TAKE OUT!から始まる恋。
act.7
宿の階段をバタバタと昇る音が、朝っぱらから響く。調子良く、均律に音を奏でるのではない。
何かしら、重く引きずるように音は音階を外している。
だが、この足音が誰の者かアルフォンスには、はっきりとわかる。バタンと一室の扉が開かれる。
エドワードの目の前には、仁王立ちしたアルフォンスの姿。
「兄さん!今、何時だと思ってんだよ!」
扉を開けはしたが、顔は下を向いたままのエドワードは、弟の姿を見るためにゆっくりと顔を上げ、ぼぉーと掠れた声を出す。
「あ、わりぃー。アル…」
今のエドワードは心、此処にあらず、のようだ。
「…!?兄さん…?」
アルフォンスは元気のない兄の様子に少し不安になるのだが。エドワードはアルフォンスの身体をするりと抜けるように部屋に入っていく。
ふらふらと歩く姿。そして、そのボサボサの頭。何がどうして、と思ってしまう。いつも綺麗に三つ編にしている金髪がしどけなく梳かれている。
「兄さん、どうしたの。ねぇー!」
「――何でもねぇーよ!」
ちょっと邪険に扱われたアルフォンスが、ムッとなる。そして、当たり前のようにエドワードに反論し始める。
「何だよー!そんな言い方!僕、心配してんだよ」
「もう、うるさいなぁー!」
「ムカつくなあ!あ、兄さん、お酒臭いよ!未成年の癖に大佐と飲んでたのかなぁー」
アルフォンスは、わかりもしない嗅覚をあてつけたように言う。ほんの腹いせに茶化した、だけだったのだ。他意はなかったのに。まあ、この程度の挑発に動揺することなどないと思っていた。それなのに、この兄は…。
完璧に抜けていた。
「え、まじかよ!匂うか…、オイ…」
そう言いながら真顔で自分の上着の匂いを嗅ぐ。
「――― …」
アルフォンスの身体が固まる。まさか、本当に自分の兄はあの「マスタング大佐」と飲みに行って朝帰りをしてきたのか。鎧の頭が勝手に、外れそうだ。
僕は、急にいやな予感がした。朝帰りの兄さんの姿。
今、落ち着いてじっくり見てみれば気だるそうな身体と一緒に色香を感じる。僕は、兄さんが眠っている深夜こそこそと青少年の為の雑誌なる物を兄さんに隠れて読んでいる。もしや、これはその御本に書かれている「僕、持ち帰りされました」という風体ではないだろうか。
だが、この件は女性に限るけど。
だけど、今のご時世少年を好む男性も沢山いると怪しい雑誌に書かれていた。うちの兄さんは、本人が気付いていないけど、その辺の女の子より可愛いというか、綺麗だと思う。
まさか、うちの兄さんに限ってあの大佐に―!
