【秘 密 結 社 act.2】
「エドワード君、雨に濡れるわ。機械鎧が、まあ…」
ホークアイ中尉が自分の軍服の上着を彼の肩に掛ける。本当は毛布で上半身を覆いたかったのだが、急を要する為間に合わなかった。
「あ、わりぃー。中尉…」
「機械鎧の他に怪我は、していないの」
「ん、ちょっと。あちこちやっちゃったかな」
「そう、では司令部で手当てをしましょう」
「あ、うん。それとごめん。アルの奴をいいかな…」
エドワードは、すまなさそうにアルフォンスの事を頼む。彼にとって命より大切な弟だから。その弟はスカーとの戦いで無残な姿を曝け出している。これも隠さなくてはならない事の1つなのだ。恐らく、箝口令は敷かれただろう。
しかし、一刻の猶予も許されないのは「エドワード」の方だ。絶対「ロイ・マスタング大佐の魔の手から」逃さなければならない。メンバーはその段取りに必死である。
「お、大将!こりゃー、派手にやったな」
「ハボック少尉、アルのこと頼むよ。オレは右手がこんなだからアイツの身体すぐには練成できないんだよ…」
「ま、まかせとけ…」
と、ハボックの肩にはボロボロのアルフォンスが抱えられていた。
しかし、ハボックの顔は引き攣っていた。何せ、アルフォンス様にエドワードが見えないところで、小突かれているのである。痛い、痛い言いたい事はわかっている、と顔を顰めているハボックだった。
「すみません少尉、中尉。僕のこともなんですが。くれぐれも兄さんの事を宜しく〜」
アルフォンスの「くれぐれも」という言葉には重い内容がぎっしり入っていた。
「規約」
F「実弟であるアルフォンスの意見は絶大だ」
が、意外にもネックである。
この規約を立案、そして「秘密結社」を創設した1人でもあるアルフォンス様だ。
何故、こんな「秘密結社」を創設しようと思ったのか。
それはリゼンブールで、国家錬金術師を勧誘しに来たロイ・マスタングに兄の「貞操の危機」をヒシヒシと感じたからだ。
まだ、あの頃は「人体練成」に失敗して身体は傷つき。そして、精神的にショックを受けていた。そんなあどけない兄が、11歳の時だ。
危険極まりない!何としても死守せねば!と、この時アルフォンスは思った。
彼も当時10歳だというのに、それほどロイ・マスタングという男から発せられるフェロモンは危険な香りがした。それも大切な兄に向かってその匂いと「好きだ光線」を撒き散らしていたからだ。
「お、任せておけ」
「兄さん早く着替えるようにね。いいね!ここには大佐がいるんだからね」
エドワードには不可解な言葉である。最近とくに思うのだが、やたらロイから自分を遠ざけられているように思える。
「!?何だよ。それー、意味わかんね」
「と、とにかく。人前で堂々とスッ裸になったら駄目だからね!」
アルフォンスからの厳しい言葉にエドワードの顔はむっとしている。弟の言わんとする内容がわかっているからだ。この事を言われるのを昔からエドワードは嫌っていた。
「人体練成」に失敗してから、事あるごとにアルフォンスの注意が厳しくなったように思える。
自分がロイ・マスタングに狙われているとは、本人は気付いていないのだ。だから、アルフォンスは兄の年齢が15歳になってからというもの特に五月蝿くなった。
本人はまったく気付いていないが、歳を追うごとに特に15歳になってから彼の容姿は変化しているのであった。
色っぽくなってきた。女性らしい身体つきになってきた。
決して、胸が出てきたという訳ではない。たぶん妊娠でもしない限り胸は膨らむことはないだろうが。この中性的な身体に野郎達は弱いのだ。
「さあ、エドワード君行きましょう…」
「あ、うん。アルおまえ五月蝿いー!」
ホークアイ中尉に肩を抱かれながら歩いていくエドワードは、アルフォンスにプリッ、と顔を背けるのだった。そんな2人のやり取りをメンバーは笑いを堪えながらは見ている。少し離れた場所ではヒューズ中佐とフュリー曹長がしっかりチェックしていた。
規約Bにある「エドワードの身体にむやみに触らない」
これは、ホークアイ中尉のみ除外されている。理由はヤンチャ盛りのエドワードは色んな場所で怪我をしてくる。その手当てのためだ。これは、彼女しか任せる事はできないだろうという事で、だ。
「よし、エドとアルフォンスがこの現場から撤退するようだ」
「大佐の方は、まだ人間囲いの中でオロオロしています」
「おし、そろそろ俺はロイのところに顔をだそう」
「了解しました」
「あとは、司令部内での対応だ。手筈どおりに頼む。では」
「は、!」
2人はこの場を解散するのであった。
* * *
「お?終わったか?」
ひょっこり何事もなかったように姿を現すヒューズ中佐の姿にアームストロング少佐が呆れ顔で気付く。
「ヒューズ中佐、今迄どこに」
「物陰に隠れていた」
ビシッとかっこよく言うヒューズにさらに呆れる。隠密行動を悟られるわけにはいかない。ちなみに、アームストロング少佐はメンバーにまだ入会していない。恐らく彼は、エドワードに会うのは今日が初めてだ。
ヒューズが人だかりしている場所に行くと、そこにロイは閉じ込められていた。
