月の子






  〜 Moon Child 〜
 act.15
  前編



















エドワードが切迫流産を起こして、やっと体調が回復してきた頃には季節はすっかり秋に
模様替えしていた。
木々は紅葉し葉はパラパラと散り始めている。そして、動物達は冬支度の準備を始める。
もう10月も半ばを過ぎようとしていた。
風も冷たく感じられる。
だけど、寒くなってきてもエドワードのお腹は温かい。エドワードとロイの「赤ちゃん」はすくすくと育っていた。
本日、エドワードは定期健診の為にアルフォンスと一緒に病院を訪れていた。結局アルフォンスはエドワードが出産し育児に慣れる迄、このセントラルに滞在する事にした。兄の事を思うが故の事であったし、その方が自分にも都合が良いとアルフォンスは言っていた。
彼も将来の勉強のためにセントラルで色々学ぶことがあっての事。お互いの意見は一致していたのである。
彼の将来。まぁ、これは後の話にて。


アルフォンスは、病院の待合室で兄が出てくるのを心待ちに待っていた。だが、始めて来た病院である為、物珍しさで辺りを色々と物色していると。


「あら、エド君の弟さん?」


女性の看護士がにこやかに声を掛けてきた。
マスタング家にいつもやってくる看護士さんは決まっている人だったから、アルフォンスには、この病院の人達とは余り面識がなかったのである。


「あ、はい…」
「まあ、やっぱり!似ているわね。エド君も可愛いけど、貴方も可愛いわね。もう、ちょっと待っていてね」
「はあ、どうも。いいですよ。今日の診察は長くかかっているのですか?」
「そうね。色々お話があるのよ。もう、安定期に入ったから…」
「…?」


人懐っこい彼女と色々世間話をしているうちに、待っていた兄がやっと出てきた。だが、診察室から出てきた兄の表情は困惑していた。何か予期していなかった事でもあったのだろうか、とアルフォンスは心配になりエドワードの顔を覗き込むようにして。


「兄さん終わったの。どう何かあったの」
「………。///」


アルフォンスには、エドワードの表情が困惑と言うより薄赤く火照っているように見えた。
そして、何やら考え込んでいるようにも見える。ぷくっと、ほっぺたを膨らませて、まるで子供のようだ。2人とも一応まだ、未成年なのだが。
じぃーと、エドワードの表情を覗いているアルフォンスに何見てんだよ、という視線をエドワードは返す。そんな不可解なエドワードの表情が気になり。


「何ふくれてんのさ…」
――ジー様が///要らぬことを、×□●△▼×○…」


どうもエドワードは最近、担当の医師の事をジー様と呼んでいるらしい。まぁ兄さんらしいな、とアルフォンスは思っている。
しかし、いつも気前のいい兄さんが何をモゴモゴしているのだろうと思ってしまう。


「何、わかんないよ!もぉー今日の診察終わったんなら帰るよ。兄さん」
「あっ、うん、帰るぞー」
アルフォンスから急かされるように病院を後にするのだった。




*      *      *




ポクポクと2人一緒に歩いて帰る。
通院するのは1人でも大丈夫というエドワードに、どうしても誰かと一緒に行くようにロイからきついお達しがあり、アルフォンスが同伴することになっている。
アルフォンスも、その方が絶対良いと思っている。
いかに、悪阻が楽になり体調も良くなったと言っても、この一ヶ月ほどでエドワードの体力は極端に落ちていて、以前の身体に回復するには時間がかかるだろう。
それとロイにはもう1つ気がかりな事があったからだ。
それは、エドワードの「護衛」だ。
その為にアルフォンスに必ず一緒に外出するようにと、これまた彼に頼み込んでいる。
「護衛」の意味が、アルフォンスにはわからなかった。兄に何故「護衛」がいるのだろうと。
今は体力が衰えてしまっている上、大切な身重の身体だ。だが、兄の腕っ節は誰もが認めるものである。そんな兄に「護衛」が必要とは?アルフォンスは小首をかしげながらロイの頼み事を取り敢えず聞く事にした。
そして、今回初めて兄と一緒に病院に出掛け、それから帰るのだが。そこでやっと、ロイの言っていた「護衛」の意味が理解できたのである。
それは…。
ちょっと休憩をしながら帰ろうと広場のベンチを見つけエドワードを座らせる。その間にアルフォンスは所用を済ませるべく、その場を離れて戻ってきたときには事件は既に起こっていたのである。
その現場を目撃したアルフォンスは「なんじゃこりゃー」と、兄の名を叫びながら走って戻ってきた。
アルフォンスの目の前では、数人の男達がベンチに大人しく座っているエドワードのところに集って何やら話しかけていた。
エドワードは愛想もない表情で上目遣いに睨んでいる。
頭上から話しかけられる事を極端に嫌うからこの人はと、アルフォンスは駆け寄りながらしっかり状況を分析していた。
だけど、時間の問題である。目の前の光景がいつ乱闘に変わってしまうのか冷や汗ものである。とにかくこの場から立ち去るのみだ。


「兄さんぁ〜。ちょっともう帰るよ!」


兄の手を思い切りひっぱってアルフォンスはこの場を離れようとする。それにエドワードは引き摺られるように立ち上がり足を踏み出すが。ここでいらぬ言葉が、飛んでしまった。


「えっ、男の子なの。すっげぇ綺麗だからモデルさん?女の子かと、思ったよ!」
「うそ?ねぇ、嘘でしょ!今から、僕達と遊びに行かないー」
「ねぇー。どう…」
「弟くんかなぁー、いいじゃん。僕らと遊びに行くって、だから。バイバイ〜」
―――


