月の子






  〜 Moon Child 〜
 act.10



















ウィンリィが名残惜しく、マスタング家を去ってから数週間がたつ。
中央司令部マスタング准将の執務室では、にわかに噂がたっていた。
とうとう、目撃した、とそれも直属の部下が、である。
『噂の人物とデート中のロイ・マスタング准将』
第一発見者、『ブレダ中尉』。
彼が市内見回りの為、市内を見廻っていた時のことだった。


「まじ、おまえ見たのかよ!」


ハボック中尉は、顔を乗り出すように話題の中心人物に問いかける。


「ホントだ!オレは、見た!」
「でっ…お相手の方は……」


ブラックハヤテ号を抱えながら、思わずブレダ中尉に近寄ってしまった
フュリー准尉だったが、うかつである…。


「どわぁ
―――や、めめめめめーろう、寄るな…」


突然の犬の接近に彼方まで、逃げ惑うブレダ中尉にため息が聞こえる。


「おい、肝心な話のときに…」
「あぁぁ、すみません。…」


意外と冷静な態度の連中は、ブラックハヤテ号を外へ出し、さぁいざ話の続きを…
部下達の頭は、それで一杯だった。


「それが、カフェテリアで仲良く食事をされていた…」
「うん、うん…でっ相手は……」
「…それがなっ。たしかに、噂通りの金髪だった。髪が邪魔してよく見えなかったが」
「はぁ…何、意味ねぇじゃんか…!」
「いや、ちらっと見た…綺麗な子だったんだが…」


ブレダ中尉は、首を左右に傾けながら何か悩んでいた、否考え込んでいる。


「何だよ!…」
「う〜んどっかで見た事があるような…?う〜ん…可愛かったなぁ…
いや綺麗と表現するべきか。う〜ん…。」
「はぁ、誰だ、誰だ…」


ハボックは咥えタバコの状態で、ブレダの眼前まで顔を近寄らせて、事の真意を
聞きだそうとする。
その危険な行動をよそにフュリー准尉は、ロマンチックな光景を想像するように
質問する。


「どんな感じだったんですか?准将と例お相手は?」
「あー。すごく、准将が笑っていた。でっ、オレは見た。彼女の唇に指で触れて
それから〜いゃあー熱い抱擁だった。思わず見とれてしまって、はぁー」


ブレダ中尉の鼻の下は伸びるばかりで、肝心な事はどうも空の上のような気がする。


「ようはラブラブだったんですね!いやー、僕も見たいなぁー」
「まっ、そんなとこだ!しっかし見覚えが…」
「でぇー!肝心の彼女の正体は、だっ!」
―――!?」
「ちぇ、またしても肝心なところが抜けた。ぁああ、オレ市内見回りに行こう!ちっ」
「そうですね。僕もハヤテ号の訓練の続きを、はぁーラブラブかぁ」
「おいおい、何だよ〜」


1人、叫ぶブレダ中尉をあとに連中は、散っていってしまった。
そして、その背後には「銘」とまったく反対の『冷たい焔』で、たっているロイがいた。


「おい、何か私に用があるのか!」


ひぃー、背筋が凍りついてしまったのは、言うまでもなかったが。凍りついた身体は、
あとで焔で消し墨にされそうな勢いである。
その現場は、冷たい視線で見送られていたのである。
やっと、落ち着いて仕事ができるようになったあとホークアイが、コーヒーを
ロイのディスクに持ってきた。


「あぁーすまない。はぁ、しかし、どうにかならんもんかね!あいつらは…」
「まぁ、気になる事ではありますが」


コーヒーを啜りながら書類に目を通すロイにホークアイは、静かに述べる。


「そろそろ、言ってしまった方がよろしいのでは?」
「あまり気乗りはしないのだ…」
「何故ですか?その方が、彼にも宜しいのでは?」
「もう、籍は入れたのだよ。大尉」
「まぁ、そうでしたか。おめでとうございます。ですが、大変だったのでは?」
「いや、籍の問題はたいして…彼の性別は空欄になっていたからね。御両親が、
成人したらどちらかに判別するようにと、行政にとりはからっていたらしいから」
「では、……」
「だが、あれが…これまた、ごねて。オレは男だ!と、しかし産まれる子の為に
泣く、泣く納得してはいたが…そっちの方が大変で…」
「ふふ、彼らしいとは思いますが…」
「いい機会だから、戸籍の性別部分を登録したのだよ。だから、至って問題はなかった
のだが…あと、上層部には最近、ちらほらと会食の時に話はしたから…
まぁ、それも何かと、うるさくてな!パーティーに連れて来いなどと、うまく断って
いるのでどうとでもなるが…」
「そうですか。では、尚更もう隠す必要はないのでは?」


