月の子






  〜 Moon Child 〜
 act.9



















中央司令部に出勤しているロイは、ここ数日間大変ご機嫌斜めである。
いや、ご機嫌斜めというより、仕事に身が入っていない。
どこか、遠くを考えているようで。
それは、今迄が非常に良すぎてあったのだが。
司令部の人間は、ここ数日の上司の行動の異常さに色々憶測を上げていた。
小声で、ハボック中尉は他の連中に聞いてまわる。


「なんか、あったんかね…」


一様に、上司の私情を気にしている。他人の事なのに、ようは連中は暇なのである。


「貴方達、ちゃんと仕事してください!残業したいのですか?」


ホークアイ大尉の檄が、とうとう飛び出した。
一度目は、口頭で注意を促すが、二度目は腰のホルダーがカチャと外れる音が
する。三度目は、発射である。
ホークアイ大尉は、准将であるロイにも同じく檄を飛ばす。


「准将も、仕事してください!」
「あぁぁー、すまない」


だが、口だけで行動が伴っていなかった。
深いため息が司令部に漏れる。
本日の准将は、執務室から見える空を見上げる事が多かった。
悲壮な黒曜石は飽きることもなく空を見つめ続ける。
そんな様子にホークアイは、午後司令部の人間が、市内巡回に出かけ
人気が少なくなってから准将に話かけた。


「どうされたのですか?仕事がたまります…、早く帰れませんよ!」
「ぁぁぁあああーそうだ、それは困るな」
「はぁー!何か、あったのですか!ここ数日、おかしいです!」


暫くの間が、
その後ロイはふわりと言葉を口にした。


―― あれが、身籠った。六週目だそうだ」
「まぁーおめでとうございます。宜しいでは、ないですか?」
―― …そうだね」


彼女の嬉しそうな笑顔が、ロイの瞳に飛び込んでくる。
何人目だろう、他人が素直に喜んでくれている笑顔を見るのは。
私も、こう何も先の事を考えずに本当に喜びたいのだが。






只1人エドワードだけはこの数日、ロイの顔をまともに見ようとしてくれなかった。
会話も余りなく数日が過ぎていった。
体調は、病院にかかり薬を服用し始めた為か倒れる事はなかったが、以前寝たり
起きたりを繰り返している。
あの太陽のような笑顔を見ていない。最近は、目元を赤く腫らした泣いた顔、
悲痛な表情、苦痛な表情と…、それと何か物言いたげに口唇をひらきそうになる表情。


「あまり、浮かない顔ですね。准将」
堕胎を医者に勧められた。妊娠の継続は、母体が危ないらしい」
「…そうですか。お辛いですね。それは、准将より彼の方が…」
「そうだね。お陰で口も聞いてくれないよ、最近。はぁーどうしたものだろう」
「難しいですね。
ですが、もう結論はでているのでは?」


ロイは、きょとん、とホークアイの顔を見上げる。
はぁ?結論がでている。どうして?私はまだ、こんなに悩んでいるのに?
彼女の言葉に首をかしげ、悩むロイの姿がここにある。






「エド、調子は?少し食事しなよ。ほらっ食べて…」


ベッドヘッドにクッションを敷き詰め気だるく、もたれかかっているエドワードに
食事を勧める。
そんなウィンリィの健気な姿に、辛そうに微笑を一生懸命作るエドワードだった。


「ウィンリィ、色々世話かけてわりぃな…」
「いいのよ。でも、少し元気になったかな?」


ウィンリィは、エドワードの額にそっと手をあて、熱を測ろうとする。
以前、微熱が続いていたが、仕事中に倒れた時にくらべて幾分調子は快復していた。
恐らく、先日病院でもらった薬のおかげだろうと。


「さっ、食べなさいよ。このウィンリィ様の手料理よ!」
「はははー。でも、ごめん。食べたら…また、吐くから。
―― キツイ…」
「何言ってんのよ!食べなさい、吐いても食べなさい」
―― 吐くのも、きついんだよ!おまえなぁ…」