よし、しっかり仕事ができているとチェックしているヒューズの姿が目に入り、ロイがすかさず声を掛ける。
「おい、今迄どこに行っていた。加勢しろ!細かな指示まで私に許可を求めてくるのだ」
「うるせぇ!俺みたいな一般人は隅っこで細々と仕事している方がいいんだよ」
「くそ!おかげで鋼の、の傍に行ってやれなかったではないか!」
その言葉に思わずにやりと顔が緩んでしまう。
「ほおー、そうかい。エドの奴はアルと一緒に司令部の方だぜ」
「なぬ!では、この場は任せた。私は司令部へ戻る」
「おっと、戻るのなら俺も一緒に行こう」
「ヒューズ、貴様、なあー!」
ロイからの罵声に構うことなく、ヒューズはまるでこの現場の担当者でもあるように、ロイの周りを囲む軍人達に指示を出す。
「オラ!ここはもういいから、さっさと次の仕事に行け。やる事沢山あるだろ!市内緊急配備人相書き回せよ!」
さっきまで物陰に隠れていたくせに、今ではこの態度だ。それを見たロイの表情は呆れ顔だ。
だが、ヒューズの思惑は別のところにある。時間稼ぎである。これでロイと一緒に司令部に戻った頃には、ちゃんと段取りは整えられているだろう。
「オ〜イ、そろそろ戻るぞ!ロイ」
「何故、私はおまえに仕切られねばならないのだ」
「まあ、まあ…」
と、ヒューズはロイの肩を叩きながらこの現場から離れるのだった。
司令部では無線機から連絡を受けたフュリーがその場にいたメンバーに振り向く。
「大佐がヒューズ中佐と一緒に戻ってくるそうです」
「おっと、ここ軍会議室でいいよな」
「そうですね」
「急がねえーと、な」
先に戻っていたハボック、ブレダ、ファルマン、フュリーがバタバタと準備をしている。
「大佐の席はここでいいですよね」
ファルマンはメジャーを持ってロイが座るであろう場所へ行く。
「すみません。ハボック少尉。端持ってください」
「おお、わかった!」
と、メジャーの端を持ち2人は距離を測る。一体何の距離なのだろうかと思われるが、これが結構重要なのである。
規約
I「ロイ・マスタングをエドワードの半径3m以内に近寄せるべからず」
と、ある。
「規約では、3mとなっていますが…」
ファルマンはメジャーの数字を見ながらハボックとの距離を見ている。どうも近いような気がする。今日のエドワードは、機械鎧が破壊されあちこち怪我もしていた。ロイには大変美味しく見えるのではないだろうか。実際、先程ホークアイ中尉に連れられている姿を見て、この場にいた者全員がごくりと生唾を飲み込んでしまった。
「そうだな。だけどな俺が思うに今回はもっと離した方が良くないか」
ハボックがくるりと周りのメンバーに視線を移すと、みんな真剣な趣で頷いていた。
動けないアルフォンスも大きく頷いている。ファルマンは暫くハボックと今自分の立っている距離を見て、考えた結果。
「わかりました。8mぐらい離しましょう」
一気に倍以上の距離にされる辺り、いかにロイの危険度を重視しているか伺える。
「そうだな!」
ファルマンがデスクから8m離れた場所に標しをつける。そして、その場所にアルフォンスの身体をハボックが運んでくる。
「アル、ここでいいか」
「十分です!さすがみなさん、板についてきましたね」
「もちろんだ!」
「特に今日は、なあー。俺だって見とれちまったよ…」
「そうだ、そうだ。アル、おまえも旅先で気をつけとけよ。敵はここだけとは限らん」
「ホントそうですね。兄さん自身に自覚がないんですよ。僕も疲れますよ」
「おっと、それからメンバーの配置を頭に入れてくれ」
ブレダが配置図をメンバーに手渡す。この会議室で誰がどの位置に陣取るか示されている。まずは、大佐が部屋一番奥のデスク。ホークアイ中尉がロイのすぐ向かいに配置されている。もちろん彼女の拳銃に安全装置は必要ない。いつでも発砲できるようにするだろう。それから、ヒューズ中佐がロイを威嚇するようにホークアイ中尉から斜め後ろに配置。ハボック少尉はそれを補佐するようにヒューズ中佐の横に。
ブレダ少尉、ファルマン准尉、フュリー曹長はロイとエドワードの間に3人並ぶ。まるでエドワードをロイの視界に入らないように配置している。そして、最後にアルフォンス、もちろんエドワードの隣だ。
完璧な配置だ。さすが東方司令部の智将だ。
「ブレダ、おまえスゴイ配置考えたな」
「そうか。このぐらいしないと今日はいかんな…」
「そうだな」
メンバー全てがこの配置に納得するように首を縦に振る。これで良し、と後はロイとヒューズが戻ってきて、最初にこの部屋の奥にロイを入れてしまえばOKだ。
「じゃー、みなさん手筈通りにお願いします♪」
アルフォンスが景気良く音頭をとる。
すると、メンバーから一斉に気持ちよい返事が返ってくるのだった。
すごいぞ!「鋼の錬金術師 第2巻」6話〜7話にはこんな裏話があったのです♪
すみません…。必死に単行本片手に書いてます。
可哀想♪ロイと思っているけど(笑)
これはロイエドになるのだろうか?謎です!
桜 美由紀 2005/12/2
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