ロイは、机に肘をつき顎をのせ嫌そうな顔を露にする。


「絶対、嫌だ…あいつらには…五月蝿いから…」
「はぁ…しかし…」
「あれも…あまり体調が芳しくないのでな…。おしかけられたりすると…、特に嫌だ…」
「………そうですね。彼は、そんなに具合が?」
「否、今日はそんなに定期健診に行ってくると。調子が良い時には少し身体を
動かすように言われているのでな。朝の涼しい時間にでかけたよ」


エドワードの事を話すロイの表情は、穏やかなものだ。
かつてイシュバール殲滅戦にて非情な男であると謳われた人物とは、思えないほどに
慈愛に満ちた微笑を浮かべている。
これも、エドワードと一緒に悲願を達することができ、今、また愛を育んでいる
からなのだろうとホークアイは、上司の微笑を嬉しそうに見つめていた。




彼との、今朝の出来事を思い出す。
エドワードもやっと、三ヶ月目に入り悪阻が酷くなり始めた。
その前から、そんなに体調は良くなかった…。寝たり、起きたりを繰り返していたが…。
恐らく悪阻は、時期にもっと酷くなるだろうからと、十分に注意をされている。
なるべく、まだ症状が安定している内に、体力をつけておくようにと言われている。

今年は、例年にない猛暑となっていた。
うだるような暑さが連日続き、やっとピークは過ぎたものの以前、猛暑が
続いている。木々は青々と葉を繁らせ、照り返す日差しが反射して眩しさを
ましている。


「エド、今日は病院の日だが…。私もついて行こうか?」
「///えっ、いいよ。アンタ最近、忙しいじゃん」
「いや、そんなもの私の権限で、どうにでもなるのだが…」
「大丈夫。今日は、調子も良いし1人で行ってみるよ。なれねぇと…いけないし…」
「そうかい? 何かあったら。それに、今日も暑くなりそうだが」
「う〜ん朝の涼しい内に、ぱっと行ってくる」
「そうだね。何かあったらすぐ連絡しなさい。いいね!」
「うん。わかったよ!それに、調子悪くなったりしたら、ちゃんと休むから…」


ロイとの約束は絶対に守るよと、以前のように無茶なんかしない。
と、ロイに言い聞かせエドワードは、頬を桃色に染めて、心配するロイに笑顔を向ける。
あんまり心配するロイの様子に照れてしまって、だが、嬉しい。
この思いを、伝えるために微笑を絶やさない。


「私は、心配なのだよ。エド………」


ロイは、そっとエドワードを抱きしめる。
すっきり伸びた白い手足、細い肩、丸みを帯びた身体を優しく包み込み2人の大切な
宝物を宿す身体を自分の胸に抱きとめる。
エドワードが、いつか消えてしまいそうで怖かった。
こんなに願いが叶っていくのが…怖かった、いつか、崩れ去る時が来るのではと
情けなくも思ってしまう。
余りに幸せすぎて怖い。
それは、幸せをあまり噛締めた事がなかったから二人とも。
そっと太陽の明るい輝きを受けて輝く蜂蜜色の金髪をすくい上げ、キスをおとす
愛情を込めて。
ほんのり赤味が、さす陶磁器のように滑らかな頬に口唇を啄ばむようによせる。
エドワードの恥らう琥珀色の瞳が揺れる。
彼の淡い桃色の口唇が、うっすらと開かれ愛する人を待つように。
ロイは、その誘いに誘われるように自分の口唇をおとす。
甘い、甘い朝のひと時、大切な時間。




