月の子






  〜 Moon Child 〜
 act.3



















夕刻になり、そうそうにロイ・マスタング准将は仕事を切り上げ
帰宅していった。
いつものサボり癖は、どこへやらという勢いで仕事をこなしていく彼の姿に彼らの
部下達は、不思議そうな顔つきで見ている。


「何か、あるんですかね?准将…」
「本日は会食などの予定は入ってなかったけど。まぁ、仕事のノルマを
果たして頂けるので助かるので、何とも、言えないけど…」


さらりと、ホークアイ大尉は応える。ようは、仕事をやってくれれば、文句はでない。


「そうですね!また、新しい彼女の誘いでもあったんでしょうか?」
「マジかよ!俺、なんかー、准将のおこぼれでもいいんで分けてもらえない
でしょうかね!」


いつものタバコを咥えながら彼女を欲しがるハボック中尉が、司令部内で喚いていた。


「いぇ!私の記憶では、ここ最近は彼女らしい方は、いなかったようですが…」


ファルマン少尉の言葉に、皆頭をかしげる。
そうだったけ、と。
う、ん?あの女好きのロイ・マスタング准将がー!!!
セントラル軍司令部内では、謎の会話が繰り広げられていた。




その頃、ロイは自宅の玄関先で少し戸惑っていた。
もし、昨夜からの事が夢だったらと、この扉を開いたらもぬけの殻だったら。
昨夜の晩の情事が…。今朝の会話が…。全てが夢であったらと…。
私は。
そんな不安を持ちながら自宅の玄関をノックしてみる。


「コンコン
――


ガチャリ、とゆっくりノブを回し玄関の扉を開けた。視線を上げるとそこには、愛しい人の顔が
ひょっこり廊下から現れた。
長い黄金の髪がさらりと流れ、黄金の瞳は私を見てはにかんだ笑顔で私を迎えてくれる。


「おかえり、ロイ」


私はその姿と、この「おかえり」の一言に涙がでそうなほど歓喜する。
夢ではなかった。願いは叶ったまま時が、流れ始めている。


「ただいま、エドワード」


ロイは、エドワードを抱きしめた。ぎゅっと力を込めて。
実感したかった、この気持ちを幸福という気持ちを。
それに応えてかエドワードも彼の背に手をまわして優しく包み込む
2人が、やっと捕まえた幸せを実感しあう。




暫しの抱擁を交わした後、2人は恥ずかしそうにいそいそとリビングへと戻ると、
リビングの方から何やら、良い匂いがしている。
ちょうど夕飯時の空腹を訴える腹に、その匂いは反応した。
何の匂いだろう…。久しくこのリビングでこのような匂いを嗅いだことがなかった
ロイだったが。


「何の匂いだい?いい匂いだ。食欲をそそる」
「アンタ家の冷蔵庫を漁って、ちょっと作った…///。只で宿、借りたお礼だ」


気恥ずかしそうに言う、エドワードの姿がとても可愛らしかった。


「君が、作ってくれたのかい?」
「あぁぁ、口にあうかわかんねぇーけど。シチュー作ったあと、サラダとか、色々…」


リビングのダイニングには、温かい湯気をたてておかずが所狭しと並んでいる。
どれも美味しそうに、彩られて食卓は華々しかった。
こんな事、今迄この家を借りてからあっただろうか、ロイは自分の自宅で
心温まるもてなしを受ける事となった。


「君は、昨日から私をびっくりさせてばかりだね!」
「なんだよ、それー」
「嬉しいだよ!エド、ありがとう。私は、久しぶりだよ。こんな思いは…」
「さっ、食べようぜ ///!オレ、腹減っちゃった!」
「あぁぁ、そうだね。君は、料理ができるんだね。驚いたよ!うん、美味しいよ!」


シチューを一口啜りながら、ロイは美味しさを味わっている。
具沢山のシチューには、どことなくおふくろの味を感じる。エドワード達の母親の味。
そんな事を考えながら。


「ほら、オレ達早くに母さんが亡くなったから。それで、あと色々手伝ったりしてたから。
自然と、な!実を言うと錬金術じゃー、オレが勝ってるけど料理の腕は
アルの方が上なんだよな〜!ムカつくけどそれはホント、アルの方がもっと
色々作れるし、うまいぜぇ」
「いやいや、これだけ作れれば凄いもんだよ!感心したよ エド、ありがとう…」


ありがとうの言葉に、エドワードの頬はうっすらと桃色にかわっていく。
照れているのだろう、可愛らしい一面を見て喜ぶロイがいた。


「ほら、これとかもっと食えよ ///!アンタ不摂生してそうだし、オレが面倒みて
やるよ///」


エドワードは、照れながらもさり気なくその言葉を口にした。
嬉しかった…。恥ずかしがり屋のエドワードが言ったその言葉が。
私と一緒に居てくれる事を了承してくれる意味でロイも、しっかりと言葉で返す。