エドワードは、シーツのすそをぎゅっと握り締め唇を噛んでいた。
何となく、投げやりな態度を見せるエドワードに、ウィンリィは胸の奥に痛みを
感じる。


「エドー!アンタ1人の身体じゃないんだからね!」


その言葉に、俯いていた顔を勢いよく上げてウィンリィをにらみかえす。


「ウィンリィ、
―― もう、その話はやめてくれ…」


切れ々に切なそうに、エドワードの口から話題の転換を促されたが。


「アンタ、マスタングさんにちゃんと、話したの。思ってる事…」


その言葉に、エドワードは顔を俯かせてしまう。ウィンリィの顔を見れない。
話そうと、思っても言葉にできなくて、自分の本当の思いを伝えられない。
色々な障害が、伝えたい言葉を濁してしまうから。
ウィンリィの顔を見ることができないまま、首を弱々しくふる。
彼女は、そっとエドワードが大切に保管している腹へ手をあてがい
エドワードの身体を抱きしめる。


「エド、この中にはまだ、ちゃんと命が生きてるのよ…。大切なんでしょ」
―― だけど、アイツにとって…」
「マスタングさん、病院に行く前に、凄く素敵な笑顔で私に話してくれた」
「っ、……」
「そして、アンタの事をずっと思っていてくれてる。焼けるくらいにね」
「ウィンリィ、
オレ、この子産みたいんだ!夢だと叶わないと思っていたから。
だけど、手に届きそうで。今、オレ命かけてもいいから産みたい!ロイの子が欲しい」


激しく嗚咽を繰り返しながら訴え、幼馴染の胸に涙をおとす。
以前にくらべ丸みを帯び、そして痩せた細い身体をウィンリィは抱きとめた。
もう、何度泣き続けてきただろう、とお互い色んな事を…。


「じゃ、伝えなさいよ。今の言葉、彼に…」
「うんー!」


やっと、エドワードから笑みが浮かぶ。
まっすぐな、意思をもった微笑が戻ってきた。


「エド、アンタそうしてると、トリシャおばさんによく似てきたわね。何だか、もう
母親らしい顔つきしてるわよ」
「えっ、母さんに…」
「うん、ホント…」


長い黄金の髪を横でゆるく束ね肩にかけている姿は、生前の母親の姿かたちに雰囲気が
似ているようだ。
穏やかに微笑みながら子供の成長を見守っていた、エドワード達の母親トリシャの姿に。






夜も更け、月の明かりが眩しく照らし始める頃にやっとロイは、自宅へと帰宅した。
静かな我が家。
家人の帰宅を待っているように、リビングの灯りは消される事はなかった。
もう、エドワードもウィンリィも寝静まっている時間だろう。
そっとリビングの扉を開き部屋に入る。そして、ソファーにどっしりと疲れた身体を
預け、深いため息をつく。


ガチャリと背後で扉がひらく音がする。
音がする方向へ何知れず、目線をやるとエドワードがリビングへと入ってくる。


「エド
、駄目じゃないか寝てないと」


ロイは、慌てて彼の元へ駆け寄り身体を支える。
覚束ない足取りで部屋に入ってくるエドワードは、ロイの優しすぎる黒曜石の瞳を
まっすぐ見据えながら言った。
自分の願うことを素直に伝える。
以前、伝えることに長い時を費やしたから。
だけど、今度はちゃんと伝える正直に自分の思うままに、気持ちを…。


「ロイ、おかえり。話したいことがあるんだ」


エドワードの黄金の瞳は、迷う事無くロイを射すくめる。
伝えたいこと。彼の願い…。思うことを…。


「エド、とにかくこちらに…」


ゆっくりとソファーに座らせる。
身体を冷やさないようにと、ロイは羽織っていたコートを身体にかけてやる。
何をするにも、彼は優しい。涙が、溢れるほどに優しい。
そんな彼に、エドワードの強い願いはどう、反応するだろう。
ロイの子が宿っている下腹部へと一緒に勇気を分けてくれるようにと、そっと温かい命を
宿す場所に手をあてがう。