診察台のベッド横に、看護士の女性がやってくる。彼女は穏やかにエドワードに
話しかける。


「お疲れ様、エド君。点滴が終わったから外すわね」


少し、ベッドでうとうとしていたエドワードは目をこすりながら彼女の行動を
ぼんやりと見つめている。


「今日も、暑いわね。ごめんなさいね。せったく涼しい時間に来てくれたのに
遅くなってしまって…」


まだ、ぼっーとしているエドワードの小さな黄金の頭を、撫でながら彼女は言葉を
続ける。
こんな、稀有な身体の上に、無理してまで赤ちゃんを産もうとする自分に対して
本当に、この病院の人達は優しかった。エドワードは、この病院を紹介してくれた
グレイシアに改めて感謝し、この病院の人々に心の扉を少しずつ開いていく。


「……ううん……、いいよ」
「ちょっと…休んで、ゆっくり帰りなさいね。」


彼女に背中を支えて貰いながらゆっくりと身体をエドワードは、起こす。
今日は、病院内からでもその暑さが、判るほど太陽の日差しはまぶしく輝いていた。


「うん。有難う…よかったー。帽子もってきてー」
「そうね。何だか…結構日射病を起こしている人もいるってよ…」
「へぇ…そうなんだ」
「あ、そうそう…エド君に渡すものが、さっき言っていたもの」


看護士の女性はポケットの中より一枚の写真を渡してくれた。


「はい、今、三ヶ月目ね。だいぶん判るようになったわね!予定日も聞いたかしら?」
「有難う!うん、聞いたよ。早く知らせないと、アイツに…うるさいから、へへ…」


写真をまじまじと見つめながら、嬉しそうに微笑む様子に彼女も満足する。
やはり、この子には、笑顔が似合うなと…。


「悪阻が、酷い時は遠慮なく連絡しなさいって…先生が、おうちの方へ来ますから
って言ってたわ。」
「うん…色々、ごめんな…オレ…」
「いいのよ。あなたが笑っている顔を見ているのが私達は、嬉しいから」


にっこり満面の笑顔で返答するエドワードだった。






エドワードは、残暑厳しい日差しの中、ツバ広の帽子をかぶり木陰のベンチで
暑さを凌いでいた。


「ホント…あっちい……どうにかならんかねぇ!ふうー」


病院を後にしたものの、余りの暑さに休憩を余儀なくされてしまった。
あちら、こちらでも、人々が木陰で暑さを凌いでいる。
噴水の水で水浴びをする人までいる始末で、エドワードは感嘆の声を、上げてしまう。
歩いてここまで来る途中も、誰か倒れ掛かって運ばれたりする光景を見た。


「機械鎧つけてない分、暑さは凌げるけど…ハァ…早く家、帰った方がよさそうだ
………どうも調子悪くなりそうー。」


そう思って、暫く後には、エドワードの頭はぐるぐると回転し始めてしまった。




その頃、市内巡回にでかけたハボックも、あまり熱さに木陰で休憩をしていた。
ハボックは、暑いと判っていてもタバコを吸うことは忘れずに…、火をつける。
タバコの熱にうんざりする人々の視線を受けてはいたが、本人は至って気にしていない。
あたりを見回していると、この公園の木陰で凌いでいる人は多く、その中でちょっと
目を引いてしまったのは恐らく自分だけでなかったようだが…。

長い黄金の髪を背に泳がし、ツバ広の帽子をかぶり白い大き目の長袖のシャツを
羽織った人物に視線がいってしまった。

横顔をちらりと覗き見える程度だったが、美貌がうかがい知れる。
だが、どこかで見たような、見覚えのある容姿に暫く、考えるが…。
運良く近寄って、好みの子であったら、声をかけてみようと思った瞬間。
金髪の子は、ぐらりと身体を傾け傍にいた年配の女性が、びっくりして声を出し始めた。


