人 間 兵 器 act.17
翌朝、朝日が部屋の中を包み朝の訪れを知らせる。
小鳥のさえずりの声が、響き渡る。
何事もなかったように、夜は明け朝がやって来る。当たり前の事だが…。
アルフォンスには、その区別が大差ない。
だが、日常が始まり。
時は刻み続ける。
「アルフォンス。ではすまないが…エドの事を頼むよ。なるべく早く、帰宅する予定だから
それと、医者を呼んでいるから看てもらうように…。信用の於ける人だから大丈夫だ…」
「あっ…はい。大佐、何から、何まで…昨日もあんまり眠ってないんじゃ?」
アルフォンスに自虐的な微笑を浮かべるロイのその表情が、何気に昨晩の事を
思い出してしまうが。
駄目だと…、それ以上は…、彼の精神が拒否をする。
「私の事は大丈夫だから…。すまない、エドの様子を看てくれ」
ロイは、アルフォンスを残し軍司令部へと出勤していった。
しかし、残されたアルフォンスには、昨晩の光景が頭をよぎっている。
2人の関係を…。
薄々、気付きはしていたが、この目で直に見てしまった。
もう、逃れられない事実。
差し伸べる、兄の両腕に優しく応えるように…、そっと兄の背中を抱く大佐の姿。
抱かれる事に安堵する兄。僕には決して見せてくれない表情。兄弟だから…なのか。
それとも、禁忌を犯した兄弟だからか…、兄の穏やかで安心したあの顔を見たことがない。
今のアルフォンスには、兄と大佐に対する気持ちが複雑に絡み合っているだが、今は…そんな事を
考えてる場合ではない。
この気持ちは…今は、閉じておこう。
そして、この2人の思いが…、これが、兄の救いになれば、僕には…。
アルフォンスは、ロイがいてくれたからこそ、ここまで快復したのではないだろうかと思う。
今は、この2人の関係に…絆に頼ろうとアルフォンス、は思うことにした。
静まり返った部屋の中で悶々と時を忘れて考えるアルフォンスだった。
ちょっぴり、あの寝室に入るのを躊躇ってしまったが、兄の事をロイに託されいる。
コンコン…。
静かに、ドアを叩くが返事は返ってこない。
「兄さん?入るよ…」
朝日が差し込むはずのこの部屋には、カーテンが、引かれている。
眠っているエドを配慮しての事だろう。
兄は、眠っていた。
静かに、青白い顔色が、具合の悪さを語る。
緩やかに胸は呼吸を繰り返す、それは、上下するシーツによって感じ取られる。
よかった…昨日の状態では、呼吸することさえ侭ならなかったから。アルフォンスは、額に
乗せらていた濡れたタオルを取り替える。
僕には、兄さんの熱さがわからないけど、少しでも楽になるようにと、細かく兄の状態を観察する。
感じることや、触れることはできないけれど僕には、まだ視覚というもので看病することができる。
だがら、まだ大丈夫。
アルフォンスの気配にエドワードの眠りが、覚まされる。
濡れたタオルの隙間から、黄金色の瞳がうっすらと開かれ、瞬きをする。
「あっ…ごめん、起こしちゃった」
熱に潤む瞳が、数回瞬きする…。
視界に、誰かいる。
確認する。
そして、安堵する。
エドの精神は、今、万華鏡のようになっていた。様々に色を、形を変えていき安定しない。
「アル…?」
「うん…僕だよ」
「どう?…具合?」
「アル、起こして…。ごめん…オレ自分じゃ、力がたんねぇーだよ」
「でも、…止めといた方が、昨日の今日でしょ。それに、まだ熱あるよ」
その言葉に、エドがびくりと反応する。
ああ、そうだった…。
だから、尚更試さなければならない…。ある事を…。
「頼むから…、調子悪かったら横になるから」
兄の黄金色の瞳は、何かに挑むようだった。そして、この願いはアルフォンスに頼むしかない。
彼は、弟に切迫した瞳を向ける。
アルフォンスは、その瞳から逃れることは、できずに兄の言う通りにする事にする。
「じゃ…ちょっとだけ、だよ!」
「ああ……」
アルフォンスは、あちこちにある傷になるべく触れないように細心の注意をはらって
エドの背に鋼鎧の腕で、支えながら身体を慎重に起こしやる。
エドは、アルフォンスの身体を感じた。いや、感じたかった…。
誰かに触れられる事を…。
昨日の恐怖を確かめる為に、必要だと思っから…。
確かに、アルの体は人とは違う鋼の鎧、体温を感じることも、皮膚の弾力を感じる事もない。
だが、魂はある。震える魂。それは、自分がそこに繋ぎとめている。
自分の血によって…。
だから、アルの体は人の体だ。旅を続ける間も、彼の体を肉体として感じていたから。
その擬似肉体かも知れないが、それに触れる事がエドにとって大切な事だった。
アルフォンスに身体を委ねる、少し強張る身体。
だが、何もない。
当たり前のように身体は、何も反応しない。
