【秘 密 結 社 act.3】











ヒューズが車の無線を元に戻すと、にんまりと顔をロイに向ける。ロイはどうも本日の出動から不機嫌な表情だ。ヒューズが、憎たらしくにっこりする表情にさえムカつく。
彼の気持ちはどうしてエドワードに会えないのか、そればかりが先行している。こんなに心配しているのにと、司令部に向かう車の中でもヒューズに彼の様子を事細かく聞くが、情報をあまり提供してくれない。苛立ちが募るばかりだ。
その反面、隣の男の表情は意気飄々としている。
ムカつく。
プスプスとヒューズに怒りを爆発させながら、やっとロイ達は東方司令部へ辿りつくのであった。随分、回り道をしていたようだったので、その件をヒューズに問えば。
「スカーに出くわさないよう、いつもと違う道を通った方がいいだろう」
と、言われた。
まあ、その通りなのだが。取り敢えず司令部に戻ればエドワードに会え、話もできるはずだ。
ロイの表情からやっと怒りが削げ落ち変わりに、にこにこと笑顔に変わる。
それなのに、会議室へ行けば。
「さあさあ〜。大佐先に部屋へ入ってください。準備は出来てます!」
「なぬ!鋼の、はどうした」
ロイが会議室前で必死に辺りを見回すが、エドワードの姿はどこにもない。
何故だ、先にこちらに到着しているはずだ。何故いないのだ!
「ああ、大将は今ホークアイ中尉に手当て中です。すぐ来ますって」
「ぬぬぬ…」
「オイ、早く入れよロイ。後がつかえてんだよ」
先を急かされ仕方なく会議室に入る。それから当たり前のように自分の席についてエドワードが来るのを待つ。
メンバーはホークアイ中尉を除いて配置図の通りに陣取った。
よし準備は整った。
しかし、メンバーに入っていない人物がいる。それはアームストロング少佐だ。だが、彼はホークアイ中尉の後方の場所に落ち着くようだ。
大丈夫だろう。彼にはこの「秘密結社」は知られていないはず。それにこれしきの事で疑われるようならば我々の仕事は失格だ。
そうメンバー全員が思っている。
漸く、ホークアイがエドワードを連れてこの部屋にやってきた。当たり前のようにエドワードがアルフォンスの隣に腰を落ち着けた頃。
メンバー内ではヒソヒソとその姿を見て何やら話している。それから、ホークアイを捕まえて。
「中尉!まずいスヨ。何で上半身バスタオルなんですか」
「そうですよ。俺が完璧に配置したのにこれじゃ、大佐に見えたら、えらいことですよ」
「仕方がないのよ!変わりの服がない上に私の軍服では、余計大佐の萌え度数が倍増するわ!軍服フェチなのだから」
「ああ
――!そうだな。ありうる。俺でも軍服姿のエドには、へへへ…」
ガコン!と、鈍い音がする。ハボックの言動にアルフォンスの鉄拳が見事顎に入った。
その場にいたメンバーはハボックを拝むしかなかった。
こんな緊急を要する時にエドワードの妄想をするなよ!只でさえ、アルフォンスは気が立っているのだからな。
メンバーの冷たい視線がハボックに向けられる。
「じゃあ仕方がない。ロイが右、左、上と身体を移動する時はメンバー全員で壁になるように。よし、俺がその指揮をとる!いいな!」
「了解!」
コソコソと密談があっている。そんな彼らの様子を眉間に皺を寄せてロイは見ている。
何なのだ、こいつ等は。早く会議を始めたい!その後私は、エドワードと色々話がしたいのに。久しぶりに東方司令部にやってきたのにエドワードが…。くっう〜!
思い切り合わせた手に力が入ってしまう。ロイは本日の出動からずっと、エドワードの事ばかり考えている。そろそろ切れそうだ。
やっとホークアイが定位置に着くと、何食わぬ顔でヒューズがエドワードに声を掛ける。明らかにこれは先程の行動をごまかす為のものだ。
「お、エド。大丈夫か」
「うん。機械鎧はこんな、だけどね」
ロイ以外の全員がどうやらエドワードの身体を見て心配しているようだ。それは、もちろん配置から動くことなく。
だが、ロイには肝心なエドワードの姿が見えないのである。声は聴こえる。確かに豆なので発見しにくいこともあるのだが、今日は本当に見えないのである。
ロイが自分の場所で右へ左へと首や身体を動かすが、見えない。左へ動けば何やら前に立っている連中が右へ動き。これまた、右へ動いて隙間からでもエドワードの姿を見ようとすれば、連中も一斉に左へ動く。
何故だ!何故なのだ!ほんの数メートル先にエドワードがいるのに、声も聴こえているのに姿が見えん!
あまりのはがゆさにロイは、とうとう声に出してしまった。
「見えん!どけ、おまえら
――!」
その声にメンバーの視線が、一挙に冷たくロイに向けられた。
何ィ
――!見えんだと。けしからん。我々は見せないようにしているんだ!
冷たい視線にロイは思わずたじろいでしまう。
「なんだ…。私が何かやったか…」
「そんな事よりロイいいかげん話進めろよ!みんな待ってるんだぜ!」
ヒューズの冷たい言葉がロイに降りかかる。その声にメンバー全員が呆れるように首を縦に振っている。
「それを言いたいのは、こっちの方だ!」
すると、さらに青筋が浮かび上がったメンバーの顔がロイに向けられる。
「はあ
――!?雨の日、無能の分際でエドを助ける事も出来ないくせに、何か言ったですか…」
ドスの効いた低い声が会議室に轟く。
こわい〜。
はい、すみません、とロイはメンバーに逆らうことなく今回の事件の話を始めるのであった。