「頼むよ!何かと、役職つきで忙しいので君の手料理を食べられるとなると仕事も
はかどるよ」
「うん、まかせとけ!こんな事ぐらいしかできないけどなっ」
「十分だよ、エド。私には、贅沢なぐらいだ」
「えっー?」
「こんなに、食事をする事が楽しかったとは我ながら、気付かなかったよ…」
「ロイ、オレもさっ、やっと、こんな気持ちになれたよ…」


2人の始めての晩餐は楽しく。時がたつのを忘れるほどでこんなに、楽しい食卓は
始めてでロイは、嬉しくて仕方がない。
食事の片づけも終わり、食後のコーヒーを2人ソファーに寄り添って
飲みながら、エドワードはふと、言葉をもらした。


「オレ、リゼンブール出るとき、ちょっと出かける位しか、言って出てきてない!」
「アルフォンスには?」
―― アルが、行けって。うじうじしてるオレを見てらんないからって…」
「アルフォンスは、今…?」
「たぶん、この時間ウィンリィの家だと思う」
「そうか!では、電話してみよう!」
「えっ、何でぇー!」
「心配してるだろう?」
「う、うん…」


ロイは、電話をかけに立ち上がった。
その行動の早さに、エドワードはびっくりして止めに入ろうとするが軽くあしらわれて
しまい、その背後を逆にしっかり抱きとめられてしまった。
エドワードの頭上で会話が繰り出される。


「もしもし、ロックベルさんのお宅でしょうか?私、ロイ・マスタングと申します。
いえ、こちらこそ、お久しぶりですね。ウィンリィ嬢、エドー。あぁー、来てます。
アルフォンスは、いますか?」


ロイは、エドワードに大丈夫だよと笑顔で微笑みかける。
そんなロイの顔を不貞腐れつつも、大人しくロイの胸に背中を預けているエドワード。


「久しぶりだね、アルフォンス。身体の方はどうかね?そう、それは良かった…」


アルフォンスの声が電話ごしに聞こえる。


「兄さん、そっちに無事に行きました?」
「あぁー、いるよ!」
「君だろ!?エドに助言してくれたのは?礼を言うよ。ありがとう…」
「いえ、そんな大佐に、いえ准将に礼を言ってもらうほどの事はしてませんよ!僕は
只、大切な1つの願いは叶ってやっと自由になれたんだからって思ったので。
兄さんの自由を奪うことは、もうしなくいいんですから」
「そうか、本当にすまない…。エドワードに傍にいて欲しいんだ。私は、だから君に
連絡をと思ってね。絶対に、もう離さない!一緒ここに住むことにした。許してくれるかね?」
―― 兄さんが、それで良いんだったら僕は何も言いません」
「そうか、大事にするよ。アルフォンス」
「あっ、兄さん、あの後、体調を崩してそれから、前ほどじゃないですけど
少し身体弱くしてるんですよ。強がりだから、言わない思いますけど…。気をつけて
やって下さい。それとーあと、色々…」


兄思いのアルフォンスは、兄の色々な癖や今の状態などを切々とロイに語り始めた。
それだけ、兄の事を大切に思っているのだろう。


「エド、アルフォンスがかわってくれ、だそうだ」


ロイの腕の中でむっすりとして2人の会話を聞いていたエドワードは、
むっすとした表情のまま手渡させる電話を手に取る。


「/// 何だよー!おまえ、あれこれ、うるさい!もうー!!!」
「何だよ!は、こっちの台詞だよ、兄さん!でも、良かったね。身体、気をつけなよ。
前と違ってもう、あんまり無理は効かないんだからね。それと
――
「う・る・さ・い!っ、もう、わかったから…」
「もう、失礼だよ!心配してやってんのに!あっ、しばらく〜したら遊びに行くね」
「うっ、それは…。アル、ありがとう。オレ、今すっげぇー、幸せだぁ」
「うん、じゃね!宜しく言っといて准将に、兄さん」


照れて耳まで真っ赤にしながらもアルフォンスに、今の気持ちを
エドワードは伝える。
電話を切った後の2人は、ロイがしっかりとエドの身体を抱きしめ彼の首筋にキスを
刻んでいる。
耳元で、ロイが熱く語りかけ昨晩の忘れられない情交を強請る。
エドワードの身体はロイを夢中にさせてしまった。
陶磁器のように滑る白い肌、絡みつく口唇、熱い吐息、艶めかしく濡れる身体全てが、
男の欲求をさらに、貪らせる。