昨日の恐怖を感じない、感じたい訳ではなかったけど…。何もない…。
何故。
ベッドヘッドに枕やクッションで高さを調節して、アルフォンスはゆっくりエドの身体を
凭れかけさせ、様子を聞いてみる。
少し、戸惑いを見せる、兄の表情に戸惑いはしたが。
いつもの通りに兄に接してみる。
「どう…兄さん」
「………」
返答の帰ってこない兄の様子に、少々不安を感じてしまう。
心、ここに在らずのように…エドは、何やら考えているように見えるが、再度呼びかけてみる。
「兄さん?…」
「あああ…大丈夫そう」
その言葉を口にした後、エドは黙ってしまったが、アルフォンスは、彼の事を暫くそっとする事にした。
エドワードは、真っ白なシーツの上をぼんやりと見つめ、思う。
こんなのは、もう…沢山だ!怯えて暮らすのは、嫌だ。
だが、身体はいう事をきいてくれない。
どうして…、何故…、どうしたらいいのか。
オレには、やるべき事があるのに…、もしかしたら…このまま、外の空気さえ吸えなくなるの
だろうかと、疑心暗鬼に陥ってしまう。
頭は、昨日の恐怖を、いや…。
あの黒い嵐の日の事をずっと覚えていて…、するとエドの脳内で昨日ことが瞳の奥で蘇り始める。
見たくない、映像が繰り返し映し出される。
恐怖で、身体が震えるガタガタと嫌な汗が、背中を伝っていく。
「兄さん…!大丈夫…寒いの」
アルフォンスの声が、キンキンと脳髄まで響く。
エドは、カタカタと震えながらアルフォンスに助けを求める。
「アル…、っ…やっぱ…調子…悪いっ…横に、なる…」
必死に伝える。アルフォンスに助けを求めるべく顔を上げるが、瞳から涙が零れそうになる。
もう、嫌でたまらない。自分が…。
すぐさま、アルフォンスは駆け寄り震える身体に触れ、言われるままにベッドに寝かせながら
確認する。
アルフォンスも、今の兄にどう対処していいか、実際判らないのである。
「兄さん、僕は…、兄さんに触れても大丈夫なの?」
その言葉に、横にながらもエドワードはこくりと頷き、掠れた弱々しい声でアルフォンスに
伝える。
「……おまえは、…大丈夫…っ、オレ…ヤダ、こんなの…」
エドの悲痛な叫びが、アルフォンスにも伝わる。
「ゆっくりでいいよ。兄さん…ね。横になって少し、眠ろうね…」
「……アルっ……ごめんっ…」
「いいって…」
いまだに、カタカタと震える身体を押さえる事が、できずにいる兄の背をアルフォンスは
ゆっくり擦っていく。
ふれても大丈夫と…言われたから。
できるだけ、気持ちを込めて兄の背を擦っていく。鋼鎧だけれども…兄は、僕の身体を肉体として
思い、扱ってくれるから。
アルフォンスのそんな思いが伝わったのか、次第に震えが治まっていきエドは、静かに瞳を
閉じて眠りの中に引きずられていった。
「すみません。…」
ノックスが、玄関の戸を叩き、暫くして鋼鎧が、玄関から顔を出す。
まぁ、噂には聞いていたし…マスタングの奴からも話は聞いていたので、さほど驚きは
しなかったが。
「ああ…。お前さんが、あの子の弟君かい」
「あっ、はい。あのー、驚かないんですか」
「話は、聞いてるよ。それと、俺は一応、軍の監察医だ。名前は…ノックスでいい」
気難しそうな男にアルフォンスは、少々物怖じしてしまうが、大佐が信用の於ける人であると
アルフォンスに教えてたので、丁重に挨拶をする。
「兄を診て頂いたそうで…どうも、ありがとうございます」
「いや。対したことはしとらんよ。それで、今は…」
「ええ…ちょっと、今は…眠っているのですが」
アルフォンスは、容態を聞かれるが、口を濁してしまう。
昨日の今日で…どう説明していいものやらと思っていたのである。
「ちょっと、診ようかね。……おまえさんは、ここにいた方が良いだろう」
アルフォンスは、不思議に思う。自分も当然のように兄に付き添ってと思っていたのだが…。
鎧姿の為、表情を伺う事はできないが、ノックスは彼が、戸惑っている事に気付く。
「まだ、あんまり…傷を診ないほうが、お前さんにはよかろうし…あの子も、診せたがらんよ」
その言葉に、アルフォンスは昨日の事を思い出す。
確かに、昨日は急遽その場面に出くわしてしまったが、彼には非常にショックであったから。
静かにノックスの言った事を理解して、兄の事を任せる事にする。
「はい…、じゃ、お願いします。僕、この部屋にいますから…もし何か、必要な時は言って下さい」
「ああ…」
ノックスは、いつも通りのしかめっ面のまま、エドが眠る部屋に入っていった。
カーテンの引かれた部屋に入ると、エドがぼっーと天井を眺めている事にノックスは気付く。
「なんだ、起きてたのか。昨日、また、大立ち回りしたそうだな」
「………」
視線だけは、ノックスにぼんやりと向けるが、何も語ろうとしない。
