月の子
~ Moon Child ~ act.12
今日はロイの休暇日であった。
いつもアルフォンスにエドワードの看病をまかせきりだった。それは彼にとって辛いだろう、と
気分転換をしてもらう為にアルフォンスに外出を勧めた。
そして、ロイはエドワードの看病をする事に…。仕事が忙しい所為もあってエドワードと
2人切りの時間が最近とれないことがあったので良い機会だとロイは思っている。
枕に顔を埋めているエドワードの片頬をそっと撫で、ふわりと優しい微笑がエドワードに
降り注がれている。
* * *
医師がいつものように午前中、往診にやって来た。
そして、ベッドに横たわるエドワードにくしゃと皺をよせ、苦笑いを浮かべながら初老の医師は
優しくエドワードの身体を診察していく。
「今、4ヶ月目に入ってきてるから、そろそろ悪阻も楽になってくる。もう少しの辛抱じゃよ」
枕に力なく埋まっている黄金色の頭を大きな掌が撫でる。
医師は、とても優しくエドワードの身体と赤ちゃんの事を慈しんでくれている。
何もわからない事ばかりのエドワードとロイにとって頼れる唯一の人であった。
そんな優しい医師にエドワードは、掠れた小さな声で尋ねる。
「なぁー、ホントに赤ちゃん育ってる。オレ…、ここ暫く何も食べてないけど」
医師は、目を細めにっこり笑いながらエドワードに応える。
「大丈夫じゃよ。しっかり育っとるよ!悪阻と胎児の成長は余り関係しないんじゃよ」
「ホントっ…、よかったぁー!」
「今日は少し体調も良いようじゃな。気分転換に少し外の空気でも吸ってみなさい」
枕元で、皺々の顔をエドワードに向け寝乱れている金の絹糸を梳かしてやる医師の姿は
孫を思う祖父のように優しく穏やかな瞳をしている。
「うん、何かそんな気になってきた…」
力強さはなかったが、エドワードに笑顔が戻ってくる。それと同時にこの場にいる者達にも
自然と笑顔が生まれてくるのであった。
「は、ははは ―― 」
ロイも医師もエドワードの笑顔を久しぶりに見たようでほっと胸をなで下ろす。
それから、診察の終わった医師をロイは玄関先まで送り出すのだが。家の外は
少しばかり様変わりしていた。
「少し秋の気配がしてきましたね。医師…」
「そうじゃなー、早いもんだよ!おまえさん達が病院に駆け込んで来た時は
夏本番じゃったからな」
「えぇ、そうでしたね。いつもすみません。毎日、往診に来て頂いて…」
「いいんじゃよ。ワシも散歩のついでじゃよ。暫くすると身体も安定期に入るから
それまでの我慢じゃ」
「そうですね…」
「あぁ、そうじゃ。おまえさんと弟君にあまり暗い顔をするな!エドが不安がっていたぞ。
男は、どっしりと構えろ!なるようになるさじゃ!」
「あっ、はい、すみません。つい…、先の事ばかり考えてしまって」
「…それは仕方ないが。今は順調じゃ、すこぶる元気じゃよ!」
医師は、ロイの背中を平手でカツを入れるように叩く。
それに肩頬をゆがめてロイは、医師に笑みを見せ気持ちを切り替えようとする。
2人はまだ、残暑厳しいが秋の気配をじわじわと漂わせている景色を見渡しながら
思いを馳せる。ロイにはこの医師と会話をすることで少しは、これからの不安が
削がれていくようで心が、徐々に晴れていくのであった。
* * *
エドワードの眠る部屋に戻ると彼がだるそうにだが、身体を起こしていた。
「エド、大丈夫かい起きていても?」
「うん、今日はだいぶ楽みたい、だなって…」
「そうかい。それは良かった!」
ロイは、枕元により満面の笑みを浮かべエドワードをそっと抱きしめ呟く。彼は
一体何事だと不思議そうな表情を見せるのだが、そんな事お構いなしにロイは
彼の細くやせ細った身体を心の思うままに抱き寄せる。
「子供は順調だ、そうだよ!エド、よかったな」
「えっ、そうなの!? うん、よかったぁー」
胎児の健康状態が気になって、おちおち眠っていられない日々が続く彼にとって
この言葉は何よりの薬となり、嬉しそうに笑顔をロイへ向ける。
