人  間  兵  器    act.13












ベッドから降り、床を這いずり己の機械鎧の左脚を求める
哀れで儚げなエドの姿だった。
必死に歩けない身体を…。
うまく動かない身体で<求める物の所へ辿り着こうとする。




ロイは、唖然としてしまった。




あんな身体のどこに、これほどまでの力が、あったのだろうか。
それと、同時に虚しさに駆られてしまった。
そんなに、私と一緒にいる事が嫌なのか…。私の事を信用してくれないのかと…。


様々な感情が漲っていく。虚しさ、悲憤、無情、…最後に憤怒。
そして、1つの結論に達した。
絶対に…許さない!私から逃れることは…。

ロイは氷塊のような冷たい表情で、床を這いずり回るエドの傍に歩みより跪き、力強く抱え上げた。
しかし、その身の内には表情とは正反対の焔の炎が燃え上がっていた。


もう、抵抗などできないように…。
私の傍から逃げることなどできないように…。


強く、力を込めて抱きしめる。痛い、と苦痛の悲鳴をあげようが、抱きしめた腕を離すことは
絶対なかった。
抱き上げられた手がロイのものだとわかっていたが、エドの身体は頑なに拒絶する。


何もかもから拒絶する。


「いゃだ…離せ!……もう、っう…オレにかまうな…ハァ、ハァ、ハァ…頼むから…」


拒絶の意味をあらわすかのように機械鎧の右腕が、あらぬ方向へ振りまわされる。
その腕もろともロイは、掴み取りエドの拒絶の行動を諌める。


「駄目だ…!エド、絶対に許さない!私の傍から、否、この世界の理から逃げ出すことは
絶対に許さない…!私の希望の光を消さないでくれ…。エド、君の為に導かれた私の道を
閉ざさないでくれ…。エド、私は君がどんな姿になろうと…どんな事があろうと…君への思いは
決して変わらない!」


傷ついた身体。
どこをさわっても激痛が、走る身体にロイは渾身の力を込めてきつく抱きしめた。
そうでもしないと、この思いはエドに届かない。
エドは、きつく抱きしめられる身体に息が出来ずにいた。
だが、その抱きしめられる身体に、やっと一滴の水滴が落ちるように心に言葉が滲み込んできた。
雫は心を揺り動かす。
何も見ようとはしない、そして、聞こうとはしなかった心をゆっくりと、穏やかに緩和させていく。
心の奥底に沈んでいた、今までの思いが、堰き止められていたダムの水が一気に、流出するように
流れ出した。
もう、止める事は出来なかった。流れるままに思いは…溢れ出した。
ロイのシャツに遠慮なく流れる涙の雫を染みに残しながらエドは、思いを綴った。


「…っ、ホントは…オレは助けてもらいたかった…。あいつらの手から、助けてって叫びたかった。
だけど、【人間兵器】だって言われて…軍の戌って言われても…アルの為だから、そんなの…
判ってるから、と我慢してた必死に。そんで…そんで…、こんな事された身体をロイに晒すのが
怖かった…っ。…ひっ…」


エドの小さな黄金の頭を優しく胸と手で挟み込むようにロイは、エドの掠れ々に発する言葉を
一言一句、聞き漏らす事のないように聞きいった。


「……エド…、うん、ちゃんと聞いてあげるよ…。エド」
「ひっく…それでも、…苦しくて…オレの所為でアルの身体が、あっちへ持っていかれたのも
判ってるけど…。オレの責任だと…判ってるけど…。もう、きつくて…でも、アルの前じゃ…、
みんなの前じゃ、絶対言えなくて…。【人間兵器】、軍の戌になる事を選んだのも自分だけど…」
―――― …」
「実際に【人間兵器】だって言われて、っ……それで…軍の連中の癇に障って輪姦された時も…
どうする事もできなくて…」
「……エド、…」
「そして…っ…今も助けて欲しくて…きつくて、こんなの辛い事、全部捨てて、逃げだしたくて……
でも、出来なくて…もう、ロイ助けて…もう、ヤダ…助けて……」


エドの今迄、蓄積され続けた、心の叫びがロイの心に浸透する。
彼の悲嘆は…、咎は…、酷く残酷なものだった。
まだ、成人もしていない少年が…。否、大人でもそうそうに抱えられるものではないだろう。
それほどまでの、罪の重みを彼は、1人で背負っていたのだ。