そんな様子に、別段気にするわけもなくノックスは、エドの身体を診るべく、ベッドに近づくと。
「……おっさんも、……大丈夫っ…」
ボソッと、エドが呟く。
「ん…!?」
「……なんでもない…」
ノックスは、少し眉をよせてから彼の身体を診る為に、身体に触れる。
少し、身体が強張っているのが、判るが別段気にすることではないようだ。
エドも先日のように大暴れするような事態に陥らない。彼の胸中には、何故と言う自問自答が
繰り返されるだけで…。
「少し、痛むぞ」
「うっ…っ…」
内臓を痛めている身体を触診する為には、彼に苦痛を強いてしまうが、仕方がない。
あちこち、触診するたびにエドから低く押し殺した呻き声が上がる。
苦痛の声。
まぁ、叫び声をあげて暴れない彼の精神力にノックスは、感服する。
エドは、黙ってシーツをギュッと握り締めて、その痛みに耐えるこの痛みには耐えられるのに
何故…昨日の恐怖、あの日の恐怖には…耐えられない。
痛みに、朦朧としている意識を覚醒されるようにノックスが声を掛ける。
「おい…、大丈夫か…」
「ハァ…っ…、何とか…っ…」
「どうも、打ち所が悪いようだな…。2、3日また、飯は食うな。安静に寝とけ。それとも
病院に入るかね…」
「…病院は…いい…それより、どのぐらいで治りそう」
痛みに、疲れきった言葉がぼそりと告げるが、彼を直視する事はできずに、機械鎧の右腕で
視線を遮っている。
「……まぁ、骨折は別として…内臓系が、3週間程ぐらいか…まあ、おまえさんが大人しく
していればな」
「そう、……おっさん、機械鎧の左脚つけるの手伝ってくんない」
人の話を聞いているのだろうかと思うような事を淡々と、エドは言い出した。
安静にしていろと、さっきノックスが言ったばかりだっのだが。
「おい、お前は人の話、聞いてるのか!」
「うん…、聞いてる」
「なら、尚更だ!ありゃ…体力的に無理だ!もう、暫くしてからだ」
「もう、時間が足りないだよー。待ってたら、オレ、どんどん外に出れなくなる!」
荒い息の下、エドがやっとノックスの目をみながら必死に訴える、何かに追われるような瞳が
ノックスに向けられている。
彼が言う、「外に出れなくなる」この言葉に、エドが何に怯えているのか、何となく察してしまう。
イシュバール殲滅戦に軍医として行った。その時に、こんな風に怯える者を何人も見てきたから。
精神的外傷を負った者達。
だが、今、目の前に苦痛に闘う彼は、前に進もうと足掻いている。
あの戦いで、憔悴してしまった瞳ではなく…、前に進もうとする強い意志の瞳。
ノックスは、ムスッとした表情で立てかけてある機械鎧の左脚を持ってくると。
「…どうして、あのマスタングのガキといい、お前さんといい。こうも、強情かねー。オレは
知らんぞー。」
「……ごめん。」
ガチンと、金属の重なり合う音と悲鳴を押し殺す声が部屋に木霊する。
その痛みは想像を絶する物だと、聞いた事がある。神経を繋げる。
以前、戦場にて機械鎧の奴に聞いた事があり、その上、自分は医者である。
大の大人さえ悲鳴を上げ泣き叫ぶ。だから…機械鎧は便利だが、装着するには、躊躇いがあると。
だが、この目の前で喘ぐ少年は、自らその道を選び、そして、躊躇うこともなく神経を繋ぐ。
並みの精神の持ち主ではない。
だからこそ、今の自分に耐えられないのだろう。
「おい…、大丈夫か。痛み止めを打ってやろうか…」
シーツを鷲掴みにして、表情は苦痛に歪み脂汗をかく彼は、頭を立てには振らなかった。
「……いい…、っ……どうせ、効かないから…ハァ…っ」
「そうか…」
何故だろう…。ノックスはベッドの端に腰掛エドの瞳を大きな掌で覆う。
こんな一患者に、ここまで接した事は、あのイシュバール殲滅戦後、無いことだったが…。
身体が、勝手に動いてしまう。この子だからだろうか…。あの「ロイ・マスタング」が希望と
抜かした子だから、だろうか。
こんな事を考えるのでさえ億劫だが…。何故か…、勝手に身体と心から反応してまう。
「おい、…精神的外傷ってのは、その外傷に真っ向から立ち向かう事によって介抱へ
導かれると、される」
ノックスは、痛みに震える彼にそっと述べる。
告げることは簡単だ、後は…自分次第と。
その意味が理解できたのか、どうか判らないが…、エドの覆われた瞳から涙が流れ堕ちる。
涙は、心に…、精神に浸透するように、白いシーツへと吸い込まれていく。
道は、エド自身の中にある。
to be continued
お久しぶりの更新です(汗)
少し、道が…開けてきた感じです。
結局…自分なんですよね!
すみません…医学的な事はホント詳しくないので、スルーしてやってください。
続きが…サクサクと書ければ良いのですが…(悩)