人 間 兵 器 act.19
エドは、身体の外傷を治すべく、この3、4日ほぼ眠りの中を彷徨っている。
眠っては、目覚めて…。そして、また眠る。
目覚めている時に、身体を起こしていても彼の瞳は、うつろで…。
どこか、遠くを見つめていた。ただ…、ぼんやりと。
傍にいるロイや、アルフォンスと 2、3 口を聞くだけで、あとは…。ぼんやりと、だるそうにしている。
身体が、精神が、やはり休息を求めているのであろう。
そんな朧気な様子を焦ることなく、ロイとアルフォンスは見守り続ける。
目覚めている時には、なるべく色んな外世界の話をする。
決して、あの時の事を思い出させないように。次から、次へと色んな話をする。
ここに、いる間でも2人の求め続ける道の探求が、できるようにと、重要文献を手配して
ロイの自宅で研究させる等、してエドに余計な…、後ろ向きな思考をさせないようにと努めた。
これが、如何に大変だった事か…。
本人には、気付かれないように…外の世界へと導く。内なる世界とは、無縁を装って。
一週間、二週間とそんな状態が続き。
エドの状態も、あれ以来は、安定している。徐々に、身体の外傷は治癒していった。
蒼痣だらけの身体も、目に付く箇所の傷は少しずつ薄くなっていく。
ロイもアルフォンスも、いや…エドでさえ、あんな恐怖が彼に、そして、自分に刻み込まれている
ことなど、もう、忘れてしまうほどに。
エドは、以前のように笑うようになっている。
穏やかに…。だが、彼の笑顔はこんな微笑ではなかったのでは…と思う。
もっと……何かを求め、得ようとする。激しくも、そして、誇りある微笑ではなかったのだろうか。
そして、ゆっくりと時は、流れていく。身体の回復と一緒に、ゆっくり、ゆっくり…。
が…、現実は…厳しく。そんな、甘いものではなく。
しかし、確実に彼の精神は落ち着こうとしている事も判った。
ロイの自宅に、若い新米軍人が、軍議への提出資料の件でどうしも准将に意見を聞きたい
と、いう事で休日にも関わらず、彼ら2人は、ロイの自宅にやってきた。
最近のロイの勤務状態では、満足に仕事について語る事もできない状態であったからと。
ロイは苦笑い浮かべながら、自宅へやってきた2人をリビングへと通し、意見を述べる事と、
なったが。
ロイは、エドの具合を診るには、1つのチャンスかも知れないと思っていた。
わざわざ、彼を呼び出すことはないのだが、もし鉢合わせとなったとしてもこれは、いい機会かも
知れないとロイは思い、アルフォンスにも、この話をしていたのだ。
この日、アルフォンスは図書館に新しい本を借りてくると出かけ。
エドは、午後から1人身体を休める為にロイのベッドでまどろんでいる。随分身体の傷も治って
きたことが、自分でも判るようになっていた。最近では、ベッドから下りてウロウロとロイの部屋を
探索するようになり快復ぶりがわかる。
エドは、ふと別の部屋より、何やら声が聞こえると思い、リビングにノソノソと行ってみる。
そこで思わぬ光景に出くわしてしまった。ロイが、1人いるはずのリビングにだが。
誰か…と、一緒に…いる。
リビングの扉は、開かれたままで、こちらから覗ける状態だ。
エドは、少しの緊張と強張りを身体に感じながらも、ふと…覗くと。
瞳に蒼い色が…軍服姿の2人が、入ってくる…。
勝手に、脳内の神経が軋むのがわかる。嫌だ…、大丈夫…、と心が葛藤している。
その場で身体が凍りついたように動けなくなってしまうが、視線を外すことができない。
心では、大丈夫だといい続けても…身体は徐々に震えだし、胸が痛い、苦しい。
身体を支えるために、壁に寄りかかろうと手を伸ばすが、伸ばした手が震えていて、嫌な冷や汗が
流れる。
空気が、うまく吸えなくて胸を鷲掴みに抑える。目が霞む、助けを求めたいけど、声がでない。
いや、出し方が判らなくて、と…。
どうにか意識を…、そして、現実を見据えようと…オレは、逃げないと意思を保ち続ける。
「大丈夫…」と。
すると、いつの間に自分の仰け反る背を支える大きな掌に気付く。
「大丈夫だ。安心して、何もしないから…」
穏やかに、降り注ぐ低い声に何故か、急に安心してしまうのが判り、声が出る。
あれほど、声の出し方が判らないと、ぐるぐると考えていたのに、自然に声がでる。
そして…呼吸が、空気が、吸えるようになる。