「そうだね。体調がよさそうなら、午後からテラスに出てみようか?」
「ホント!?さすがに、この部屋で悶々と吐いているのに飽きた(怒)。出る、出る」
「ははは…そうかい、飽きたか!昼にはアルフォンスも帰ってくるだろうから。
君の久しぶりの笑顔に喜ぶだろうな」
しかし、こんな和やかな会話は、アルフォンスの悲鳴によって予期せぬ展開に
発展していくのであった。
午後、市内を気晴らしにと出かけていたアルフォンスが、マスタング家の玄関口で
あたふたとしていた。
背後には数人の気配が…。その上、ニヤニヤと背後の数人から視線が向けられている。
そして、助けを呼ぶようなアルフォンスの悲鳴が玄関先で鳴り響くのだが。その声はまるで
呼び鈴の鈴のように。
「ど、どうしよう ――― !!!助けてぇ~。ただいまぁー 」
悲鳴なのか、それとも何とも訳わからないご挨拶にロイが、訝しい表情で玄関のドアを開けるが。
「Σ げっ……!」
思わず、扉を勢いよく閉めてしまった。
それも大きな音を立てて。
リビングからエドワードが、どうしたのかと尋ねる声が聞こえロイはリビングに戻り彼に
石のような笑みを返す。そんな彼の額には冷や汗がたらり、と流れ落ちていた。
「どうしたんだよー。ロイ…、アルは?」
「君は… 、隠れていなさい!」
「はぁ?ヤダよ…。オレ、今日は調子よさ気だから」
「ハァーでは、仕方ない!エド調子が悪くなったらすぐに言うんだよ。それと、覚悟はいいね!」
「(怒) 何、言ってんだよ!?」
エドワードに一応事前に予備知識を提供した。
ロイは一先ず扉の前で落ち着き、呼吸を整えてから再度、玄関扉を開けると。
そこには…。
半泣きのアルフォンスが。
その後ろには、ワラワラと軍部の部下達が勢ぞろいしていた。
こともあろうことにホークアイ大尉まで。だが、彼女の表情は能面のように表情が
無かったのだが。それが…、余計にこわいのだ。
ロイの顔は、ヒクヒクと強張り冷や汗が滴り落ちてきた。
「准将―、兄さんー、どうしようー!ついて来ちゃったよ~」
「Σ げっ…、きた ―― 」
ロイの態度とは大違いの部下達は、笑顔でにこやかに挨拶をする。
とうとうロイとアルフォンスはこの場を逃げることができない状態にされてしまった。
逃げたくても、もう…、出口をしっかり押さえられてしまっている。
「こんにちは。お祝いをお届けに来ました♪」
アルフォンスは、バタバタとリビングに助けを呼ぶように逃げ込んできた。
部下達は、ニコニコと玄関口で待っている。
待たなくて良いのにと、ロイは内心思ってしまった「帰っても良いんだよ ―― !」
と、口から言葉が漏れそうだ。
「アルフォンス、どうしてあいつらと一緒なんだね!」
「すみません…。ホークアイ大尉と会ったんでうちにどうぞって、大尉を呼んだら
ホントに大尉だけを呼んだんですよ!何か大尉の後を皆がつけていたらしくて、それで… 」
「そうかい、仕方がない!もう、腹をくくるしかないな!」
「あれっー兄さん、起きていて大丈夫なの?」
リビングの3人掛け用の大きなソファーでクッションを背にあて身体には、膝掛けを
かけてゆったりと身体を起こしている兄の様子にアルフォンスは気付き少々慌てる。
「あぁー。今日ちょっと調子よさ気でさ…。テラスにロイが連れて行ってくれるってさ。
でも、はぁ…とうとうこの日が来たぁー…」
言葉とは裏腹のエドワードのちょっとはにかんだ笑顔が印象的に見える。
アルフォンスは、一瞬おや…っ、と兄を見つめてにやりと意地の悪そうな笑みする。
「ごめんねー。兄さん、せったくの准将とのお休みに邪魔しちゃって」
「なんだよ!それー!」
「いやいや、お熱い2人の邪魔して、はははー、体調が良いのも准将がいるからかなぁ」
「///アル、てめぇ―///」
エドワードの表情豊かな笑顔にアルフォンスの心が、久しぶりに晴れたようだ。
冷やかしはしたものの内心ではロイに感謝するアルフォンスだった。やっぱり兄さんの