*          *          *



一通り事件と今後の対応策の話が終わる。
これでやっとエドワードと話ができるとロイは一安心したのだが、肝心な事がまだあったのだ。
「さて!辛気臭ぇ話はこれで終わりだ」
と、ヒューズが話を中断して肝心な事を切り出した。
「エルリック兄弟はこれからどうする?」
エドワードが頬を掻きながらその事を考えている。失った右腕が痛むのか、その部分を押さえるエドワードの姿は可愛らしく、メンバーが必死にロイに姿を見られぬように最新の注意を計らった。もちろんメンバーは彼の仕草がしっかり見える位置にいる。彼らにとってエドワードの貴重な可愛らしい仕草が見られるというのは、特権なのである。その為に、この「秘密結社」に入会した者もいるぐらいだ。
見えないのはロイだけだ。
「う〜ん。取り敢えずこの腕直してもらわないと、アルが直せねぇんだよな…」
「そうか」
「我輩が直してやろうか?」
と、アームストロング少佐が乗り気だが、ばっさりとアルフォンス自身が却下した。
今回の事件でアームストロング少佐の行動、言動をチェックしていて思ったが、彼はエドワードには無害の人間みたいだ。今後は、彼を近づけても良いとメンバーは判断した。
「しょうがない。うちの整備士のところに行って来るか…」
何やら余り乗り気でないような言い方だったが、エドワードは整備士の所に行かなくてはならないようだ。
と、なると。
メンバーの頭が素早く反応した。
今日の宿はどうするのだ。いや、この厳戒態勢の中いつもの宿に宿泊させる事は出来ないだろう。と、すれば。軍の仮眠室だ!
こんな事件の後だ。国家錬金術師はこの東方軍司令部にお泊りだ。
お泊りといえば「仮眠室」。
国家錬金術師はエドワードを除いて2人いる。
アームストロング少佐は無害だから除外だ。
しかし、あとの1人。
焔の錬金術師「ロイ・マスタング」コイツはいかん!絶対にいかん!一緒の仮眠室など言語道断だ。そうでなくても、今日は軍内でも「仮眠室」を使う野郎が多いはずだ。