「エド…、今日も、いいかい?」

エドワードの頬が、ぽっと薔薇色になり、きつく黄金色の瞳がロイを睨み上げる。
睨みあげる眼元も、薔薇を散らせている。

「/// 駄目!もう、アンタって、そうー…!///」
「昨日の今日だからねぇー、駄目かい↓仕方ないねー」
「いいじゃんー!一緒にいるんだし ///」
「そうだね。じゃあ、ベッドは一緒でもいいだろう。エド…」
「もう、アンタって何だか子供みてぇー。でも、いいよ」


その後、ロイの寝室へと2人は姿を消していった。
2人の同棲生活は、まだ、始まったばかり。
一緒のベッドに眠る2人は、今宵も長く熱い夜を過ごしそうな気配を漂わせながら。




*        *        *




「エド、今週の土曜日だが、出かけないか?」


突然のロイの言葉にエドワードは、びっくりする。
今迄、一緒にでかけるなどした事もなかった為思わず耳を疑ってしまう。


「どこに?」


読書中に話しかけられ、本はそのままに上目遣いに尋ねる。


「君の衣類とか、日常品や色々家財とか揃えたいと思ってね」
「えぇぇー!?別に、いいよ!不自由してねぇーよ!」
「いや、そろそろ着替えとかも足りないはずだ!」


余りに、必死に訴えるロイの姿に気圧されてしまう。
何なんだ、この気迫はと…・。


「…アンタ、すっげぇ、張りきってるな!わかったよ、いいよ。
まぁ、着替えとかそんなに持ってきてなかったし」
「よし!その日は、私は昼迄の勤務だから、そうだ!セントラル公園が近いな
そこで、待ち合わせしよう。いいね!」
「???いいよ。わかった」


何だか、凄く嬉しそうなロイの表情が印象的だった
だが、なぜそんなに嬉しいのだろうか、少々謎を残す感じではあったが。
エドワードは、1人小首を傾げていた。




ロイ・マスタング准将、実を言うと自分からデートに誘うのは久方ぶりであった。
この女垂らしで有名な彼だったが、自分から誘う事は稀なことである。
今迄、本命らしき女性が現れる事がなかった為、自分から好んで女性と何かをする
という事はあまりなく。
ほぼ、好意を抱く女性が一生懸命に段取りを立てるという感じ多かった。
それに、流されて今迄色んな女性と遊んで、否、付き合ってきたようなものだった。
だから、自分でエドワードを誘って色んな所にエスコートしたかったのだ。
エドワード自身は、あまりそんな事には疎い感じではあったが
それでも、ロイは2人の思い出を作りたかったのである。
今しか出来ないことが、あるはずだからと思い巡らせていた。




土曜日の軍司令部。




「准将、凄い今日機嫌がいいですね!」


司令部で、皆がこそこそと話しあう、動向は准将の機嫌についてであった。


「いゃー、ここ最近機嫌がいいように思うんだけどなぁ」
「私の記憶によりますと、約二週間ほど前からですね!」
「すごいなぁー、そんなことまで記憶してるんですか…」
「まさか、犬飼ってるとか?」


皆が、ブレダ中尉の方に顔を向け首を横に振り、一斉に返事をする。


「絶対ない!」
「そんなことより、仕事を速やかに処理されているので、何も言うことはないわ」
「確かに…」


結局は、そこかよ!
さすがホークアイ大尉であった冷静な判断?


「おい!君達、何をそこでこそこそしている!早く仕事せんか!」


今迄、聞いたこともないようなお言葉だ。


「あぁー大尉。何かこの辺りで美味しいランチの店は知らないかね?」


机に肘をたて、いつものように顎をのせているロイ・マスタング准将はいたく
ご機嫌だ。


「?デートですか?准将…」
―― いや、知り合いと食事をと思ってね、、、」


暫しの沈黙が司令部に流れるが…。


「セントラル通り沿いのパスタの店が結構有名ですが!あそこなら
ショッピング街にも近いので良いかと思われますが…」
「あぁーなるほど、助かるよ!大尉」


軍司令部の皆が、怪しげな行動をとる上司へ視線を向けるが彼はいたって平然と
仕事を処理していく。
約二週間前のぐーたら上司とは、どうも感じが違う、と覇気が違うと感じる。
みんなの予想は、また新しい女性ができたのでは。
まぁ、長くは続かないだろうと予想していた。




冬の寒い季節がやっと終わりをつげようとしている。
灰色の季節から徐々に緑の色が芽生え始め少しずつ、春に近づいていく。
そんな昼下がり、まだ少し寒いけれど昼間は温かさを感じられるほどだった。
エドワードは、ロイに指定されたセントラル公園の噴水近くで彼が来るのを待っている。
壁に寄りかかり、噴水を見つめながら。
愛しい人を待つなど、こんな時が来るなんて思いもしなかったエドワード。
ちょっぴり気恥ずかしさもあったが、嬉しい気持ちの方が格段上だ。



