人 間 兵 器    act.15













「コンコン…コンコン…!!!」


ロイが休暇をとってもう、一週間ほどたったある日。
玄関の扉を叩く音。
玄関に向かい扉を開くと、そこにはハボック少尉とアルフォンスの姿。


「あぁ…君達か、入りたまえ」


ロイは、2人をリビングへと通す。


「すみません…。大佐、兄さんがお世話になって…。今回は…ずっと看てくれて…」
「アルフォンス、君が謝ることではない!これは、私の責任でもあるのだから、君からの謝罪は
いらないよ。謝るのはこちらのほうだよ…」
「そうですか……、大佐…兄さんの様子は…」
「そうすっよ…。この前、オレが大佐に書類渡しに来た時は、よく眠ってたみたいだったから〜
話とか、できなかったし…。少しは、元気になったすっか?大将…」
「あぁ、まだベッドの住人だが随分、快復してきたよ…。熱も下がってきたし…昨日ぐらいから本を
読ませろと五月蝿くてね……!」


エドの容態が、少しばかり快方へ向かっていると聞くと。
アルフォンスの声は、急に、元気になる。ずっと…、暗い雰囲気で会話を続けていたから。
尚更に。


「じゃ、大佐!兄さんに僕あって来てもいいですか?」
「……是非に、会いたがっていたよ。彼には伝えているから、この部屋を出て向かいの部屋だよ」
「すみません…じゃ!」






アルフォンスの足取りは軽く待ちわびた人に会えるという思いで一杯だった。
だが、その反面エドの暴行を受けた傷を間近に見て、平常心でいられるのか、どうか…。
その方が、問題だった。
兄を思うが、故の…この心の行き場のなさをどう埋めたら良いのだろう。
扉の前で、一呼吸してノックをする。


「…兄さん、僕…アルフォンス…入るよ」


部屋に入ったアルフォンスは、広々としたベッドにいる兄の姿を久しぶりに見た。
明るい空間に、自分が凄く心配していた兄は、いた。


「…アル……」


意外と、しっかりとした声がアルフォンスの耳に届く。
兄の姿は、気だるそうに背中に置かれた沢山のクッションに背中を預けて身体を起こしていた。
枕元には、本が何冊かベッドの上に積まれている。
随分良くなった、と大佐の言葉に案外安心はしたが、間直に見た兄の姿は…。
色んな所に、真っ白な包帯が、巻かれ蒼痣や擦り傷が痛々しくて、やはり目を背けたくなる。
アルフォンスは、ゆっくりと、ベッドの住人である兄の傍による。
久しぶり会った兄は、少し痩せていて真っ白な包帯とシーツに囲まれて、更に、儚さが増した。
なるべく、穏やかに声を掛ける。
優しく、いつものように、たわいのない会話をしようと…。


「兄さん……、大変だったね…。どう、身体の調子は…」
「……あっ、アル…ごめんな…迷惑かけて。」


少し、オドオドしながら、エドは俯きながらアルに言葉を返す。


「ううん…迷惑だなんて……思ってないよ。こうして、取り敢えず無事に兄さんに会えて
良かったよ…。」


伝えなくちゃ、いけないことがある。
アルフォンスに…。
唇を噛み締めながら、エドはアルフォンスに顔をあげる。


「アル…お前に……色んな事、話さなきゃって思ったけど…。何か胸がつまちっまって…
何、言っていいやら…座れよ。そこ…」


左手が椅子を勧める。だが、その左手首には包帯はしてはいなかったが、くっきりと
蒼痣が痛々しく残っていた。
痕は、誰かの手によって、きつく握り締められていたように見える。
アルフォンスは、自分の鋼鎧にはない心臓が、ギリギリと鳴く音が聞こえた。


「いいよ。今、急いで話さなくても僕らはまた、いつでも話し合えるからね…。それより
寝てなくていいの…?熱あるって聞いたけど…」
「………、アル。オレ…」


兄に起こった惨劇を再び、思い起こさせるのは忍びがたかった。
まだ、身体が全快したわけでもなく取り敢えず、快復へ向かっている状態なのを
こじ開けるまねは、したくなかったから。
そう、時間はたっぷりあるから。


「…/// 大佐の奴だろ!そんな事言ったの…寝てんのに…疲れた!熱は…微熱だよ!
それよりさ<大佐の奴から借りた本にも、色々興味深いもんがあって。ほら…、これなんか…」
「もう、兄さんたら…」
「うん……アル、オレ、もっと強くなるから…」


本に目を奪われているような様子だが、実は恥ずかしくアルフォンスの顔を見て言えなくて…。
でも、エドは、この言葉をアルに伝えたかった。
どんな事があっても前を走り続ける、後ろは見ないと言う気持ちを伝えたかった。
そんな兄の様子を察してなのか。
アルフォンスは、エドが思いもしなかった言葉を振りかけた。