「あっ……、判ってるけど…ちょっと…」
「ゆっくり、息をして…大丈夫だから」
その言葉通りに、身体がゆっくりと反応していく。震える両腕が彼の広い背中を掴み、震えを
止めようとする。
「…っロイ、…ごめんっ…」
「いいよ。何もしないよ。誰も何も…」
「う…っん…」
ロイは、エドの膝裏と背中に腕をまわして彼を抱え上げ、後方にいる軍人2人に声を掛けて
エドを寝室へと連れて行く。
エドは、ロイの胸に顔を埋め乱れた金の髪が、横顔を覆ている。
その隙間から少しでも、現実に直視しようと軍人2人の困った顔を震える瞳の中に入れ、
唇を噛み締める。
全ては、自分の中に道はある。
彼が、現実を見つめている姿がロイにも伝わり、この子は本当に強いと…。
だから、私は惹かれたのだ。
ベッドに横たえて、優しく小さな黄金色の頭を撫でてやりながら、ロイはそっと呟くようにいう。
「大丈夫かい、エド…」
先程より随分落ち着いた彼は、こくりと頷く。まだ、身体は小刻みに震えているようだったが、
ちゃんと空気も吸える、そして、言葉も出せる。
ハボックの時のように、恐慌を起こして、暴れる事もなかったから…。
「……オレ、ちゃんと…前をみるから…」
「ああ…、君になら出きるよ」
エドは、しっかりロイの腕を生身の左手で握り締める。
まるで、力を貸してくれるように、と頼むように。
枕に顔を埋めながら、エドは、たどたどしくロイに瞳を向ける。
「…オレ、…ロイの家から、…出れないんだ…。外に、知ってるか…」
その言葉に、ロイの眉が険しく吊り上がり、長い黄金色の前髪に阻まれたエドの瞳を見つめる。
少し、硬い表情だが、自嘲気味に微笑む顔がロイの瞳に映る。
「ロイやアルがいない時に、オレ玄関の扉を開けて、外に何度も出ようとした…けど…
出れなくて…、出れそうで、出れないんだ。もう、ちょっと、なんだ…よ。ロイ達が、オレに気を
使ってくれてるのも…ちゃんと、判ってるんだよ。なのに…」
「エド……っ」
ロイは、エドの身体を起こし、力強く抱きしめる。それは、肋骨が折れている彼にとっては
苦痛かも知れないが。
それでも…抱きしめた、自分の勇気を分けてやるように。
「もう、少しだよ、大丈夫。君は、強いから、私やアルフォンスが思っているより、ずーっと強い」
「……うん」
ロイの鼓動が聞こえる。
穏やかに奏でる鼓動が、エドの硝子の神経を休めていく。
そろそろ、いい時期かもしれない…と、ロイは優しくエドの琥珀色の瞳に真剣な眼差しを送る。
ずっーと…焦るばかりでは、彼の神経も擦り減って、消耗戦に入る。
それより、一気に攻めた方が今の彼には、いいかも知れないと。
これは、1つの賭けでもある。
約一週間後、ロイは賭けに出た。
もちろん、アルフォンスの許可をとってだが。
「おい、ハボック。今から、私の自宅でちょっと話がある。そのまま、来い」
「はぁ…このまま?ですか。でも、いいんですか?大将の奴…」
「いいから、来い」
「オレ…不安なんすよー。また、この前みたいになったら…どうしたらいいかって」
エドに会うことを渋って、ハボックの顔が曇る。
本当は、どうにかしてやりたいという気持ちで一杯なのだが。あんな、酷い状態に今度も、
してしまったらと…不安が募る。
だが、悲痛な表情を浮かべる彼にロイは、はっきりと告げる。
「大丈夫だ。今度は、お前が抱きしめてやってくれ…たのむ。只、抱きしめてやるだけで…」
大佐から「頼む」と言われてしまったハボックは面食らってしまう。自分に、下げられた頭を…
どうしようか、と悩んでしまった。
あの「焔の錬金術師」と言われ…将来有望株であり、そして、俺達が尊敬し、従う…彼に
「頼む」と一言われ、ハボックも腹をくくる覚悟ができた。
「えっ……いいんですか…。そんな事しても…呼吸とまったり…恐慌を起こしたりしないん
ですかね…」
「随分、良くなってきているのだよ。だが、あと…もう、一歩なのだ。全てを知るハボック
お前にどうしても…頼みたいのだよ」
真剣なロイの黒真珠のような瞳が、ハボックを射止める。
ハボックは、重大な任務を受ける事にした。
「わかりました」
「すまんが。鋼の、には、お前が今日来る事は、伝えていない」
「はい…、あのーアルの奴は…」
「彼も同席してもらう」
「そうすっか…」
今から、何が行われるのか。