「ロイ、オレにこの子を産ませて欲しい。お願いだ!」


たぶん何時かは、こう彼が言ってくるだろうとわかっていた。
ロイ自身も知っていた彼の願いを、聞きとげられない願いを知っていたから。
だが、願いは奇跡を起こし始めたから。


「エド、私は君を失いたくない…。だけど、君の願いを私は知っていた」
―― お願いだから産ませてよ!可能性はゼロじゃない…」


エドワードの黄金の瞳は、まっすぐロイに向けられる。
その意思の強い黄金の瞳から、逃れることなどできなかった。
ロイは、エドワードの両肩をぎゅっと抱きしめ胸に抱きとめる。
離さない、どこにも連れて行かないで、欲しかった…。ただ、ここに傍にいるだけで
良かった。
自分の傍で、太陽の輝きのような微笑を絶やさないでいてくれれば、それだけで…。
だが、自分にも欲はあったのだから。
人の業を、持っていた。


「君が、傍にいてくれるだけでいい。だけど、嬉しかった本当に君の身体が私の子を
身籠ってくれた事が、何より嬉しかった。私も
―― 、叶わない夢を願っていたから」


そう、願っていた。


今思えば、ホークアイ大尉が漏らした言葉。「結論は、でている」の意味がわかる。


そう、願っていたから。


最初から、身体を抱くたびに、その願いは無意識に願っていた。
エドワードの身体を抱くたびに自分の種を注ぐ自分がいたから。
もし、叶ってくれたらと思いながら、彼の身体に欲望と希望を注いでいた。




ロイの言葉は、エドワードの心に温かい風を運んでくれた。




「嬉しかった」その一言で全てが救われる。
その一言で、「頑張れる」。


「ロイ…。オレも、すっごく嬉しい。アンタの子がここにいるんだって…」
「エド、触らせてくれるかい…」
「うん…///」


そっとエドワードの掌に重なるようにお互いで命の宿る場所に触れる。
まだ、何も兆しさえわからない場所から温かい命の鼓動が彼らに伝わる。


「もし、君の命が危険にさらされたら。私は、君の命を優先する!絶対に
君が泣こうと喚こうが、怨まれようが!それは、わかってくれ…」
「うん、ロイ。オレはそんなに簡単に死なねぇよ!」
「あぁぁ、そうだな!そして、絶対に無理をしないいいね!これだけは約束してくれ」


真剣に、エドワードの心に訴えかけるロイの言葉をしっかりとエドワードは胸に
受け止めていく。
彼の願いと思いを知ったから素直に受け止める事ができた。
可能性は、ゼロではない。この言葉に2人の思いを跳ばそうと。
月明かりが美しい晩に、2人は誓いの口付けを交わした。


2人だけの儀式。
知っているのは月とエドワードの宿す赤子のみ。




*        *        *




病院を訪れた日より、約一週間がたった。
約束の一週間後。
初老の医師に再度、エドワードは検診してもらい結果を聞く。
今度は2人一緒に。
医師は、2人を目の前に先日の選択を問う。


「どうするかね…」


ロイは、はっきりと医師に意思を伝える2人で出した結論を。


「堕胎は、しません!産ませてください!」


意思の強い黒曜石の瞳と、今日はしっかりと前を見据える黄金の瞳の両方が医師に願う。


「お願いします」


医師は無言で暫く、手元にある資料と書類、検査結果等を眺めていく。
診察室には、紙をめくる音と医師がペンを滑らす音のみが響き、沈黙が長く感じられる。
そして、息がつまる。
ペンを滑らす音が消えた。
医師は、2人に向き合いじっと瞳を見つめる。


「わかった。想像以上に苦しいぞ!いいね」


その言葉に2人の顔が輝いた。久しぶり笑ったような気がする。
そして、2人喜びを見つめあう。
ロイは、久しぶりに太陽のように輝くエドワードの笑顔を見れて感激した。
この笑顔を見たいが為に、これからも頑張っていこうと、新たに決心した一瞬だった。


