Winter , again 〜アンタに会えた〜
act.2
「アル、行こうぜ! あの駅長さんすんげぇーよく教えてくれたよ!」
「よかったね。で、今日中に着きそうなの…」
エドワードの顔は戯けた様に固まった。兄の表情に嫌な予感がしたが、こんな事いつもの事だ。
今までも眠る場所もなく野宿。飲食店に門前払いされ食事にありつけず空腹で倒れる。
慣れたものだ。
だから、そんな感じでアルフォンスは兄の硬直した表情を笑っていた。
だけど、あの時もっと僕自身、気を配っていれば良かった。僕達はこの寒い極寒の地に初めて降り立ったということ。
そして、兄さんの不調を…。これから起こる事件を…。予期していなかった。
全ては浅はかな僕達の悪い癖だった。
それが今回は兄さんにとって良くも悪くも左右させることになる。そんな事、今わかってしまう事が可笑しい。とにかく僕は兄さんが生身の肉体だ、という事をすっかり忘れていた。
ピューピューと風は冷たく吹き荒んでいた。
それでもエドワードとアルフォンスは楽しみながら銀世界を歩いていく。
「うわあ〜♪ 兄さん。サクサクって音がするよ! 僕、感激だなぁ」
「おお…埋る埋る。ホントこのままこの雪に埋もれたいよ!」
「ああ――この身体になって歩いているって感じるよ! 僕…」
感激だ、とばかりにアルフォンスの足は軽やかにステップを踏んでいる。
「そうだろう♪ このサクサク感がたまんねぇー」
こんな雪道。歩けば足が雪に埋まってしまう。埋るたびに音がする。アルフォンスの鎧の身体は通常の人間の身体より重い。だから、尚のこと鎧が沈む感覚を感じる。彼は視界と聴覚でこの世界の感覚を掴んでいる。エドワードは自分と同じ感覚を感じて、弟が喜ぶ姿に目を細めて微笑んだ。
彼らは、今まで感じた事がない銀世界を今堪能している。二人は雪で遊びながら目的地へと歩いて行った。
「うわーあ! 投げたな、この!」
「それぇ―もっと」
年相応の子供のようだ。こんな時間は楽しかった。何もかもを忘れてしまえそうで。
だが、張り切りすぎてエドワードは息を切らし始めた。
その頃から身体の節々が痛み出してきた。正確なことはわからない。否、気付かない振りをしていた。目的の為には足を止める訳にはいかないから。そう言い聞かせてエドワードは雪道をまた一歩進んだ。
アルフォンスと楽しみながら尋ね人の家へと向かう。
その数日前。
押し付けられた任務の為にこの地にやってきた男がいた。
この事は軍機密事項にされていた。だから、エドワード達も知らない。
知っていたからと言って一緒に手を繋いで寒いこの村まで行きましょう。と、いう訳ではない。
彼らは己の目的、目標、信念の下に独自に動く。
暗黙の了解だ。
お互いのために情報交換はするが。今回はまったくの寝耳に水だ。
「マスタング君、わざわざ中央から出向いたというならば、是非成果を上げて帰って貰わねば我々の威厳が保てん。その辺よくわきまえてくれたまえよ」
「もちろんですよ。将軍の手は煩わせませんよ。高みの見物をどうぞ」
「ははは、君も言うなあ。では、お手並み拝見と行こうか!」
将軍の嫌味をするりと交わしてにやりとロイは笑った。
異例のスピードで出世を続けるロイ・マスタング大佐。
国家錬金術師 2つ名。「焔」
出世の為にならば、悪魔にも身を売る男。まさしく軍の戌。
冷酷、卑劣な男。イシュヴァールの英雄。
そんな噂からか、中央から離れたこの場所でも扱いは冷たい。もしくは機嫌を損じないように接してくる。それから決まって上層部へ取り入ろうと賄賂を渡してくる始末だ。
そして、今回の任務は中央のやっかみ将軍の差し金だ。こんな任務北方司令部配属の軍人どもにやらせれば良いだろうにと苦笑した。
だが、幹部連中は「国家錬金術師」並の腕を持つ人間が隣国ドラクマに亡命しようとしているという噂を聴きあたふたしていた。
亡命の手引きをするドラクマの組織が国境を乗り越えてやって来る可能性があり重要機密の漏洩となる。