「あら、…アンタっ…大丈夫かいー!?」


一生懸命に身体を支えようとする女性の大きな声が、公園のその辺に響き、年配の女性は、
近くにいたハボックに気付き声を張り上げる。


「あっ…軍人さん、この子、具合悪そうだよ。助けてやってー」


その声に慌てて駆けつけて、その子を抱き起こすと同時に帽子が落ちる。ハボックは、
思わずびっくりして声を、荒げてしまう。


「エド!?…エドワードじゃねぇか!…おいっ…大丈夫かー!」


彼を横抱きに、抱きかかえ帽子で扇いで風を送ってやると、ぐったりとしている青白い顔から
うっすらと、黄金色の瞳が開かれる。
やっぱり、エドワードだ…。


「………っ…気持ち悪っ…」
「えっ…何だって!おーい、エド……」


必死に名前を呼びかけて頬を軽く叩いて意識の覚醒をさせるが、ぐるぐる眼が
回るなか、エドワードの視点に懐かしい顔が点滅する。


「………ハボック少尉…?」
「今は、少尉じゃねぇけど…そんな事、どうだって…ちょっと待ってろよ」


エドワードは、ぐらつく視界の中で慌てるハボックを見て、少し微笑んだ後
完全に意識を飛ばしてしまった。






中央司令部、ロイ・マスタング准将の執務室で大きく扉を開く音が響き渡り、その音に
ただでさえ冷房を入れていても暑くてたまらなく、皆イライラしている視線を真っ向に
うけてしまったハボックであったが…、そんな事お構いなしで彼は、執務室内で
ある人物を探していた。
キョロキョロと探す視線に気付きホークアイが、彼に声を掛ける。


「もう少し、静かに入ってきてください!ハボック中尉!」
「あっ、すんません!あの…准将は?」
「准将なら、本日、午後より軍法会議中です!しばらくお戻りになられないし
連絡もとれないわ!どうかしたの?」


どうしようか、と思い悩んでしまった。
ここで話しても良いだろうか、とエドワードが帰ってきている事を。
彼らは、極秘に自分達の身体を取り戻したのだから、しかし、その事実を一番に
知らせるべき人物は、やはりロイ・マスタング准将だろうと思ったが。


「あのー。ちょっといいすか?」


2人、こそこそと話す様子に、皆の視線が集中する。


「どうしたんですかね?ハボック中尉のあの慌てよう?」
「ふん?知るもんか!俺の話を途中で、飽きて出て行った奴なんか!」
「……はぁ?」
「慌てる。(lose one’s presence of mind) 『思いがけない物事に出会って普段の
落ち着きを失う。狼狽する。うろたえる。』の意を示す」
「…はぁ?いいって…暑さで頭の辞書がどうにかしてないか?」


2人の動向について色々意見を交わしている間に、ホークアイと、ハボックは、
ものすごい勢いでこの部屋を出て行ってしまい、おい、おい台風かよ!と暑さに
だれる他の連中は、行動を流れるように見ていた。


「今は、どんな容態なの?」
「いや…軍医は、軽い熱中症だろうって…。でも、オレびっくりしてこっち来てたなんて
まったく知らねぇーし…」
「………ホントなの、軽い熱中症なの?」
「あっ…はい!何か、心配事でも?」
「…………」


この問いに対して、思わず口を噤んでしまったホークアイ。
何故なら、ここで彼が、妊娠していると自分の口から言うのは、どうかと思ったのである。


「でも、こう抱えた感じが何か、違っていて?何か、すっげぇ身体がやわらかくなった?
女性の身体つきのような?それにアイツすっげぇ綺麗になっててびっくりしたっすよ」


ホークアイが足早に、廊下を進んでいた足を止めた。急に止まった彼女にびっくりして、
次の行動を恐る、恐る待つと…。


「ハボック中尉、見たの彼の身体?」


凄い…、射抜かれそうな視線で、ハボックは見られた。
何、オレなんもやってないすー。と、心で嘆いていた…怖い。
発砲される。


「いや、ちょっとシャツのボタンを緩めてやったぐらいでー、何もしてません!俺」


まだ、怪しい目線を送られ続けている。


「まぁ、いいわ。もし、変な気を起こしたら貴方、消し炭にされるわ!」
「へっ………!?」




医務室へ行くと、ベッドで身を起こそうとするエドワードの姿が飛び込んで来る。
その様子に、ホークアイが彼の身体を気遣って、やんわりといる。


「エドワード君、そのまま寝てなさい。いいから」


ホークアイとハボックの姿を確認したエドワードは、気まずそうな表情をしていた。


「あっ…ホークアイ大尉、ハボック少尉?じゃねぇ中尉…」
「エドっ…大丈夫か?……」


黄金の金髪が寝乱れて頬にかかり、緩められたシャツから白い滑らかな肌が、露出して
気だるげに身体を起こすエドワードは、ぞっとするほど妖艶だ。
うっとりとエドワードの姿を見つめてしまっているハボックを、気にするように
ホークアイが、エドワードの露出した肌を隠すようにベッドへと横たわらせる。