「ありがとう。先生!」
「この一週間で、胎児も通常に成長しておるし、母体の生体機能もやや、上がりつつ
ある。まぁ、この前はホントやばい状態だったからな、胎児の方も」
「えっ、そうなのか…」
「うむー今、やっと二ヶ月目じゃ。この一週間、よう頑張ったな。おめでとう」


ロイは、この時初めて「おめでとう」と、言う言葉が心の中に温かく浸透していく。


「二ヶ月
―― !ホント成長してんだっ、へへ…」


嬉しそうにお腹に手をあてるエドワードの姿は眩しく、穏やかな聖母の表情をしている。
聖母のような微笑をこぼすエドワードを目を細めてロイは、見つめる。


「よかったな、エド」


ロイは、エドワードの手を優しく包み込む。


「うん…」
「先生、宜しくお願い致します」


ロイは、深々と頭を下げる。
何も判らないことばかりで頼れるのは、この医師のみ本当に藁をもつかむ気持ちだった。


「一緒に、頑張っていこうかね」


2人に路が開けた瞬間だった。
その後、医師から今後の注意事項や制約など色々難しい説明を2人は聞き、一通りの
治療をすませて病院を後にする。2人の背中を見ながら医師と看護士は、こんな事を
話をしていた。


「先生、ホント大丈夫なんですか?」
「う〜ん、そればかりはなー。母体次第じゃな…」
「そうですねぇー」
「じゃが、あの子の顔を見たかね。いい笑顔をしとった久しぶりに見たな」
「えぇー最初来た時は、もう死にそうな顔でしたもんね。ホント、綺麗な子だわと、
思ってましたけど。せったくの顔が台無しで…。でも、あの子、笑うと凄く可憐で
綺麗な笑顔を魅せてくれて私も羨ましかったですわ」


医師は、目を細めながら看護士の嬉しがる表情を見ていた。
そして、エドワードについて語り始める。


「あの子の身体を、おまえさん見たかね…」
「えぇーまぁ、ちらっと…、は」


看護士は、急に遠くを見つめるように話し出した医師の言葉を静かに聞く。


「あの年齢で、あちこち傷だらけじゃった。右腕、左脚は…、いうに忍び難いものだ。
その他も今迄想像を絶するような辛い目に合ってきたようじゃった」
「例の『国家錬金術師の…』噂は、聞いてましたが。あんなに綺麗な子とは。それに
あの身体で、とホント辛かったでしょうね」
「そうじゃな…。だが、救いなのは相手があの男だったことか。いい目をしておった」


ロイの意思の強い黒曜石の瞳が思い出される。
決して何人にも屈しはしない、強い意志とエドワードを愛する瞳。


「ホント、惚れ々しますわねー」
「あの子の笑顔が曇らないように頑張ろうかね」
「そうですね。お相手の方も同じ気持ちのようでしたね」


ロイとエドワードが2人で微笑み合う姿を見ていた医師と看護士は、この2人の絆の
深さを感じ取っていた。






「あのさぁーロイ。今日、少し歩きたい駄目か?」


ロイは、エドワードの身体を支えるように、しっかりと肩を抱きながら病院の入り口辺りまで
2人ゆっくりと歩いて出てきたが。
天気は上々だし、とエドワードはロイに顔を向ける。


「う〜ん、どうだろうねぇー」
「ほら、先生も体調が良いときに少し動けって言ったしさぁ」
「まぁ、本格的に悪阻が始まったら。もう、身体がなぁー」


ロイは、顎を手で掴みながら色々と悩んでいる。
1人ではないし、何かあれば自分がすぐさま対応できるなと、それに久々にエドワード
の笑顔も見れたし、とロイは考えて。


「体調は……?」
「うん、大丈夫!」
「じゃ、歩いて帰ろうか。疲れたり気分が悪くなったらすぐにいうんだよ」
「やったぁー!」


笑顔を輝かしながらエドワードは、温かな日差しの中を歩いていった。
約一週間ほど寝たり起きたりの生活で、頭がぽんやりとしていたが、
昨日ぐらいから体調がやや回復してからも、外に出かける事など皆無で
今日の診察の結果と希望が開けて来たことから、身も心も軽くなったエドワードだった。
ロイもそんな様子を穏やかな気持ちで見つめる。
本当に、あの一週間前はどうなることやらと、今考えるとぞっとするような日々だ。