これは重要な任務である。
ならばそれ相応の知識と経験を持つ軍人にこの任を頼みたい、という訳だ。
将軍が立ち去った閑散とした廊下でロイの溜息だけが大きく聴こえた。
* * *
始めのうちは楽しくはしゃぎながら歩いていた雪道。
次第にサクサクと気持ちの良い音が耳障りになってきた。そして、サクッと沈む感触は足取りも軽かったはずなのだが、一歩一歩が次第に重くなる。鉛の靴を履いているようだ。声の一つも出てこなくなってきた。
吐く息が忙しなく、白い雲のように空を舞って行く。
「兄さん、大丈夫?」
次第に無言になっていく兄を心配してアルフォンスは、時折声を掛けてみた。
「うん、ああ――ハァ、ハァ…」
何とか生返事が返ってくる。
疲れを知らぬ鋼の鎧は前へ、前へドンドン進んでいく。
置いて行くな。
オレを置いて行くな。
目の前が霞んでいく。
「やっぱ何もないよね。一面真っ白だからかな? 距離がつかめないね」
いつのまにか先を歩くことになったアルフォンスは兄の様子を気にして声を掛けた。返事が返ってこないと不安を覚える。だけど、少し時間はかかるようだが、ちゃんと返事は返ってきた。
その声はひどく擦れたものだった。
「ああ。どのぐらい歩いたっけ…」
「んん、もう四時間ぐらいかな。そろそろ着くかな?」
「ああ…」
黙々と歩き続ける。否、足を前に出すだけだ。歩いている感覚がない。アルフォンスの事を気に掛けてやる気力もなくなってきていた。
何やら声を掛けてくるが、左の耳から右の耳へと流れていくばかり。何も理解できていない。只、目的地へと進んでいくばかりだ。
この村には民家も少なくこの四時間余り歩いてきたが、真っ白な雪とその雪に覆われた木々と三件の民家ぐらいしか見ていない。
三件と数えられる辺り凄い。
サクサク、サクサク。
ハァ、ハァと。
その音しかエドワードには聴こえなくなっていた。
軽快に進んでいた足は凍りついたように重く。寒いと、いう感覚が鈍くなってきている。身体は寒いというより痛い。
熱伝導率が急激に低下した機械鎧がうまく動かなくなってきた。熱い地方に出向いた時は熱が篭もって暑くて仕方がなかった。
だが、活動する。動く。
この極寒の地は初めてだ。
機械鎧がどんな反応を起こすか、何てわかりもしない。
これはまずい。
動きが鈍い。これは一番まずい。動かない機械鎧ほど邪魔な物はないからだ。身体中の体温を鋼鉄が極限まで低下されていく。悪循環が身の内で回り始めていた。
これならば、あの熱いラッシュバレーの方がマシだ。
機械鎧は動くから。
本人は全てを機械鎧の所為に考えていたが、体力は極限まで落ちていこうとしていた。身体の節々が痛い。
これは流感だ。エドワードの身体は寒さに麻痺していた。己の身体が高熱を発しているとは、わからないぐらい。
ガタガタと震える身体を叱咤しながらエドワードは一歩、一歩足を前に出していた。
前を歩くアルフォンスの背中と広大な大地を真っ白に染める雪。
天から散る雪を恨めしそうに見上げていた。するとふっと鈍色の空がすーっと蒼空に変わったような気がした。
ああ――この色。蒼穹色が懐かしい。同色の軍服の背中を思い出す。
大きくて逞しい背中。その人の温もり。
いつしか蒼穹色の背中、艶やかな黒髪の男に会いたいと思ってしまった。
しまった最近温かいぞ!春が来ようとしている。
この連載を早めに終わらせねば。
雪が書きたかったの。でも内容は(^■^;)
ああ〜ん、もっとうまく文章が書けるようになりたい。あたしゃ銃撃戦なんて書けんよ(泣)
話の展開で銃撃シーンが入っても笑って飛ばしてくれたまえ!
next 回想シーン&まだ考えてない。ロイとエドは既に恋人前提なのだよ。
そして、そろそろ事件を起こしてもらおう。
桜 美由紀 2006/1/30
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