TAKE OUT!から始まる恋。
act.8
「兄さん、兄さん!いいかげん出ておいでよ!」
長い時間、浴室から出てこないエドワードを心配になって声をかけるのだが、音信不通だ。
もう仕方がないとアルフォンスは浴室へ乗り込んだ。
「兄さん――!」
ひと際甲高い声が浴室にキンキンと鳴り響く。驚いて当たり前である。兄、エドワードは浴槽の中でぐったりと沈みかかっていたのだから。
慌てて浴槽から引き上げて意識を確認するが、完璧に逆上せてしまっている。
「はあ、こりゃ駄目だ…。完全に兄さんいっちゃっているよ」
意識のないエドワードを浴槽から引きずり上げて介抱することになるアルフォンスだった。
昨日から僕はついてないよ。帰ってこない兄さんを心配して寝ないで待っていたし。いや、眠れない身体だったから良かったけれど。大変だよ今後…。
アルフォンスはどうしようかと兄の変わりに今後の事を考えるのだった。
その日の午後。
軍司令部でいつもと変わらず仕事をするロイの姿があった。
だが、いつもと変わらないようで実は、サボり癖のある彼に輪を掛けたように仕事が滞っていた。山積みにされた書類がその内雪崩を起こしそうな気配だ。そんな様子を毎度の如くホークアイ中尉が、溜息を漏らしながら銃口の照準をそろそろロイに向けようとしていた。
「大佐、アルフォンス君が来ていますけど…」
ガタガタ。
デスクから身を乗り上げるように反応する。ぼんやりと窓を眺めていたロイだったが、彼女の言葉に我に返った。
「ん!? 鋼の、は一緒ではないのかね」
「はい。アルフォンス君だけですが、珍しいですね」
「…通してくれたまえ」
ロイの胸中は内心ドキドキしていた。大人気ない。まるで悪戯がバレタ子供のようだ。
この場合、親はアルフォンスということになる。
この場を逃げるわけにはいかなかった。
恐らく彼が一人で来たということは、もうわかっているのだろう。昨日、兄であるエドワードの身に何が起きたか。気鬱である。では、エドワードがいつものように此処にくれば、良かったのか。それもどう対応したら良いのかわからない。
溜息がいくつも空を舞って行くばかりだ。
* * *
「こんにちは。大佐」
「ああ、報告書を持ってきてくれたのかね」
「ええ。そうです。兄さんのかわりに…」
鋼の鎧に感情はない。だが、言い知れないオーラが見える。燃えるように赤いオーラだ。言葉の端端に嫌味を感じる。
しっかりお見通しということか。だからといって、こちらからわざわざ話す必要もないだろう。ロイはいつも通りに振舞い、報告書に目を通しながら淡々とした会話を続ける。
「そうかね。鋼の、はどうしたのかね…」
アルフォンスもロイの腹を探っていた。
恐らくこんな態度をとられるだろうと十分承知していた。だから、こちらも敢えて吼えたりしない。
兄さんに今後一切手を出すな、と言えば自分の気持ちはすっきりするのだけど…。それは違うような気がした。あんな兄の表情は初めてだ。大佐がどう思っているか別だけど。これはあくまで2人の問題だ。
と、青少年が読む恋愛小説にはよく書かれていた。
青少年が読むではなく腐女子が読む恋愛小説の間違いだろうと言いたいが、アルフォンスの中では勝手にストーリーが出来上がっていたのだ。
幾分、怒り気味の口調なのは仕方がない。
だって、大切な兄さんの行く末だから。
「大佐忠告です。未成年者に飲酒させないで下さい。それと門限がありますので、それまでに兄さんは返却して下さい宜しく。以上です!」
報告書を読みながら無言で聞く。
どんな事を言われようと沈着冷静を保っている。だけど、予想を反してアルフォンスからの苦情はそれだけで終わった。拍子抜けだ。
それと同時にアルフォンスが不可思議な者に見えてきた。
ロイは視線を彼に合わさず、彼にそれとなく昨日のことを口にする。
「鋼の、は君に何と言ったのかね」
まさかロイから昨日のことで返答が返ってくるとは思ってもいなかったアルフォンスは、少し驚きながら。
「――何も言いませんよ。今は熱出して寝てるだけです。風邪みたいですよ」
熱を出してしまった、という言葉にいささか罪悪感がある。無理をさせてしまったのだろうと。
途中から理性を失って突っ走った感があった。
だけど、それはお互いさまのような気もした。彼も十分応えていたと。
それでも自分は抑えるべきであった。どこからと言われると返答に困ってしまうが。
やはりあの晩は、酒が入ったからなのだ。こんな事は二度とは起きない。
ロイは、パタリと報告書を読む手を止めた。
「――安心したまえ。昨晩のようなことは起きないよ…」
「へっ…」
意外な返事にびっくりする。こんなにあっさり引き下がられるとは思ってもいなかった。
正直安心した。
と、同時に怒りのような何とも言い難い感情が渦巻いた。
「鋼の、には身体を十分休めるようにと伝えてくれ。それと――」
その先の言葉をロイは言いよどむ。どう伝えたらいいのか悩んだ。
相手を傷つけないように考えた。こんな事いつもやっていることなのに。数多の女性達との別れ際にはペラペラとうまく言葉が出てきたはずなのに。
今日は時間が掛かりすぎた。
ロイは椅子をくるりと回転させた。アルフォンスに背を向け、窓から見える景色を見ながら静かに続けた。
「…飲みすぎたと伝えてくれ」
アルフォンスはロイの口から出た言葉をどことなく重く感じた。彼は釈然としないまま只、言葉を紡いでいるように思えて。
声色は変わらず。
変わらないから尚のこと不自然さを残した。
静寂な彼の背中を見ながらアルフォンスは、彼の望むままに従うしかないと。
「わかりました…」
と、小さく言葉を残してアルフォンスは静かに部屋を出た。
アル VS ロイ。
ちょっとアルフォンス本の読みすぎ!君は何の本を読んでいるのだね。
「●U●E」です。
ロイは逃げました!これはやり逃げでは!?すみませんのろのろ更新です!
桜 美由紀 2006/1/18
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