エドワードの足がぴたりと止まる。その上、ワナワナと震える身体。
アルフォンスは、しまった遅かった兄さんの逆鱗にふれたよこいつ等、はははと虚しく空笑いが出てしまう。
エドワードはアルフォンスの手をぱっと振り解いて、後方の野次馬達に勢いよく振り返る。
ああ、僕には兄さんの頭から溶岩が噴火して流れ出しているのが見えるよ。駄目だよ、大切な身体なのにと心で叫ぶが、もう遅いと思った瞬間アルフォンスは両耳を塞いでいた。


「うるせぇ
――!!!オレは、男ダァ――!」


エドワードは地鳴りが鳴り響くような大声でそう叫んだ。
妊娠していようが、あくまで男だと言い張るエドワードなのだ。こればかりはどうしようもできない。
ロイと入籍した際も散々ごねていたのだから。


「離せぇ
――!アル、蹴倒してやる。あの馬鹿どもを…」
「兄さん、頼むから。やめてよ!どうどう…」


暴れ馬の手綱を引くようにアルフォンスは兄を落ち着かせようとする。だが、どうも無理のようだ。それでは仕方がないと、暴れる彼をアルフォンスは羽交い絞めしながらその場から立ち去る為に連行していった。
そうでもしないと、兄はあの連中に今すぐにでも飛び掛りそうな勢いであったから。
残された男らは、きょとんとした表情を残していたのは、言うまでもない。


アルフォンスは准将が病院に付いて行けない時は、是非僕が「兄の面倒をみさせて頂きます」と、心に誓ったのであった。
だって、こんな場面に一度ならず二度も三度もこの日、僕は出くわすことになったからだ。
こりゃー、大変だ。兄さんの為にも「赤ちゃん」&「そのパパさま」の為にも護衛は必要であるとヒシヒシ感じたのであった。


「兄さんそんな大声出して暴れちゃ駄目だよ!お腹の赤ちゃんに障るよ!」
「ぜぇ、ぜぇ…へっ…ハァ…」


少々、アルフォンスが小走りに連れまわした所為か、エドワードの息はもう上がっていた。
いくら安定期に入ったとはいえ、数週間前は危険な状態に陥った事もあったのだから。
まだまだ身体は安静を必要としている。アルフォンスも先程の事態に驚いて、エドワードの身体の事を余り考えずに脱出して来てしまった。落ち着いて状況を見つめ直した時には兄から荒い吐息が忙しなく鳴り続けていた。アルフォンスは少しばかり自己嫌悪を感じてしまう。


「大丈夫。兄さん……?」
「ハァ…っ、ああ、大丈夫。もう今日は厄日だ!ジー様は…///」


アルフォンスの心配を他所に、エドワードは何やらブツブツ言っている。まあ、身体は心配なさそうだという事がわかり一先ず安心する。
本日は何とか無事に、エドワードを自宅に連れ帰ることが出来たのであるから。


自宅に戻った後。
アルフォンスは疲れただろうとエドワードをソファーに、ゆっくりと腰を下ろさせ一息つくために紅茶を兄に勧める。
そして、自分もソファーに座り病院での診察の結果を尋ねる。それが、この生活で楽しい時間でもあった。赤ちゃんの成長を知るのはとっても嬉しい。ロイもアルフォンスも食い入るのようにエドワードに話を聞く日々である。
そんな2人をウザイと言いつつもエドワードは、お腹の赤ちゃんに話しかけるように彼らにも微笑んで話している。


「どうだったの。赤ちゃんは、兄さん」
「うん、元気だって。もう5ヵ月だってさ!」
「そうなんだ。でも兄さん、まだお腹あんまり大きくなんないね。少し、ふっくらしたかなって感じぐらいだよね」


エドワードの手が自分の膨らんできたお腹を優しく撫でる。その表情は穏やかで母性を感じる顔つきであった。アルフォンスはその表情をうっとりと見ている。


「///たぶん、もうちょっとしたらお腹もどんどん大きくなるだろうて」
「へぇー。それで、それでもうどっちかわかるの?」
「アル〜気が早いぞ。まだわかんねぇーよ」
「そうなんだ。ねぇ、先生にあと何言われたの兄さん」
「///それは…、まっ、いいじゃん。あとな、6ヵ月ぐらいになると赤ちゃんの胎動がわかるんだって、すっげぇーよな」


何か言いたくない言葉が含まれていたようだが、エドワードの表情からコロコロと笑顔が零れる。その可憐な笑顔が際立ち世の男達の眼差しを一身に受けていることなどエドワードにはわかり得ないのだろう。変化していく表情を見ながらアルフォンスは、自分の兄を可愛らしい人だと、思う。
准将はこんな兄がとっても好きでたまらないのだろう。
愛しくて…。抱きしめたくて…。


広場にいた男達がエドワードに声をかけデートに誘う気持ちもわかる。だけどご愁傷様です。兄さんは准将以外、まったく眼中にないね。
アルフォンスは1人思い出し笑いするように、口唇の端を上げてニヤ付いていた。
すると、すうすうと規則正しい寝息が聴こえてくる。


「んっ、あれぇー。兄さん?寝ちゃったの。やっぱり今日は、はしゃぎすぎだよ」


穏やかな寝息が聴こえる。
規則正しい寝息がさらにエドワードを眠りの底へと導いていく。アルフォンスは、眠り姫の眠りを邪魔しないようにそっと毛布をかける。
あとは、王子様?いや、王様か、の帰りを待つのみ。













やっと「5ヵ月目」になりました。お待たせしてます(汗)
元気になったエドワード君、乱闘一歩手前(笑)
またまた、「act.15」長くなりすぎたので「前後編」に分けました。
しまったロイが出てきていない。「後編」にしっかり出てきます。
後編は金平糖のように甘いH編です。大丈夫次はもう出来上がっているので早めに更新します♪

桜 美由紀 2005/11/29











   
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