「気分は、悪くない?エドワード君…?」
「……、気分は悪いけど…さっきより楽になった…暑かったら」
「そうね、今日は…ホント気温が、上がっているから。准将は今、軍法会議中なのよ…。
伝えてはいるから…」
「……ごめん、迷惑かけちゃって…アイツに、また小言を言われるー」
「ふふ、仕方がないわ。暫く、ここで休んで、准将と一緒に帰るといいわ」
「……うん。そうする、こりゃ、身体もたねぇなっ…ヤバイな」


ふと、今後の事を考えて独りごちるエドワードだった。
ん!?何なんだ。この会話内容は、ハボックの脳内でぐるぐると会話内容が、説明
されていく。
ん!?もしかして准将の彼女?エドワードの事?例の…。
頭が白黒しているハボックを見てホークアイは、ため息をつきながら話す。


「ハボック中尉、今、貴方の想像通りよ!貴方達の話題の元…よ!」
「へっ………はぁ?」


その会話を聞きながら、エドワードも赤面しながらシーツに顔を隠していく。


「アイツ…何も、言ってないんだろ……はぁ…」
「そうね。でも、そろそろ潮時みたいね」


潮時の言葉を聞いて…エドワードの心中に色々、葛藤が生まれ、頭痛までしてきてしまう。


「何か…、調子悪…っ…うっ…」


シーツに隠れながらも、口元に手をあて嘔気にたえるエドワードのその様子に、眉を
下げ優しく背中をさするホークアイの姿を、ただ呆然とハボックは見ていた。
ぱくぱくと…口を開けつつも言葉になっていない。
そこへ、勢いよく医務室の扉が開かれた。
バタバタと足音が医務室中に響き渡り、如何にも、慌てていますと足音が物語っている。
エドワードが休んでいる、真っ白なカーテンを、ザッーと開けた、その人物は、凄い形相で現れた。
この時の上司の目まぐるしく変化する表情は、オレは忘れられないとハボックは、今でも追想する。


「エド…、大丈夫か?」
「ロイ……ごめん。…」
「いいんだよ。今日の暑さは、今年最高気温らしいから…仕方がないよ」
「……うん。…ハボック中尉に助けてもらったんだ」
「そうか」


優しく、エドワードの頭を撫でるロイの表情と、姿を目の当たりにしてハボックは
石のように固まっていた。
ロイは、気まずそうな顔をしていたが、彼に向かって振り返り。


「すまなかったな。彼は、いま大事な身体でね。助かったよ!ハボック中尉」
「はっ!」


思わず反射神経で、敬礼してしまう。
もう、ハボックの頭は混乱していて何が何やら…?という状態だ。だが、目の前では
自分の『あの上司』が、甲斐々しくエドワードの世話をしている。
頭が、聞け、聞けと五月蝿い。
あぁぁ…と…!えぇぇぇい…聞いてしまえっ…!!!


「あの…付き合ってんですか?准将、エドと…」


ビックとロイの肩が揺れたのが判ってしまった、やはり禁句だったのだ!
しまったぁ!焔が見えた!
如何にも不機嫌そうな、瞳を向けられてしまったハボックは蛇に睨まれた蛙のようだ。


「……もう、籍を入れている!あと、聞きたいことは…!?」


ハボックの頭上に、大きなクエスチョンマークが大きく飛び出ている。自分の質問は
付き合っているのですか…、だったのに…何なんだー、この飛躍した回答はと。
質問をしたくても、とても聞けません…。


「いえっ…失礼しました!」
「何か、聞きたければ、ホークアイ大尉に聞け!以上だ…」
「ロイ………はぁ……そんな、言い方しなくても…」
「照れてるのよ、准将は…ふふふっ…」
「はぁ…」