黄金の色の髪は、背にゆるりと垂らし邪魔になる前髪と一緒に片耳に横髪をかけている。
ざっくりと編まれた白いセーターにジーパンを身に着けて、愛しい人を待つ姿は
近くを通る人々の羨望の眼差しを一身に受けていた。
自分の姿が、人々にどう見えるのかなど気にもとめていないエドワードだったが、人々は
エドワードの姿に目を奪われいく。
綺麗な金髪の子だと注目を浴びている。
男達の視線は必ずエドワードに向けられ、女性達からは、憧れの眼差しをエドワードに
向けられる。
そんな事などお構いなしに、只愛しい人を待ち続けているだけのエドワードがここにいる。



ロイ・マスタングは、仕事を定時に終わらせ愛するエドワードの元に、急ぎ待ち合わせ場所へと
向かったが…。



まさか自分の愛する者が、自分が思っている以上に人目に付くと言う事を
思い知らされてしまうことになる。
エドワードにすれ違う人々が、彼を羨望していく。
ロイは、その光景を目の当たりにしてしまった。
それと同時に、自分の愛する人を自慢したい、これ以上誰の目にも止まらぬ場所に
彼を閉じ込めたいと、まったく正反対な思考が胸中で争う。
それも含めて我が愛しい人を守りたいと強く思った。
誰の目にも羨ましい程の美貌の持ち主の傍に寄りロイは声を掛ける。
その時の、流れいく人々の羨望を二人が一身に受ける。


「エド、遅くなってすまない。待ったかい?」


本当にありきたりな言葉だったが、彼に言うのはとても新鮮な気持ちがした。
ちょぴり恥ずかしげに、待ち人の登場を喜ぶエドワードの姿がとても可愛らしかった。


「そんなに、待ってないけど。腹へったー!早く行こうぜ、ここはすっごく
落ち着かない!」
「それはー、君の美しさに皆の瞳が釘付けだからね…」
「なんだよ!?それー?」
「気がつかないなら、それもいいんだが。さぁ、行こうか」


ロイとエドワードの初めてのデート。
始めに、ホークアイ大尉のお勧めの店でランチをゆっくり楽しむ。
色んな会話をした、早く帰るようになったとはいえ、役職付の為中々思うように帰宅が
できなかったロイだったから。
ゆっくりランチをして会話を楽しむ事がなによりの幸せだった。
それは、エドワードも一緒で2人は、食事をするのも忘れるほど色んな会話を楽しんだ。
その後、近くのショッピング街で日常品の買出しに出かける。
今迄自宅に帰ってもほとんど寝るだけのまるで、ホテル生活のような家だったから
エドワードの意見により、色んな日常品が買い揃えられた。
エドワード自身も長く、旅生活をしていて家に帰るということがなかった為、新鮮な
気持ちで色んな物を調達している。
幼い頃、母親と弟と明るい家に住んでいた。小さな幸せをもう一度思い出すように。



日が暮れかかり、辺り一面は黄昏の気配が感じられるようになる。
昼間は、暖かった気温もこの時間になると肌寒くなっていく。



「エド、寒くないかね?さすがにまだ、夕刻になると寒いな…」
「昼間は、この格好でも暖かいくらいだったけど、やっぱさみぃー」
「ほら…」


エドワードの背にふわりと温かい物が被せられた。
ロイが羽織っていたコートが彼に覆われ、エドワードの肩をそっと自分に引き寄せる。
2人密着する事で、温かさは増し心から身体を委ねるエドワードの姿がそこにはいた。


「うん、あったかいやー。でも、ロイは寒くないのかよ?」
「そうだね、君の肩をこうやって抱いてるだけで、凄く温かいよ」
「/// アンタって、スッゲェきざな言葉ばっかり言うよな、もうー」
「ははは、そんなことはないのだが、君に応える言葉だけは偽りはないよ」


たわいもない恋人達の会話、そんな事が許されるとは以前では到底考えられなかった。
だが、やっと掴み取った平凡な幸せを2人は噛しめあいながら、大荷物を持ちながら
ロイの自宅へとゆっくり帰っていく。
今晩の夕食は何にしようか、など、と甘い生活を堪能していく。
2人での生活は、とても楽しく新鮮だった。
今迄、絶対に不可能だと思っていた事に手が届いた為できる平凡でも、幸せな生活。
穏やかに時は流れていく。


























お待たせです!
はい、ベターな2人。ラブラブモードに…なってるでしょうか?
ちょっとページ関係上、というかまだまだ先が長いのでこの回は一気に
押し込めてしまいました。
はぁ…書いてて私もこんな、生活をしたいわ☆と思った。

桜 美由紀 2005/8/10














   
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