「じゃ、帰りながらショッピングでもしようかエド」
「ホント、うん…!オレ欲しい本がある!」


嬉々と瞳も顔も輝かせるエドワードは、ホント眩しい。
2人ゆっくり歩きながら帰る。
優しくエドワードの肩を抱きながら、エドワードもそれに甘んじて身を預けている。
普段なら、人前では嫌がったり文句を言ってさせてくれない行為を素直に受けている。
大切な人の子を身籠っているから。




エドワードが本を欲しがった為、本屋に入ってみる。
ロイは、また錬金術の著書を欲しがるのだろうかと予想していたが、意外であった。
本屋に来たら、必ず錬金術関係の場所に行ってしまう彼が、あるコーナーへと足を
運ばせる。
暫く、色々物色していた彼は、お目当ての本を探し出すとロイに恥ずかしそうに
見せていった。


「ロイ、これ買っていいか ///」
「いいよ」

ちょっと赤面しながら、にっこり微笑む彼の表情に思わず抱きしめたい思いを
ぐっと抑えるロイだった。
ロイは、本当にこの選択が彼にとって、そして自分にとって最良の結果であったと
身にしみて感じる。
ロイにエドワードが渡した本は、「はじめての妊娠」という本。






暫く、日常品や食料品の買出しをゆっくりしたあと、エドワードを休憩させる為に
ロイは一軒のカフェに入った。
店内と街道に張り出して客席を設けている店。
コーヒーの香りが香ばしい匂いをたて、立ち寄る客を魅了していく。
カフェテラスには、天幕が張られ日差しを程よくさえぎってくれ風を感じながら
飲食ができる。
ロイは、そのカフェテラスの席にエドワードを座らせた。


「何か、飲むかい?」


エドワードは、少し考えて首を振る。


「いい…」
「そうかい、ちょっと待ってなさい」


ロイは、その場にエドワードを残し店内に入っていく。
エドワードは、あれ以来食事をとる事に抵抗を示していた。食べても嘔吐するから。
だから極力避けたがっている。
それに、まだ食欲が戻る気配はなかったから。
倒れた時に比べて、ウィンリィが怒って食事を勧めるので無理に食べてはいたが
やっぱり嘔吐してしまって。今一、美味しいと、ここ最近感じたことがなかった。


しばらく、ぼんやりと街道を歩く人々を見ていた。
人々の明るい声が、エドワードに元気を分けてくれるようで見ていて楽しかった。


「エド、ほら…」


ロイは、テーブルにココアとサンドウィッチを持ってきた。
もちろん自分の分も一緒にである。


―― オレ、いいよ…。食べても、もどしちゃうから…」


エドワードは、テーブルに置かれた食べ物を残念そうに見つめているが、そんな
彼の姿にロイは、怒りもせずに、ニコニコと笑みを浮かべる。


「そういわずに、食べてみなさい。ここのは美味しいよ」


そう言うと、自分の手元のサンドをぱくりと美味しそうに食べ始める。
余りに、ロイが美味しそうに食べる姿にエドワードも食べてみようかと。


「じゃー、一口…」


香ばしく焼きあがったパンの中にトマトと緑黄色野菜、少しばかりのハムが入っている。
エドワードは、驚いた。トマトのジューシーさに食欲が、湧いてきたのである。
甘くて、ほんのり酸味のきいたトマトは今のエドワードにはもってこいの食べ物だ。
久しぶりだ…。


