Winter , again 〜アンタに会えた〜
act.3











「エド、寒くないかね。そんなに窓に張り付いて」
「灰!?」
セントラルの街中を灰が舞っている。否、灰ではない。見慣れない人々は雪を見て灰と勘違いする。
チラチラと天空から真っ白な羽のような雪が舞い降りてくる。
「ははは…。雪だよ」
「あれ!? なーんだ、雪か。外は寒いんだろうな」
「君はいつまでそこにいるつもりだね」
「ああ、ずっと見ていてぇー」
ロイの声など上の空だ。天空から降り続く真っ白な綿雪を眺め続ける。飽きること無く眺める。降り散る雪を見て、彼は何を思っていたのだろうか。
ロイは窓辺に張り付く彼を見て呆れたような溜息をついた。
「久しぶりに戻ってきたのだから顔を良く見せてくれないのかね」
「ええっー、めんどい!」
酷い言われようにロイの眉は下がる。が、強引に彼の身体をくるっと自分の方へ向かせて顔を合わせる。
「うわ! 何だよ。急に…」
「こっちを見なさい!」
「もう雪見てんのにさ」
夢中に眺めていたのを邪魔されて不機嫌なふくれ面を見せる。それでもロイは彼の顔を傍で見たかった。
本当に久しぶりだったから。
あちこち国中を飛び回る美しき我が恋人をぎゅっと抱きしめる。彼はお日様の匂いがした。汚職と血にまみれ、きな臭い軍の中で荒んでしまった精神を彼が洗浄してくれる。
彼も同じ穴の狢というのに。
そまらない彼に惹かれた。
自分がこの世界に誘っておきながら矛盾しているかもしれないが、そまらせたくないと思った。
ぎゅっと抱きしめていると彼は腕からするりと抜け出した。よほど雪を見ていたかったのか、窓に張り付き鈍色の空を見つめる。
彼の行動にはお手上げだ。
ロイが呆れたように薄笑いを浮かべる。
この雪空を見て何を思ったのか、エドワードは突拍子もないことを言い出した。
「なあ、もしも断崖絶壁でアンタが右手にオレ。左手にトップに駆け上る重要な書類を持っていて、どちらか外さないといけない状態に陥ったら。どうする…」
エドワードは尋ねながらも鈍色の空から舞っている真っ白な雪を見続けている。そんなにこの純白な色は、人の心を試したくなるのだろうか。
吐く息も白い。
何を言い出すのやらこの子は、と思いながらロイは深く溜息をつく。
自分はそんなに信用のない人間と思われているのだろうか。確かに世間一般に認められる関係ではない。それでもロイは彼の事を愛している。
口で言っても信憑性がないと思いロイは背後から雪空を見上げ続けるエドワードの冷めきった身体を強く抱きしめた。
そう、此処は自分のアパートだから誰の目も憚ることはいらない。
「わ、あっ!」
不意をつかれたようにギュッと抱きしめられてエドワードは驚いた。ロイは彼の冷たい頬に自分の頬を摺り寄せた。
くすぐったさを感じ、笑みを浮かべるエドワードは純白の乙女のようだ。そんな彼に想いを告げた。
「君だよ。君を助ける」
大総統の道は何度でも築き上げる事はできる。生きている限り。諦めない限り。
だが、エドワード・エルリック。
これは一人だ。魂はたった一つ。唯一無比の存在。
耳元で囁き首筋にきつくキスをしていく。
クスクスと笑い声が耳元で炸裂する。ちょっとそんな雰囲気ではないのに、と思うロイを他所にエドワードの口から絶え間なく含み笑いが続いた。
「こら笑うな」
「ご、ごめん…。だってくすぐったいんだよ」
どうも調子が狂ってしまう。
「ふう、一体どうしたのだね。急に…」
「別に。何もねぇーよ」
ロイは羽交い絞めした彼の身体をずるずると暖炉の前に引きずった。それから何も言わず、エドワードの倍以上の身体でのっしりと押し倒した。
ずしりとロイの身体の重みを感じる。その重みに安心するように目を細める。自然とエドワードの手はロイの背中に回された。
やっと胸の中で大人しく落ち着いた彼の顔を見て、ふっと頭の片隅に言葉がよぎった。
「エド、君は…いやよしておこう」
言いかけてやめた。
「何!? 途中でやめんの…気分わりぃーよ」
ロイはにやりと笑って誤魔化した。
それ以上の言葉は愚問だった。
エドワードに逆の立場ならばどうする、と訊くのは野暮というものだ。『賢者の石』とロイを比べたら彼は迷うことなく『賢者の石』と、応えるだろう。