久しぶり笑顔は准将のお陰だろうと思う。
僕じゃぁー、ここまでうまくできないよ…。
「じゃ、僕みんなをリビングに通しますね!凄く会いたがっていたよ。みんな…」
アルフォンスの足取りは軽かった。それはそうだろう。まぁ、自分には被害はないのだから。
「お邪魔しますー」
花束を肩に持ち上げて、ハボックが飄々とリビングへ入ってくる。
その後に、続くようにワラワラと何やら手に祝いの品を持って部下達が入ってくる。
最後に能面のように表情を崩さずに、ホークアイ大尉が入ってきた。
彼女は、どうも後をつけられていたことに非常に腹を立てているようだ。
「おっ、エド久しぶり!おめでとさん」
「あ、どうもー。ハボック中尉」
ハボックから、ホラッと持っていた花束を渡されてしまい、エドワードはムスッと
しながらも受け取っていたが、内心は嬉しくて…。だが、どう表現したら良いか
わからずにオドオドしている。
だが、人知れず隠して産むべき命かも知れないのを皆に祝ってもらえる喜びに彼の心は躍る。
「これは、僕からです」
その後に、フュリー准尉が小さな箱をプレゼントする。
何だろうと、箱を色んな方向で見ているエドワードは彼に尋ねてみる。
「中には、何が入ってんの?」
「オルゴールですよ!胎教に良さそうな音楽を入れています。是非聞いてくださいね」
「///うん、有難う」
はにかみながら微笑を返すエドワードの表情をその場にいた連中が見て、ボォーと
異空間に飛んでいった。
昔から、綺麗な顔立ちしてるなと思ったが、暫く見ぬ間にこんなに可憐に美しく
成長しているとは思っても見なかったからだ。
変わるものだなぁー、とみんなでエドワードをマジマジと見つめる。
なるほど准将が大切に愛している気持ちがわかるな、と思うのであった。
もし、相手が准将でなかったら立候補させて頂きたいとさえ、思ってしまう。
「おいっ!」
現実世界に戻されるように低い声がうねりを上げ、視線は鋭く絶対にふれるなと
目で訴えられている。
それに気づき、いっせいに奪われていた瞳をあらぬ方向へと向けるのであったが、
肝心のエドワードはそんな事が、今ここで行われているなどまったく気づきもしない。
自分を知らないエドワードである。
「あのー。お茶が入りましたよ。皆さんどうぞ」
「すみません。お気遣い頂き有難うございます」
アルフォンスが皆にお茶を勧め、面々好きな場所に座りお茶を頂きながらロイに
話をふっている。
それに、ムッとした表情をしつつも、それなりにロイは照れながらも会話をしている様子が
とても可笑しくてエドワードは笑みを零している。
「エドワード君、ごめんさいね。皆で押しかけしまって」
「ううん、いいよ。今日はオレも体調良いみたいだからさ。それに、いつかは…
来るだろうて思ってたから」
「そう、どう。順調なの?」
エドワードの顔色を伺いながら、彼女は彼の体調を気にかけて尋ねる。
以前とても悪阻が酷くてエドワードが可哀想で見ていられない、と弱音を吐く准将の
表情が思い出される。そんな彼にホークアイは檄を飛ばしたものだった。
准将がそんな態度では、彼はもっと辛い思いをしているのだから。もっと毅然たる態度で
彼を見守り優しく包んでやらなくてはと、言ったものだ。
「今ね、4ヶ月目だって…。もう、そろそろ悪阻も楽になるからって言ってた」
そう、話すエドワードの柔らかく穏やかに笑う顔が印象的に見える。そして、そっとお腹に掌を
あてる彼の姿は、以前と比べると想像もつかない。
「よかったわね」
「兄さん、ホークアイ大尉からドーナツ貰ったけど、どう食べてみる?」
「う~ん。そうだな、ちょっと食べてみようかな」
「ホントー、わぁーい。持ってくるよ!」
「あらあら、アルフォンス君の喜びようたら」
彼の足が弾むようにキッチンに行く後姿を2人、見つめながら。
エドワードは、目を細める。
「ここ、ずっとーオレ食べてなかったから。すっげぇー、アル心配して」