ギィ――と鎧の腕が油切れのような音を出す。
僕の思考回路がショートしそうだけど、ためしに…。
「兄さん…、ここにキスマーク」
「え、えー、何…」
アルフォンスは、エドワードの左鎖骨部分を指さした。すると、明らかにビクつく反応が返ってくる。アタフタと何もない白いままの皮膚を隠そうとする兄の姿を目の当たりにする。
アルフォンスは、ガクリと頭をたらした。
あ、ああー、頭が外れそうだよ。何となく気付いてしまった僕はどう兄さんに対処していいのか考えていると。
まだ、ぼぉーうとしたままのエドワードは、手でその場所を隠したまま上着を脱ぎ去り、ソファーにポイッと掛ける。
「風呂入って、寝る…。アル、話かけんなよ」
「――― …」
そういって、のろのろと風呂場へ行ってしまった。
ガシャンとけたたましい音がする。アルフォンスの頭が勝手に落ちた。
そう決定的瞬間を目にしてしまったのである。だが、言葉にすることもできずに。その場で冷たく固まっていた。
兄さん、シャツ裏返しに着ているよ。大佐の家から慌てて帰ってきたのだろう。
僕はどうしたら良いのですか。
お母さん〜〜〜。
* * *
アルフォンスにロイとエドワードの間で起きた出来事をしっかりばれてしまったなど、今のエドワードには考える余裕もなかったし、気がつきもしなかった。
彼は宿の浴槽にチャプンと浸かっていた。身体を浴槽の中で小さく丸めて、お湯に揺れながら浮かぶ自分の顔を見ていた。
頭上からは熱いシャワーが豪雨のようにエドワードの頭を叩きつけている。
今、この場所だけが、独りになれる場所だ。エドワードは独りごちる。
「あ、あ――どうしよう〜。ホント、大佐としちゃったんだぁー」
今頃になって実感が湧いてくる。それもそのはずだ。素っ裸になれば、否応なくとも自分の身体に刻まれた熱い証を目にしてしまう。そして、痛む下肢からは彼の欲望の残滓がぬるりと流れ落ちてきている。
己の股の間から白濁した液体がぬるりと流れるたびに、エドワードの心と身体は昨日のロイの熱い愛撫を思い出してしまう。
大佐の手が熱くて気持ち良くて、オレの前を包み込む。
優しく、荒く、そしてオレを昇りつめさせる。
そっとロイに触れられたように自分の屹立した物をしごいていく。昨日の彼がやってみせた様に。
「あ、うん…っ」
浴室に艶かしい声が微かに漏れる。額を浴槽の縁に押し付けて、身悶える。
昨日、何て言われたっけ。
「綺麗だ」
「止らない…」
「止めない…」
「力を抜け」
「かわいいな」
「初めてか」
そして「鋼の、」と何度も耳元で囁かれた。
その度にオレの身体は雷に撃たれた様に痺れた。
そして、今もそれを思い出して身体中がわなわなと震える。屹立したものが今にも涙を流しそうでたまらない。でも、寂しいと思う。
昨日、これを高みへ連れていってくれた手はとても温かくて優しくて。
オレの冷たい鋼の手じゃない。
それから大佐の形良い口唇がオレの物を優しく包むように含んでくれて。
瞳があった。
何でそんな瞳でオレを見るの。
「あ、ん…。はあ…いくっ…」
小鳥のさえずりのように、小さな小さな声で啼く。エドワードの欲望は窮みへ弾かれた。ズルズルと身体が浴槽の中に脱力していく。
浴室には熱い吐息が繰り返される。
「ああ〜、何やってんだろう。オレ…」
熱が徐々に引いていくと、きゅうに気持ちは虚しくなっていく。
熱い湯とイッテシマッタ己の身体がエドワードを桜色に色づけていく。誰も見ていないから良いものの、今の彼は誰しもが魅了されてしまうほど色っぽく艶かしかった。
「あぁーケツ痛てぇ、腹痛てぇ、身体痛てぇ、頭も痛てぇ。どうすんだよ!これから…」
頭上から注がれる熱いシャワーと熱い湯に浸かっている身体は悶々とその事を考える。
それは時間を忘れて。
只、考える。どうしたらいいと。
これから、どんな顔をしたらいい。わからない。では、逃げればいいと。
だけど、会いたいと思う。何だか、それでも会いたいと思う。
エドワードは浴槽で膝を抱えて水面にゆらゆらと浮かぶ自分の顔を見つめていた。
今の自分の表情は、その辺の花屋の女が常連の男客に恋するような顔ではないか。ふっとこの街角にある花屋の女性が頬を染めている表情が自分に重なってしまう。
誰かに恋する表情だ。
本当に進まない。たけど、エドの一人H編。
シャツ裏返しは、経験談(笑) さすが兄弟、兄の行動バレバレです。
そして本人は気付かない。さあどう動くアルフォンス君。
長くなりそうです。この話。ついてきてくれますか?そして更新はのんびり(汗)
桜 美由紀 2005/12/28
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