それでいいのだ。
だから訊くのをよした。
訊いてはいけない。


笑ってごまかし、身体に別の感覚を植えつけて忘れさせる。ロイは彼の濡れた口唇に自分の口唇を合わせ塞いだ。口腔を奥まで吸い尽くして弄ぶ。
これ以上の問答は不必要だと知らしめるように。
「あ、んっ…」
エドワードの甘い吐息がロイの耳に掛かる。
冷え切っていた彼の身体にじんわりと熱が上ってくる。じわじわと身体の内側から快楽と一緒に滾っていくのだ。
それに応えるようにロイの熱い男根が雄々しくエドワードの内股辺りで脈打ち始める。その感覚に恥辱を覚えるエドワードも自らの男根が腹の間で擦れてドクドクと成長している。
衣擦れの音、ぬめるような卑猥な音。吐息。お互いの名を呼ぶ声。快楽に溺れる声。打ち付ける肉の音。
パチパチと暖炉の薪が割れる部屋にそれらの音が混じる。
外は静かに音を吸い取るように雪が降っていた。


*               *               *


「兄さん、あれじゃないかな」
ぼーっと彼方に意識が飛んでいたエドワードはゆっくりと声がする方へ顔を上げる。黙々と地面の雪を見ながら歩いていた。
変わらぬ色を見続けていた。
しばらくアルフォンスの姿を見て、今自分が何をしていたか思い出すような感覚だった。
その間、何度も声を掛けられて終いには。
「大丈夫…」
と、顔を覗き込まれていた。
やっとのことで意識が此方へと戻ってくる有様だ。
「――あ、ん…。大丈夫だ」
如何にも胡散臭い返事にアルフォンスは首を傾げる。その時、まさか兄が高熱を発しているなど気付く訳もなく。ぐっと肩を引き上げて兄の歩行を手助けする。多分慣れない雪道に疲労が溜まったのだろうと。
そのぐらいにしか感じなかった。
此処で熱を感じる身体だったなら良かったのに、と何度も後悔するのだが。
「ああ、あそこみたいだな。良かった着いた…」
心底辿りつけた事を喜ぶ声だ。
真っ白い小山の向こうに家らしき屋根が見える。歩を進めるたびにその全景が現われ始める。
エドワードはもう少し、もう少しだ、と言い聞かせながらアルフォンスの腕を借りながら雪で体積が増した重い足を一歩一歩進める。
すると何やら人影がちらちらと視界に映りだす。それに驚き彼らは急ぎ足で駆け上がる。
と、そこには蒼い軍服、軍仕様の黒いコートを纏った軍人達が先客としていた。
荒かった息を更に切らして家の周辺にいた憲兵に尋ねる。
「ゼェゼェ…。一体何事だよ! ハァハァ」
「ぬ、何者だ君達は」
あちらも突然の訪問者に驚き警戒する。憲兵はぱっと見にエドワード達の姿に警戒を解く。だが、見た目で判断していつも痛い目をみるのである。
「ああ、子供はここに居てはいかん! 早く家に帰んなさい」
いつもの対応に嫌気がさす。ここは引き下がれない。だけどこんな体調だ。穏便に事を進めたい。
エドワードはズボンのポケットから慣れた仕草で国家錬金術師の証である銀時計をさりげなく見せる。
軍人の視線が銀時計とエドワードを交互に見比べる。瞳はそれ以上、不可能なぐらい大きく見開かれていた。
「は、失礼致しました!」
「どういうことなんだよ。オレ達はここに住んでいるミルアーって人探しに来たけど」
今までの横柄な態度が一変して憲兵は自分より幼き者に敬語を使い説明する。そして、これ以上の詳しい説明は自分達の上官に尋ねるようにと案内された。
「兄さん、ホント大丈夫」
「ああ…。心配すんな」
そう言うエドワードの声はすっかり嗄れていた。目的地に辿りついたということで疲労感はピークに達していたが、まさか辿りついた先がこんな状況になっているとは夢にも思わなかった。身体を酷使してでも動いてもらわねばならない。
家の裏側へと連れて行かれる。
そこには、いかにも偉そうに指揮をとる軍人がいた。
その人物の後姿は、真っ白な世界とは正反対の色を持った髪が印象的だ。艶やかな黒髪がまず目に付いた。それから広い背中。
と、そこでエドワードのぼんやりしていた視界がふっと鮮明になる。
まさかついさっき朧な意識の中思い出していたあの人物が目の前にいた。声を掛けることも忘れて立ち尽くしていると、ゆっくりとその人は振り返った。












ひぇーやっと続きが…。
やっとストーリーが動き始めました。気温に関係なくのんびり更新気味(^ □ ^;)

桜 美由紀 2006/2/6




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