「そうだったの…。ずいぶん、悪阻が酷いって准将から聞いてはいたから」
「はい、兄さん。どうぞ」
アルフォンスは、ドーナツと冷ました紅茶を持ってソファーにやってきた。
悪阻には、よくないと湯気がたつものはなるべく避けてくれる。
そんな、些細な気遣いがエドワードにも、わかり申し訳なさと嬉しさで一杯だった。
エドワードは、テーブルに置かれているドーナツを手に取り一口、口へ運んでみる。
ドーナツの外はカリッと香ばしく中はしっとりとした生地に、甘みを抑えた味。
エドワードは、久しぶりに食べ物が美味しいと感じた。そして、アルフォンスが淹れた適温の
紅茶が喉を潤しながら、心もお腹にもゆっくりと染み渡っていく。
乾いた大地に生命を与えてくれるように、ゆっくりと、ゆっくりと…。
「うん、おいしいやぁー。大尉有難う」
「えぇー、どう致しまして」
本日の午後は、和やかに時間が流れ締められていく。
長居はエドワードの身体に負担が、かかるだろうと泣く々帰る事にした連中を玄関先まで
見送る時にエドワードは、珍しくある事をロイに頼んだのである。
人前では嫌がる事が多かったことだったのに…。
「ロイ、オレも連れて行って、ちょっと外にでたい」
両腕を伸ばしロイに外に出る事を強請るエドワードの姿は、見ていて可愛らしく
思わず我こそが抱えて差し上げようと、伸ばされる両腕が何本もあった。
その腕を全て払いのけるロイの姿は、とても滑稽である。
全ての手を払いのけ、ロイはソファーの前に屈みエドワードの頬にそっと手をあて
彼の具合を確かめる。ひょっとして、はしゃぎすぎて熱でも出しているかもしれないと思い。
「具合は、良さそうだね。あぁーいいよ。摑まって」
首に手を回すようにエドワードに促すと軽々とエドワードを横抱きに抱えて
玄関口へと向かう。
彼らは、その2人の姿を玄関先で拝む事となるのだが。
「よっ!エドー、ラブラブだねぇー。」
「うるさい!歩くと目が回るんだよ!」
「いやいや、良いものを拝ませて頂きました。本日は、お招き頂き…」
おい、手をあわせるな!仏ではないのだぞ、とロイは彼らの行動をにらみつけ
そして怒鳴る。
「おい、私は誰も招いた覚えはないぞ!」
「はいはい、…」
本日のマスタング家には笑いが耐えない。喜びの笑いが続いている。
見送りの為家の外まで、そのまま練り歩く事となってしまったが。
連中は、その間も2人を冷やかすことを忘れることはなく、エドワードの顔色は、
久方ぶりに血色よく薄紅色に染められている。
血色というより、照れているといったほうが、語弊がないのであるが。
「うわっー。だいぶ秋らしくなったんだな」
「あー、そうだね。寒くないかい」
「うん…、大丈夫だよ」
やはり、2人の微笑ましい様子を羨ましそうに見つめるハボック達だったが、2人の
邪魔をしてはいけないと、今回の冷やかし作戦はここでお開きとしよう、と声を掛ける。
「おし、じゃー。お邪魔しました!お幸せに ―― !」
「はぁー!?」
間の抜けた返事をエドワードは返したが。
その後には今日一番の笑顔で。
「皆、ありがとな…。今日、来てくれてー。オレ頑張るからさ!」
エドワードがロイの胸の中から、明るい声を張り上げる。
彼にとっては、久しぶりの気分転換となり気分よく過ごせた午後であった、そしてこんな自分を
見守ってくれる皆に、感謝の気持ちで一杯だった。
澄み渡る秋空を見つめながら、彼らが帰っていくのをロイとエドワードは見送り続けた。
甘々モード炸裂?です。
私も抱っこしてもらいたいです☆うちのエドたんは、意地っ張りや君です(笑)
今の所順調に赤ちゃんが育ってますが…、そろそろ?
一応、次回には何か問題を発生させようかと。イズミ師匠登場予定!
しかし、まだ作成しておりませんので
少々お待ち下さいませ(笑)
桜 美由紀 2005/10/4
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