ハボックは、今度は点滅する頭で、この医務室を出て行った事は、言うまでもなく。
その後、頃合を見計らって次々と質問攻めにするようにホークアイにしがみつきながら
話を聞いていたと言うことだった。




夕刻、涼しくなってきた頃に、熱中症で倒れたエドワードを抱えてロイは帰宅した。
ゆっくり自室のベッドでエドワードを休ませる。
大切な身体だから…。


「エド…どうだい、調子は…身体が熱かったのは治まってきたか…?」


首筋にそっと掌の甲を寄せて熱を測ろうとする。
しっとりと熱っぽい身体、これは…熱中症か、それとも悪阻からなのか。
判断に困ってしまい、エドワードに確認する。


「…うん。…多分、悪阻の所為かな、調子悪いの…」
「そうか、つらいか?」
「今は、まだそんなに。でも、先生が言ってた。時期に酷くなるだろうって」


少し熱を持つ白い肩口にロイは、自分の顔を埋めエドワードの身体をそっと抱きしめる。
まるで子供のようにぎゅっと…。


「ロイ…」
「びっくりした。本当に…私は…」
「…ごめんっ…」
「いいんだっよ。君が謝る事はない。私が驚いてしまった、ははは…意外と肝が
小さいのかも知れないなぁ…」


エドワードは、肩口に埋めている黒髪の頭を優しく撫で自分の胸に抱きこむ。
「大丈夫、大丈夫…」と…、自分にも言い聞かせるように。
そっとロイは、エドワードのシャツから覗かせる白い肌に滑るように手を這わせる。
彼は、その動きにちょっと、びくりと身体を緊張させた。
ある部分をやんわりと触れられ、思わず声が漏れてしまう。


「あっ……ロイ…」
「少し、胸が出てきたんだね…」


少し成長し始めた小さな胸は、痛みを伴うがロイの掌に触れられてぴんっと快楽を
感じる。そんな、自分の胸に少々、驚いたエドワード。
それに、胸が膨らむという事態にエドワードの気持ちは、まだ理解できずにいる。


「///…こんな、身体…変だろ。気持ち悪くないか…どんどん変わるんだってさ」
「そんな事は、ないよ。エドワード、私の子を宿してるからだろう」
「うん…そうだけど…。ちょっと不安になる」
「君は、君だよ。私が愛しているエドワードだよ」
「うん。…あのなっ…今日は、写真もらったんだー」


身体をロイに起こしてもらいカバンの中から、一枚の写真を取り出す。
そこには、ちゃんと胎児の姿が映し出されていた。
エドワードの身体を背後から抱きつくように支えていた、ロイの手に渡された
釘いるように見つめるロイの姿に、エドワードは笑う。


「どこにいるか…わかるか?ロイ…」
「えっ…、どこを示すんだ。エド」


まじまじと見るが、どこなのかよくわからない。


「ここが、頭で…ここが…足の方なんだってさ」
「ぁぁぁぁああ、なるほど!凄いなぁ…驚いたよ。」


ロイは、優しく改めてエドワードの子が宿る下腹部へ掌をあて撫でる。


「三ヶ月目に入ったって、そんで予定日は3月下旬頃だってすごいな。そんなんまで
もう判るんだって、オレびっくりした!ちゃんとオレの中で赤ちゃんが、成長してるって」


エドワードは、照れながらもロイに、今日の診察結果を嬉しそうに話す。
しかし、その顔つきはもう、母親の表情がやんわりと出でいて彼の中で自覚が芽生え
ていることにロイは、嬉しく感じる。
ロイは、彼の盛り上がった右肩の傷痕にキスをしながら、写真を見つめ続ける。


「そうか…、3月か…いい時期だね。嬉しいね」


2人は、近い未来の話を楽しそうにしながら夜を過ごしていった。





























はい、3ヶ月になりました。
そして、とうとう軍部の連中にバレました(笑)
甘々爆心中?…次回は、ちょっぴりシリアスと…甘い感じかな…。
アルフォンス登場です。


桜 美由紀 2005/9/21













   
 お部屋 トップへ