だが、その行為は必ずエドの精神のバランスを崩す事であろうことは、ハボックにも判る。
それでも、今の彼に必要な事なのだと、言い聞かせてロイと一緒に車を走らせる。
その頃、アルフォンスはリビングで、そわそわとしていた。
その理由は、わかっている。
先日、ロイから告げられていたから…。だが、当の本人であるエドには内緒にと言う事で、彼には
ハボックが、このロイ宅を訪れる事は告げてはいない。
恐らく、告げれば…。
彼の硝子の精神は、今恐慌状態となり…今まで築き上げてきたものが、全て水の泡となるだろう。
だから、今アルフォンスは、兄の傍にいることを避けている。
あの兄の感は、鋭いから…。
エドは、ロイのベッドで普段と変わらずに日常を過ごしている。
今から自分の身に、起こる試練など…これっぽっちも予想してはいなかった。
リビングには、ロイ、アルフォンス、そしてハボックと面々が顔を連ねていた。
皆、一様に表情が硬い。
今からエドが、直面するであろう厳しい現実を思うと。
自然と緊張が部屋に走る。
そして…、彼だけではなく自分達も一緒にエドの苦しみを味わう事となる不安に。
それぞれの思いが交差する。
ソファーの片隅に大きな鋼の鎧は、気配を隠すが、如く黙って座っている。
ロイは、表情を伺うことができない彼の鎧姿に、一抹の不安を抱いている。
エドもアルフォンスも、まだ…、少年である。アルフォンスに至っては、まだ14歳という
多感な年頃。そんな彼らに、ありのままの現実を突きつけるのは…と、ロイは思い悩んでいた。
先日、この話をアルフォンスにした時。
ロイは、アルフォンスは、この場にいるべきではないと話したのだが。
彼は大切な兄の為ならば、自分も一緒に全てを受け入れると。
独りではなく…。背負えるものならば、一緒に分かち合う、と断言した。
アルフォンスはあの時、月夜の晩に約束したのだから。
独りの夜が…つらいのは僕がよくわかる。でも、兄の夜には、味わなくてよい残虐な黒い嵐が
今、潜んでいる。その黒い嵐は、僕が体験できる代物ではなく…。
以前、僕が「独りの夜は、もういやだから…。元に戻りたい…元の身体に」と、話した事があった。
兄は「オレ達が元に戻りたい理由は、ほんの些細な理由だ」と、言っていた。
「オレは、アルの笑っている顔がみたいから。ただ、それだけだ」と…。
だから、僕は兄さんの笑っている顔をずっーとみていたいから。あんな、偽りの笑顔じゃない。
本当の兄さんの笑顔を…。
だから、今の兄の中に棲みつく悪夢と一緒に戦うと、誓うアルフォンスだった。
「アルフォンス、今…鋼の、は…?」
「いつものように、寝室にと…思います」
「そうか…。では、呼んで来よう」
リビングには、また静けさが戻ってくる。
ハボックもこの場の雰囲気に、落ち着くことができずに1人、黙ってソファーに腰掛けている
そして、気を紛らわせるために、アルフォンスに言葉を投げてみる。
「アル…、おまえは、ここにいない方がいいんじゃないか」
その問いに、鋼鎧は、はっきりと答える。
「いえ。僕は、僕は…ここで、一緒に兄さんの苦しみを受け止めます」
「……そうか」
「少尉の方こそ、すみません。そんな役回りを与えてしまって…」
「なんだ。そんな事、アルお前、考えていたのか。気にすんな!元は…オレの部下が…」
と、話をしている所へ。
リビングの扉が開かれる。
そして、顔を出すのはエドワード、その後ろからロイが付き添っている。
ハボックがエドに合うのは、久方ぶりである。
あの狂乱を起こしたときに比べ、随分顔色も良く。身体の見える場所の傷跡は、もうほとんど
判らない。この状態であるならば、別段普通である。何も…悪くないように見えるのだが。
外見上は…。
だが、エドの視線がハボックを捉えると。
また…あの日を再現させてしまう。
to be continued
多分、あと1話か2話で完結します…。長かった…。
で…最後にHを入れるかどうか…(汗)悩み中です。これは、入れるべき…それとも。
入れるのであれば…たぶん2話かな。只今、1話ちょっと…書いている途中なのですが。
そこを悩んでいる。やるべきか?それとも…未遂か?また、今度〜///
何故、それにコダワルのか…。はぁ、桜Hってことよねー。
誰かー!希望があったら連絡を…(願い)