「兄さん…。ねぇ…、ちょっと兄さんを抱きしめてもいいかな?」
「……はぁ!?……///…アル、何言ってんだよ。恥ずかしいなぁ……」


じっとアルフォンスを見つめる。


鋼の鎧には感情がない…、否、わからない。


だが、エドにはわかるアルフォンスの魂がこう言っている。
兄を抱きしめたい…。大切な兄を…、この手で確かめたいと…。
だから、アルフォンスの願いを大人しく聞いてやる。


「……いいよ。だけど、まだあちこち痛いんだからな…/// 」
「うん…兄さん」


アルフォンスの鋼鎧の両手が、そっとエドの少し痩せて傷だらけの身体を優しく抱きしめる。
エドも、それに応えるように鋼鎧の胸に額を合わせる。
アルフォンスの魂に、一番近い場所に…届くようにと思いを込めて。
何が、起ころうと…もっと、強くなると。


「痛い?兄さん…、1人で背負わせてごめんね…。僕もいるんだから…ね、忘れないでね!」
「…大丈夫…。アル、うん…わかった」


時が、止まる。
短い言葉だったが、お互いの存在の大切さを深く確認した瞬間だった。




「ハボック少尉もお見舞い来てるよ。兄さん、今は、大佐と仕事の話してるみたいだけど
すっごく会いたがってたよ」
「そうなんだ…。少尉にも色々、迷惑かけちゃったからさ…謝っとかないと…」
「この前、来た時は兄さん。爆睡してたみたいで会えなかったとか言ったけど…」
「……おい、爆睡って言うなよ!何だか、すげぇ…眠れるだよ…。薬の所為かな?」
「へぇ……、早く治ると良いね。大佐は明日から司令部に出勤するらしいよ。その間、僕が
兄さんを看てあげるよ!」
「げっまじかよ…」


2人、いつものように、話をする。
やっと…、お互いの心のモヤモヤが解消されて、すっきりしたような気分だった。
すると、扉の向こうから噂をしていた人物の声が聞こえる。

「お〜い。入るぞ…大将!」
「あっ、ハボック少尉だよ。兄さん!どうぞ…」






蒼い軍服姿のいつものハボック少尉が、部屋に入ってきた。
エドは、何気にドアが開かれた部屋に入ってきたハボックを見る…。
だが、どういうことだろうか。


心臓の鼓動が…、跳ね上げた。身体が…震える。


ハボックの姿を見たエドは、言い知れない何かが、身体中を支配し始めた。


「ハボック少尉…。もう、仕事の話は終わったんですか?」


アルフォンスは、彼といつも通りの会話を始める。
世界は、何も変化はしていない…。なのに何故…。
オレだけ…。エドの不安が高揚する。


「おっ…大将、もう…起きれるようになったんだ。よかったな…!」


ハボックも何事もなかったように、エドに話しかける。
そう、何も変わっていない。何か変わったのはオレだけ…か。
アルフォンスの傍までよってきたハボックは、アルフォンスに椅子を勧められる。


「大佐は?…ハボック少尉」
「あぁ…。まだ、書類やってるよ。大将、ごめんな…俺の管轄でお前をあんな目に
あわせちまって」


ハボックの声は聞こえる。なのに、現実味がない。
耳元で、何かが聞こえる。キーンと、意味の無い音がしている。


「うん?…大将、大丈夫か…どうした?」
――― あっ、…オレこそ……迷惑かけて…ごめんっ………っ」


少尉が、心配してくれているのはわかる。
だから、返事しなくっちいけないのもわかる。けど…、うまく言葉にならない。
何、何…どうした。
世界が変わる…、ぐらつく…貧血か、違う…わからない。


エドの身体は、小刻みに震えシーツを強く握り締める。そして、何かに耐えようとしている。
冷たい汗が、背中を流れるのがわかる。寒い…。


黄金の瞳は、何かを訴え続ける。その何かが、わからない。
だが、瞳の中から逃れられないものがある。
それは、蒼い軍服。ハボックが着衣している蒼い軍服。
心臓の鼓動が、激しく鳴り響く、止められない。
肺が、異常な速さで空気を吸い込んでいく。折れた肋骨が、キシキシと軋みだす。
エドは、胸のシャツをギュッと掴み自分で異常な速さで刻み続ける鼓動を抑えようとするが。
急な、エドの身体の変調に、アルフォンスとハボックが気づき始め、慌てる。


「……!?兄さん…気分悪いの、顔色真っ青だよ。横になったほうが…」
「おい、大将まじで…大丈夫か?」


ハボックが、心配そうにエドの方に手を伸ばしてくる。
蒼い軍服から伸びてくる手は、あいつらの手…?



オレは、まだ…悪夢を、さ迷っている。
この悪夢に、終わりはあるのだろうか。今は、明るい日差しを浴びている部屋が、暗く、重く
闇の世界へと変わっていく。














































to be continued










アルエドが書きたかった…。
鎧姿のアルに抱きしめられるエドを…です。
しばらく、アルが出てくる予定です。
次回、精神的な苦痛はそんなに早く快復はしないよ編!
私的には、むしろその後のメンテの方に時間がかかると思うのですが…