「エドワード…、逃げては駄目だ。いいね!絶対に、どんなに辛くても逃げてはいかん、
君の背負うものが、例えどんな困難なものでも絶対に諦めてはいけない…。君の辛さは、
限られた一握りの人間。だけが、理解できる、その1人だ。私は…エド」
――― …」
「だから、私が君の辛さを背負ってあげよう。一緒に分かち合おう。1人で苦しまずに、
1人で背負ってしまわずに…、1人で駄目なら、アルフォンスにも手伝ってもらってね。
君の弟は、言っていたよ。1人で背負わないで…とだから…エドワード、逃げないでくれ」
「………っひっく………」
「エド、逃げないでくれ…。私の傍に…」
「…っ…ひっく…オレ………ロイの傍に…っ、いても…アルの傍に…っ、ひっく…いてもいいの?」
「ああ…、いてもいいんだよ!いや、いてくれ!私の傍にも、そして、君の弟の傍にも…君だけで、
何もかも背負うんじゃない!だから…逃げないで…」
「………ロイ……ごめんなさい……」


消え入るような言葉だった。
ごめんなんて、謝れる必要など決してなかった。
謝るのは、寧ろ自分の方だと思っていたのに。


「君が、謝る必要なんて1つもない…。だが、身体は大切にしなくてはいけないよ!自分の身体を
傷つけたりしてはいけない。いらない身体なんてないんだよ!さぁ…ベッドへ戻ろうエド…
また、熱が上がってしまうだろう。」
「…ロイ、うっん…っ…」


やっと、身体の緊張を緩めロイの身体に、身を委ねるエド。
ベッドに寝かしたエドの泣きはらした顔を濡れたタオルで冷やしてやる。
幾分、落ち着きはしたようだが、先程の大立ち回りでやはり熱が上がってしまっている。
いい状態とは、言えず。荒く、辛そうに呼吸するエドの顔を覗き込む。


「…エド、やっぱり熱がこのまま続くようであれば…あまりよくないな…」
「………うん、っふう…ハァ…」


生身の左腕をだるそうに額にのせて自分の熱を測ろうとするエドの様子は、辛そうであった。
エドの身の内に燻り続ける熱は本人では、どうすることもできずにいた。


「エド…このまま、下がらないようであれば…座薬でもいれるかい!」


座薬という言葉にエドの顔色は、蒼白と真っ赤を繰り返し、涙で目を腫らした瞳をロイに
しっかりと向けて。


「……ぜってぇ……ヤダ!///」
「はははは……っ」
「…何、笑ってんだよ…オレ、結構きついんだけど///」


その表情を見てロイは、思わず笑みを零す。


「いや、久しぶりに君のそんな顔をみたよ…。なんだか嬉しくなってしまってね!」


だるそうにだが、ロイの視線から逃れるようにそっぽを向く。
その表情は、少し照れているようにも見える。
久しぶりみるエドの笑顔、否 苦痛以外の表情に安堵する。
心の蟠りを一編に吐き出したことによって、これから、徐々に回復へ向かっていくのではないだろう。
このはにかんだエドの笑顔と共に、ゆっくりと。


「じゃぁ…仕方ないな。少し眠りなさい。今度、目覚めたときは少しは、気分も良くなっている
はずだよ」


その言葉に、やっと少し穏やかになりつつあった彼の表情が、ついと消えた。
そして、曇る。その変化に、ロイは驚き。


「ん…?どうした…?」
「……あんまし…眠りたくない…。オレ…っ、夢にみるんだ…。あの時の事…っ…」


ベッドから見上げる瞳は酷く不安気で、そして頼りなく儚げだった。
誰かに、助けを求めるように瞳がロイにすがりつく。


「大丈夫だよ!ちゃんと私がついているよ!魘されていたら起こして上げよう」


エドの頼りなげな表情。不安を抱え込む心に…。
まだ、悪夢は終わっていないと知らされる。
今は、やっとここまで介抱へ向かいはしたものの精神的なトラウマは、さぁすぐ…にと回復するには
時間を必要とするようだ。
怪我を負ったように、完治するものではない。
それは、イシュバール殲滅戦に参戦した、強靭な軍人達も、今も尚、悩まされると言う症例を
いくつも知っているロイだったから。


「………う〜ん」


疲労がピークになっているエドはその言葉を言ったあと、沈み込むように眠りへと誘われていった。
今度こそ、悪夢など見なくて良いようにと、ロイがしっかりとエドの手を握り締めている。
もう、悪夢は終わってくれ…。
彼にはそれだけの咎を与えたはずだ。
だから、今は、少しでも良いから癒しの時を捧げてくれ。
ロイの一途な願いだった。











































to be continued










エドの心が爆発しました!
少しロイの心も?
でも、人間溜めては駄目よ…思いは伝えないと伝わらない。
その為に言葉がある…。
言葉を理解してくれるかどうか判らずとも伝えることは大切なこと…。

私は、伝えられずに溜めていて…溜めて溜めて、とうとう爆発しました
案外…言ってしまったら周りの事(聞いた人はの心)はともかく
自分は、すっきりしたような否 救われたような…言えた自分に
すみません 謎の言葉を残してしまった

次回から甘い〜〜砂吐くほど甘い…
本当は、「13」で完結する予定だったのですが…続いてしまった
おかげで、収集がつきません…読んでいらっしゃる方に今後が申し訳ない…
若干、更新遅めかな…