「美味しい
――
「そうかい、よかった」
「ホント、美味しいな…」
「エドワード、ちょっと工夫すると食欲がでてくる事もあるんだよ」
「へっ、何それ…」
「こうやって、外の空気を吸いながら食べてみるのもいいだろう」
「うん!アンタって、うまいよな。そういうの、ウィンリィなんかすっげぇ怒って
食え食え、うるさくて尚更、食欲が減った…」
「まぁー、彼女なりに頑張っているのだよ。それに、私は彼女に救われたよ…」
「オレも、ウィンリィには頭上がんないよ!」
「さぁ、食べてしまいなさい。食べれるときに食べる。先生も言ってたね!」
「うん、頑張って食べよう。うまいから…」


久しぶりに楽しい軽食をとった2人だったが、その様子を目撃されているとは、
この時には思いもしなかった。
だれにとは、それはもちろん。ロイの受難は続く。






滞在を延長すること数日。ウィンリィも自分の仕事にそろそろ支障を
きたす頃となってきた。


「ごめんな!ウィンリィ、こんなに長く留まらせて」
「いいのよ!半分は好きでいたんだから…」
「ホント、わりぃー」
「でも、こっちこそ、ごめん…。アンタの体調が悪くなる頃に帰ってしまう事に
なっちゃって…」
「いいってー」


リビングのソファーにゆったり座ってエドワードは、帰郷する準備をする
彼女と話していた。
ウィンリィの方は、セントラルで色々購入した部材をガチャガチャとトランクに
直し込んでいたが。


「う、う〜ん!?入んないー」


必死にトランクと格闘するウィンリィに呆れるエドワードは、ゆっくり立ち上がると
格闘するウィンリィの傍により手伝い始める。


「えっ、いいわよ。アンタ大事な身体なんだから!!」
「大丈夫さっ、体調がいい時に動いとけってさ。ほらっ、入った」
「おっ…、すごいー!」


そっと、エドワードはウィンリィの顔を胸に納めて抱きしめる。
突然の事でびっくりした彼女は、ジタバタと手を動かし始めた。


「ちょっ
――、何よ〜〜!」
「ウィンリィ、サンキュー。すっげぇ助かった…。オレ…」
―― 何よ、照れくさい」
「うん、そんだなっ」


エドワードは、ぱっと抱きしめた胸から彼女を解放すると、にこやかに笑った。
その笑顔を見て彼女は、不貞腐れながらエドワードへ言葉を贈る。


「やっぱ、アンタ綺麗だわ。ムカつくわねぇ!」
「はぁ?何言ってんだよ!」
「まぁー、エド!アンタ悪阻が酷くなったら言いなさいよ!今度は、アルをよこすわ!」


その時のウィンリィの表情にエドワードは、背筋が寒くなるのを感じた、こわい…!
この数週間後に、アルフォンスがマスタング家に呼び出される事になるのだが。
ロイが玄関口から彼女の名を呼ぶ声がする。
迎えの車が来たのだろう。


「じゃ、エド、またね。絶対無理しちゃ駄目だからね!」
「うん、わかってる」
「ねぇー、ちょっと触らしてもらっていい?」
「う、う〜ん、しゃーねぇーな!まだ、全然わかんねぇよ」


ウィンリィは、そっとエドワードの平べったい子が宿っている場所を撫でる。
願いを込めて掌をあてる。




『エドと赤ちゃんが無事でありますように…』































すみません…異常に、この章長いです。2話分ぐらいありそう。
この「act.9」を境に1話ずつが、結構な量あるのに気付きました。
16話完結にこだわってしまったので…(汗)
やっと…エドに笑顔が戻るの巻。赤ちゃんは二ヶ月目に入りました。
そして、ウィンリィお疲れ様でした。彼女のおかげで随分話が進みました。
エドと彼女の友情関係が、とっても好きな桜です。
愛情は…駄目。だって…ロイという大切な人がいるからね!
浮気は駄目です(笑)
この編を書いていた時、凄くサンドウィッチが食べたかったらしいです。

桜 美由紀 2005/9/15














   
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