない!君を守りきれなかった私だって……
辛いだよ!エド…君を、【人間兵器】にした私だって……。君を守れる、と思っていた私だって…」


ロイの心から這い出す言葉に、エドのステンド硝子のように薄い心に響き音をなして壊れた。
愕然とする。エドの渾身の力が、抜けていきベッドへとエドは、身を沈ませた。
エドのぐらつく頭は、あの黒い嵐を…、思い出す。思い出したくなくとも。
それは、…勝手に映像化してしまう。
【人間兵器】。そう、オレは……だから、……でも、助けてと叫んだのに。


「コンコン、コンコン…」


玄関先から扉を叩く音がする。音は時間が、経つと共に大きな音に変調していく。
今の状態のエドをこの部屋に1人にするのは、非常に不安だった。
が、止む得ずロイは玄関先の客人の所に、向かうことにした。
ベッドに慢心創痍の身体を力なく沈ませているエドに、声をかける。
その瞳は、硝子玉のように…何処を見ているのかわからない。
悲しい瞳のエド。


「……ちょっと外すだけだから、いいね。すぐ戻ってくるよ」


呆然と何も映していない瞳が、気がかりだったが。暫くの間、だけだからと言い聞かせて
ロイはエドをこの寝室に1人にする。


扉がパタリ、としまってからのエドの心は、深底に沈んでいた。
逃げたい…。
何から…。
何もかも…。
ここから…。
どこへ…逃げだしたい。
どこへでも…。
誰と…もう、わからない。


必死にベッドから起き上がり、自分の左腕に刺さる針を抜き取った。
彼の満身創痍の身体の、どこにそんな力があったのだろう。だが、身体はうまく力が入らずに
カタカタと振るえてしまっている。
その上、身体を起こした事によって頭の芯が、フラフラとしている。
腹の中は臓腑が、直接揺り動かされるように気持ち悪く、重い。
身体中が、嫌な汗が流れ落ちる。
なんとか、ベッドサイドに手をつきベッドから降りようとするが、それは無理なことで…。
機械鎧の右腕が、鉛のように重く感じられ、そう思ったときには、身体は、ガチャンと大きな音を
鳴らして堕ちていった。


左脚がない。


「うっあ……いっ…うっ……ぐっ…!」


床に落ちた、衝突の疼痛と身体を動かすたびに激痛が、走るのと同時に、鈍い痛みが身体を
這い回る。何をしても身体が、悲鳴を上げていた。


「ハァ…ハァ…っ……いっ…逃げたい…。もう、…やだ…」


立ち上がる事の出来ない身体で床に這って進んだ、何度も床に自分の額を押し付けながら。
それでも、機械鎧の右腕と生身の左腕で前に這って進んだ。


意識的なものか、精神的なものか。


目覚めたときからエドの視界は狭く、ありとあらゆるものから自分を拒絶しているようだった。
だから、今も、見えるものは限られていて…。
ぽっんと部屋の片隅に立てかけてある機械鎧の左脚しか見えていない。


いや、見ようとしなかった。
ロイの言葉も聞こうとしなかったから…。


大きな物音にロイは、嫌な予感がした。


まさかと…。


玄関先で訪問客と会話をしていたロイだったが、用件をすませ胸騒ぎがする部屋へ足早に
戻ってみると。






そこには…。



































to be continued










エドの感情が爆発する寸前…。
次回で爆発する予定です!人間ストレスは溜めては駄目よ★
もう、そろそろで話を完結しなれば…しかし、終わらせ方がわからない(悩)