エドワードを守らねばならない。
彼の貞操は我々の腕に掛かっている。


メンバーはいつのまにか、一ヶ所に固まって相談し始めた。その間も数名がエドワードの壁となっていた。当たり前である。
「オイ、どうする。このままではニアミスが起こりうるかもしれん」
「つうかですね。エドをどこの仮眠室に入れるかですよ」
「男性部屋に行くって絶対言いますよ!」
「そうですね。それは非常に危険です。今夜はとくにエドワード君を狙うものが多数発生すると思われます。現に、先程は…」
と、ホークアイは医務室で治療をする際も男性の目がピンク色に輝いていたのを何度も発見した事をメンバーに伝える。
「本人は嫌がるかもしんねぇーけど、中尉と一緒に女性用仮眠室で保護してくれ」
「そうでね。理由は事件のため空き室なしと言うことで…」
「いいすね!」
「ロイの奴も今日は仮眠室行きだな。絶対に個室を使わせるな!4人部屋に押し込もう」
「誰が相部屋になりますか」
「俺と、ブレダ少尉、ハボック少尉、ファルマン准尉でどうだ!」
「いいですね。絶妙な組み合わせです」
「アルの奴はどうします。中尉の部屋でもいいですかね」
「その方がいいと思います。最後の砦という意味でアルはエドの傍がいいですよ」
「よし、それで話を進める。いいな口裏をメンバー全員合わせるように」
「了解!」
と、その場を解散して定位置に戻る。
そして、当然のようにこの場を仕切るのはヒューズである。この場合、ロイの方が階級は上であり、その上自分のホームグラウンドというのに彼の意見は全く反映されていない。強引にヒューズが話を進めていく。
「エド、おまえはここの仮眠室に泊まっていけ。それに明日出発するだろう」
「ああ、うん…」
「ちょっと待てぇー!」
「仮眠室というならば、私と一緒の部屋で…」
ここぞとばかりにロイが黄色い声を張り上げているが、まったくの無視である。
やっぱり言い出すと思った、とメンバーは白い目でロイを見ている。話は着実にヒューズの話術により進められている。その間もロイが何やら後ろから口を挟むが、無視。
「中尉、仮眠室の空きは?」
「ええ、それが。今日は満室ですね。あ、そうだわ。エドワード君私と同室ならば空いているわ。厳戒態勢だから、いつもの宿には泊まれないから」
「ええ―!中尉と一緒!?大佐達の所に無理やり押し込んでもらってもいいんだけどオレ…」
とんでもない事をエドワードが言い出した。
これはまずい!計画が水の泡となる。その上、ロイの所に行くなど言っている。これは絶対に阻止しなければならない。
「兄さん!中尉と一緒の部屋にしてもらいなよ。今日は怪我してるしね。ゆったりと眠れる場所の方が絶対いいよ!」
さすが、アルフォンス様である。此処ぞという時は彼の意見がエドワードには必要だ。
アルフォンスの言葉にしばらく考える素振りを見せて。
「じゃあ仕方ないか。中尉、ごめんな」
「いいのよ♪エドワード君。傷の手当ても後でゆっくりしましょうね…」
メンバー全員からやっと安堵の息が漏れる。
これでホークアイがエドワードを仮眠室に連れて行けばこの場は解散となる。
ほっと一息できる。
「じゃあ行きましょう。エドワード君」
「あ、うん…。あのさ、オレ大佐に用があるんだけど…」
ロイの瞳がキラキラと輝いた。
以心伝心だ。さすが鋼の、私の気持ちを良く理解している。私から会うことができないならば、君の方から来てくれると信じていたよ。
ロイの長かった苦難の道のりがやっと終わろうとしていた、けれど。
「あ、エドワード君。報告書の件でしょ」
「そうなんだよ。今日の分やっぱり書かなくちゃいけないかな、と思って…」
「大佐!本日の分は急がないでしょうから。後日提出でいいですね!」
ホークアイ君、何故君がそんな権限を持っているのかね。私は君の上司なのに。
ロイが反論しようとした時。
彼女の銃口がロイに冷徹に向けられていた。ロイはホールドアップするしかなかった。
はい、彼女の言われるままに従います。


だが、その時ロイに奇跡が起きたのである。
ちらりとエドワードの姿がロイの瞳を掠めたのである。それはエドワードが自分からロイの姿を探しているように見えた。
これは、あくまでもロイ視点である。エドワードが果たして、そういう行動をとったのかどうかは、本人次第なのだが。
ああ、何て可憐な姿なのだろう可愛らしい。
ああ、右腕が…無残な姿だ。
私がもっと早く救出に行ければ…と、ロイの黒い瞳からは熱いものが溜まっていた。
今のロイは、デスクの上に頬をぺたりと張り付けてメンバーの腕、身体などを掻い潜ってエドワードの姿をピンポイントで瞳に映し出していた。その姿を見たメンバーは更なる非常事態宣言を発令した。
ロイは「エドワード欠乏症」に陥っていると診断されたからだ。
「秘密結社」であるメンバーは、一途に規約を厳守する。


規約
J
「目標が「エドワード欠乏症」を発症しても絶対に餌(エドワード)を与えてはならない」
注意:欠乏症に侵されている時ほど危険である。
発症したとわかった今、この場に長居は無用である。ホークアイは、さっさとエドワードの肩を抱いてこの場から避難するのであった。しっかりメンバーにロイの今後の処遇を頼むように目で合図していった。
しかし、部屋を出るエドワードが後方を悲しそうに見つめる表情に気付くものは誰もいなかった。










すごいぞ!この徹底振り。あんまり可哀想だったのでチラッとエドを見せてあげました。
さあ、ロイはエドワードと会う事はできるのでしょうか?
次回にて最終話予定♪

桜 美由紀 2005/12/13




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